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銀の魔導師  作者: sena
時計塔の街編
16/20

時計塔へ

大変遅くなりましたが更新しました・・・!ペース戻せて行けたらと思います。

 「おはようキア。よく眠れた?」

目が覚めると、紅い瞳が目の前に迫っていた。

「うわぁっ!?」

慌てふためくキアを面白そうに見つめる刹那。彼はもう、マントも眼帯も全て装備済みの完璧な状態だった。

「えっ、今何時?」

「7時35分」

「なんだ……10時くらいかと思った」

「なんだじゃない、これでも遅い方。朝市はとっくに始まってる」

そう言って立ち上がる刹那を見上げ、キアは疑問を口にする。

「朝市行くの?」

「この街で一番人が集まるのはそこじゃないかと思う」

「……なんで情報収集?」

「キア、わかってる?俺は『ケルンは時計塔にいるのか?』とは言ったが、正確な居場所は掴めていない」

「あ……」

すっかり、時計塔にいる気になっていた。

 頭を掻きながらキアも起き上がる。起き上がった所で、ぼすっと頭から服が降ってきた。

「……え?」

次いで、その服がふわっと浮く。

「え?」

更に、自分の寝間着のボタンが勝手に外れ始めた。

「えっ!?ちょ、何これ!?刹那っ……」

助けを求めて振り返る。が、彼は顔を背けて肩を震わせていた。

 お前か。

 「この魔法何!?今すぐやめっ……だから、ズボンくらい自分ではけるって!!」

「それ、介護用の魔法」

「オレは健常者です!!だからやめっ苦しいリボン苦しい!!」

くく、と笑いながら刹那は指を鳴らす。すると、結びかけのリボンも浮いていた帽子も、力尽きたようにぽとりと落ちた。

「びっくりした……何すんの」

睨んだ先で、刹那はけろりとした顔で立っている。

「あんまりにも遅いから、悪戯しただけ」

「遅かったのは、まぁ、悪いと思うけど……」

「こんな魔法もあるってこと。ほら、さっさと残り着替えて」

刹那に促されて、キアは渋い顔のままリボンを結び直した。



 市場は活気づいていた。

 果物、野菜、ミルク、パン、花、工芸品、お菓子、薬草、色々なものが売られている。

 「うわぁ、すごい人……はぐれたら終わりな気がする」

「はぐれたらバハムートに探して貰う」

「やめてそれ恥ずかしい」

そんな会話をしながら、店を一個一個覗いて歩く。

 一つ、工芸品の店があった。銀細工のアクセサリーを売っている。

 キアはその中で細い鎖を手にとって、大きさを調べると、「これ下さい」と店主に渡した。

 今はポケットにしまってある、懐中時計につけるのだ。通信魔法陣がついているのだから、落とさないようにしないといけない。

 お金を払って、先を歩いているであろう刹那を追いかけようと振り返る。瞬間、何かにぶつかった。

「きゃ!?」

高い悲鳴が聞こえた。見ると、少女がしりもちをついている。

「あ、ごめん。大丈夫?」

キアは手早く散らばった彼女の持ち物をまとめ、すいと手を差し出した。

 少女は、黒い革のロングコートに身を包み、フードを被っていた。髪は金色、目は水色。そしてキアを見つめたまま硬直している。

 「あ、そ、その……」

希亜は首を傾げた。少女は何か言おうとして、結局口を閉じた。

 そして俯き、唇を噛む。

 5秒ほどそのままで、それから何か決意したように顔を上げた。

「あの、殺されて下さい」


――一瞬、時が止まった。


 「ごめんなさいっ」

彼女の指から光線が出て、キアに巻きつく。光線は蔦に変わって彼を締め付けた。

「ちょっ……!?」

「命令なんです、あなたを殺すか、もしくは監視下に置くようにと!!」

少女は必死にそう言いながら、蔦の先が巻きついた指を引く。

 首に巻きついた蔦が食い込んで、呼吸が苦しくなる。

 そのとき、突然パチパチという小さな音を聞いた。

「な、何これ!」

少女の悲鳴にキアが音の方へ目をやると、蔦の端が燃えていた。

 発火物がどこにも無いこの状態で燃えていると言ったら、もう犯人は絞れている訳で。

 ゴウッと一気に火力を増した火を見て、キアは思わず目を瞑った。

 「ちょっと、何するの!?」

「死にゃしない」

「そんな、炎に包まれて平気な訳がないじゃない!!」

炎の外から声がする。さっき「殺されて下さい」と言った癖に、なんて思考がキアの頭をよぎる。頭の中は何故か、随分と冷静だった。

 「おい、何の騒ぎだ?」

「なんだこの火柱は!!」

知らない声がする。この街の人のようだ。

 周りがざわざわしてくる。人が集まって来ているのだろう。

 聞こえてくるのは心配する声や野次。しかし、ある瞬間から、民衆の声は驚きの声や感嘆に変わった。

 「キア。目を開けろ」

「……刹那」

薄目を開ける。炎は見えず、ぽかんとした人々が代わりに見える。

 キアは瞬きした。そして自分の身体を見回した。どこも燃えていない。

 「どうでしょう!!炎に包まれていたにも関わらず、全く燃えていません!!」

民衆に振り向いて、刹那が芝居がかった口調で言う。人々は「なんだ手品か」「そういえば昨日も面白いことしてくれたんだ、あの人」「びっくりしたぁ」などと安堵の声を上げた。

「今回は以上です。皆さんありがとうございました!!」

最高の笑顔で刹那が言う。と同時に小箱をポンと召喚する。

 ちゃっかりしっかり金を取る気だ。

 人々が殆ど立ち去った頃、刹那はお金を数えてから箱をポンと消した。

 「……何よ、今の」

少女はかなり不機嫌そうに刹那を睨む。「キアの相殺能力」と答えた後、刹那は呆れたような顔で少女に向き直った。

「お前は馬鹿か。あんな所で魔法攻撃なんかをしたら、偽協会の評価がまた下がる。せめて人がいない場所に逆召喚して、それからやるべきだった」

少女が唇を噛んだ。拳を握りしめ、「逆召喚なんて私にできる訳ない」と悔しそうに言う。

「その紋章はスカイグローリーだろ。そういうのはお家芸だと思ったけど?」

「――っあんたみたいな天才には分かんないですよ!!とにかく!!さっさと時計塔のてっぺんに来て下さいケルンさんが待ってます!!」

少女はやけくそになったように、そう叫ぶ。コロコロ表情が変わるな、なんて感想を抱くキアの前で、少女はパチンと指を鳴らした。

 どこからか羽音がしてくる。

 「じゃあね!!」と少女は言って、飛んできたハヤブサの両足を掴んでぶら下がった。

 そのまま飛んでいく後ろ姿を見て、刹那が「パラグライン・スカイグローリーか」と呟く。

「ぱら……ぐらいん……?」

「パラグライン・スカイグローリー。ああ、説明してないか」

刹那は今度はキアの方を向き、すいと指を掲げた。同時にマントの模様が光り、掲げた指先に明かりが灯る。

「まず、偽教会魔導師には大きな2つの血筋がある」

そう言って刹那が空中を指で縦になぞると、その軌跡を光が描いて線が現れた。

 おそらくは刹那の刀に仕込んである閃光魔法と同じ仕組みだなと、キアは刹那の指先を眺めながら思う。それにしても優雅な指運びだ。

 「それぞれスカイグローリー、ルチアグローリーと名乗っていて、偽教会じゃ最も多い姓と言われる。それ以外にも海を治めるシーフォード家、陸を治めるグランフォード家などなど色々いるんだけど」

刹那は二本の線から斜めに線を出した。

「スカイグローリーから分家した人は、一族に特色を表すミドルネームをつけて本家と区別する。たとえばケルンはエウレ、さっきの奴はパラグライン。こいつらは分家だけど、他の名もない魔導師一族よりは遥かに潜在能力が高い」

刹那がふっと息を吹きかけると、線はちりじりになって消えた。

「刹那の家は?その2つの傍系とか?」

「俺の家は特に傍系とかじゃない。起源不明とされてて、書物に記されるような血でもない」

つまり「名も無い魔導師一族」だということだろうか。

 刹那はそう言うが、キアは納得出来なかった。レーゼによれば偽教会内で天才と呼ばれていたらしい刹那とその兄は、つまりその主流の2つ、潜在能力の強い一族の者よりも力が強いということだ。刹那の説明を聞く限り、名もない魔導師一族からそんな魔導師が生まれるとは思えない。

 「居場所もわかったし、行くか」

踵を返す刹那を追いかけながら、もしかしたら刹那の家も、起源は凄かったりするのかもしれない、と考えていた。



 時計塔は螺旋階段で頂上まで登れるようになっていた。

 面倒くさがりで体力の無い刹那はキアを後ろに乗せてホウキで飛んでいったが、特にトラップはなかった。彼の目的が戦闘ではなく勧誘だからだろう。

 壁には一定間隔で燭台がついており、火が灯っている。石造りの時計塔でろうそく一本無いとなれば真っ暗なのだろうが、魔法による明るい灯りが主流の現代ではこの薄暗さが不気味に感じる。

 不意にキアが顔を上げた。

「……どうかした?」

刹那が振り向くと、キアは驚いたような顔をしていた。

「……今、声が聞こえたのは、オレだけ?」

「声?」

「あ……じゃあ、誰かの心だ、これ」

刹那は首を傾げる。辺りを見回しても、人はいない。キアは苦笑して「多分生きてないよ」と返した。

「多分幽霊だよ」

「お前の読心はそこまで守備範囲か」

「うーん……話しかけてるつもりないんだけどな」

生きてる人より読みやすいのかなぁ、と考察を述べるキアに、刹那は振り向いて「お前」と何か言いかける。

「何?」

意識せずとも読んでしまうということは、相当干渉力が強いということだ。魔導師なら、干渉力が強いほど強い相手に魔法をかけられる。キアの相殺能力の仕組みは未だ不明だが、もし彼の力の応用なら、どんな魔法も打ち消す最高級の盾になりうる。

「……なんでもない。どんな声だった?」

しかし刹那は、何も言わずに話題を変えた。

 キアは首を傾げて、「言葉にならない叫びだよ」と答える。

「こういうの断末魔って言うんじゃないかな……でもまぁよくある事だし」

気にしなくていいんじゃないかなと彼は言う。

「嫌じゃない?」

「ん?何が?」

その返しを聞いて、刹那はまた何でもないと首を振った。本人が気にしていないなら、他人がとやかく言う必要はない。

 断末魔を「よくある事」で片付けられる人間はそんなにいない、とは思うが。

 少しホウキのスピードを上げて、見えてきた頂上へ急ぐ。螺旋階段の先には、大きな扉が立ちふさがっていた。

 扉の前に降り立った二人は、身長の2倍はありそうな扉に圧倒されつつ、触れて開け方を探る。

 装飾は細かくて荘厳に見えるが、そこにはドアノブすら見当たらない。一歩引いて全体を捉え直した刹那が「あ」と声を上げた。

「これ、魔法陣だ」

「え」

キアも刹那の隣に立つ。装飾だと思っていたものは、扉の全面に大きく描かれた魔法陣の一部だったらしい。見たこともないくらい細かい模様だった。

「なんだ、それならドアノブが無いのも道理。こいつに力を通せば――」

刹那はそう言って巨大な魔法陣に手を当てる。ふわ、とマントの模様が燐光を放った。

 ――が。

 それはみるみる弱くなっていく。魔法陣はだんだん強い光を放ち出すが、扉が開く気配はない。不審に思ったキアは刹那の顔を横から覗き込んだ。

 彼はとても驚いた表情をしていた。

 「何……これ……?」

「刹那?どうしたの?」

「なんで……?出力がコントロールできない……」

かたかたと刹那が震え始める。彼の全身から、冷や汗が吹き出す。確実に非常事態だ。

 刹那は焦った様子で扉から手を離した。しかし魔法陣の光は強くなるばかりだ。

「嘘だ……触媒も通さないで、力だけ吸収されるなんて……」

「触媒?」

「他人が作った魔法陣を起動させるとき、まず自分の魔法陣を通してから力を送り込むことで、拒絶反応防止や出力抑制をする。それがこれの役割なんだけど」

彼が指差したマントの逆十字は、なんの変化も起こっていない。

 「おかしい、これだけ放出したら限界が来て倒れる筈なのに……全然苦しくない……これじゃ暴走し――」

どくん、と空気が揺れた。

 それが刹那の鼓動で、自分の読心術(ちから)のせいで共鳴したのだと、キアはすぐにわかった。

 キアは共鳴しようとしていない。ということは、刹那がそれだけ共鳴しやすい「脆弱な精神状態」だということだ。

 がくりと刹那が膝をつく。

「刹那!!大丈夫っ!?」

隣にいたキアも焦ってしゃがみ込む。刹那はさっきよりも震えていた。

「嫌だ……止まれっ……」

肩で息をする彼の瞳は、焦点が合っていない。

 暴走、と、今し方刹那が言いかけた台詞をつぶやく。

 キアが育った環境下にも、暴走という概念はあった。力量を越えた力の放出に、身体が堪えられなくなるのだ。下手をすれば死んでしまう。

 「なんでっ……」

何かしなきゃ、とキアは立ち上がる。が、何をすればいいか分からない。

 そこで思い出す。

 自分がいるじゃないか、と。

 キアは刹那の肩に手を置いた。そこに渾身の力を流し込む。

 魔法陣の光が、少し弱まった。

 確信したキアは、接触面積を増やすため、震える刹那を背後から思い切り抱きしめた。

 落ち着いて、と祈りながら。

 魔法陣の光は徐々に収まっていく。

 と同時に、扉はゆっくりと開きだした。

 「あーあ、惜しい」

そこに響き渡る、愉快そうな声。

 弱った刹那を支えながら、キアは顔を上げる。

 「もう少しで僕らの仲間になれたのにね?」

 扉の向こう、大きなステンドグラスから差し込んだ光を背負って。

 ケルンが見下した笑みを浮かべていた。





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