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銀の魔導師  作者: sena
時計塔の街編
13/20

時計塔の街





 刹那は案外過保護だ。

『そうだな……でもこれの場合、誰かを傷つけることで自分が罪を背負うのが嫌なだけだ』

二人を背に乗せたバハムートは、そう言って視線をちらりと刹那に向けた。

 二人はバハムートの頭の上にいることになるが、刹那に落ちたらどうするんだと聞いたところ、簡潔に「落ちるな」と返された。命の保証はないようだ。

 しかし彼曰わく、死ぬことはないらしい。なんらかの手段でバハムートか自分が助けると言っていた。結局絶対助かるとは限らないのだが。

 時計塔の街を目指しながら、キアは一人考え込んでいた。

 刹那は魔法に対しプライドを持っているのと共に、恐れも抱いているような気がする。ただ単に便利なだけではないと考え、便利さの代償は大きいと考えている。だから今も、「魔法で体力落ちてるんだから」と歩かずにバハムートを召喚した。

(……なんで?)

魔法は便利だ。キアの知り合いにも本教会魔導師がいるが、皆便利な道具として使っていた。魔法の代償が大きいなんてイメージはない。現にあの刹那の固有魔法以外は、大した代償を必要としている様には見えなかった。

 それはもしかしたらキアが気付いていないだけなのかも知れないが、それなら本教会魔導師達も気付いていないだろう。何しろ性格の悪い奴なら「魔法が使えないなんて、凡人達は本当に可哀想だ」なんて嫌みったらしく言ってくる様な連中だ。

 じゃあどうして、刹那は気づいたのだろう?

 そんな疑問を自分に投げかけて、それから「わかるわけ無い」とため息をついた。

 自分は刹那について、ほとんど何も知らない。

 偽教会の魔導師であること、兄がいること、長い刀を扱うこと、危険な魔法をも扱うこと――。

 未だ、その真っ黒なマントの中は見えていないのだ。

 「あ、時計塔」

自分より前に座る刹那が、下を覗き込んで言った。

「本当だ」

キアも覗き込んで、その高度が恐ろしくなって慌てて首を引っ込める。

 時計塔を中心に円形に家が立ち並ぶ街は、牧草地の真ん中に突然現れた。

 レンガ独特のオレンジ色の街で、どうやらとても栄えているようだ。

 「あっと言う間だね」

「バハムートは速いから。……まぁ、一つだけ難点があるけど。バハムート、高度を落として」

刹那が言うと、すっと静かにバハムートが降りていく。少し地面が近くなった所で、刹那がぎゅっとキアに抱き付いた。

「降りるぞ」

「へっ?」

一瞬耳を疑う。飛び降りれる高さではない。

「せーのっ」

抱き付いた体勢のまま、刹那がバハムートの背中を蹴る。二人の体が空中に飛び出して、風を切りながら落下し始めた。

「うわぁああ!?死ぬ、死ぬっ……!!」

「大丈夫」

「大丈夫じゃないってぇぇええぇぇえ!!」

叫んでいる間に地面はどんどん近づき、バサリと軽い音を立てて草の上に落ちる。何がどうなったのかさっぱり分からずに頭を抱えて固まるキアに手を回したまま、刹那はバハムートにもう片方の手を振っていた。

 「……キア?」

やっと刹那が振り向く。

「……」

落ちてきた体勢のままのキアを覗き込み、

「どうだった?スカイダイビング」

にやりと笑って尋ねた。

「……怖すぎ……」

「痛くなかったと思うけど」

「うん……うん?あれ?そういえば……」

やっと顔を上げたキアは自分を見回し、立ち上がって服についた土と草を払い、不思議そうに首を傾げる。

 刹那は座ったままキアを見上げて口角を上げた。

「それが魔法」

「……なるほど」

何の魔法を使ったのかはわからないが、納得はできる。寧ろそうでなければ自分達が死ななかったことを証明できない。

 「さて、じゃあ行くか、街に」

刹那も立ち上がり、バサッとフードを被る。

「ここは日差しが強い……」

ぼそりと呟くと身を翻し、街に向かって歩き出した。

「あっ……刹那」

その背中を、キアも慌てて追った。



 街に入った瞬間、刹那がスカイダイビングを決行した理由が分かった。

「なぁ、お前たちあのドラゴンを知ってるか?」

「でっかいドラゴンだったなぁ」

「お兄ちゃんたち、竜使い?」

「いや、あれは確かに、伝説のッ……」

「お母さん、僕あれ飼いたい!」

なるほど、難点。目立つということか。

 人だかりの中心でキアは疲れを感じながら、刹那の服の端を引っ張った。

 これでもし、普通にバハムートから降りていたら、もっと騒ぎになっていただろう。

 「いえ……俺は何も知らないんで」

フードを被った刹那の表情は見えないが、彼もそこに長居する気はないようで、そう言うとキアの手を引いてすっと人ごみを切り抜けた。

 石畳だった竜に護られた街と違って、ここの道はレンガのタイルで舗装されていた。街のどの位置からでも中央の時計塔は見えるようで、人々は時折時計を見上げている。

 時計塔を中心に幾重にも円を描くように作られた道に沿って、白やら赤やら茶色やらの建物が並んでいる。看板を見ていると様々な店があるようだった。

 前の街よりも人が多く、賑わっていることも分かる。

 「時計塔……か」

改めて見上げた時計塔は高くて迫力があり、一番上の大きな窓にはステンドグラスがはまっているのが見えた。

「あそこにいるのか?ケルンは……」

ステンドグラスを見上げて呟く刹那の横で、キアも視線を上にやったまま尋ねる。

「……行く?」

「うん……」

はっきりとしない返答の後、刹那は視線を下ろして

「行こう。……宿屋に」

はっきりと告げた。

 「……は?」

「今日行くのは多分無理」

「だってまだ午前中だよ!?」

「えー……疲れた」

「早くない?」

呆れたキアの非難にまた「えー……」と返し、刹那はキアの方を向いた。

「ほら、バハムートの召喚って結構疲れるから」

「あ……そうなの?」

「うん。あれ大きいから、それ相応の力も必要で」

「そっか……じゃあ明日にした方がいいね」

「うん。……だから今日はこの街を散策しよう」

「うん、いいよ。……ん?」

あれ?とキアは首を傾げる。疲れてるなら、まず宿屋に向かった方がいいのではなかろうか。

 刹那は真顔で腕を右へ払う。

 その手に、光を散らしながら銀色の棒が現れた。

 黒で細かい模様が描かれている。

 「……何それ?」

「ああこれ?ホウキ」

「え……もしかして、童話でよくある、魔法の」

「鞘だけどな」

「!?」

ほら、と断面を見せられて、その平べったい穴に刹那の刀の鞘だと理解する。

 それにしては分厚い金属製なのは、元々飛ぶことを前提に作っているからだろうか。

 「飛べるの、それ?」

「もちろん。今じゃこんなの童話の中でしか見れないけど、昔は結構飛んでた」

「何で今はないの?」

「遅いから。安全に飛ぶにはそんなに速さ出せないから、長距離には適してない。しかも雨の日は使えないし」

だから召喚獣の技術が発達した、と刹那は付け足した。

 しかしそういいつつも、刹那は楽しそうな瞳で銀色の棒を回してみせる。それからそれに跨がって、「乗って」と自分の後ろを指差した。

 キアも好奇心で、何の躊躇いもなくそこに跨がる。

 「しっかり捕まって」と注意された後、刹那が地面を蹴って、二人を乗せた棒は家々の屋根より数メートル高く飛び上がった。

 わぁ、とキアが周囲を見渡し感動したのも束の間。

 刹那は棒を急速落下させた。

「えぇええっ!?」

「落ちるなよー」

軽い声がして、刹那はそのスピードのままレンガを敷いた地面すれすれを飛ぶ。街の人が驚きの声をあげる中、刹那は今度は急上昇して、更に空中で一回転した。

驚きは歓声に変わり、街ゆく人々は空を見上げて拍手を送る。

刹那はまるで幼い子供のような、いつになくキラキラした瞳で、拍手の中飛んでいるが、後ろのキアはたまったものじゃ無かった。

 確かにバハム―トよりは遥かに遅いが、それでも速い。

 「刹那っ、これ、危ないよ!!」

「このくらい普通普通」

「遊んでるでしょ!?」

 キアはここから丸1日、刹那に振り回される事になる。








大変遅くなりました。次の街へ突入です。



もし以前に魔導師でも空は飛べないみたいな描写をしてたらごめんなさい

生身のみで飛べないだけで、道具があれば飛べます


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