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銀の魔導師  作者: sena
竜に護られた街編
12/20

兄を追って

 「それじゃおじさんおばさん、お世話になりました」

ぺこ、と二人揃って頭を下げた。

「いいのいいの。あなた達には本当にお世話になったわ」

「お前さん達が早めに手を打ってくれていたから大事にならなかったが、あの時はチビから大人までみんな混乱してたんだ。途中で騒ぎも収まったけど、あれもお前さん達のおかげだろう?」

ガハハとおじさんは豪快に笑う。おばさんも終始笑顔だ。

 ふう、と安堵の息を漏らして、刹那はどこからか紙を取り出した。

 それをおじさんに差し出す。おばさんとキアが覗き込んだ。

 紙に書かれていたのはどうやら楽譜のようだったが、普通の曲に比べるとかなり短い。

 「これ、俺が竜を鎮めるのに使った曲の楽譜。もしまたこんな事があったら、竜に聞こえる様に演奏すればある程度落ち着くはずだから」

「ああ、あれはあなたの笛だったのね!綺麗だったわ」

「どうも」

刹那は軽く会釈した。喜んでいるのかもわからない無感情な声音だ。

 「じゃ、そろそろ行くかな。キア」

「あ、うん。あの、本当にお世話になりました」

再度頭を下げる。先に歩き出していた刹那も、振り返って頭を下げた。

 走って刹那を追いかけ、横に並ぶ。ちら、と刹那がこちらを見たので、「刹那が速いんだよ」と不満をこめて呟いた。

「ああいうのは、さっさと退散した方がいい。長居すると別れづらくなるから」

「ふうん……君も寂しくなるんだ」

「……君の中で俺は一体どんな人間なんだ」

疑わしげな目で見られ、「ごめんごめん」と笑う。

 あまりそういったものを感じないのでは、と思っていたのは事実だ。感情を抑えていると言うなら、そうだったとしても驚かない。

 「そういえば刹那、君もあの街英雄になるかもね」

「あたりまえだ」

その即答の意味を掴みあぐねて首を傾げるキアに、刹那は得意げな笑みを口元に浮かべ

「兄貴にできる事なら、俺だって出来なくちゃ」

一瞬、マントの模様を光らせた。



 街の入り口の門をくぐり外に出て、「さあどっちに行こうか」と刹那は立ち止まった。

「王都は……あっち?」

「そう、その方角。でも、南に一旦下っても行け……る……」

「刹那?」

急に話すのをやめ辺りを見回す刹那を、キアは不思議に思って覗き込む。刹那が一つの方向を見つめながら黙って刀を召喚したのを見て、キアはやっと何か危険が迫っているのだと認識した。

 自分も召喚しようと宙に手を翳した瞬間、目の前に一人の人間現れた。

 空中に突然現れたその人は、全身が隠れる様な長いロープを纏い、けれど一切音を立てずふわりと地に降り立った。

 「時よ巡れ、我らの為に」

その人は降り立つなりそう言うと、にやりと笑って刹那を見る。

 刹那は一瞬不愉快そうに顔を歪め、それから口を開いた。

「月よ満ちれ、我らの為に。赤き罪を決して忘れるな。その望月に返報をするため」

 睨む刹那の視線を真っ直ぐに受け止めて、その人は静かに笑っう。

 横で二人のやりとりを眺めるキアには何がなんだかさっぱりわからないが、どうやら本人達は何かあるらしく、しばらく睨み合ってからその人が口を開いた。

 「やあ、ツキノヒ」

「……馴れ馴れしく人の名前を呼ぶ前に、名乗って貰おうか」

 そういえばこの人は男だろうか、とキアは二人を見ながら思う。薄い金の長い髪は緩く一つに結ばれていて、ざんばらに切ってあるのか四方八方に跳ねているが、それでもサラサラに見える。深海のような藍に近い青の瞳は何かを秘めた様に輝き、顔は整っているが中性的で、女性寄りに見える。しかし声は、高いものの男のそれである気がする。

 「そうだね。ボクはケルン=エウレ=スカイグローリーだ」

(ボク……じゃあ男なのか)

無表情の下でそんな事を考える。

「エウレ=スカイグローリー……スカイグローリー一族か。聞いたことないけど」

「あんまり目立たないからね。で、君の後ろにいるのは……魔導師じゃないらしい。ならいいや」

興味ない、とでも言いたげに首を振るその仕草に、キアは多少イラッとしたが、ひとまず抑えて二人の話を聞く事にした。

 「キミと今喧嘩をする気はないんだ。だからソレを仕舞ってくれるかな?」

「……」

じっと刹那はケルンという男を見つめ、数秒後刀が光の粉となって消える。

「偉いね」

笑みを浮かべるケルンに刹那は苛立ちを覚えたようだったが、睨むだけに留めている。

 「さて、本題に入ろう。——キミ、ボクに協力してくれない?」

「……は?」

間の抜けた声。呆然とした顔で刹那はケルンを見つめた。

「……俺を?使おうっての?」

そう答える刹那の顔が、不機嫌そうなものに変わる。

「ああ。キミの協力が必要なんだよ。あ、協力してくれるなら、ちゃんと謝礼も弾むから」

「……どのくらい」

「キミたちが金で動くとは思わないけど?」

(……『たち』?)

黙って会話を聞いていたキアだったが、ふとその言い草に違和感を覚えた。

 彼の言う刹那以外の人間は、自分ではない気がする。さっき彼は自分に興味がないと言ったのだから。だとすると、誰だろう。

 「キミのお兄ちゃんの居場所を、ボクは知ってるよ」

「!!」

瞬間、刹那の顔色が変わった。

 それはもう、見るからに。

 見たことが無いほど明らかに、刹那が動揺した。

 「教えて欲しいでしょ?キミ、お兄ちゃん大好きだもんね〜、いくら天才っつったって心配だよね〜。いいよ、教えてあげるよ?ただし、ボクに協力してくれたらね」

くく、あはは、と笑う彼はとても楽しそうだ。

 けれどここまで来れば、キアにもこの人が危険だという事くらい察しがついた。

 (読めるかな……)

心を読んで、真相を掴めれば。

 しかし人間の心には読みやすい人と読みにくい人というものがあり、特に悪徳商人とか、戦争を企む独裁者とか、要するに「悪い人」と言われる人達は読みにくい人が多い。

 相手に気取られないようにごく自然体に、目を凝らす。

 ——と。

「何してるの?」

「っ!!」

ケルンが目を細めた。

「ボクに攻撃仕掛けるとは、また大胆なことするね?」

「ちがっ、攻撃なんて——」

「言い訳しても無駄だよ。キミから力が発されてた」

「!」

まさか、見えるのか。

 自分達の力が、彼の目には可視化されて映っているというのか。

 「う……うそ……?」

そんな芸当が、この世に存在したのか。それでは家業の「スパイとしての外交官」が揺らいでしまう。

 キアの家は特殊な外交官だが、普通の役人の外交官とペアで行動する。役人の方が対話を行い、その隙に心を読んで内部のことや極秘のことを掴み出すのが仕事だ。もし読んでいることが分かる人がいたら、そんな仕事は成立しなくなってしまう。

 そんなキアの少し場違いな切迫した悩みをよそに、ケルンは不快そうに目を細め

「宣戦布告には、応えるのが定石だよね」

袖口から覗く両腕のブレスレットを光らせた。

(もしかして、魔法っ……!!)

「キア!!!」

「!!」

自分が思ったカウントより、モーションから発動までの時間が短かい。つまり自分が考えるカウント——刹那よりも速いということだ。避けられる見込みもなく頭が真っ白になったキアは、とっさに腕で防御体勢を取っていた。

「そんなの意味な……っ!?」

絶句したようなケルンの声が聞こえる。よく考えれば魔法に生身で対抗なんて馬鹿げた行為だ。

 けれどその割に、なにも感じない。

 見回すと、ケルンも刹那も驚いたような顔でキアを見つめていた。

「相殺……した?」

「相殺した……」

え?と自分の腕を見ると、ふわりとクリーム色の光が収まるところだった。周りには紫の光がはらはらと散っている。

(相殺……オレが?)

確かにキアが与えられたのは魔法の発動を押さえ込み制御する力だ。しかしそれで防御も出来るなんて、聞いていない。

 「ち、面倒臭そうな子だ」

忌々しそうに舌打ちして、ケルンはふっと浮かび上がった。

「知りたければ時計塔の街にえいで、ツキノヒ」

ケルンが踵を返すと、また音もなくその姿は消えた。

 「……キア、何か読めた?」

「え」

刹那が此方を向いた。

「読もうとしたんだろ?……ごめん、速くて追いつかなかった」

「……刹那、すっごい悔しそうな顔してる」

「そりゃあ。君のお母さんに君を頼まれてるんだから」

約束を破る訳にはいかない、と刹那は真顔で言う。

 「で、何か読めた?」

「ううん。復讐、って単語だけ」

読み始めたその一瞬、頭に流れ込んだ言葉だ。それなりに集中しないと読めないので、ケルンに声を掛けられた瞬間中断してしまったのだ。

 首を振ったキアの前で、刹那は俯いて「復讐、か」と呟いた。

「本教会への復讐……。スカイグローリーは、無事だったんじゃないのか……?」

「……?」

「あぁ、こっちの話」

ひらひらと手を振り、刹那はまた考え込む。それから「あ」と顔を上げた。

「時よ巡れ、我らの為に。これ覚えておいて。これに反応できる人は偽教会の人間だから」

「合い言葉ってこと?」

「まぁ、そうかな。ただし、それをキアが言われたとしても返すな。中には同族殺しをする輩もいる。魔法が使えなかったら応戦できないから」

「へぇ……色々あるんだ」

妙に感心したようなキアの返答に刹那は頷き、それから溜め息をついた。

「時計塔の街……か」

「行くでしょう?」

「え?」

刹那が瞬きをする。

「刹那のお兄さんを見つけるのが目的なんだから、手掛かりがあるなら掴みに行くでしょ?」

すこし危険かもしれないけど、刹那が簡単に捕まる訳がないと、キアには自信があった。もし敵の手に堕ちる可能性があれば自分が奪還するつもりでいた。

 最も、そんなこと刹那に言えば無理だと即答されるだろうが。

 「——行くか」

刹那は少し微笑んで頷いた。

 いつものように、自信満々の瞳で。


多分ここで、やっとこさっとこ序章が完結です。

読んでくださったみなさんありがとうございます。

つたない文章ですがこのまま最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


ツイッターを見れば一目瞭然なのですが、私は刹那が一番好きです(笑)

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