第七十三話 一騎当千
俺たちが第五層に踏み入った時、まず最初に感じたのは鼻を突くような腐臭だった。
「これは・・・ッ」
「死体の腐臭ですね。まさかここまでとは。」
俺は咄嗟に口と鼻を布きれで覆い、エクレシアが険しい表情になってそう呟いた。
空は毒々しい紫色の霧に覆われ、昼間だと言うのにどんよりと薄暗い。
ここに住むのは主に“夜の眷属”と呼ばれる連中だから、日光が無くても不自由はしないだろうが、こんな不健康な空に何日もいるだけで気が滅入るだろう。
腐臭に紛れていたが、その中に色濃い血の臭いも漂っていた。
昇降魔法陣のある広場から見渡すだけでも、パッと見て負傷者以外が見当たらないほどここの住民はぼろぼろだった。
恐らく、アンデッドの軍勢に徹底抗戦したのだろう。
産まれながら戦闘力を有する魔族は、農家や生産者層でも十分兵員として動員できる。
だからこそ今まで中央街が落ちなかったのだろう。
「こいつは酷いありさまだ。
まさしくここが最前線にして最終防衛地点と言う訳か。」
普通なら負け戦だな、とフリューゲンが呟いた。
「まずは現状を確認したいと思う、そして各々の役割を決めよう。」
「それでいいと思う、ここでの総大将はあんただ。」
クラウンがフリューゲンの提案に同意を示した。
良かった、と俺は正直ホッとした。
流石に今からアンデッドどもに殴り込みをかけるなんて言わなかったようだ。
流石に戦争が出来るほど戦力と言える者が整ってないからだ。
俺とエクレシアとクロム、クラウンとサイリスとドラッヘンとフリューゲン、と先日の会議で決まった人員が割かれている。
それにいつもの親衛隊第四隊50名、旦那の部下300名、竜騎兵15名と言う状態だ。
これで先遣隊である。
旦那の部下が順次調練が済み次第、増援として遅れてくる。
それに『マスターロード』の派遣部隊も合わせて考えられるので、味方の状況は悪くないだろう。
一先ず、俺たちはこの町を掌握すべく、自治組織の拠点を本陣として組み込み、親衛隊第四隊を残して兵員を怪我人の運搬と救護に当たらせた。
「この様子じゃ、自治組織の連中は都市防衛にしか使えないかもだね。」
「大規模な戦闘を想定していないんだ、むしろこれ以上戦力とするのは酷だろう。これまで持たせただけ、十分な働きとも言えるしな。」
冷淡なクラウンと、健闘を称えるドラッヘンは対照的だった。
町の中心にある大通りに簡易的な天幕が本陣となり、俺たちはそこで自治組織の再編や怪我人の救護に当たらざるを得なかった。
なにせ、この拠点周辺にまで怪我人が横たわっているほど、現状はひっ迫していたのであった。
お蔭でサイリスやエクレシアも大忙しだ。
クロムは手勢を率いて町中の調査に出向いた。
元々彼女は調査のための同行で、戦力に数えていない工兵20名に指示を出し、自らも動いてここには居ない。
フリューゲンは再編と救護の指揮、ドラッヘンは竜騎兵を指示して負傷者の運搬、クラウンは兵員に細かく指示をしている。
適材適所ではあるのだが、拠点の護衛・・つまり俺と第四隊の連中は待機という事で、歯痒い思いをしていた。
「ここまで酷いとはなぁ・・・。」
リザードマンのゲトリクス隊長は、遣る瀬無さに溜息を吐いた。
たった今、自分の子供を助けてくれと訴えに来た魔族の母親を気絶させた所だ。
抱えていた既に息絶えた子供に気付かないほど取り乱していたのか、或いはその事実を受け入れまいと気が触れていたのか・・・。
俺も隊員たちも、そう言った輩が居るために拠点周囲の警戒を強めざるを得なかった。
こういう状況だからそのような行動を非難は出来ないだろう。
この血の匂いが腐臭に勝る野戦病院さながらのような状況を見れば、そんな言葉は出ない。
「俺は以前、魔物の襲撃に遭った村を見たことがあるが、あん時の方がずっとマシだったな。」
そうぼやいて、隊長は槍を担ぎ直した。
「今回の任務って言えやぁ、端的に言うとゴミ掃除ってことだろ?
魔王陛下の勅命とは言え、嫌になっちまいよな。」
「相手が誇りも名誉も無いアンデッド共だからなぁ。
でも誰かがやらないとならんことだろ。俺達は昔から町中のアンデッド退治をやってんだ、手慣れたもんだろうよ。」
「不思議だよな、昇級してるはずなのに、やってることは昔と変わらなぇっていう。」
すると、巡回していたウチの部隊の三人組が雑談しながら、俺たちの前を通り過ぎた。
隊長の前で笑いながら通るとか、いい度胸である。余程話に夢中だったのか。
「ほら手前ぇら無駄話してんじゃねーよ!! クラウン様や英雄殿の目の前だぞッ!!」
「「「ひぃ!!」」」
案の定、三人組は尻に蹴りを喰らって、飛び跳ねるとように走って行った。
「・・・やっぱり、アンデッドが相手っていうのは誰も嫌なんだな。」
「そりゃあそうだろうよ。
相手の返り血を浴びるのは、名誉と武名と誇りがあってのことだ。
相手が血も通わないアンデッドじゃあ、誰だってやる気は起きんわな。」
そこで日々を食い繋ぐ為とか言わない辺り、魔族らしかった。
まあ、魔族なんて下級でも一週間飲まず食わずでも平気で活動できるらしいから、根本的に人間とは活動の理念や目的が違うのだろう。
彼らにとって闘争とは、飽くまで武名を得る為の物で、金銭とかはそのついでなのだろう。
何と言うか、マグロは年中泳いでないと呼吸が出来ないらしいが、魔族も年中戦ってないと呼吸できないんじゃなかろうか。
大雑把と言うべきか、骨の髄まで戦闘種族だと言うべきか。
俺には判断しかねた。
時刻が夕方に差し掛かり、ただでさえ暗いのに日も落ちてきて、既に夜中のように暗くなった。
大通りは無数の篝火で照らされ、隊長が人間の俺を気遣って先に休むように言ってきた。
当然隊長たちは警備を続けるわけで、俺はそれを断ったのだが、俺一人抜けたところでどうという事は無いらしい。
どちらかと言うと俺は警備より戦力として当てにされているらしく、常に万全でいてほしいようだった。
俺は大人たちの厚意に甘える事にした。
休憩に入ることをクラウンに伝えようと天幕に戻ると、丁度その時単身クロムが帰ってきた。
が、俺は一瞬彼女だとは気付けなかった。
なにせ、彼女は両手に真っ赤に染まった手術用ゴム手袋を嵌め、口には防菌マスク、赤黒い染みが大部分を占めるエプロンを着用していたのだ。
「な、なにしてんだ、その格好は・・・。」
「ちょっとアンデッドを生け捕りにして解剖をしてたのよ。
あ、でも連中は死体だから、生け捕りって表現は可笑しいかしら?」
彼女はつまんない冗談を言うと、くつくつ、と自分で勝手に笑い始めた。
師匠たちのジョークのツボが分からない俺だった。
「で、何か分かったのか?」
「それを今、本陣に伝えに行くところよ。
あなたも外の二人を呼んで着て頂戴。色々と分かったことがあるわ。」
「ああ、分かった。」
後その格好どうにかしろよ、とクロムに言うのを忘れずに、俺はエクレシアとサイリスを呼びに行った。
二人を伴って天幕に戻ると、クラウンたちの注目を集めていたクロムが話し始めた。
流石に俺に言われた通り、あの格好から戻ったようだ。
「まず、ここを襲撃している連中は二種類居ることが分かったわ。」
「「二種類?」」
クラウンとドラッヘンの声がハモった。
二人は顔を見合わせると、何だかは複雑そうな表情になった。
「つまり、生きてる奴か、生きてない奴の二種類って事ね。」
「それぐらいは報告で聞いているが?」
なぜそんなことを今更いうのか、とフリューゲンが視線で問う。
そう、アンデッドの軍勢に襲撃されているこの町だが、正確には生者も紛れている。
割合は少ないし、彼らも死人のようで他のアンデッドと区別がつかない有様のようだと言う。
「アンデッドは死霊使い、つまりネクロマンサー或いは吸血鬼によって操られているのは明白よね?
じゃあ、生きている連中はいったい誰に従っているのか・・・?
両者を切り刻んで検査した結果、生きている方はある物質が検出されたわ。」
「・・・もしや。」
そこでエクレシアには心当たりが有ったのか、ハッとした表情になった。
それはサイリスも同様で、目を見開いている。
「所謂、ゾンビパウダーってやつね。
生者に服用させ、仮死状態にして自由意思を奪い、自在にその肉体を操る死霊魔術の秘薬。
正しい意味で、ゾンビ化させて死兵として扱っているのね。」
ゾンビとは一般に腐った死体が動き出した者と言う認識が広がっているが、それは誤りである。
今クロムが言ったような、仮死状態にされ術者の言いなりにされる存在を“ゾンビ”と言うのだ。
「クソ、外道が・・・。」
武人としての誇りを何よりも大事にするドラッヘンが、そう吐き捨てるように言った。
「そんで、死んでる方はどうやってあんなに大量に操れるのか、と思って調べてみたのよ。
普通死霊魔術での死体の操作なんて、その分リソースを割くようなものだから、あんな大量に操るのは事実上不可能なのよね。
そしたら、悪霊を召喚術の一種で喚起し、死体に憑依させて手当たり次第生きている者を襲うようインプットされていることが分かったわ。
そもそも、連中は操られてすらいないの。制御が放棄された羊の群れと同じよ。」
「なんておぞましい真似を・・。」
その事実に、エクレシアが思わず口元を覆った。
「でも、そんなことして平気なのか?
悪霊って、結局は魂だろ? 正しい肉体に宛がわれなきゃ、肉体が崩壊するんじゃ。」
「あら、貴方にしては魔術師らしい見地ね。
そこは文字通り、腐っても魔族の肉体よ。人間なら耐久力を度外視しても一週間持たないけど、魔族の強靭な肉体ならひと月は持つわ。」
クロムは、うまいこと使うわね、と笑った。
「なあ、クロムは外部から来たっていう吸血鬼と、“原生”の吸血鬼。
今回の首謀者はどっちだと思うんだ?」
「そうねぇ・・・今の段階じゃ、何とも言えないけれど、私は両者が手を組んでいると睨んでいるわ。」
俺の疑問に、クロムはあっさりと答えた。
「その根拠は?」
「貴方は自分の家の庭に汚物を大量に投じられて、我慢できるの?
“原生”がそれらの占拠を許している時点で、答えは一つだっていっているようなものじゃないの。
それに、そのエリザベートとか言う吸血鬼が天敵である“ノーブルブラッド”の連中に見つかるような真似をする理由は無いわ。自分の欲望の為には規模が大きすぎる。
私はむしろ、彼女は“原生”の尖兵として働いているのだと思うわ。」
ドラッヘンに促されたクロムはそのように推論を展開した。
「しかし、二百年ほど前に、彼らは我々が討伐した。
復活した“原生”はこの暴挙を押し留められないほど弱っているとしたら?
奴は果たして後ろ盾足りうると思うかな?」
そこに、天幕の中にハーレント子爵たちが入ってきた。
護衛の二人は入ってきて早々に抜刀して、彼女に剣を突き付けた。
突然の事に、中に居た俺たちは反応できなかった。
「あら・・・地上では“私達”がお世話になったらしいわね。」
「魔族の領域まで足を延ばし、今度は何を企んでいるのです?」
怜悧な表情でハーレント子爵がクロムに行った。
「フィールドワークは錬金術の基本よ。
地上で手に入らない素材を求め、最も効果的な立ち位置に居る、ただそれだけの話よ。」
「・・・・地上の件はお互い終わったことです。
我々もこちらに移住する以上、とやかく言うつもりも無い。お互いの邪魔はしないという事で。」
「まるで私が邪魔をすること前提にしているみたいに言わないでよ。
アレは師匠の意向で貴方達と敵対しただけよ。誰が好き好んであんた等みたいなのと相対しますかってのよ。」
「では。」
「ええ。」
二人が頷き合うと、ハーレント子爵の護衛に目配せし、剣を納めさせた。
「ど、どういうことですか・・・?」
「いやはや、驚かせてすみません。“他人の空似”だったようです。」
ハーレント子爵が爽やかな笑みを浮かべてはぐらかした。
クロムに限って他人の空似ってことは無いだろう。
しかし、深く追求したところで話を聞けそうにないので、俺たちにはどうしようもないわけだが。
「お初に御目に掛かるものもおりますね。
私は“ノーブルブラッド”のハーレントと申します。及ばずながら、“子爵”位を頂いております。」
そして彼はヴァンパイアという一族を象徴するような優雅な一礼をした。
「彼が・・。」
隣のエクレシアが目を見開いて、彼を見ていた。
「これはこれは、貴殿らの噂は辺境に住む我々にも届いておりますよ。」
「ははは、ろくな噂ではないでしょうが。」
フリューゲンとハーレント子爵は、互いに笑って握手をした。
「ああ、人間上がり共の、同族殺し集団だってな。」
「若ッ」
しかしドラッヘンの態度はあまり好ましいようには見えなかった。
フリューゲンの叱咤にも、まるで気にした素振りを見せない。
あの『マスターロード』でさえ位階が二段階も上という事で普段の傲慢さを全く見せない中、このドラッヘンやフウセンだけは立場が上なのだ。
尤も、大人な対応をした彼と、嫌悪を隠さないドラッヘンではどちらが上に見えるか分からないが。
「我々も同族と称される連中が、野蛮で見境が無く、下劣な大喰らいで困っているのです。
しかもそれがとてつもなく醜悪ときた。進んで間引こうと思うのは、むしろ誇りと良識のある大人としては当然の発想だとは思いますがね。」
しかし、それくらい今更ドラッヘンに言われなくても慣れているのだろう。ハーレント子爵の顔には不敵な笑みさえ浮かんでいた。
「全くよね、少ないからこそ高貴で尊いのよ。」
そこでなぜかクロムが同意した。誇りはともかく、師匠を含めてあんたに良識あるかどうかは声高らかに否定したいところである。
「それはともかく、我々は我々の目的の為に協力を惜しみません。
その為に我らの首相たる“伯爵”殿からこの私が派遣されたのですから。」
「聞き及んでおります。子爵殿に名を覚えてもらうほどではありませぬが、私が今回、身に余る大役ながら、我ら同盟軍の総大将を任されております。
我が主君の非礼は平にご容赦を。後日改めてお詫びを申し上げます。」
「それは結構ですとも。我々もこちらの魔族と関わりが深いわけではないので、誤解を受けるのは当然でしょう。
それよりも、そのようなことを言わずにここはお互いの足並みを揃えましょう。我々は共に戦う戦友同士となるのですから、そのように畏まらなくても結構ですよ。」
深々と頭を下げるフリューゲンに、ハーレント子爵はとんでもないと両手を振ってそう言った。
尊敬する同胞の低姿勢が気に入らなさそうなドラッヘンが何かを言いかけたが、クラウンが目配りすると急に大人しくなった。
恐らく念話で何か言われたのだろう。
そしてそのままお互いに知らない顔同士が自己紹介の流れとなった。
当然、エクレシアが自分の所属を名乗り上げた時には、ハーレント子爵も大層驚いた様子だった。
「これは驚いた。いやはや、色んな意味で。
こんなところに貴女のような人間が居るのもそうですが、魔族の中でさえ確固とした地位を築き上げているご様子。
ここは流石彼女の配下と称賛すればよろしいのか・・・いやはや。」
自分の天敵が目の前に居ると言うのに、ハーレント子爵は実に優しげな笑みを浮かべた。
吸血鬼のくせに、本当に人間らしい仕草だった。
「私も、我らが『カーディナル』より聞き及んでおります。
なんでも、そちらの“伯爵”殿とは旧知の間柄だそうで。」
「旧知、ですか。」
その表現に、ハーレント子爵は何か引っかかった様子だ。
「私如きには計り知れない事情があるようですが、彼女はまだそちらとの間に友情があると思っているようですよ。
彼女は決して立場からそれを口にできないでしょうが。」
エクレシアが複雑な表情でそれを口にすると、彼はただ「そうですか。」と呟いて、感慨深そうに頷いた。
「当時を知る身としては、あれは本当に互いの立場からの行き違いに過ぎなかった。
それに関してまだ“伯爵”殿は気に病んでおられたが・・・どうやら彼女には二つの朗報を伝えられそうです。」
二つ、ということはもう既に彼の中では目的は完了することは前提らしい。
「思い出話は後にしなさいよ。
とりあえず、現状を確認するわよ。」
半ば軍師みたいな役回りが板についたのか、クロムが地図を張り出したホワイトボードを叩いてそう言った。
「見ての通り、この第五層は八割五分以上が深い森林で覆われているわ。
上空を覆う霧が無くても、その中では満足に太陽の光は届かないでしょうね。」
クロムの言う通り、第五層の地図には殆どの地形が森で覆われていることを示している。
「調べたところ、上空の霧は幻術の一種で、方向感覚などを狂わせて正しく飛行できなくするみたい。
正直これは術者を倒す以外、手っ取り早い方法は無いわね。」
「この様子じゃ、頼りの竜騎兵も役立たずってことか。」
「いいえ、低空での飛行が可能なのは怪我人の運搬で実証済みよね。だからそこまで戦力ダウンってことにはならないはずよ。」
クラウンの歯に衣着せぬ物言いを否定して、クロムは話を続ける。
「問題は、町の外の木々より上が飛べないって事よ。おかげで、敵の根城と思われるここに一直線で進めないわ。
どうやっても歩兵が森林の中を突破する以外は道が無いわね。」
クロムは地図の端の方にある、森林の中の城を指し示す。
木々の感覚は狭く、翼を広げた飛竜は慎重に進まざるを得ない。
その機動力が台無しになるのは火を見るより明らかだ。
「旦那の部隊は未開の土地の開拓に慣れた精兵だ。
森林戦でもその実力をいかんなく発揮すると思うよ。」
クラウンが言うとおり、魔族は平地での戦いだけでなく、特に森林での戦いを得意としている。
自然を味方に付ける精霊魔術の使い手が多数いるし、何より魔族の多くは“獣の眷属”と言う本能的に自然環境に適応している連中ばかりだ。
その進軍速度は人間の比ではないだろう。
「それは心強いけど、私の考えでは進めば進むほど敵の抵抗は激しくなる。
当初の予定では突破力を竜騎兵に任せていたけど、これでは防衛にしか使えないわね。」
「森の中で自由自在に飛竜を扱えるとなると、俺か爺さんぐらいか。」
「それでも片方は総大将よ。安易に森を焼くと大惨事になるし、ここに住む者たちの居場所を奪う事になるわ。」
「つまり、現状では突破力が欠けるという事ですか。」
ハーレント子爵が、クロムたちの話を総括してそう言った。
「ええ、敵の規模も分からない上に、この物量戦では決定力が足りないわ。
当初の想定からして、竜騎兵十五体分に貴方達を換算して入れてもギリギリってところかしら。」
クロムは難しい表情で言った。
て言うか、彼ら吸血鬼三人で五倍の竜騎兵十五体に相当できるって、凄くないか?
「あと、これがこの第五階層にある集落の位置ね。」
クロムが地図に円状のマグネットを次々と置いて行く。
その数は、二十以上にも上る。
「彼らの救出を並行してできるほど、私達は戦力に余裕が無いわ。
ここに来て、彼らの安否を確認できないのが非常に痛いわね。」
「つまり、敵の根城に短期決戦をするか、持久戦覚悟で救出を優先するか、ってことになりそうだね。」
「ええ、フウセン魔王陛下から賜った我々の方針は後者だけれど、どの道敵の軍勢を突破するのは同様よ。」
「我々としてはエリザベートの撃滅を優先したいが・・・人命を優先することに異存は有りません。
奴の手駒として利用されても困りますからね。」
そもそも目的が違うハーレント子爵が懸念事項だったが、彼は合理的に動いてくれるようだ。
取りあえず、これが俺たちの現状と方針である。
後はクラウンやハーレント子爵、クロムやドラッヘンにフリューゲンは、配置に関してあーだこーだと揉めている。
そんな時である。
ズシン、ズシン、とどこからか地響きが聞こえてきたのだ。
「なんだ、魔獣でも現れたのか?」
ドラッヘンがそう呟いた、すぐ後だった。
「失礼仕る。『マスターロード』から援軍として馳せ参じた次第。どうか御目通り願いたい。」
同じく地響きのような声が、天幕の外から聞こえてきた。
「ああ、わざわざご苦労。歓迎する、ぜひ入ってくれ、と言うのは酷か。」
「がははははは、流石にこの中は我輩には少々窮屈でありますな。」
その代りなのか、天幕の入り口の布が開けられた。
その先に有ったのは、黒い鉄の壁だった。
その鉄の壁が立ち上がり、二歩三歩下がって屈んだことで、ようやく全貌が把握できた。
巨人だった。俺も見たことが無い、全長十メートル近い最上級のジャイアントだ。
全身を黒い鎧で身に包み、一切の露出を禁じている。
その半身を隠せるほどの巨大な盾と、人間でいう大剣が爪楊枝にみえる巨大な剣を帯剣していた。
「して、援軍の数は?」
フリューゲンが天幕の入り口に近づいて、黒鎧の巨人に問う。
「ハッ、貴殿がかの名高き“英雄”殿でありまするな。お会いできて光栄である。
我輩は“黒鉄の巨塔”こと、ギガース族が一人。偉大なる『マスターロード』に騎士位を頂きし、アダマンティオスである。」
「ほう、貴殿がかの・・・これは心強い。」
堂々と名乗りを上げる巨人に、フリューゲンは驚いた様子で彼を見上げた。
二つ名があるだけあって、余程強大な魔族なのだろう。
「我らもかの“英雄”殿と轡を並べられることを誇りに思う。
さて、此度のアンデッド掃討作戦。我が部隊以下四名、これより着任致す。」
「四名? あんた含めて五人ってどういうことだい?」
「おや、済まぬな。所属を言うのを忘れていた。」
巨人アダマンティウスは、クラウンの視線にわざとらしくそう応じた。
「では改めて。我ら“魔王近衛兵団権能部”、以下四名、これより作戦に着任致す。」
彼は朗々と自らの所属を読み上げた。
それを聞いたクラウンが、一転して面を喰らったような表情になった。
クラウンだけではない、フリューゲンを含めた魔族全員が、驚愕の表情を浮かべていた。
「・・・近衛? 俺たち親衛隊と似たようなものか?」
「馬鹿ッ、僕らと比べるのもおこがましいッ!!」
俺がそう言ったら、あのクラウンに怒鳴られてしまった。
「魔王近衛兵団は、『マスターロード』が組織した“騎士”位を持つ者のみで構成された選りすぐりの魔族が在籍する、“騎士”を目指す魔族なら誰もが入団を目指す部隊なのよ。」
ぽかんとする俺にサイリスがそう教えてくれた。
「そして、その中でも“権能部”は特別なのよ。
今時、魔王への反逆と知りつつも生きる為に悪事を働く魔族は少なくない。
しかし、そんな彼らに役人がこう告げるだけで、彼らは泣きながら赦しを請うて跪くわ。
それは魔王陛下への反逆だと知っての事か、とね。
権能・・すなわち、魔王陛下の御力として彼らは反逆者を処罰する、“魔王の右腕”と称される特別な部隊。
その部隊に入るには“騎士”位を持つ者の中でも、百人に一人も合格できないと言われ、仮に入れても地獄のような鍛錬と実戦、そして任務の日々に辞めてしまう者も多いと聞くわ。
歴代魔王の数だけ座席は存在するけれど、その全てが埋まったことは無いとされるわ。」
そう語るサイリスには、羨望の眼差しさえ見て取れた。
反逆にのみ、魔王としての権限を行使できる特別な部隊。
魔王の力を象徴する、魔族最強の部隊。
フリューゲンが認めるような魔族が所属し、たった五名でここまで恐れられ、畏怖される部隊。
それが、魔王近衛兵団権能部という連中らしかった。
「つまり、“処刑人”みたいな連中なのね。」
クロムはあっさりとそう纏めた。これで突破力は何とかなりそうね、と彼女は呟く。
あっさりとそう言ったが、彼らの実力は俺が知る魔族のそれとは桁違いなのだろう。
俺たちにひとしきり驚かれて、がははは、と豪快に満足そうに笑っているこの巨人は豪放磊落な性格なようだが、その威圧感はあの『マスターロード』に勝るとも劣らない。
“騎士”位ですら最強と目される種族を含めた数多くの種族から選別されているのに、その中から魔王の右腕として相応しい魔族が選ばれるのだろう。
なんだか、魔王の城を守る結界を発生させる塔とか守っていそうな、ラスボスの前に出てくる四天王みたいな連中なのだと、俺は認識した。
「それで、他の四名は何処に?」
あのクラウンが敬語である。あの親父相手に不遜な態度を貫いたこいつが、である。
近衛兵団は“騎士”位を目指す魔族の憧れの存在みたいなようだし、その中の特別である“権能部”はそれこそある種のスター性を持っているのだろう。
それを惜しげも無く全員投入してきた『マスターロード』の本気さが、窺えるというものである。
「我輩らの任務は、ハーレント子爵の援護でございまする。
故に、足手まといにならずという事を示すためにまずは露払いを、と。」
「露払いだって?」
それを聞いたクラウンは顔を顰めたが、その時、町を囲う城壁の前から爆音と振動が響き渡った。
そのすぐ後、城門が破られ、溢れ出たアンデッドと交戦している何者かが居ると、伝令の伝令がやってきた。
では我輩もぼちぼち、と巨人騎士アダマンティウスと立ち上がった。
「ちょっと待ってほしい、勝手に動かれては困る。」
「しかし、我々がここに着いた時に丁度城門がぶち破られた所に居合わせましてな。
せめて一報をと、我輩が参じた次第でありまして、本来なら我輩より伝令に適任が居りますが、何分我々は血の気が多くて、全員真っ先に。」
フリューゲンが引き止めるが、そう言って肩を竦めるとアダマンティウスはのっしのっしと歩き出した。
と思ったら、砲弾のような速度で跳躍した。
その巨体に見合わぬ俊敏さである。
そして、城壁を軽々と片手で乗り越えて行った。
「ちょっと誰か適当に人数連れて見てきてよ、戦ってもらうのはいいけどそれで内側に被害がでたら目も当てられない。」
「じゃあ、俺が行こう。隊長たちを借りてくぞ。」
このまま会議に居てもあんまり役に立ってなさそうなので、俺が立候補することにした。
と言っても、物言いからしてクラウンは念の為にみたいな感じのようだ。
「私も行きましょう。」
「いいや、怪我人の治療で疲弊しているだろう?
でも、向こうに怪我人が出ている可能性もあるな・・・。」
自身も手を上げるエクレシアに、俺はそう言った。
彼女から疲労の色が見える為、無理はさせられない。
「ですから、」
「私が行くわ。私の治療は医療品中心だったから、余裕があるわ。」
「分かった、サイリス頼む。」
俺はエクレシアの頑固さが出る前に、さっさとサイリスに同行を求めることにした。
半眼で睨まれたが、ここは情より理を取ろう。
俺は隊長の元に走り、彼の部下たちを集合させて城門へと向かった。
・・・・
・・・・・
・・・・・・
「なんだって、あの“魔王近衛兵団権能部”が来てるだってぇ!!」
「ああ、マジだ、俺見たぜ、奴はあの“黒鉄の巨塔”に違いない!!」
「ギガース族・・いや、ジャイアント最強と目されるあの豪傑かッ!!」
「うるせえ!! てめえら、黙って付いてこい!!」
隊長は沸き立つ部下たちに一喝して黙らせた。
とりあえず集められる人数を集め、隊長を先頭に武器を持って俺たちは城門前に辿り着いた。
「なんだ、これは・・・。」
城門前には多数の野次馬が現れていて、奥が見えない。
それだけ大人数がいったいどこから現れたのか密集し、壁となっている。
その誰もが、声援を送っているのだ。とても城門が破られ、アンデッドが押し寄せてきている場所とは思えない。
「どけどけッ、邪魔だお前たち!!」
そいつらを何とか押しのけてその内側に入る、とそこにあったのは・・・。
「うッ・・・。」
俺は思わず吐き気で口を覆った。
原型が無くなるほどバラバラに千切れた死体が足の踏み場も無いほど散乱している。
不死の化け物も、ここまでされば二度と動かないだろう。
そして、アンデッドが押し寄せているはずの外にまで、そのバラバラの死体が続いている。
その場はむせ返るような血と腐臭に満ちているのに、民衆たちは町中の陰気が嘘のような声援を挙げている。
「“権能部”の連中はどこだ?」
「おや、兵士さん。彼らなら、もう外に・・。」
隊長が近くにいる魔族に問うと、彼は城門の外を指さした。
「何人か偵察してこいッ、俺たちはここで外の警戒と怪我人の有無を確認し、この事態を収拾させるぞ!!」
隊長が部下たちに、声援でかき消されないように大声で指示を出した。
「私が偵察に行きましょう。」
「俺も行く。」
低空飛行で付いてきていたガルーダのラサヤナさんと、俺が名乗りを上げた。
外は危険地帯だし、あんまり人数も割けないから、単独行動ができる俺が適任だろう。
「分かった、だが、外は危険だ。無理だと思ったらすぐに引き返せ。」
「「了解。」」
俺とラサヤナさんは隊長の指示に従い、城門の外に飛びだした。
すぐ出た先に深い森林が有り、街道がその中に繋がっている。
この辺りで森が無いのは、町の城壁周辺ぐらいだ。
しかし、そこら中が死体塗れである。
中には完全に炭化した者や、潰れてぐちゃぐちゃになった者、どれも凄惨に粉砕されている。
「権能部とやらは、どこだ・・。」
「あっちから戦闘の音と・・・これは・・歌?」
夜目が利き、耳もいいラサヤナさんが口ばしで東の方を指した。
俺たちはすぐにそちら向かったが、・・・そこはこの世のものとは思えない光景だった。
まず、向かうに連れて聞こえたのは歌声だった。
毎日のようにテレビから歌が垂れ流されているような時代に生きていた俺も、聞いたことが無いような澄んだ歌声だ。
どんな言葉で、どんな意味かも分からなくても、その歌に込められた想いが理解できた。
なぜなら、これは声で周囲に魔力を届ける支援系の精霊魔術の一種である、呪歌だ。
劇的な効果を齎すものは少ないが、その分広範囲で大人数に掛けられるという利点がある。
それは闘争、そして戦いに生きる者ことへの讃歌。
戦いに生きる者に高揚を与え、死者に憐れみと束縛を齎しているのだろう。
「これは即興詩・・・呪歌なんて、決まりきった効果ばかりだから、即興で変えて効果や対象を絞っているの!?」
隣を飛ぶラサヤナさんが驚いている。
当然だ、そんなことができる魔族なんて、普通は存在しないのだから。
だが居たのだ。最初に見えてきたたった五人の部隊の後方に、その歌姫はいた。
ローブを纏ったその姿は人に近しいが、その竜のような翼と下半身から伸びる蛇の体が彼女を人であることを否定している。
フランスに伝承を残す、メリュジーヌと呼ばれるラミアやマーメイドの一種だ。
数々の伝説を生んだマーメイドの一種であるその一族に違わぬ歌声は、命ある者を恨み、憎しみの限り襲おうとする死者たちの存在そのものに語り掛け、その動きを大きく鈍らせる。
「ふんッ!」
そこに、最前線で巨大な壁の如き盾を構えて押し出し、群がる死者たちをまるで雑草の如く巨大な剣で薙ぎ払うのは巨人アダマンティウス。
彼の歩みは、もはや前進と言うより彼だけですでに進軍といった様相だった。
ただの歩みではない。
彼の進撃は、ただそれだけで周囲の大地が鳴動し、死者たちの足場が砕け沈む。
メリュジーヌの歌声も合わさり、近づいて殴るぐらいしかできない死者の軍勢は一溜りも無かった。
時間を掛けるのならその二人だけでも十分だと言うのに、その二人は盾役と後方支援に過ぎなかった。
「精霊たちよ、有るべき者たちをあるべき姿に戻せ。」
空中に、真っ赤に燃えるドラゴン・・・の形をした精霊の集合体に跨るのは、ドレイク、いやドレイクロードッ!!
彼の跨る精霊の竜が羽ばたくと、飛び散った火の粉が瞬時に膨れ上がって降り注ぎ、死者の群れに絨毯爆撃していくのだ。
あそこまで高度な精霊魔術は、もはや魔族ではなく人間の物に近しかった。
両者の長所を兼ね備えた精霊魔術は、次々と死者たちを塵に変えていく。
真横に森林があると言うのに、全く燃え移る様子が無いのは流石精霊魔術の炎と言うべきか。
その時、一陣の風が突き抜ける。
そしてその風は刃と同義だった。
精霊魔術の爆撃で倒し損ねた死者たちが、バラバラの死体へと変わっていく。
何が起こったのか、目では追い付かない。
「これで最後か。」
だが、部隊後方に降り立った翼を持つ男がその原因だろうことは、彼が纏う風の精霊で理解できた。
伝承通りの黒い翼と山伏装束を纏い、真っ赤な長い鼻の鳥の顔の仮面を付けているのは日本でも有名な烏天狗だ。
手に知っている得物は、怪しい輝きを持つ太刀である。
形状は日本刀に近い。まさかここでこんなものを見れるとは思わなかった。
かつての魔術師たちの居た世界は、所謂可能性世界の一種であるらしく、地球とは別の歴史を辿った世界なんだとか、師匠が言っていた。
故に文化も類似していた点も多く、神も同じであり、当然その世界でも日本に相当する場所だってあったらしい。
殆どの魔族が東洋に伝承を持つ者たちばかりだから、西洋系の魔族は少なくとも俺は初めて見た。
「もう終わり? 数だけは達者だったわね、どれくらい居たのかしら。」
歌が止まり、メリュジーヌがその美しい声でそう言った。
「四千と少々。」
淡々と、烏天狗は答えた。
「ふん、所詮は雑魚の集まりという事だろう。」
ドレイクロードの跨る精霊が地上に降り立ち、熱風となって霧散した。
「がっはっはっは!! 死してなお戦い続けるとは天晴れでしたな。
あれで操られていなければと思うと、残念でなりませぬわ。」
巨体に見合った一際大きな声で、アダマンティウスが豪快に笑い声をあげた。
「クライももうそろそろ反対側の掃討を終えた頃だろう。合流するか。」
「魔族最強の騎士が、これ以上時間を掛けるはずもあるまい。・・・おや?」
すると、そこで遠目で呆然とする俺たちに気付いたのか、ドレイクロードが視線を向けた。
「敵か?」
「いいや、彼は拠点地で見ましたぞ。恐らく、フリューゲン殿の遣いか何かでしょう。」
淡々と端的に確認する烏天狗に、アダマンティウスが否定した。
「人間が遣いとは洒落ているな。」
くっくっく、とドレイクロードは笑ったが、その笑いに俺はどこか違和感を覚えた。
「噂通り、桁外れの強さ・・・流石“魔王の右腕”・・。」
ラサエナさんが畏怖したように呟く。
俺も同感だ。あの戦いぶりだけで容易に分る、――――彼らは一割も実力を出していなかった。
魔族でも最強を名乗る部隊には、死者の群れなど片手間に過ぎないのだろう。
魔王の“断片”を持つ二人を敵に回す可能性を示唆しても笑っていた『マスターロード』の余裕が理解できた。
文字通り、一騎当千。
人間の値千人ではなく、魔族の値で千人に各々が匹敵する戦力。
もしかしたら当万にすら値するのかもしれない。
クラウンの奴がビビるわけである。彼らは、本当に桁違いだ。
「あらクライ、終わったの?」
メリュジーヌが視線を横に逸らしてそう言った。
その視線の先、即ち俺の左方には長身の鎧を纏った魔族が彼らに向かって歩いていくのが見えた。
まるで気配がなかった。
頭に角を生やし黒い肌をしたその長身の魔族は、ブラックトロールと言うトロールの上位種族だ。
醜悪でずんぐりした寸胴なトロールと違い、無駄な肉が無くスマートでより人間に近い姿をしているが全ての能力がトロールの比ではない。
野蛮なイメージのあるトロールだが、彼らは知能も発達していて、頭もいいし高度な精霊魔術も操る。
鞘に納まっているが、腰と背に一振りずつ帯剣している。
どちらも尋常ではない魔性の魔力が漏れ出している。魔剣だ。
目の前の四人も桁外れだが、このブラックトロールは別格のようだ。
あんな恐ろしい気を放つ魔剣は、夢で戦う死神の持つ気のそれに近い。
本能が断じる。アレと戦ってはいけない、と。
「・・・・・・・・・。」
「ああ、あの人間が気になるのか。
おい、そこのお前たち、いったい何の用だ。」
無言のブラックトロールに何か感じ取ったのか、ドレイクロードが俺たちにそう声を掛けてきた。
「あッ、はい、俺たちは・・」
俺は畏まって彼らに自分たちの役割を話した。
「ふむ、人間を重用するとはよくやるものだ。
我々も“英雄”殿に目通り願おう。そこのお前、案内してもらおうか。」
「あ、はい。」
尊大な態度のドレイクロードだが、やはりどこか違和感が拭えない。
そこで、はたと気づいた。クラウンやアイアンヘッドや『マスターロード』みたいに、彼は態度こそ尊大だが人間を見下しているような刺々しさが見えないのだ。
クラウンみたいな特殊な例ですら人間をどこか見下しているのに、彼にはなぜかそれが無い。
人間など歯牙に掛ける必要すらないと言うのだろうか。
俺はどこかそれに居心地の悪さを感じながら、ラサエナさんを先に行かせて彼らをフリューゲンたちの元に連れて行く羽目となったのだった。
俺は思った、彼らが居れば案外すぐに終わるのではないか、と。
しかしながら、世の中そう甘くは無かったのである。
こんにちは、ベイカーベイカーです。
ここにきて新キャラ五人。ようやく『マスターロード』以外の魔族の強キャラが出せました。
魔族同士の戦争が始まったのに、名前のない奴ばかりと戦ってもつまらないですから。
勿論、全員に名前ありますよ、まだ出てませんが。ちなみに、五人は戦隊モノを意識したりします。四代元素の属性に対応してたりしますし。
とまあ、そんな彼らが、まさかこのまま主人公たちとかかわらずに終わる、なんてつまらないことは、ねぇ?
それでは、また次回。