第八話 鬼と悪魔
「おいクラウン、また面倒なのを拾ったそうじゃないか。」
ラミアの婆さんは刺激臭漂うキセルを咥えながらそう言った。
明らかに煙草ではないからか、外で吸っているので家から出てきたクラウンが彼女に捉まった。
「おや、お耳が早い。」
「歳食ったからって耳が遠くなるのはまだ先さ。しかも聖職者なんだって?
サイリスの奴、ついにお前を怒らせたから連れて来た何て思って、退治されないかと震えていたよ。いやぁ、可笑しかった。」
「確かにあれの鬱陶しさには迷惑していますが、なにもぶち飛ばすまでではないですからね。」
「イヒヒヒ、領主の旦那も頭が痛くなることだろうよ。
きっちり首輪はつけておくことだね。うちの魔術は異端になるだろうから。口を出されちゃ困るのさ。」
「ちゃんと旦那には埋め合わせはしておきますよ。
それより、ここだけの話ですが、どうやらそいつ、エクレシアというんですけどね、メイの奴に関わりがあるようで。なにやら因縁を感じますねぇ・・・・」
「ほぅ・・?」
「詳しいことは分かりませんけどね。あの小箱、そのエクレシアも関わっているそうで。運命の悪戯ってやつでしょうかねぇ。」
「さぁねぇ、だが、何かが起こるんだろうよ。そんな予感がするさね。」
「とりあえず、僕は面白ければそれでいいんですけどね。」
そう言って、クラウンは上機嫌そうに鼻歌を歌いながら歩いていってしまった。
「それが嵐でなけりゃあ、良いんだけどね。」
この“箱庭の園”は、理想的な四季と環境が維持され、運営されている。
だから嵐なんて一度も起きたことなど無い。当然彼女も、嵐がどんなものかは知らない。
だが、これから何かが起こるなら、魔族の誰もが経験したことがないような事なのではないのだろうか、そう思うのだ。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
「おい、クラウンの奴は外に追い出したぞ。」
「すみません・・・。どうも今、彼が居ると、体が震えて・・・」
無理も無い話しである。
俺だってあんな間近でドレイクロードの殺気に当てられたら、多分一生のトラウマになるだろう。
今はまだあれから村に帰ってクラウンの家に戻り、お互いの事情を軽く確認しただけの段階だ。
俺が分かっているのは彼女がエクレシアと名乗ったこと。
俺がこの村に飛ばされた時にあの場に居たこと。
彼女が語ったのはそれぐらいである。
それで、彼女の要望で俺と話がしたいからクラウンはちょっと席を外してほしい、と言って彼が出て行ったのが現状。
俺は、何やら運命みたいなものを感じてしまった。
神様なんて信じていないが、その存在を思わず肯定してしまいそうなほどの巡り会わせだと思った。
「随分と辛い目にあったようですね。」
エクレシアが口を開いた。
椅子に座っている彼女は、今にもそこからずり落ちてしまいそうなくらいやつれている様に見えた。
「あんたほどじゃないさ。」
「これくらい、何ともありません。私の正気は神が保証してくれています。それがある限り、私が狂うことはありません・・・・が。」
エクレシアは背筋がゾッとするくらい儚く微笑んだ。
「今回は少々、堪えましたね。
これは、最初の任務で邪教徒とは言え、人を斬った時以来です。」
「いつもあんなことしているのか?」
「この世に蔓延る邪悪を討ち滅ぼすために。」
一切の躊躇いもなく彼女も断言した。
「貴方は親しく話していましたが、あの魔族に貴方は隷属しているのですか?」
「あれでも命の恩人だからな。一応文句は無い。」
「よかった、酷い事はされていないのですね。」
俺は、自分の心配しろよ、と言いたかった。とてもじゃないが、どっちが健康そうに見えるかなんて言われたら、間違いなくエクレシアを選ぶ人間は居ないだろう。
「本当なら、今すぐにでも地上に送り届けたいのですが、・・・・私の力不足を許してください。」
「俺が・・・地上に・・?」
それは実に当たり前の言葉なのに、俺は呆気に取られてしまった。
「いや、いいよ。俺は人間社会よりこっちの方が楽だから。」
「そんなはずはありません。人の営みは人の中で行われるべきなのです。
価値観も言葉も習慣も違う彼らに、貴方が馴染めるはずがありません。」
それは、確かに正論である。
「確かにな、未だにあのクラウンの奴は人間だったら頭イカレた奴確定だし、普通に働こうと思っても人間からして魔族の連中はまず基礎能力から段違いで俺に価値なんてまるで見出さなかった。」
彼女の言うことは俺も痛感している。
言われるまでもないことだ。
「ならば、貴方は帰るべきです。
貴方にも、貴方を思う友人や家族が居るはずです。」
「いいや、居ないよ、そんなやつ。友達なんていなかったし、母親はクソな親父のせいで出て行った、そんな親父も・・・・。」
「そうですか・・・。」
口ごもった俺のことを察してか、エクレシアは頷いた。
「でしたら、教会に保護を求めれば良いでしょう。
今回のようなことに巻き込まれた人を助けるために色々と助けて下さる方がたがたくさん居ます。」
「だから、いいんだよ、俺には。」
人が信じられないなんて、俺は彼女には言えなかった。
「拒む必要はありません。
貴方の国ではかつて狂った信仰によって悲劇が起こったのは知っています。それによる偏見が国中に広がっていることも承知しています。
みな慈愛に溢れた厳しくも優しい人たちばかりです。」
「俺だってあんたらが地下鉄に毒物をばら撒く連中と違うのは分かってるさ。
だけど、そういうことじゃないんだよ、俺が言いたいのは・・・。」
俺は、どうしても躊躇ってしまった。
あれだけの人を殺しても、まるで穢れなく清廉に潔白と言った精神の持ち主が、もしかしたら怖かったのかもしれない。
「では、なぜ?」
「・・・・・これは懺悔だけど、聞いてくれるか?」
「我が名はエクレシア。その意味はギリシャ語で、教会。
私は、生き、歩き、話す、教会そのものです。ここには神が居られます。神を前に、人は皆、平等です。どうぞ、言いなさい。」
「俺は、神様なんて信じてないんだけど、良いのか?」
「貴方は私を信じて告解してくれるのでしょう? ならば、貴方の心にも神は居られます。その事実の前には些細なことです。」
それはつたないが、精一杯覚えただろう日本語であった。
まるで異世界の言語の中に居る俺には、とても安心できる言葉だった。
「俺は、人を殺した。実の父親だ。」
「・・・・・・・」
エクレシアは何も言わなかった。驚くどころか、眉一つ動かさなかった。
「あの時あの場所であんなところに居たのも、逃げていたからなんだよ。だから、あの国に俺が帰る場所なんてないんだ。あんたが言う優しさを受け取る権利もない。そんな俺は、人間じゃなくて魔族で良いんだ。」
「確かに、古来より親を殺すと言うことは最悪に近い罪悪です。
ですが、貴方はそれを後悔している。貴方は償うことを放棄するのですか?」
「ごめんな、俺はな、後悔はしてるが、悪いことをしたとは思ってはいないんだ。
一度クラウンにこの話をしたら、あいつ、『子を養わない親に生きる価値なんてないじゃないか、殺して当然』だなんて言うんだ。
俺はそれに納得しちまったんだ。人を殺して、平気でいるんだ。そんな俺は、まるで鬼じゃないか。だから鬼の俺は、魔族で良いんだ。」
それは、我ながら酷い言い方だと思った。
泣く泣くあんな虐殺をした彼女を前にしてそんな言葉を平気で言えるのだから、やはり俺は鬼なのだろう。
「では、私は悪魔ですね。」
エクレシアは、柔らかな笑みを浮かべるだけだった。
本当に、神様が彼女の心を守っているが如く、鉄壁の笑みと精神だった。
「あんたと俺は違うだろう。あんたは人間を信じてるじゃないか。」
「いいえ、私が信じているのは神様ですよ。私は、その言葉に従っている・・・いえ、縋っているだけなのです。
今、私はどうすればいいのか分からないのです。私が布教活動のためにこの地に来たのはさっき言った通りですが、私は魔族というものを全く理解していなかったのです。ですが、私の上司達はそれを理解したうえでこの地に私を向かわせたのです。私は何かを成せと言われたのではなく、仲間に死ねと言われたのです。ですが、それはきっと私如きに察せぬお考えもあるのでしょう。」
俺は、生まれて初めて純粋な言葉に身震いした。
彼女は、仲間に裏切られたのに、それをどうでも良いように言うのだ。
いや、裏切られてなお、仲間を信じているのだ。
そこには俺には分からぬ信頼があるのかもしれない。やっぱり宗教は俺なんかには理解できる代物ではないようだ。
「しかし、神はそこで貴方に行き会わせた。
これは、天の思し召しに違いありません。お願いですから、私に貴方を救わせてください。そうしなければ、私は私が分からなくなる。」
ああ、と俺はその言葉で納得した。
彼女は笑みを浮かべているのではない。
笑っていないと、自分が自分でいられないのだ。
本当に、壊れる寸前の、悲しみの感情で破裂しそうな心なのだ。
だから俺を利用して、無理やり気を紛らわせようとしているのだ。
「なあ、あんたはもしここで俺がいなかったら、・・・どうするんだ?」
「分かりません。それが分からないからお願いしているのです。」
「悪い、今のお前の言葉じゃ、俺の心には響かないよ。
お前は神様の言葉を言ってるだけだよ、お前の言いたいお前の言葉じゃないと、俺はお前に何かを頼んだりできない。」
それは、ある意味さっきの言葉より彼女には残酷に響いただろう。
やはり、彼女はこの世の終わりみたいな表情になってしまった。
「そんな、お願いです、私に貴方を助けさせてください。」
抑揚すらない、機械的な言葉だった。
「そんなんじゃ、他の魔族の連中にもきっとお前の言葉は届かない。
あいつらはあいつらなりに信念を持って生きている。どんなに素晴らしい言葉でも、言わされているだけのお前の言葉なんて誰にも届かない。
きっとお前じゃ、事実を理解しなくても同じ結果になったと思う。」
「・・・・・・酷いことを言うんですね。私はこれしか知らないと言うのに。」
「ああ。」
本当に、酷いことを言ったと思う。
だって、それは彼女の人生を否定する言葉だから。
魔術師が死ぬほど恐れている言葉だったのだから。
俺は、死に体の一人の魔術師に止めを刺したのかもしれない。
「良いでしょう、貴方が終焉なら、私はそれに従います。なぜならあの時、私は貴方を救えなかったのですから。」
「お前には無理だよ。俺はお前みたいな立派な人間が大嫌いなんだ。」
そして、止めを刺した理由は、ただの嫉妬だ。
本当に、みっともない。
「それでも私は、貴方を人間として愛しましょう。」
「・・・・やっぱり、お前なんか大嫌いだ。」
こいつの心は、とっくに壊れているのかもしれない。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
「彼女、打ちのめされていたよ。君も結構魔族っぽくなったねぇ。」
あれから居づらくなって俺を外で時間を潰していると、クラウンがにやにやしながら近づいてきた。
「どうせ聞いてたんだろ。あの状況でお前が盗み聞きして無い理由がない。」
「ありゃ、バレちゃったよ。君も鋭くなったね。」
カマを掛けたら図星だったよこの野郎。
俺たちは歩きながら話を始めた。
「俺は、どうすればよかったんだろうな。」
「そんなの、僕が知るわけ無いじゃないか。まあ、従順になるならそれでも構わないけど、少しぐらい反抗してくれないと面白くないなー。」
「なんだ、反抗してほしいのか?」
「冗談だよ。」
冗談だといいながら、君に何が出来ると目が語っているのは明白だった。
「しかし、ああいう綺麗なのをぶっ壊すのってとても楽しいよね、興奮しそうだ。」
「俺に同意を求めるなよ、この変態。」
「なんだよ、君だって気に入らなかったみたいじゃないか。」
せっかく番いになると思ったのに、とふざけたことを言うクラウン。
「でもまあ、あれで終わるならそれまでって事じゃないの?
人間社会については詳しくないけど、魔術師ってそんなもんだよ。
もしかしたら、これが彼女の信仰する神様が与えた試練なのかもしれない。」
「人間を百人殺させた上にお前に捕まって服従させられることか?
どんだけ厳しいんだよ、神様って。」
「それだけ期待されているのかもね。あと君からの仕打ちも入れ忘れるなよ。」
「悪かった悪かった。確かに止め刺したのは俺だよ。」
「もしかして、後悔しているのかい?」
「・・・・まさか。」
俺はクラウンから顔を逸らしてそう言った。
「君も分かりやすいよね。まあ、そんなことはどうでもいいや。
それよりオーガロードの旦那から依頼があったんだ。」
「今度はどうしたんだ。」
「盗賊の討伐さ。近隣の村々で多発してるらしい。
それで、その村々と連携して周囲を大捜索、アジトを見つけ次第殲滅する流れだ。」
「おいおい、それで村の守りが薄くなったら本末転倒だろ。」
魔族は基本力押しらしいが、敵の位置が分からないから炙り出しするしかないのは仕方が無いが、そこは少し考えれば色々と何とかできるだろうに。
「まあ、お偉いさんの見栄が半分だろうけどね。
肉を切らせて骨を絶つぐらいの気概じゃないとね、魔族はやっていけないよ。
そういう訳で、僕は少しの間留守にするから、ちゃんと留守番しててね。」
「お、俺は付いていかなくて良いのか?」
「流石に乱戦になるかもしれない状況で君を連れて行ける訳ないじゃないか。
来週明けには君も実戦投入だからね、それまでに何とか動き回れるくらいにはなっておかないと、今の調子じゃ、君すぐに死んじゃうよ。」
「・・・・分かってるよ。」
「ああ、そうだ、彼女に指導でも頼めば?
見たところあれは魔族の中でもかなり通用する実力はあるね。」
「冗談はよせよ。今更どんな面して頼めっていうんだよ。」
俺だって、流石にそこまで俺は恥知らずではない。
「じゃあ、僕がお願いしとくよ。よろしくね?」
「え?」
振り返ると、エクレシアが居た。一メートルくらい離れたところである。
全く足音がしなかった・・・。ここら辺は砂利道だと言うのに。
まるで幽霊みたいだった。危うく声を挙げるところだった。
「君が僕ら魔族にこれからどういう感情を抱こうが、僕は知っちゃこっちゃないし、これからどうするか何かはもっとどうでも良い。
だけど、重要なことが一つある。君らは僕を楽しませないといけないことさ。
僕はね、君らがうらやましいのさ。初代魔王陛下は、眷属たる僕ら魔族に独創性や芸術性をお与えにならなかった。
人間よりずっと長い時間を掛けて一つの文明として機能するようになってきたくらいなんだからね。
だから、僕は君らに興味があるんだ。楽しみなんだよ、君らがどうなるのか。そのためには、こんなところで死んでもらっちゃ困るんだ。」
まるで夢を語る子供のようにはしゃぎながら、クラウンは言った。
「もしかしたら、私たちと魔族は共存できるのかもしれませんね。」
「共存、だって?」
ふと、エクレシアが呟いた言葉に、クラウンは驚いたようにそう言った。
「あなた方二人を見ていたら、そう思えてきます。」
「おいおい、ついには目と耳まで駄目になったか?」
どこをどう見たらこいつと仲良くしているように見えるのだろうか、この女には。
「それ、面白いかもね。我々魔族は人間との交流を一切断って来た、それはなぜか、創造主がお互いに敵同士だからさ。
だけど、それって、とても下らないことだよね。この“箱庭の園”の外では人間が思い思いの文化や文明を築いていると聞く。
初代魔王陛下が何を思い我々を創造なさったかは伝えられていないが、僕はね、一つ確信を持っているんだ。
きっと、陛下も人間にあこがれていたのさ。僕ら魔族には人間を模したと思われる種族が沢山いるんだからね。
そう考えると、もしかしたら共存は可能かもしれない。」
「おいおい・・・・。」
冗談だろう、と言う前に、マシンガンみたいにクラウンは次の言葉を紡ぐ。
「決めた決めたきーめた。僕は人間との共存を目指そう。やっぱり人間の発想には驚かされるよ。こんなこと、考えたこともなかったよ。」
「おいおい、いいのかよ、それ・・・」
「別に人間と仲良くしちゃいけないなんて法律はないよ。
お互いにこれまで理由も分からず殺し合いが続いてきただけなんだから。肝心の陛下も千年も不在のまま。だったら、そろそろお互いの関係を見直す時期としては丁度いいんじゃないのかな?」
「・・・・・・・・おーい。」
俺は何と言っていいのか分からなかった。
「と、言うわけで、僕らはこれから共存を目指す同志だ。」
「おー、じゃあついに俺も奴隷扱いから開放か。」
「んなわけないじゃん、君はお金返すまで奴隷兼同志だよ。細かいことは僕が帰ってから煮詰めるとして、後は頼んだよ!!!」
「このやろ・・・」
馬鹿みたいに上機嫌な笑い声を上げながら走り去っていくクラウンに、何だか俺も怒る気も失せた。
「あいつには振り回されてばかりだ。
どうせ、俺もまた振り回されるんだろうなぁ・・・。」
何だかあいつの勢いには勝てない気がする。
俺は溜息と共に肩が下がっていくのを感じていた。
「共存・・・・既存の関係ではなく、新たな関係を築けば、或いは・・・。」
「まさか、あんたまであいつの気まぐれに感化されたんじゃないだろうな?」
そうなると最悪である。
俺が思うにエクレシアは考えたら突っ走るタイプだ。変に方向性を与えたらとんでもないことになりそうな気がする。
「分かりません、私はどうしたいのか分からないのです。
あの恐ろしい竜の化身を思い出すだけで、思いつきで出た言葉など吹き飛ばされてしまうのです。
私は私が信じてきたことをしようすればするほど、自分の心が折れていく音が聞こえるのです。・・・・これが、試練なのでしょうか。」
「非常な試練を与えるのがお前の神なのか?」
「主は神が人に耐えれない試練を与えないと仰いました。そして、その試練を超えられる者にのみ与える、と。本当に私にその器があるのでしょうか・・・。」
「そんなの、俺が知るか。」
「もしかしたら、試練を受けているのは私ではなく、貴方なのでは?」
え、と思わず俺はエクレシアの方を見てしまった。
「そう思うなら、この一連の出来事に彼が中心に居るのも納得がいきます。
もしかして、魔族が乱れると言うのは・・・まさか・・・。」
「おい、なにぶつくさ言ってるんだよ。」
俯いてぶつぶつと何かを呟くエクレシアに、俺は何か嫌な予感を覚えた。
「メイさん、やはり貴方が指し示してください。
お願いです、私はどうすればいいのでしょうか!?」
「だから、俺が知るかよッ!!」
「これは神の言葉ではなく、私の言葉です!!」
「だったらお前の好きにすればいいだろ!!」
鬼気迫る表情で追いかけてくるので、俺は何だか知らないが逃げることにした。
さっきまで死にそうだったのに物凄いバイタリティである。女って分からん。
「では!!」
ジャキ、といつの間にか目の前に瞬間移動して地面に剣を突き刺しやがったこの女!!
「貴方に付いて行く事にしましょう。
これも神の思し召しです。必ず、私はやり遂げて見せます。」
「やっぱり、俺はお前みたいな奴が嫌いだ・・・・。
何か目的が出来た途端に元気になりやがって、お前に自分なんかないくせに。」
自分の言葉が、自分に突き刺さる。
もしかしたら、これは同属嫌悪なのかもしれない。
俺にだって、何もない。
「それくらい、これから探せばいいのです。」
だけど、清々しい笑みでエクレシアは言うのだ。
この女は俺にとって眩しすぎる。
きっと彼女は、これからも犠牲を悔やみ、嘆き、しかし躊躇わず、恐れないのだろう。
やっぱり、俺には無いものを持っている。
その上、鏡に映したように、俺の醜さが浮き彫りになるようで、怖かったのだ。
人間なんて、やっぱり大嫌いだ。
この世に、俺なんて奴が居るから。
大嫌いだ。




