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魔族の掟  作者: ベイカーベイカー
幕間 弟子入り編
79/122

幕間 VSスラッグショット部隊 中編





「師匠、聞こえますか?」

『ッくく、聞こえるわよ。ふふふ。あの吹っ飛びよう、ふふ。』

俺が師匠に呼びかけると、師匠は笑いながら応答してくれた。


『どうしたのよ、まさかあの兵器が卑怯だとでも言いたいの?』

「いえ・・・でも、まさかあんな超兵器が出てくるなんて。」

『超兵器? 地上の兵器の性能を超えるものではないわよ?

連射速度にしても毎分百万発連射撃てるって言う三十六の銃身があるメタルストームには敵わないし。

弾丸は大経口の特注の特殊弾だけど、生身の人間が使えば脊椎骨が真後ろに折れるわ。

重量だってミニガンの1.5倍近いし、総合的には鉄くずね。

いやぁ、私も若かったわ、ロマンを追究しすぎてデメリットが大きすぎてしまったもの。』

「・・じゃあ、そんなのをなぜ歩兵装備にしたんですか?」

『え、大きい銃器って、それだけでロマンでしょ?』

なぜそれが分からないのか、といった風に言われてしまった。

俺は師匠が何だか分からなくなってきた。


というか、それを扱えるなんてあの機関銃女もどうかしている。



『それで、文句を言いたいんじゃないのなら、どうして呼んだのかしら?』

「いえ、あまりにも無様に負けたんで、失望したかと思って。」

『ああ、そうね。初見ならあんなものじゃない?

言ったでしょう、彼らには魔術師の狩り方を叩き込んだって。

むしろあんな有利な状況で初見の相手に負けるようなら、あっちを私が許さないわよ。』

どうやら師匠としては、予想通りの結果らしかった。


『外を見ればわかるけれど、第二拠点のオブジェクトは地下にあるの。

さっきの様にあっちもごり押しは効かないわ。その上、ダミーも合わせて廃墟は五棟も存在する。

あちらもさっきは様子見だったけど、今回は兵力をフル活用せざるを得ないでしょうね。

その中で貴方は動き回れるし、どこかに籠城もできる。』

「なるほど。ところで、様子見って言いましたけど相手は何人なんですか?」

『それを言うわけないじゃない。フェアじゃないもの。』

師匠はそう言ったが、最初に十人にも満たないと言っていたので、きっと九人か八人くらいだろう。


機関銃女にその随伴二人、そしてリナの奴。

これで四人。

後方支援らしき女性の声と、一度だけ話に出た作戦参謀とか言う奴で六人。

あと二人か三人。


そのうち二人は確実に狙撃兵だろう。

あの“ブラッティキャリバー”部隊がそうだったように、師匠が魔術師狩りのイロハを叩き込んだのなら、絶対に狙撃兵がいるはずだ。

そして、狙撃兵とは二人以上居なければ意味が無い。

もしかしたら、未だ伏せられた三人は全員が狙撃兵の可能性もある。



彼らは厳格に役割が決まっている。

面制圧を一手に引き受けるほどの火力を持つ機関銃女と、その補佐をする随伴歩兵二人。

破壊工作や爆破が担当だと言っていたリナ。

後方に居て恐らく会うことは無いだろう本営にいる情報管制と作戦参謀の二人。

そして、まだ見ぬ狙撃兵。



『ふふ、いろいろ考えているようね。』

俺が悩む姿が可笑しいのか、そんな師匠の念話が聞こえる。

そう言えば、この仮想空間じゃ思考がログで見れるとか言ってたな。

別に読まれて困ることは考えてはいないけれど。



「それじゃ、俺は行きます。」

『頑張ってね、私はずっと見ているわ。

さあ、彼らのブリーフィングももうそろそろ終わりそうよ。』

師匠にそう言って、俺は後ろにあった階段を上って行った。






・・・・

・・・・・

・・・・・・




外は師匠が言った通り、五つの全く同じ形の廃墟が賽の目の五のように並んでいる地形だ。

密林の中にある廃墟郡は正直シュールな光景だが、今回はそれだけ攻撃目標が分散されており、単純な奇襲では効果が表れないだろう。

考えられた地形だ。


廃墟同士は縦横斜め全てが五十メートル間隔で開いており、その中は草木が全く生えていないむき出しの土だけがある。

密林と廃墟までの距離も同様だ。つまり、ここは円形の開けた場所ということだ。

唯一密林の無い小道が奥地に伸びているが、馬鹿正直にこのルートを使う筈はないだろう。


恐らくだが、地下にオブジェクトがあるということは、事前に向こうの連中にも通達されているはずだ。

だってそうでなければ、連中はさっきのようにこの廃墟郡をぶっ壊せばいいのだから。


連中の実力を確認したい師匠からすれば、それはよろしくないはずだし。



『その通りよ。』

訊いてもないのに師匠は肯定してきた。

お願いですからいきなり念話してくるのは止めてください。びっくりします。


さて、俺がここで取るべき行動は、中央の廃墟で連中の襲撃に備えることだ。

戦略的に、ここに陣取れば連中がどういう手を打ってこようと、ここならば最も対応がしやすい。



そして俺は敵に備えて魔術のスタンバイをしておくことにした。

その魔術の名は、“輝ける金の矢”と“アポロンの銀の弓矢”。


ギリシアの太陽神であり、弓矢の神であるアポロンが有するという黄金の矢と、嫉妬に狂って恋人を射抜いた銀の弓矢を模した魔術だ。

諸説あるが伝承曰く、金の矢は射られた相手を苦痛なく即死させ、それを地上に向けて撃てば疫病を蔓延させるという。

そして銀の弓矢は、オリンポスの麓にある国のラリッサという国の王女を正確に射抜いたという。

『遠矢射る』と讃えられるアポロンの矢の魔術だけあって、その射程も狙撃銃も顔負けだ。


この二つの魔術は魔導書『パンドラの書』の全体を通しても主兵装になりうる対人対集団用と使い勝手がいい魔術で、非常に強力だ。

高威力高出力の閃光の矢で対象を超高熱で超遠距離の射撃する対人用の“銀の弓矢”と、着弾地点から周囲一帯に衰弱死を招く呪詛をばら撒く対集団用の“輝ける金の矢”。


今回はこれらで戦うことにする。

とは言っても、後者は俺の技量じゃ効力低いんでお披露目はまだ先になりそうだ。



術式がスタンバイ状態になると、魔剣が変形する。


この魔剣の主な役割は触媒であり、魔術の起点だ。

故に“光輝”の時のように、姿かたちが変わったりする。


今回は切っ先から柄までが綺麗に真っ二つに縦に割れて、別れた魔剣の柄と柄が結合する。

そして刀身に当たる部分がしなり、弓のように形を変える。


そして両方の切っ先に当たる部分から、魔力の弦が出現し、完璧に弓へと変貌したのだ。

俺の相棒は本当に便利な代物だ。流石は大師匠謹製である。



そいつの魔力の弦に指を置いて、中央の廃屋の屋上から周囲を窺う。

しかし、ただでさえ密林に囲まれたこのエリアで、小さな人影を見つけるのは不可能だろう。


そこで、俺は魔導書を使って属性魔術“世界の風”を発動させた。

端的に言えば、広域索敵を行う魔術だ。風属性の魔術の汎用性は異常。


風が連続で吹き、その前後の空間的な差異で動体を感知するのだ。

そうしてわかったのは、ここは密林なのに、恐ろしいほど何も居ない。そう、ネズミ一匹いないのだ。

否が応でもここが人工的に作られた仮想空間なのを思い知らされる。



「・・・見つけた。」

そして風は見つけ出した。三体の人型が密林の中をゆっくりと移動しているのを。


「あいつら、隠密行動もできるのな・・・。」

師匠よろしく派手なことしかできない連中かと思ったが、流石にそうではないらしい。



「魔導書、弾道補正と追尾を任せた。」

俺は弦に這わせた指を引き絞る。

すると、俺の引き絞る弦と弓に銀色に淡く光る魔力の矢が番えられた。

それも、三本。


―――『了承』 感知したターゲット三体を補足。射撃時の弾道を誘導し、確実に命中させます。



「さっきはよくもやってくれやがったなあの野郎ども。吹っ飛べッ!!」

そして俺は銀の矢を解き放った。


三条の銀の閃光は天に向かって伸び、山なりに急降下して密林の中に突き刺さり、爆発した。



「うっひょー、ミサイルみたいな威力だな。」

魔術ということ以外、性能はミサイルそのものである。太陽神パネェ。


「仕留めたか?」

師匠が何も言ってこないから、確認の為に魔導書に問うた。



―――『否定』 寸前で察知されて、逃避した模様です。



「・・・まあ、見た目が派手だったしな。」

あんなのが自分に向かってるとなれば、そりゃあ逃げるか。

それにしても、弾道補正と追尾から逃げれるとか、どんな足を使ってんだか。


とは言え、半ば試し撃ちだったわけだが、これなら今後も十分活用できるだろう。

師匠には中距離を維持しろと言われているし、それくらいの距離なら弾道補正も追尾も無しの俺の腕で当てれそうだから、主兵装には十分か。


そして、それから定期的に索敵をしつづけるが、十分以上も何の音沙汰もない。



「まさか地面でも掘って地下からこっちに向かってんじゃないだろうな・・・。」

俺がそんな風に訝しんでいると。




『こんにちは、お兄さん。』

と、いきなり念話で子供の声が聞こえてきた。

いや、正確には思念なんだが。言葉の綾だ。


「誰だッ」

『なに喚いているんですか? 騒いでも遠くにいるんで聞こえませんよ?』

俺が周囲を見渡すが、こっちを小馬鹿にするような態度がひしひしと伝わってくる。



『おまえは誰だ。』

俺も念話で訊き返す。


『誰って、敵に決まってるじゃないですか。この状況でそれ以外あると思います? バカですか?』

『・・・その敵さんが何の用だよ。』

挑発に乗っても仕方がないので、感情を押し殺して念話を送った。


『勝負しません? 皆さん、攻めあぐねて会議中なので、暇つぶしに貴方で遊ぼうかと。』

「なんだと?」

何を言ってやがる、このクソガキ。



『いやだって、あんな風に堂々と姿を晒されていてはねぇ?

僕、これでもスナイパーなんですよ。丁度今も貴方の顔をスコープの中心に抑えているんですけれど。』

『・・・じゃあ撃って見せろよ。』

相手の意図が見えず、思わず挑発し返してしまった。


狙撃兵、スナイパーは存在が伏せられているからこそ真価を発揮する。

いや、正確には最初の一発を撃って初めて、か。


彼らの能力次第だが、場合によっては一軍隊を一人で足止めすら可能だ。

だから敢えて、自らの存在を明かして、揺さ振りを掛けているのかもしれない。


或いは、張ったりか。



『あ、もしかして信じてません? じゃあ信じさせてあげますよ。

実は僕には特技がありまして、今からそれを貴方にお見せしましょう。』

その直後、ダーン、と銃声が聞こえた。


だが、それを聞く余裕は俺には無かった。



「んなッ」

ヒュン、ヒュン、ヒュン、と俺の周りから銃弾が飛翔する風切り音がする。


それは何発もの銃撃ではなく、たった一発の弾丸によって奏でられているのだ。

跳弾によって周囲の四方の廃屋を弾丸が駆け巡っている!!



「いでッ」

そして、最終的には俺のこめかみに、何の殺傷力も無いほどに運動エネルギーが低下した弾丸が当たった。


「この、やろ・・。」

『どうです? すごいでしょう?』

凄いなんてもんじゃない。

某名作マンガの某13の殺し屋でも、こんな射撃は不可能だろう。

というか、物理的に無理な筈だ。


どこまでが師匠の武器の性能で、どこまでが奴の技量なのかが分からない。



『僕はこれから貴方を執拗に狙い撃ちしますので、貴方は僕を見つけてください。

僕は逃げないし、この場を絶対に動きません。面白いでしょう?』

『俺がお前をぶっ飛ばせば俺の勝ちか。』

『その前に僕が貴方を撃ち殺せば僕の勝ちです。』

ふふふ、と念話の主は笑った。



『貴方は僕に勝てません。だって、僕には死神が憑いていますから。』

『奇遇だな、俺も死神に付きまとわれてんだ。』

『ではどちらが早く鎌を振り下ろされるか、試してみましょう。』

俺は挑発するように立ち上がり、堂々と姿を晒して索敵を始めた。


すぐに風切り音と銃声が聞こえた。

ヒュン、と俺の頭部目掛けて銃弾が飛来するが、風の防護に守られ、弾かれた。



『あ、そういうことします?

では少々ポリシーに反しますが、仕方ありませんね。』

どうやら先方は狙撃を防がれたことが大層気に入らない様子だった。


銃の性能も込だろうが、あの腕は間違いなく一流だ。

ワンショット・ワンキルに拘りとか、プライドがあるに違いない。



索敵結果、――――当該対象無しッ!?



「なッ、どこにッ」

『解呪弾。』

ダーン、と銃声がするのと俺の風の防護に銃弾が衝突し、弾けて霧散した。



「防護魔術がッ、しまッ――」

『ペナルティ。』

直後、俺の左肩に銃弾が命中した。

若干遅れて銃声が響く。



「くッぅ、ああああぁッ!!」

激痛に、のた打ち回った。


『ちゃんと体内に銃弾が残るように計算して撃ちましたけど、痛いですか?

僕と相棒も同じくらい悔しいですよ。長年の相棒から浮気して撃っているんですから。

でもまあ利き腕は勘弁してあげましたよ、あ、もしかして左利きでした?』

「こ、の、くそ、がきッ」

『摘出、手伝いましょうか?』

俺が痛みをカットして起き上がった直後、今撃たれた所と全く同じ位置に銃弾が飛んできた。


「あああぁぁぁッ!! ああ・・・ッ」

体内に残った銃弾に見事、飛んできた銃弾が命中してその衝撃が響いて痛みが増す。

俺は成す術なく、廃墟の床に倒れた。



『っふふ、人間ビリヤードってこんなかんじなんですかね?

もしかして魔術で索敵でもしてたんですか? 僕らは先行の方々が動く前からここに居ました。

偽装する手段なんて幾らでも持ってるんですよ。』

『おまえ・・・かくごしとけよ・・。』

『雑音だらけで聞きづらいですよ? 念話の時は集中してくださいよ。』

出来ないのを分かっていて、スナイパーはこちらを逆なでするように言う。


『流石にその位置じゃ、当てられませんね。地下に逃げもいいんですよ?』

『ふざけろ・・・。』

オブジェクトのある廃墟の地下は偽装されているが一つしかない。


そこに逃げ込むことは、敗北を意味する。

もしかしたら、奴はそれを聞き出すためにこんな嬲るような真似をしているのかもしれない。


奴らの勝利条件は俺を倒すことではなく、オブジェクトの破壊だ。

廃墟を総当たりして師匠のトラップに突っ込むことに比べれば、リスク回避の観点から妥当な判断と言えた・・・胸糞悪いが。



『あ、お兄さんごめん。』

すると、いきなり奴がそんなことを言った。


『邪魔が入っちゃった。ごめんね。遊ぶなって、お兄さん・・・ああ、僕らのリーダーの方ね。

お兄さんに遊ぶなって怒られちゃった。今からみんなでそっちに行くんだって。

でもでも、僕との勝負は続行だからね?』

悪意をあどけなさで覆いながら、奴は可笑しそうに言った。


この状況で、時間制限まで付け加えてきやがった。


俺の行動抑制と、精神的な揺さぶり。目的のためなら手段を択ばない冷酷さと、決断力。自身の危険すらカードにする度胸。

悔しいが、奴は超一流のスナイパーだ。



『勝負してやるよ、クソガキ・・』

俺は運が悪い。あろうことかもう一体、死神に目を付けられてしまった。


だったら、こっちも死神で対抗するしかない。



「魔導書・・・アレを使うぞ。最適化は済んでるか?」

魔術の応急処置が終わり、左肩の傷が表面上塞がる。

しかし、左手の反応は鈍い。現実ならリハビリが必要なレベルだ。



―――『至当』 実行しますか?



「ああ。」

俺は頷いた。

同時に、俺の頭に情報が流れ込んでくる。


それは以前大師匠が選別にくれた魔導書の新たなページ。

内容は、戦闘理論。


いや、それを理論というのはおこがましい。

それは本能、それは理性、それは感覚、それは殺戮。


戦闘を極限まで楽しむ、直感的な戦い方を習得する戦闘狂の記録。

あの死神が転生を繰り返す前の、大師匠たちを苦しめた最初の殺人鬼の衝動。


敵を倒すには敵を知るべきだと大師匠に送られた、死ぬ前から死神と恐れられた男の戦闘本能。




すぅーーーーーっと、頭が澄んだようにクリアになる。

あいつらを、あのクソガキを、殺すことしか考えられなくなる。


頭が冴えている、幾らでもその方法が思いつく。清々しいほど殺し方が溢れ出てくる。

これが、あの死神かッ、これがあの死神が見ている世界かッ!!


奴は天才だ、間違いなく、殺しの、人殺しの天才だッ。

奴の技術は何一つ記録されていないのに、俺は俺のままで俺の手段で奴らを血祭りに上げる方法を何十通り、何百通りと思いつく。

奴らを、本能のままに戦い、殺せと。


ゆらり、と俺は立ち上がった。



『お兄さん・・?』

『分かるか?』

『貴方は、だれ?』

今一つ分かったことがある、奴の眼は本物だ。


感覚がどこまでも研ぎ澄まされていく、殺したいと思うほど高揚感が無限に高まっていく。



『ああ、貴方は殺せないや。だって、死が無いもん。』

俺は口で弦を引く。

銀の矢が、番えられる。


俺の頭の中で、普段使われない箇所がフル稼働しているのが分かる。

銃声はダミーだ。あいつは銃を変えたと言っていたのに、その前後で銃声の音が変化しなかった。

今までの跳弾の弾道から、相手の位置を割り出せ。



理屈? なにそれ、できるだろう、戦って殺すためなら何だって。




『僕の負けでいいよ。でも、僕が勝負しているのはあんたじゃない。

・・・逃げないって約束は、守れないよ。』

シュン、と閃光が迸って、密林の中に消えていく。

爆音と共に、奴の退場を知った。仕留めてはいない、が少なくともあの手際だ、無傷で逃げ遂せたに違いない。


そして、振り返る。

奴が跳弾を駆使しようとも、どうしてもカバーできない箇所がある。


そこを撃てるポジションが、一つある。

その先に目を向けると、スコープの反射光が見えた。


俺が口で弦を引き絞ると、その先にいた二人目の狙撃手は観念したように逃亡した。

良い判断だ。長生きできるタイプに違いない。



俺は密林の方に目を向けた。

そうだ、今度はこちらから仕掛けよう。



俺は廃屋から飛び降りると同時に気功の魔術を展開し、着地する。

普段なら俺は補佐無しに同時に二つしか魔術を操れないが、今なら五つ以上でも可能な気がする。


なぜかって? 俺が奴らを殺したいからだ。

俺の思考回路の全てはその為に使われている。

その為なら何だって出来る気がする。



森に目を向け、走り出す。

気功により強化された視力が、何と使われないと思った小道にある先に機関銃女と随伴の二人が居るのを捉えた。


罠であることを考える前に体が動いた。


すると、ほぼ同時に向こうの機関銃女も随伴の二人を無視して飛び出すように両手の機関銃の銃撃と共に突貫を仕掛けてきた!!


俺はすぐに小道の脇にある密林に侵入した。

俺を追うように銃撃が続き、木々を薙ぎ倒す。



やがて、小道を走る機関銃女と密林を駆ける俺が交錯する。

その瞬間、俺はあらかじめ口で引き絞っていた魔力の弦を開放し、“銀の矢”を解き放つ。


しかし、圧倒的な弾幕を前に、敢え無く撃墜され爆発する。



俺は風の防護を展開し、密林の奥に後退しながら次弾を番える。

今度は“銀の矢”ではなく、光の属性魔術“レイアロー”だ。


貫通力と弾速がある光の矢だが、雷撃を軽く無力化した常人にも下級魔族程度の魔力抵抗を齎すあのライダースーツの前には露程にも役に立たないだろう。

属性魔術の悲しい宿命である。


俺は相手が見えなくなるほど暗い密林の中から、“レイアロー”を次々と番えて射出する。

機関銃の銃撃で木々は軽く薙ぎ倒されるから、密林で暗い位置を移動しながら維持しつつ撃ち続ける。


機関銃女は俺の誘いに乗って、突出している。

奴を仕留めるなら今よりほかは無い。



「男のくせに暗がりから誘ってるのかぁ!!

それともさっきからマッチでも擦って夢でも見てるのかなぁああ!!」

俺の“レイアロー”が効いていないことを馬鹿にしているのだろう。良いセンスしている。

だが、それは油断だよ。


俺はそれを確認して間もなく、“輝ける金の矢”を弓に番えた。

“レイアロー”のように光る矢は、より殺意と悪意を込めた呪詛を孕みながら、解き放たれる。




「なッ、がッ―――!?」

着弾を確認。たとえ外しても、効果範囲内に居れば無意味だが。



「ファックッ!! 呪詛かッ!!

相手を舐めやがるからこうなるんだ。・・相棒、近づくな。呪詛で周囲が汚染されてやがる。」

「馬鹿野郎がッ、今日は訓練じゃなくて本物の魔術師が相手だってのに。」

どうやら銃剣持ちとライフル持ちが到着したようだ。



「ふふ、済まない。だが、それを持ってきてくれたんだ・・・仕事はするさ。

それにこれしきで、この体に流れる“血”は、私を死なせてくれはしない。」

ここからは見えないが、常人なら何回死んでも足らない呪詛の矢を受けても、機関銃女は死ねなかったようだ。


アポロンの齎す疫病はペストだとも言われている。

死なずに受けるその苦しみはどれほどか、俺は想像でしか分からない。



だがその時、俺は聞き覚えのある異音が耳に入った。

そう、あのふざけた機関銃のモーター音だ。


俺は即座に、魔導書に“青銅の蹄”をスタンバイさせる。

それが完了するのとほぼ同時に、俺の居る一帯の木々の幹が弾け飛び、弾丸によって生じた衝撃波が残った木々の上半分を薙ぎ倒す。

相変わらず、ふざけた銃だ。


だが、もうそいつの対処法は思いついている。

今度こそお前とのダンスは終わりにしてやる。



俺は空間跳躍して逃れた付近の密林から飛び出し、風を吹かしてあの怪銃から出た硝煙の煙幕を吹き飛ばす。

すぐにこっちに気付いた機関銃女は俺にあの化け物怪銃を向けてくる。

その動作が、若干ぎこちないのは呪詛を受けているからだろう。

その体であの化け物みたいな銃を撃てるだけで、俺は惜しみない称賛を送りたいくらいだ。


だが、終わりだ。

俺は地面に手を付け、決定打となる魔術を発動させる。


ほぼ同時に、機関銃女が発砲し、――――盛大に地面に倒れた。



土の属性魔術“流砂クイックサンド”。

液状化現象を局地的に起して、地面を一時的に泥沼にする魔術だ。


本来なら水分の多い地形でないと発生しない現象を、魔術は人為的に引き起こさせる。



あんなバカみたいな反動を持つ銃を、そんなところで撃てばどろどろの足場に背中から倒れこむのは道理だ。

いかに反動に耐える強靭な肉体を持っていても、地面がそれにいつでも答えるわけではない。

銃を撃つのに姿勢が大事だと言うのが、良く理解できたことだろう。


止めを刺す必要はない。

そのまま魔術を解除し、泥沼をただの土にすればいいだけだ。


そう・・・文字通り、生き埋めだ。



「墓穴を掘るってこのことを言うんだろうな。」

銃器の重量で泥沼に沈んだ機関銃女を見て、俺はそう呟いた。

まずは、厄介なのを排除した。


半ば賭けだったが、俺は勝った。

一瞬だがあの化け物怪銃の銃撃を受けて、風の防護が消し飛んでしまった。

一秒以上あんなのを喰らっていたら、こっちが木っ端微塵になっていただろう。



「しくじったな、カーシャ。自業自得だ。」

『面目ない・・・。』

「問題ない、俺たちがカバーする。」

向こうの通信機から申し訳なさそうな機関銃女の声が漏れている。

溜息を隠そうとしない銃剣持ちに、ライフル・・・と思ったら今度はショットガンを装備しているライフル持ちが鼓舞するように続けた。


そして、沈黙が生まれた。



銃口をこちらに向けて出方を窺っている二人と、間合いを計ってじりじりと動く俺。

だがそんな硬直も数秒と持たなかった。



「ところで相棒、今年のオリンピック見るか?

今年はうちの国もなかなか気合入ってるぜ?」

銃剣持ちがそんな無駄話をし始めた。


「悪いが、俺はあんまりテレビは見ないんだ。朝のニュースと占いくらいか。」

「なぁんだ、まあ、うちの国でも最近のテレビはつまんねぇことばっかり垂れ流してるが。」

律儀に答えるライフル持ちに対して、こちらの油断を誘おうとしているのか銃剣持ちは続ける。


「そういや、オリンピックの起源って知ってるか?」

「起源? 古代オリンピックの事か? 全裸でやるっていう。」

「そうそう、不正を防ぐために選手は全員全裸だったんだ。

つっても、あとになって審判とかが買収されたりされて、不正が後を絶たなくなったって話だが。

そんな古代オリンピックだが、元々は王位選定、葬祭や平和の為に行われたんだが、当時のギリシア人たちの美徳が強靭な肉体を作ることだったんだな。

その成果を全能神ゼウスに披露すると言う意味で、オリンピックはもともと宗教的な意味合いも多かったのさ。」

「なるほどな。」

じりじり、と両者の間合いが縮まっていく。



「だからギリシア系の魔術は肉体強化系が多いんだ。なあ?」

そして、なんと銃剣持ちが俺に話を振ってきた。


こいつら、無駄話をしているんじゃない。

こっちにプレッシャーを掛けてきているんだ。


マジシャン相手に、相手がどんなマジックを使うか丁寧に説明するように。

こちらを煽っている。



「ギリシア神話と言えばロマンスだよな。

特にアポロンやアルテミスなんて色事が多い兄妹の神様はそれに関する逸話は事欠かない。

兄の方はさぞイケメンで、妹の方はさぞ美人だったんだろうな。

理想的な男として書かれることが多いアポロンだが、その性格は実に子供っぽく、残忍で嫉妬深い。」

「神様って大体そんなもんだよな。」

「俺もイケメンに生まれたかったぜ。

そんなイケメンも、愛人に事欠かなかったらしいが、ある時一人の愛人が一度親しげに会話をしていると聞いただけでそいつを撃ち殺しちまったなんて逸話もある。」

「酷い話だな。」

「ああ、酷い話だ、嫉妬に狂うってのは嫌なもんだね、お互いに。

そうそう、アポロンと言えば金の弓矢だが、この時ばかりは銀の弓矢をしようしているんだ。妹に借りたのかもな。」

「へぇ。」

「まあ、こんな感じでギリシア神話は衝動的に神様が何かしたり、狂気そのものを神々が与えることもある。

ギリシア魔術を極めると、ベルセルクみたいに取り憑かれたように殺し合いをするんだろうな。」

そこで銃剣持ちは言葉を切って、俺の方を向いた。



「見てみろよ相棒、何て様だ。

あいつの狂ったような顔を、さっき会った時とは大違いだ。」

もう、我慢できない。


俺が動きを見せるのとほぼ同時に、連中は発砲した。

俺は未知の性能の武器を有しているライフル持ちから狙った。


ライフル持ちの所持するショットガンからは放たれたのは、散弾ではなく圧縮された空気だった。

そいつが俺に直撃し、こいつらの無駄話をしている間に張り直した風の防護を展開していたが、一瞬で剥がされた。


構わず俺は身体能力を生かして銃撃を躱し、銀の矢を番える。



「嫉妬に狂ったアポロンの矢を使うお前は、いったい何に狂ってるんだろうなぁ!!」

単発から連射モードに切り替えた銃剣で銃弾をばら撒きながら、銃剣持ちは言った。


奴に標準を定め、銀の矢を解き放つ。


その時、ライフル持ちが腰のベルトに備え付けてあったホルダーから呪符を取り出し、一通り撃ち尽くした銃剣持ちの前に投げ入れた。

その呪符が燃え尽きるとその効力を発揮し、魔力の障壁となって銀の矢が直撃した。



「それに貫通力が無いのはお見通しだ。だからこんな薄壁一枚で防げる。」

爆発し、魔力障壁が破壊されるのと同時にリロードを終えた銃剣持ちが俺の方に突っ込んでくる。


俺は銃撃を平行移動して躱しながら距離を取り、銀の矢を番えようしたがライフル持ちも同時に突撃してきた。

俺は弓を捨てて、思い切って格闘戦を挑むことにした。


銃剣持ちから離れたことで、こっちに位置が近いライフル持ちがショットガンを発砲。

玩具のエアガンなんてお話にならないほどの、炸裂弾を思わせる圧縮空気の膨張が俺を襲う。


咄嗟にできる簡単な風属性の魔術では太刀打ちできないが、俺は移動中に再構築していた風の防護で相殺し、そのまま奴の懐に飛び込んだ。



「がッ!」

右手の打撃が、ライフル持ちの体を打ち抜く。

生身の人間なら内臓を破壊するはずの一撃だが、ライフル持ちは存外にタフで攻撃を受け、距離が離れたと同時にショットガンを撃ち出してきた。


俺は動きの鈍い左腕を盾に、顔を庇いながら吹っ飛ばされた。

気功で肉体を強化しているが、その上で全身ボディブローを受けたような衝撃に、俺は地面を何度も転がった。



「相棒ッ!!」

銃剣持ちが叫んだ。

流石のライフル持ちも俺の掌底は効いたらしく、失神しているようだ。

普通の人間なら殺せているが、防具が良かったのかもしれない。

あのライダースーツ、耐衝撃性能ぐらい持っていそうだし。


彼は舌打ちすると、銃剣を捨てた。



「てめぇ、よくも俺の相棒を・・・。」

「はは、どうする? お前ひとりになっちまったぞ?」

銃剣持ちが主兵装を捨てたのには気になるが、奴のサイドウエポンを見たところで拳銃とナイフが精々。

さっきのように呪符を隠し持っていても、こちらに決定打になるものは無い筈だ。

あるならもう既に使っているだろうから。



「・・・・・・・ふふ。」

銃剣持ちは、黒いヘルメット越しになぜか笑ったのが見えた。

そして耳元の通信機の電源を切った。


「正直、反則だとは思うが、マイスターはこういう事態に陥ったら俺がこうすることくらい予測しているだろうから、まあ構わないか。」

「なにをいって、」

何かをぼそぼそと呟く銃剣持ちに警戒心が沸いた瞬間。



彼は腰のホルダーにセットしてあった拳銃を抜いた。

拳銃弾くらい気功の状態なら素手でも余裕で対処できるので、慌てなかったのが失敗だった。


その拳銃と思わしき機械の射出口の先には、釣り針のようなアンカーがセットされていた。

そいつが射出されると、そこからワイヤーが伸びていく。


それはどこかの特殊部隊とかが、屋上に鉤爪を引っ搔けて窓から突入とかするのに使いそうな代物だった。

そう言う使い方をするはずだと思っていた。



拳銃弾を警戒していた俺は、若干拍子抜けしながらそれを弾いた。

弾いた、筈だった。


「なッ、あああッ!?」

その瞬間、ワイヤーが蛇のように俺の右腕に絡まり、鉤爪が俺の腕に食い込んだ。

今、明らかに普通じゃない動きをした。


銃剣持ちがワイヤーをしならせる。

それだけで、弛んだワイヤーが生き物のように動いて俺の首に巻き付いた。



「がはッ!?」

そのまま俺はワイヤーに首を絞められ、地面に引き倒された。


「うーん、ここまでは純粋に技量だし、仲間に誤魔化しは利くか。」

「て、め・・・」

「悪いなジャパニーズ。俺は部隊の誰よりも魔術畑に詳しいんだ、どうしてか分かるか?」

俺は締め付けを和らげようとワイヤーを掴むが、全く効果が無い。



『元、同業者なんだよ。魔術を捨てた身だ。』

それだけは念話で言ってきた。

しかも俺ですら機密性が高いと分かるような特別な術式で。


それだけで分かった、こいつの技量は多分、俺より上だ。

しかも同業、同じギリシア系の魔術師として。


そんな奴がなぜ、一般人に混じって銃なんかぶっ放しているのか?



『人の形をしていながら、人とは違う考えをする化け物。それが魔術師だ。

てめぇらなんか、あの荒廃した世界がお似合いだよ、この寄生虫どもが。』

念話にはありったけの憎悪が込められていた。


『俺はお前らみたいな、自分の欲望の為に周りを巻き込むクズをぶっ殺せると聞いて、マイスターの犬になった。

科学の賜物である銃で、お前たちのような魔術師を否定するためにな。』

俺の首を絞めるワイヤーに、力が篭った気がした。


何とか魔術を構築しようとするが、その度に絶妙にワイヤーの力加減を変えて俺を揺さぶり、術式の完成を妨害する。



『お前が何のためにマイスターの下に居るのかは知らない。

こうして相対しているのも彼女の意思の上で、俺がお前を憎むのも筋違いなのかもしれない。

だが、何はともあれ、仮想上の演習だとしてもそんな表情で仲間たちを倒すお前を、俺は許せない。』

「だから、仲間が来るまでこうしていようぜ。

このまま絞め殺すのは簡単だが、それは俺の個人的な感情で、フェアではないからな。

部隊として勝たなきゃ、意味が無いんだよ。俺たちは。」

たった一本のワイヤーで何丁もの銃の働きを上回る奴は、ニヒルに嗤った。



「う、く・・・」

「おっと、意外と速かったな。」

その時、失神していたライフル持ちの奴が意識を取り戻した。

防具の性能かと思ったが、やっぱり奴もタフなのだろう。


その瞬間、俺の首を締め上げていたワイヤーがくるくると外れ、右腕からも魔法のようにするするとワイヤーが解け、俺の腕に食い込んでいたワイヤーもあっけなく抜けて奴の射出機の元に戻って行った。



「立てよ魔術師、決着は付いていない。」

銃剣持ちは、投げ捨てた銃剣を拾いながらそう言った。



「はぁ・・・はぁ・・・。」

だが俺の頭には、どうやって奴を倒すかで頭がいっぱいだ。

地面を這いつくばされて、血が上っているのかもしれない。



ようやく、自覚した。

さっきから奴に言われていたのに。


今の俺は、狂っている。

まるで、死神に取り憑かれたかのように!!




「無事か、相棒?」

「あ、ああ・・・ふらふらするが。

俺が気を失っている間、足止めしてくれてたのか?」

「ああ、楽な仕事じゃなかったぜ、今度会った時に何か奢れよ。」

「分かった。」

向こうはライフル持ちが立ち上がり、態勢を立て直した。


俺も魔剣を呼び寄せて、痛む右腕に鞭を打ちながらそれを杖に立ち上がる。



もっと戦い、殺したい。

それしか考えられない。


本能が言う、戦えと。

殺し会え、と。



狂気が、理性を、支配している!!




「があああああぁぁぁ!!」

「まるで、獣だな。」

銃剣持ちが銃弾をばら撒く。


俺は頭が焼け付くのを無視して、術式“ネメアーの獅子の毛皮”を発動する。

銃弾が俺に命中するが、なんの気にもならない。



「あの魔術だッ!!」

銃撃が効かない事を見抜いてライフル持ちが叫ぶ。

こうなってはあのショットガンも強風程度の足止めにしかならない。



「さて、ギリシア神話には不死性を持つ化け物はいくらでもいるからな。

まあ人に付与するなら、ネメアー谷に住む獅子に関する伝承か。

ヘラクレスの十二の試練と言う伝承からして、その再現で肉体を強化すると言う手法は常道だ。

彼はその獅子の毛皮を身に纏ったと言うしな。」

奴は牽制に飛ばした斬撃を、へし折れるのを構わず銃剣で受け止めた。


俺が斬りかかることで、ついに奴は持っている銃剣が真っ二つに折れて、投棄した。

それと同時に背中に隠していた呪符を発動させた。


ぶわッ、と呪符が燃えると同時に白煙が周囲を包む。




「で、対処法は?」

「締め上げるのに限る。」

「なるほど。正攻法は無理か。」

声の方から、奴らの位置を割り出す。


そして、逃がす暇を与えずに斬りかかる。



「おっと、危なッ」

白煙の先にはライフル持ちの方がいた。


「悪いが、準備が整ったそうなんで、そろそろ勝たせてもらうぞ。」

俺の斬撃を咄嗟にショットガンの銃身を削りながら受け流して、奴はそう言った。



その次の瞬間だった。




「やッ、ふー!!」

俺は爆風で真上に打ち上げられた。

足元で何かが爆発したようだった。


地面に転げ落ちて、爆発物が飛んできた方向を見ると、自分の身長くらいはある重火器を両手に持ち、火を噴く鋼鉄の翼で滞空しているリナの奴だった。

彼女が、米粒のように見えるほど遠くから、大声で叫んでいた。



重機関銃のような代物に見えるそれは、断じて鉛玉をばら撒くそれではない。

それよりずっと凶悪な、自動擲弾銃。グレネードマシンガンだ。

グレネード弾を連射すると言う、マジキチな兵器だ。


それを、リナの奴はフルオートで躊躇いも無く撃ってきた。

容赦のない爆撃だった。


あの機関銃女の銃撃が可愛く見えるくらいの圧倒的な面制圧。

間近に仲間がいるとは思えない容赦の無さだった。


秒間十数発と言う、グレネード弾の雨あられ。

物理耐性の状態でなければ、もう既に丸焼けになっていたことだろう。



「あっはははは!! 燃えてるッ、爆発ッ!! さいっこー!!」

爆音と爆炎の中で、リナの笑い声が聞こえる。

リナよ、お前もか。


ようやく撃ち尽くして、俺の周囲一帯が更地と化した時。





『やぁ、お兄さん。元気ですか?』

あのクソガキの声が聞こえた。


『密林の中じゃ跳弾もできませんので、射線が通らずずっと待機だったんですが、今度はそっちから見えますよね?』

その時、ようやく気付いた。


俺は更地のど真ん中で、ただ一人だという事に。

あの二人は、爆撃の合間にいつの間にか居なくなっていた。



『空間転移とかで逃げようったってもう遅いですよ。

こっちで座標移動を妨害するジャミング装置を起動させてもらいましたから、お兄さんは撃たれるだけの的です。

ですが、お兄さんが倒れるまでに僕を倒せたら、まあお兄さんの勝ちですかね。我々は打つ手なしとして、勝利を譲りましょう。

・・・今回は僕の相棒でお相手して貰いますよ。』

その直後、十発の弾丸が俺の体に突き刺さる。


その射線の遥か先には、うつ伏せになって狙撃銃を構えている人影が有った。

予想以上に小さい人影が、例のスナイパーだった。

ちなみに相棒とはSVD、ドラグノフ狙撃銃のことのようだ。



『超強力な銃弾をお見舞いします。今僕の弾倉は空っぽ。そちらも弓は構えていない。

この状態から早打ち勝負しましょうよ。行きますよ。』

相手は待ってくれないようだった。


考えるより先に、勝負に乗った。

それ以外の選択肢なんて、有ったとしても考えられない。


あのクソガキにやられた左腕の借りを、返さなければ気が済まないのだ。

それに、たとえどんな強力な銃弾だろうと、物理耐性を得ている今、自分にそんなものは通用しない。




俺は魔剣を弓に変形する。

奴は空の弾倉を捨てる。



俺は魔力の弦を口で引いて、“銀の矢”を番える。

奴は新しい弾倉に付け替える。



俺は奴に狙いを定める。

奴は銃口をこちらに向ける。



俺の横腹に穴が開く。

奴がスコープ越しに笑う。



『知ってましたか? 狙撃兵は確実に相手を仕留めるために、二人以上配置しなければ意味が無いんですよ?

ちなみに、もう一人は対物ライフルを装備しています。

ええ、対物理障壁とか物理耐性を貫通する特殊弾は、僕ではなく彼が持っているんですよ。

物理攻撃に対して無敵になったとしても、魔術師相手じゃあんまり役に立たないらしいですから、今後の教訓になされては?』

そしてその直後、奴の手によって頭に弾丸が飛んできた。



『チームプレイって柄じゃないんですけどね。

とりあえず、勝ちは貰いましたよ。死神から逃げようとして、死神に近づいてしまった哀れなお兄さん。

勝つために死神を受け入れるような貴方と、僕らは違うんですよ。』

その念話が届くと同時に、俺の視界はブラックアウトした。






残念ながら負け越しです。前編後篇で終わりたかったのですが、第三ラウンドまで用意されて、第二ラウンドで終わるって、メリスに言わせれば空気読め、ということなので、最後まで行きます。

ぼろ負けですが、これは彼の成長の重大な布石なのです。

理由があってフルボッコになってます。当小説では、主人公は無双したりしません。チートも取り扱っていますが、無双できません。

だって敵もチートのオンパレードですから。


近いうちに後篇をあげたいですね。それでは、また次回。




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