第六十一話 それが“彼女”の愛なのか
絶え間なくモーターの駆動音が鳴り響くのが聞こえる。
着膨れしたような機械鎧は、俺にレールガン、エクレシアにガトリング砲を向けていた。
「(もしかしたら・・・・。)」
予期せぬ増援と、今のパワードアーマーの僅かな挙動で、俺は思った。
「・・・(勝てるかもしれない。)」
この鎧の化け物がどれほどの性能を誇っているかは知らないが、クロムの性格を加味すれば不可能ではない気がした。
俺がそんな考えをめぐらせていた合間にも、状況は動く。
じじじ、と俺に向けられた大型銃器に瑠璃色の光を湛える。
その音が俺を思考の海から現実に引き戻させた。
相手が相手だ、一瞬の油断も命取りになる。
それとほぼ同時に、エクレシアに向けられたガトリング砲の火が噴いた。
秒間百発と言うイカレた砲火の軌跡は、さながら赤いレーザーの如くエクレシアの肉体をバラバラにせんと暴力の顕現だった。
エクレシアは身を低くして、滑り込むようにして機械鎧の脇をすり抜け、彼女は俺の前に躍り出た。
無茶な動作に思えるが、あの機械鎧の巨体とガトリング砲の取り回しの悪さを考えれば不可能ではない。
なにせガトリング砲だけで1.8mもの長さがある。
これをこの巨体で振り回すには、今の状態から廊下の壁際に一歩引く必要がある。
瑠璃色の閃光が迸る。
レールガンから放たれた飛翔体が、エクレシアが展開した防護魔術と拮抗する。
しかし、それも一瞬だった。
「ううッ!!」
実体化した質量を持った魔力だったのだろうそれは炸裂し、衝撃は彼女の体を容易に吹き飛ばす。
これがアニメや漫画のヒーローなら、エクレシアを受け止めて華麗に反撃に移るのだろうが、俺なんかがそれを行う余裕は無かった。
それに、この程度ではやられないと言うエクレシアへの信頼もある。
これも役割分担と割り切って、俺は“彼女”の纏った機械鎧に接近する。
だが、巨体に見合わぬ動きで機械鎧は軽やかにガトリング砲を、すでにこちらに向けていた。
その照準は俺に向けられていた、勿論狙いやすいように背後に跳んでだ。
「魔導書!! 出し惜しみは無しだ!!」
回転する砲身を睨み付けながら、俺は叫んだ。
―――『了承』 術式『青銅の蹄』を発動させます。
俺のやろうとしていたことをすでに汲み取っていたのか、魔導書による代理詠唱は済んでいた。
魔術『青銅の蹄』が発動する。
ガトリング砲の赤い弾丸の嵐が放たれた直後、俺は常識を外れた動きで機械鎧に接近することに成功した。
『空間を曲げた!?』
“彼女”が驚いたような声が聞こえた。
ギリシア神話最大の英雄であるヘラクレスの十二の試練の一つに、『ケリュネイアの鹿』と呼ばれるものがある。
その鹿たちは黄金の角と、青銅の蹄を有していた。
ヘラクレスは五頭いるその鹿を捕まえることとなったのだが、その五頭目は狩猟の女神アルテミスにすら捕えられない俊足の持ち主であったと言う。
ヘラクレスは一年かけてその鹿を追い回し、ようやく捕まえたと言う話だ。
その伝承を元に作られた魔術で、発動すると敵の射撃武器に対して超高速の瞬間移動での回避を可能とする。
実際には凄まじい速さで動くのではなく、空間を歪ませて距離を弄る。縮地の一種だ。
この魔術の最大の利点は、自動防護の魔術であることだ。
たとえ超遠距離の狙撃だろうと、先んじて発動させていれば効果時間の間一度だけ自動で回避することができるのだ。
魔力消費はやや多めだが、急激で無理な肉体強化の類ではない為、体に掛かる負担が最小限というのも大きい。
魔力消耗の虚脱感の方が、物理的な苦痛よりまだマシに思えたのだ。
「喰らえッ!!」
対物攻撃用魔術『ダイヤモンドエッジ』を発動する。
一時的に刃物の極限まで切れ味を増強し、どんな物質を相手にしても歯が立たないという事が無くなる。
リアル斬鉄剣も可能になるのだ。
普段の修行の成果が出たのか、手ごたえは確かにあった。
機械鎧の装甲を切り裂いたと言う確かな一撃だった。
ここで一番の誤算は、なぜこんなに装甲が不必要に厚かったのか考えなかったことだろう。
「ターミネーター」と言う有名な映画に、敵として出てくる殺人ロボットが自由自在に姿を変えられる液体金属と言う反則的な防御性能を誇るボディーを持って登場する。
それに、似ていた。
まるで、切り口が何事も無かったかのように、斬られた直後に元通りになったのだ。
『残念でしたー、踏み込みが足らなかったわね!!
このパワードアーマーの装甲は耐久力無限の水銀なのよ。衝撃に応じて硬化し、ダメージを緩和しながら内部の私もそれが届かない位置に移動するの。』
つまり、バカみたいに単純な攻撃は通用しないという事だ。
あの装甲の中身は液体で、衝撃によって硬化するからそれに押しのけられてアイツに刃が届かなくなるのだ。
踏み込みが足らないとか冗談だろう。
それでいて耐久性が無限とか、ふざけている。
咄嗟に凄まじく重い蹴りを魔剣で防ぐも、その強烈な一撃は俺をボールのように跳ね飛ばした。
何とか廊下の壁に激突する前に魔剣を床に刺して、踏み止まった。
丁度仲良く、態勢を立て直したエクレシアと並ぶ形になった。
『左手のアレは大したことはりません、見た目が派手なだけです。引き金を引いてから射撃まで二秒の時間差がありました。避けるのは容易です。』
『なんだそのどこかで聞いたことのある妙な欠陥は。』
『はい?』
『いや、何でもない。』
もしわざとなら、むしろクロムの情熱に敬意を表してもいい。
と言うか、あの一瞬でよくそこまで見ていたな。
『ただ、ガトリング砲は拙いです。あれは明らかに防護魔術を削る目的の装備です。
それどころか騎士団の資料で見た威力とは段違いですから、正面からでは防護に専念しても五秒持ちません。』
『絶対それだけじゃないだろうけどな・・・。』
ガトリング砲はロマンである。特にあの回転する砲身とか堪らない。
百キロ近い重量のそれを個人規模で運用とか、実によく“分かって”いる。
『それより、アレに関して一つ対抗策を思いついた。』
『対抗策・・・? それは?』
妙に確信を持った俺の策を、エクレシアは了承した。
いや正直、ただの可能性ってだけで、こんな基本的なことをクロムの奴が対策を講じていないとは思えないのだが、とりあえず“お約束”としてやってみることにした。
こんな作戦とも言えない稚拙な発想を、全面的に肯定してくれるエクレシアになんだか申し訳ない気持ちになった。
『作戦会議は終わったかしら? 今日の私は紳士的ね!!』
その直後、背中から両肩に掛けて三×二連装のロケット砲が発射された。
ばしゅばしゅばしゅばしゅばしゅばしゅ!!
と、一昔前の赤と白のロケットのデザインの弾頭が、六発。
直撃狙いではない、床を狙って爆風で攻撃するつもりなのだろう。
「―――術式、『聖ヒルデガルドの幻視結界』を発動。」
正眼に剣を構えたエクレシアの体がぶれる。
ほぼ初速から加速を経ようとした六発のロケット弾頭が真っ二つに切り裂かれ、背後の壁で爆発した。
『はははは!! その程度!?』
そのまま、エクレシアの驚異の七連撃が機械鎧に叩き込まれた。
七条の神速の斬撃を受けても、異様な耐久性を誇るそれは踏みとどまった。
その隙に、俺は壁に掛けられている照明用の松明を掴むと、術式を組み上げてそいつをあの機械鎧にぶん投げた。
術式『ヘカテーの松明』。
灼熱の火柱が、機械鎧を飲み込んだ!!
それから俺は魔術の詠唱を魔導書に押し付け、術式を頭の中で組み上げながら接近を試みた。
『そんな、目くらましは、通用しないわよ!!』
すぐさま機械鎧が火柱の中から飛び出してきた。
「やっぱりな、頭でっかちめ!!」
俺は内心で確信を抱きながら、真正面から突っ込む。
『死になさい!!』
ガトリング砲が弾丸を撒き散らす。
至近距離でその暴力の豪雨を受け止めるからには、当然秘策が有った。
ガトリング砲の初弾が俺に命中する直前に、魔剣ケラウノスが雷鳴の束となって俺の体に纏わりついた。
熱い、熱い、熱い!!
俺は今、太陽光の如く光り輝いていた。
これこそ、最近覚えた防護魔術だ。
魔剣ケラウノスを触媒に、超高温の鎧を顕現して周囲の敵を焼き殺す攻防一体の魔術。
その名も『光輝』。
元々はギリシア神話のゼウスの鎧の名前で、彼は妻の計略に嵌りこの鎧を付けて一人の女性の前に現れただけでその人物を焼き殺している。
さながら炸裂装甲の如く、すさまじい熱波が機械鎧を襲う!!
『あああ!! 熱い熱い熱い!!!』
“彼女”の悲鳴が聞こえる。
ぼこぼこと瞬時に沸騰した機械鎧の液体の装甲が、真っ赤に染まっている。
『やめてよぉ!! これ内部は精密機械ばっかりなのにぃ!! プロトタイプから全く排熱の問題が解決してないじゃない!!』
『ちゃんと改善されてるわよ、ただ単にこんな熱量を受けることを前提にしてないだけ!!』
まるで一人二役みたいな声のやり取りが終わると。
がたん、と機械鎧が真後ろに倒れた。
「イカした棺桶だな、俺が死んだ時はひとつ見繕ってくれよ。」
魔術の効力が消失して、灼熱の鎧から魔剣に戻ると、俺はそう言い捨てた。
と、格好つけてはいるが、魔力の消耗で結構フラフラだ。
「よく熱に弱いと分かりましたね・・・。」
腕で目を覆い隠していたエクレシアがそう言った。
「ああ、せめて中の機械をダメにできれば御の字位に思ってたんだが・・・。」
その根拠が映画だったなんてやっぱり言えない俺だった。
例の映画に出てくる液体金属の弱点も、高熱だったのだから。
どこで何の知識が役に立つか分からないモノである。
ただ、あの時、アイツが火柱から逃れる時、前に出てきたのを見てそれが正しいとは思っていた。
せっかくのガトリング砲だ、後ろに下がって適当に乱射するだけで牽制になるんだから。
「ふふふふふふふふ・・・・。」
すると、その時、がしゃん、と音がした。
“彼女”が機械鎧の真っ赤に煮えたぎる装甲を押しのけて、立ち上がってきた。
「化け物かよ・・・。」
全身ところどころボディースーツが避けて、焼け爛れた皮膚が見えていたが、“彼女”は無事だった。
「まだ、やるのですか。」
エクレシアは油断なく剣を構えながらそう言った。
「ストックを全部やられたわ。ふふふ、こんな気分、久々よ。リネンと初めて会った時以来、こんな熱い高揚は久しく感じられなかった・・・。」
“彼女”はどこか陶酔したようなイカレた、胡乱げな視線を俺たちに送ってきた。
「ふっふふふふ、いったい何年ぶりかしら、・・優しく縊り殺してやりたいと思ったのは・・。」
それは明らかな殺意と、別の何かの感情が入り混じった、異質な“何か”だった。
“彼女”の眼の奥に、何か情熱とは違う炎が燃えているようにも見えた。
「ッ・・・。」
そんな理解不能な感情を向けられたエクレシアは、息を呑んだ。
俺も同じ心境だ。魔剣の柄を握る手が強まる。
「臓器を一つ一つ取り出してから丁寧に腐敗処理して保存して、はく製にして飾って、毎日服を着せ替えて遊んであげるわ。
こんな気持ちになったの、可愛くも憎たらしい妹分以来よ。」
それはまるで殺人鬼、シリアルキラーのような、歪んだ、邪悪に満ちた情愛。
そんな目で見られただけで、産毛がヒリヒリする。
背筋が、凍りそうになる。
体の芯に響く恐怖とは、こういう物なのかもしれない。
「・・・あなた達二人を、“私”の敵として認めるわ。」
艶めかしく、舌をなめずる“彼女”は、足元から発せられる熱気も手伝って、どこかこの世の存在には見えなかった。
天才が、必ずしも善人であるとは限らない。
天才とは奇人であり、変人であり、歪んでいる。
以前、サイリスから聞いたことがある。
高位の魔術師には性格が歪んだ性的倒錯者が多い、と。
魔術というどこか異常な力に手を染めた人間は、今までの常識や日常とのタガが外れ、元には戻れなくなる。
その深淵にどっぷり浸かるほど、体や精神がどこか狂気に染まるのだ。
それを、垣間見た気がした。
だが、一つだけ言えることがある。
“彼女”を壊したのは、間違いなく俺達だという事だ。
俺はその事実を噛み締めるかのように、切っ先を“彼女”に向けた。
アイツは、ここで必ず殺さなければならない。
それが、俺たちの・・・俺の責任だと思った。
「だから、本気で相手してあげる。・・・・負け惜しみだと思う?」
不気味に笑う“彼女”は、なぜか無骨な銃器を手にしている時よりもずっと恐ろしく感じた。
「いい加減諦めたらどうだ、今のでもう三回目だぞ・・。」
そう挑発的な言葉を並べてみたが、全身に冷や汗が滲んできた。
まるで、蛇を前にした蛙のように、俺は恐れていた。
「馬鹿ね、地上の人間の鉄砲遊びなんて、ただの児戯よ。趣味以上の意味なんて無いんだから。」
するり、とどこに仕込んでいたのか、腕の影から黒塗りの細いウォンドが飛び出した。
魔術師の杖、それがウォンド。
魔術行使の補助を行う、典型的で一般的なアイテムだ。
こいつが魔術師らしい装備を手にしているのを見たのは、もしかしたら初めてかもしれない。
長さは肘から手首程度の長さで、指揮棒を彷彿とさせる。
そいつをシャーペン回しのように手の上で器用に自在に動かして弄んでいる。
「ひとつ教えてください、どうしてこんな酷いことをしたんですか。」
ゆっくりと、確かめるようにエクレシアは言った。
聞くだけ無駄だぜ、と俺が言う前に“彼女”が口を開いた。
「三十時間。」
「え?」
「この肉体の限界稼働時間よ。」
それがどういう意味なのか、俺たちはもう理解できないなんて言えるはずもない。
「貴女たちだから特別に教えてあげる。
無理な肉体の強化、六割近い人工物の肉体との置換、その結果よ。
私は初期型でね。今じゃ、もっと技術的に負担が少なくて効率的な運用方法が確立されていて、もうすぐ廃棄処分される予定だったの。
だから、このままゴミクズになるのが嫌だった。“私”が生きた証に、この大地を赤く染めるわ。」
「そんな、身勝手な理由かよ・・・!!」
聞けば聞くほど、怒りで血が上る。
こいつらはムカつくことしか言えないのだろうか。
「あなた達に何が分かるの。“私”は実験材料だろうが、道具扱いだろうが、真理に辿り着けるのならそれでも構わないわ。
だけど、作られた挙句今日まで冷凍保存。その上近々廃棄処分!!
“私”は!! “私”たちの部隊は!! たった総合能力17%上昇の為だけに寿命を切り詰めたと言うのに!!
・・・使われもせずに捨てられるなんて、耐えられない。」
「それでこんなことを仕出かして、許されると思ってるのかよ。」
「“私”を許すのは私だけよ。誰も“私”を裁かせないし、赦させもしない。“私”のすべては“私”が決めるの。」
くるくると、“彼女”の回すウォンドが瑠璃色の風を纏い始めた。
「この、イカレ野郎・・・・今すぐ引導を渡してやるよ。」
「っふっふふふ。“私”は私の枝のように分れた可能性の一つに過ぎないわ。誰だって、“私”みたいな一面を持ってるもの。
・・・ねえ、ひと月前の貴方は今と同じセリフを殺意と共に実行できるかしらね?」
まるで、俺の覚悟をあざ笑うかのように“彼女”は、目を細める。
「私は、貴女と戦いたくありません。」
「ならばおとなしく、ズタズタになることね。」
エクレシアの言葉にも、もはや耳を貸すつもりもない。
「残り時間は少ないけど、――――存分に愛して、ゆっくりと可愛がって、あなた達の骸を抱いて最後の時を迎えるわ。」
話は、それで終わりだった。
「《ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。我は世界を構成する四大元素を統べる者。秘術を以って世界を織り成す者。》」
“彼女”の詠唱に反射的に動いたのはエクレシアだった。
彼女が時々見せる光弾を掌から放って牽制しながら、即座に走り出す。
しかしそれより早く“彼女”の魔術の方が早く完成した。
瑠璃色の風が彼女を取り巻き、燃えるように発散し、足元が震え、大気が震える。
四種類の魔力の波動が、“彼女”の一点へと集束した。
その特殊な魔力の動きを、俺は良く知っていた。
俺の知っている気功とは出力も難度も桁違いだが、それによく似ていた。
「マズッ―――」
俺がエクレシアに警戒を呼び掛けるより早く、“彼女”の姿は消えていた。
違う、尋常ではない速さで動いただけだ。
「本気モード、この世界の人間に見せるのは多分はじめてよ。」
“彼女”は握った手を開きながらスナップを利かせて振るうと、そこにはバタフライナイフが現れた。
それを振るう。
刀身に風を纏ったナイフの魔力が炸裂した。
散弾のように弾けた無数の風がエクレシアの障壁を切り刻み、刃が残りの障壁を抉りながら彼女を力づくで押し返した。
「ッ!?」
予想以上の馬鹿力だったのだろう、エクレシアは何とかたたら踏んだまま後退するくらいで済んだ。
だが、機関砲でようやく打ち破れるといったレベルのエクレシアの防護魔術を、力づくで引き裂くなんて離れ業も、尋常じゃない。
「属性付与魔術・・・。」
「そう、今じゃ神秘性を失った雑魚魔術師ども普遍的技術に成り下がった属性魔術だけれど、再編して神秘性を付与し直して極めればこんなこともできるのよ。
これぞ錬金術の真理に迫る我が秘術の奥義。
四つの元素の属性の相乗にて、超絶的なエネルギーを齎すの。体内に核融合炉を抱えている気分になるわよ。」
異様に活性化した魔力が、“彼女”の器から溢れ出すかのように湧き出ている。
目に見えない、完全なる無色の魔力が、空気を押しのけて空間を侵食していく。
まるでこの世界の支配者だとでも言うように。
「そんな大魔術、人間に耐えられるわけが・・・。」
「そうね、だけど肉体が崩壊するのと同時に再生しているの。その為の四大元素の相乗なんだから。」
人間の限界を超越した力でありながら、その人間の限界すらも取っ払う魔術であると。
「で、そんな大魔術がまさか身体能力を上げるだけだなんて、つまらない結果を目的としているとは思わないわよね?」
“彼女”はニヤリと笑った。
その直後、世界が変質したのを感じた。
直感で、俺はエクレシアの腕を引っ張って、先ほどのロケット弾頭の爆発で風穴が空いた壁から、二階の庭園へと飛び降りた。
その瞬間、俺たちのいた通路は上下左右から飛び出した針山地獄へと変貌していた。
「四大元素と同調した私は、今や世界を構成する神・・・いや造物主そのものに限りなく近づいていると言ってもいい。
大師匠から受け継がれし我が系譜の表題は、万能なる究極。すなわち、全知全能。」
そして、当たり前のように先回りされていた。
「果実が熟して木から落ちて腐って種を残すのと同じように、当たり前のように生まれて死んでいくだけの凡俗なあなた達とは、生きる『世界』が違うのよ。」
視界の限りの銀色に染まる。
「まずは小手調べ。」
戦列を並べた、数えるのも馬鹿らしいナイフの豪雨が降り注ぐ。
「防ぎます、警戒を!!」
そう言ってエクレシアが防護魔術を展開する。
しかし、展開された防護魔術が銀色に染まり、数秒もせずにエクレシアの顔色が悪くなる。
「俺が代わる、『アイギス』!!」
エクレシアの防護魔術に重ねるように、『アイギス』を展開する。
その凄まじい負荷は、それだけで喉元を絞められているような気すらする。
魔剣『キマイラヘッド』で反撃しようかと思ったが、その直後に、その馬鹿らしい数のナイフが霧散するかのように消え失せた。
消えたナイフを目くらましにしたのか、彼女が防護魔術に手を触れているほど近づいていた。
「術式、『解体錬成』。」
俺の展開した『アイギス』が、無数の罅が入った。
「絶対に破壊できない盾なら、解体してしまえばいい。
一度見せた魔術を私に使うなんて愚策よ。」
“彼女”の掌を突き出すと、無数のビー玉程度の大きさの無数の青白く光る物体が現れて地面に転がり落ちる。
「術式、『アサシンウィスプ』を起動。」
その瞬間、青白く光る無数の物体が機敏に空中へと浮かび、鋭角的な軌道を描いて縦横無尽に俺たちの周囲を飛び回る。
複雑な三次元機動を繰り返す発光体の動きは、まるで予測がつかない。
「穿って殺せ。」
初手から死角を狙って、青白い光が飛来する。
それを近かったエクレシアが素早く反応して叩き落とす。
すると簡単に青白い光弾は爆発したが、その形状が異様だった。
まるで短剣の刃のように、一方向の極めて狭い範囲にのみ爆発が広がったのだ。
最低限、急所に当たれば人を殺せる威力だった。
そいつが、無数に空中に浮かんでいるのだ。
上下左右から、俺たちの隙を見つけては次々と飛来する。
魔術を使わせる暇も与えないように。
『この程度なら、私が防ぎます。貴方は彼女を!!』
エクレシアが即座に魔剣を呼び出して、防護魔術を展開しながら、そう念話を送ってきた。
だが、あの“彼女”が、それくらい考えていないはずも無かった。
「馬鹿の一つ覚え。」
当然のように、嘲笑を買った。
“彼女”はシュッと何かを投げつけてきた。
何の変哲もない小石に見えるそれは、エクレシアの防護魔術に当たった。
「うあぁッ!?」
その直後、エクレシアが悲鳴を挙げて、火花を散らしてガラスが砕けるように防護魔術が消滅した。
そのまま“彼女”の投げた小石は床に落ちると、めり込むように床に穴を穿つと、すぐに消滅した。
「それは質量無限の石よ。
今の私は造物主に等しいって言ったじゃない。だからそんな物も作れるの。
全能者の逆説って知ってる? つまり、誰にも持てない石ころを全能者は作れるかってこと。
それ自体が矛盾を孕んだ、神の全能性を否定するただの机上の空論。
だけど今の時代、神を殺すのはただの虚構ってことなのかしらね。」
そして、無数の発光体が襲来する。
「くそッ!!」
魔術の反動のダメージで動けないエクレシアに代わって、俺が一人で青白い発光体を打ち落とす。
「あッ!!」
雷撃を駆使して薙ぎ払うも、全方位に拡散している発光体はあっさりと俺の隙を突いてきた。
懐に潜り込んできて、腹部で爆発した。
熱した短剣で刺されたような痛みが、俺の腹部に走った。
幸い、気功でどうにか火には耐性があるが、今エクレシアは無防備だった。
「ぁッ!?」
俺は彼女を咄嗟に押し倒して、迫りくる発光体の襲来から庇った。
その時見えたエクレシアの表情は、とても悲しそうで胸が痛んだ。
「あああああああああああああああッ!!!!」
背中から無数の爆音と高熱が、文字通り突き刺さった。
「二人だけでロマンスなんてズルいじゃない、妬けちゃうわ。」
そんな“彼女”の声が聞こえるが、俺は痛みで意識が半分どこかへ行っていたのか、何を言っているのか理解できなかった。
「そろそろ時間切れみたいだし、もう、殺すわ。」
それでも、俺は立ち上がった。
多分、命に関わるくらいの大火傷を負っているはずだが、もう痛みの感覚もどこか行っていた。
俺はもう、本能だけで“彼女”に剣を向けていた。
意識だけあれば、魔術は使えるのだから。
「私が守らなきゃ。私が守らなきゃ。私が守らなきゃ。―――あッ」
自身の存在を揺るがすような魔術攻撃の反動からまだ回復していないエクレシアも剣を杖に立ち上がろうとするが、手が震えて切っ先が地面を滑って倒れこんでしまった。
「残念、英雄に成り損ねたわね。でも心配しないで良いわ、最後まで一緒に居てあげるから。
――――術式、『ジャッジメントランス』を発動。私を何度も殺した方法で、貴方を殺すわ。」
“彼女”の手から雷光が迸り、束ねられるようにして集束する。
まるで槍を投擲するように放たれたそれは、純白の光線となって俺を貫いた。
俺は、一瞬で感電死した。
雷撃によるダメージより感電死を狙った魔術なのだろう。
派手なのは雷光だけで、俺の体の機能を停止させて電流はすべて通り抜けて行った。
俺は魔剣を落として、前のめりになって地面に倒れ伏した。
「いやああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
エクレシアの悲痛な叫び声が聞こえた。
彼女は目の前に敵がいると言うのに、倒れた俺に縋り付くように手を伸ばしてきた。
その手だけではない、まだダメージが残る全身が震えている。
「そん、な・・・私は、私は、守らなきゃいけないのに・・・また、また死なせるなんて。」
彼女は涙を流していた。
死して何も感じない俺は、ただ物として沈黙するだけだった。
「貴方が、貴方だけが、私の心の支えだったのに、希望だったのに・・・。」
エクレシアが動かなくなった俺の手を握りしめ、掻き抱いた。
「じゃあ、もう未練はないわよね、神は無情ね、決して越えられない試練を貴女に給わすんだから。」
歪な笑みを浮かべたまま、“彼女”は嘲るような言葉を投げかけた。
その表情は当然、勝利を確信していた。
「え・・・ッ!?」
だが、俺の手を抱きしめていたエクレシアは目を見開いた。
「脈がある・・・?」
それどころか、焼け爛れた背中の傷も、徐々に薄くなるように消えていく。
そして、俺もようやく雷撃のダメージから回復して、体が動くようになった。
気功が体中を巡り、すぐに感覚が戻ってくる。
エクレシアが胸に俺の腕を押し付けているせいか、滅多に味わえない感覚に俺の気力は最大にまで高まっていた。
出来ればそのままずっと押し付けていてくれると嬉しいが、生憎とそんな状況ではなかった。
「痛ぇなー・・・チクショウ・・・・。」
俺は、魔剣を掴み直して立ち上がった。
「うそ、今のは大師匠が開発した雷撃の魔術よ!! その直撃を受けて、生きてるなんて・・・。」
“彼女”もその事実には、驚愕したようだった。
俺だって驚きだよ。
「ハレルヤ!! 俺も死ぬかと思ったよ、自分でもなんで生きているのか不思議だッ!!」
それどころか、全身の火傷や痛みが消え失せていく。
理由は不明だが、これが神の奇跡だと言うのなら俺は天に感謝しよう。
俺はビラビラと風に揺れる上着の残骸が気持ち悪いので破り捨てると、ミネルヴァに貰った緑のマフラーが風にたなびく。
その端が、枯葉のように焦げ茶色になっていた。
「それは!? まさか、アーサー王伝説の・・・!!」
俺の数十倍は頭のいい“彼女”は、この奇跡としか言いようのない現象に心当たりがあるようだった。
「・・・・まさか、ガウェイン卿と緑の騎士の!?」
それを聞いて、エクレシアも思い当たったようだった。
「なんだそれ!?」
「当然イギリスのアーサー王伝説は知っていますよね? 彼の片腕として活躍する騎士ガウェイン卿の逸話の一つに、全身緑づくめの格好をした騎士が現れます。
その緑の騎士はガウェイン卿を挑発して首を斬られても、それを何事も無かったかのように元の位置に戻すという不死性を示すのです。
紆余曲折を経て二人は和解すると、その不死性の正体は魔女モルガンにより変えられたものだと判明するのです。
その逸話の最後は、両者が帯を交換して、ガウェイン卿が帰還して終わります。」
そう言って、エクレシアは間を置くように息を呑んだ。
このマフラーが、今回の奇跡の要因だと言う。
「その魔女モルガンは、妖精として知られています。
妖精話と不死身話は良く絡まれる話ですが、まさか目の前にすることになるとは・・・。」
「なるほど、ミネルヴァの奴には感謝しないとな。」
ただの失敗作だと思いきや、一発逆転起死回生のアイテムだとは恐れ入った。
「ヒーローは一回くらい負けておくもんだぜ、そうじゃないと詰まらないだろ?」
俺は格好つけて魔剣の切っ先を“彼女”に向けてそう言った。
我ながら言っていて恥ずかしくなったが、もう言ったもの勝ちだ。
「んっふふっふ・・・そうね。」
そうして唇を釣り上げて笑った“彼女”の頬が、ボロッと削げ落ちた。
「おい、お前・・・。」
「ええ、これだけの大魔術よ。この不完全な肉体じゃ、当然寿命を削るに決まってるじゃない。
あと何分持つかしらね。だけど、あなた達二人を殺すには十分よ。」
今更、“彼女”に同情するつもりは無かった。
それがどんな身勝手であっても、それが彼女の生き方で、決して変えられないのだと。
「結局、あんたの謳う可能性とやらは、全部が全部魔術の底なし沼に捕われたモンなんじゃねーか。」
正直、今回ばかりはマジで一回殺された訳だし、あんな凄まじい魔術を何度も見せられたら、素直に感嘆するしかない。
確かに済んでいる世界が違うほど、その実力は隔絶していた。
体術や銃器の扱いスゴイのに、魔術だけで戦った方がずっと強いなんて反則じみた才能だろう。
反論の余地も無い、天才の中の天才だ。
俺なんて及びもつかない。
魔王状態のフウセン以外で、これからもこれまでも、彼女以上の強い魔術師は、これから何人会えるか分からない。
エクレシアと一緒になってようやく“敵”として数えられるくらいの存在だ。
だけど、
「お前たち自身が一番、自分の才能や可能性を狭めてんじゃねーのか?」
自分たちの不遇な扱いを嘆くのもいい、それでこの際今回の事は脇に置いて、自棄になって何をしようと勝手だろう。
だが、それで悲劇のヒロインを気取るのが気に入らない。
この際、色々なことを脇に置いて、俺は感情で物を言う。
俺よりずっと、何でもできるほどの力を持っているのに、それで自分の酔っているのが気に入らない。
そして、なにより、
――――エクレシアを泣かせたことだけは、絶対に許さない!!
「うおあああああぁぁ!!」
俺が戦う理由は、それだけで十分だと思う。
「そんなこと、自分が一番わかっているわよ。」
“彼女”は、この世の悲しみを集めたような表情で、笑った。
顔の筋肉がボロボロと砂状になって砕け落ちる。
「もう、容赦はしないわ。
・・・術式、『インビジブルゴッドハンド』を起動。」
その直後、まさしく神業としか言えない手首の動きで、俺の首にバタフライナイフが突き刺さった。
「げはッ」
俺は血を吐きながら膝をつく。
回避不能の即死技とか、いよいよ容赦が無くなってきた。
俺は喉のバタフライナイフを抜き捨てて、果敢に“彼女”の下に走る。
『魔導書、あの魔術で行くぞ!!』
俺は魔導書の返答を聞かずに魔剣を“彼女”に叩き込む。
しかし、彼女は一歩も動かずに回避した。
「今の私は『世界』そのもの、時間操作の真似事なんて、容易いのよ。」
俺は眼前に現れた無数のバタフライナイフに串刺しに成りながらも、無理やり笑みを作った。
「時間操作にナイフの組み合わせとか、よくわかってるじゃーか。」
「でしょう?」
いちいちバタフライナイフを抜くのが億劫になったから、俺は魔剣『キマイラヘッド』を呼び出して、その力を発動させる。
「ううぅッ!!」
ナイフが刀身の無い魔剣に集い、全身の傷跡から血が溢れ出す。
その激痛に、俺はまた意識が朦朧としかけた。
「ばーか。」
だが、直後に魔剣に集ったバタフライナイフの刀身に文様が走り、爆発して俺の体を吹き飛ばす。
「がはッ、がはッ・・・。」
血を流し過ぎたのか、体の怪我や傷は君が悪いほどすぐに治るのに、再び立っている感覚が消え始めた。
「もうやめてくださいッ!! 私が、私が戦いますから!!」
そう叫んで無理やり立ち上がったエクレシアは、子供に小枝を持たせた方が頼もしそうに思えるほどふらついていた。
よほど、清々しいほどのやられぶりを見せる俺が痛ましかったらしい。
「うるさいッ、これは俺の意地だ!!」
エクレシアからすれば、いままで一緒に戦ってたのに何を言ってるのか分からないだろう。
勿論、彼女は驚愕の表情のまま固まり、足元から崩れ落ちてしまった。
もしかしたら、酷くショックを受けたのかもしれない。
だけど、これは俺の戦いだ。
「良かった、“私”の目に狂いは無かった。貴方が私の最後の相手で、本当に良かった。」
“彼女”の手から電光の雷撃槍が、迸る。
二度目はさすがに喰らってやるわけにはいかなかった。
魔剣ケラウノスを避雷針にして雷撃を受けて、掻きまわすようにして雷撃を跳ね返した。
「どこを狙ってるの!!」
跳ね返した雷撃は狙いを逸れて、“彼女”の前方の床に直撃して、その破片が飛び散った。
目くらましにもならなかったが、俺はホルダーから木製の小さな水筒を取り出して、中身をぶちまけた。
少量の水は魔力によって文字通り水増しされ、質量を増して壁のように広がる。
「これはッ」
まるで鏡のように“彼女”の姿を映すそれは、有名なある単語の逸話がモチーフの魔術になっている。
その名も、『ナルキッソスの水面鏡』。
ナルシストの語源となったギリシャ神話の逸話が元になっている。
傲慢で冷酷なナルキッソスに与えた神の罰が、自身の姿に恋をさせると言うものだと言うのは良く知られた話である。
彼は自身の姿に見とれ、自身の映る水面から目が離せなくなり、やせ細り朽ち果てるまでそのままだったと言う。
この魔術も同様の効果を齎す。
この水面鏡に映った自身の姿を見た者は、強力な金縛りと衰弱の効果を発揮する。
「あんたにこれほどふさわしい魔術はないよな。」
先ほどからの状態からの度重なる魔術の行使で、老人のように肉が削げ落ちていた“彼女”の劣化も、それにより加速度的に速まった。
彼女なら、抵抗することもできたのだろう。
だが、それを許さないほど彼女の腐敗は深刻だった。
「ふ、ふふふ・・・。」
“彼女”は床に倒れ伏すと、掠れた声で笑い声を漏らした。
“彼女”を満たしていた凄まじい力が、終息していく。
もう、“彼女”に戦う力は残っていないだろう。
「一度でいいからぶん殴ってやりたいと思ってたけど、そいつは勘弁してやるよ。」
そもそも、チキンな俺に女性を殴る度胸なんてありやしない。
今までのも、ただの強がりだ。
「ひとつだけ、言わせてもらっていいかしら・・・。」
「その見苦しい醜態を晒してまで言いたいことならな。」
そう言う俺が目を逸らしたくなるほど、“彼女”の姿は言葉にするのも惨たらしいものだった。
「先日、“私”の一人に、地上の人間に愛して離反した個体が居たの。
私の生きがいの魔術や研究を投げ捨てて、世界中の魔術師全員に喧嘩を売るような真似までして。
お蔭で師匠は激怒して、それの隠ぺいで大都市が一つ消し飛びかけたわ。」
「・・・・・・・。」
「ねぇ、それでも“私”に、無限の可能性は無いと言うの? “私”は自分に捕われていると言うの?
うっふっふ・・・あなたは分かっていないわ。私は魔術師だけど、女なのよ。」
だから、
―――だから、早く殺して。
“彼女”はそう言った。
「・・・・・・。」
俺は、努めて何の感慨も抱かぬように、魔剣の刃を振り上げた。
「わたしも、そんな風に、誰かを愛したかったわ。」
俺は、魔剣の刃を振り下ろした。
まるで砂山を崩すような、殆ど感触は無かった。
後に残ったのは、砂のような何かと機械のケーブルや残骸だけだった。
「大丈夫か、エクレシア?」
「・・・ええ、すみません、予想以上にダメージが大きいです。今日はもう戦えません。」
それくらい、自身の魔術の弱点を突かれた魔術の攻撃はキツイらしかった。
俺はエクレシアに手を貸して、彼女をどうにか立ち上がらせる。
だが、彼女はどこか声まで震えていた。
俺たちはとりあえず城の中に戻ろうとした。
しかし、俺たちを出迎えたのは、三対の銃口だった。
「少し目を離したらこんなところに居たわ。」
「あのオモチャで私も遊びたかったのに、壊しちゃったみたい。これはお仕置きが必要ね。」
「と言うか良く生きてたわね、でも悪運はここまでかしら。」
まだ三人のブラッティキャリバー部隊が城内に残っていたのだ。
「くッ」
万事休すだった。
相手は万全の装備を整えた部隊の三人。
どうすべきかめまぐるしく思案していると、
「おにいちゃーん、おねえちゃーん!!」
そんなミネルヴァの声が、三人の背後から聞こえたのだ。
魔剣百科事典コーナー
魔剣:「ミリオン・バタフライ・インフィニティ」
所有者:メリス
ランク:D+
能力・特徴。
増殖剣。銀製のバタフライナイフの形状を持った魔剣。
一本のバタフライナイフと同等の攻撃力しかもたないが、その最大の特徴は一本でありながら同時に“百万本”を内包しているという事である。
一本でありながら百万本であり、使用したりして減るとその分が補充される。まさに無限に使えるバタフライナイフである。
ただし、本体以外は矛盾した存在であり、同時に二本以上存在すると本体以外はある程度時間が経つと消滅する。
百万本の全ては同一の存在なので、本体を弄ればそのすべてに変化が適用される。
メリスはこの魔剣の基礎理論を応用し、様々な独自の魔術へと発展させた。
勘違いされがちだが、これはメリスの魂を内包した魔剣ではなく、ただの通常兵装に過ぎない。
その為、いくら消費しても彼女は“百万本”の状態で即座に複製したりすることもできる。
とは言え、これは彼女の存在を如実に表している魔剣とも言える。
※お久しぶりです。遅くなってすみません。
どうしてひと月も遅れたのかは活動報告を参照してください。
まあ、いつものアレですけれど。
そういえば、こっちに投稿し始めてそろそろ一年になりますね。
更新が遅れたお詫びもかねて、誰々のこんなエピソードがみたいよー、なんて要望があったら、ピンときた題目なら番外編として一話くらい限定で記念に書いてみたいなと思っています。
とりあえず何か考えているので、何か書くまで要望があったら、いつでもどうぞ。
まあ、マイナーな小説なのでわざわざそんな要望を書いてくれる人なんていないでしょうけれどww
期待しないで待ってますよー。