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魔族の掟  作者: ベイカーベイカー
第四章 断片編
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第五十三話 魔王の語り手




予定されていたフウセンの歓迎会は、村の人口の三倍以上にまで人数が膨れ上がった。


中央の町や周辺の部族から多くの魔族たちがやってきたからだ。

旦那の話によれば、この第二層に存在する二十六種の部族のうち、すでに五つの部族からはフウセンに服従する旨が届いたらしい。


残りは様子見だろう。

フウセンが魔王にふさわしいかどうか、見極めるために部族を治める族長が十何人もやってきているという。



初日に、フウセンは顔見せを行った。

彼女は正装を持っていなかった為、かつて通っていた学校の制服を纏って、三千を超える魔族の群集の前に立った。



場所は最近開拓した村の郊外にある平野で行われた。

三千以上の魔族が一堂に会することができる場所はそこだけだったのだ。


開拓される前には人間の伸長ほどにまで伸びた草木で荒れ、そこに潜んだ魔物の存在で長年に渡って旦那の頭を悩ませていた場所らしかった。

しかし現在はその見る影もなく、ここを新たな住宅地にするという計画ができている。



高さ二メートルほどの台に立ち、静まり返った魔族たちを前に、フウセンは言った。


「みんな、なんでこんな人間の小娘がこんなところにいるんやって顔やな。

いやまあ、もうみんな聞いとるやろうけれど。」

フウセンは集まった多種多様な魔族たちをゆっくりと観察するように見渡した。

同時に、彼らの視線も彼女の集中していた。



「そうや、ウチが何の因果か、魔王の断片を持って生まれた人間や。

ウチの国じゃあ、こういう挨拶をするとき何か公約やら耳触りのいい綺麗ごとをならべるんやけど、まあ、選挙・・・・ああ、多数決で決まるほど次の魔王の椅子の座は軽くないらしいわな。」

彼女はそんな冗談を交えつつ、話を進めていった。



「ウチが魔王の候補として題目になってくれと頼まれた時ぃ、見ず知らずのはずの連中がウチのために死ぬとまで言いおった。

それがウチみたいな人間なんかに頭を下げるくらいプライドがないのか、はたまたあんなひどい魔王にこっぴどく言われてまで尽くす忠誠なのかまでは知らんが。

だけどな、これは違うやろ。王様なんだから、ウチも忠誠を誓ってくれる連中に何かを返さなあかん。

ウチとしては絶対王政なんて遥か昔の出来事やからピンとはこないんやけれど。

なんつったっけな、御恩と奉公やったっけ? うーん、こんなことなら日本史ちゃんと習っとけばよかったわ。

まあ、何が言いたいかというと、こっちも領地やら恩賞やらを働きに応じて上げなきゃあかんわけなんやけれど、ウチは何かあげられるものは一つもあらへん。」

少なくとも今のところはな、とフウセンは皆の反応を窺うようにそう付け足した。


だが、魔族たちはまるで息を漏らすことすら躊躇っているかのようなほど、静かだった。

だからこそ、そこまで大きくないフウセンの声が、最後尾まで届いていた。


三千人の人の壁は厚いが、魔族の皆は人間より耳が良いのもあったが。



「ウチが今、みんなにくれてやれるのは、“自由”だけや。

今までと変わらない、・・・それしかやれへん。みんな現状に不満を持ってる奴らばかりなんは知っとる。

多分、ウチの話を聞いてがっかりしとる者の方が多いと思う。

侵略とか別に考えてないし、こんな狭い場所に押し込まれているみんなを、開放してやろうとも思っていない。

まだ、何にも考えてるわけやあらへん。けど、これから決める。」

そこまで言って、緊張を和らげるために、大きく深呼吸した。


ちなみに、なんとなく気付いていたけれど、ここでの話はやっぱり全部アドリブらしい。

いま彼女は、必死に次の言葉をひねり出すために頭をフル回転していることだろう。



「そんで、“何か”をするために、ウチはもっと強くなることにしたわ。いろんなことを経験して、いろんなことを学んで、やりたいことをするわ。

その過程で、少なくとも皆を虐げたりすることはせんとは誓う。

なるべく理不尽なことはせんようにする。

みんなが食うものが足らないんやって言うなら、贅沢しないでウチの分をみんなにやるように努力する。」

もう一度、深呼吸。



「多分、みんなの持ってるすんごい魔王のイメージとはちゃうと思う。

けれど、ウチは腰抜けやあらへんで。ウチの邪魔する言うなら、武器を持って向かってくる奴は皆殺しや。

たとえここにいるみんながウチを認めんって言って殺しにくるなら、ええよ、掛かってきぃや。

・・・・ああ、これはズルい言い方やったな。」

そしてフウセンは、振り返った。


すると、地響きと共に、土が盛り上がり、巨大な城塞が出現した。

巨大な建築物が一瞬にして出来上がる光景は、大きな建物を見慣れない魔族には衝撃的な光景だろう。



発案は、意外にもエクレシアだった。

権力者が民衆に大きな印象を与えるこういったパフォーマンスは重要なのだという。


流石は宗教家である。

これによって、民衆にフウセンの実力を示すのが人心掌握には効果的らしかった。



実行はミネルヴァと、クロムだ。

ミネルヴァが妖精の皆に頼んで地面の土を城の形に盛り上がらせて、クロムがそれをレンガに錬成させる手はずになっている。

見てくれだけで十分なので、当然中身は空っぽの張りぼてである。


それぞれ、それぞれの条件をフウセンに呑ませて、このパフォーマンスを実行に移した。



「ウチが魔王になるのが嫌なら、ここでいつでも待っとるわ。逃げも隠れもせぇへん。

これがウチや。こんなウチでもええなら、仕方ないからウチがあんたらを支配してやるわ。」

最後に盛大に上から目線でそう言った。


再び、静寂が満ちる。

そんな中で、魔族の方で変化が起きた。



一人、一人、また一人と、魔族が跪いていく。

魔族たちが頭を下げ、恭しく傅く。


三十秒も掛からず、その場にいたすべての魔族がフウセンに傅いた。

仮に叛意が有る者がいてもこの場ではそれを示さないだろうが、その想定を差し引いてもすさまじい光景だった。



魔族の皆が、人間を魔王の候補として認めたのだ。




「みんなの気持ちは分かったわ。

後は任せろとは言えへんが、何とかやってみるわ。」

そんな感じで、フウセンの演説は終わった。






・・・・

・・・・・

・・・・・・




その後、予定通り村へ戻ってのどんちゃん騒ぎへとなった。

いつもは行動時間が違う種族への配慮のために、大騒ぎしてはいけない不文律があるのだが、そんなの関係ないといった感じのお祭り状態だ。



「で、俺たちはなんでこんなことしてるんだろうなぁ・・。」

リザードマンの隊長がそうぼやいた。


「さぁ。」

俺は面倒なので仕事と割り切って、何も考えないことにしていた。




「あー、疲れたわー。

ああ、そこ、早く作業をしてちょうだい。」

後ろからクロムのヤジが飛んでくる。


城の外装をまるまる錬成するという大仕事の後で、彼女はかなり疲弊しているらしかった。

確かに前日からの準備を必要とするくらいには大魔術だったのは分かるのだが、正直うるさい。



現在、俺たちは城塞の突貫工事を行っている。

所詮は張りぼてで、中の支柱とか部屋の壁とかは土のままなのだ。


それだけではなく、綿密な計画に則ったものではないし、妖精の仕事なので確認のために探したら結構適当なところが見つかったのである。

ここまでして、たったその日のうちに崩壊なんて間抜けなことはできない。


そして資材搬入と銘打って、旦那が自ら陣頭指揮を執って内部の改装を行っているのだ。



そんで、俺たち他いくつかの偵察部隊の面々は、クロムの指示に従い外壁に透明な液体をハケで塗る作業をしている。


見た目はレンガの城塞だが、本当にただのレンガで仮に魔族の侵攻にあった場合、攻撃に耐えられるわけがない。

それを補強すべく、この特殊な溶液を塗っているのだ。


具体的な成分や理屈は知らないが、これでただのレンガがかなりの硬度を誇るようになる。

クロムの話では、現代の科学でも再現可能というのが恐ろしい。



場所的にも最前線になるであろう場所だ、後でさらに城壁を追加する予定となっている。

とは言え、フウセンの居城となるわけだから、ただの要塞にするわけにはいかない。


隊長はフウセンのために働くのはやぶさかではないようだが、こういう日は酒を飲んだりして楽しみたいようだった。

それに加え、クロムの指示で動くのは御免のようだ。



貯蓄や兵器も充実させねばならないし、これからが大変である。

その仕事の多さを想像して、俺はため息を吐いた。



しかし、そう言った事柄が頭に入らなかった。

俺は先ほどのフウセンの演説について頭を巡らせていたのだ。






・・・・

・・・・・

・・・・・・





「相談のついでとは言え、僕に報告をするのはいい心がけだね。」

フウセンの居城ができるまでの彼女の仮住まいに、俺は大師匠の魔具を持ってきていた。



一応フウセンのことについて話しておいた方が良いと思ったからだ。

それに色々と相談したいこともあるし。


概ねクロム以外は賛成を得られたが、彼女もしぶしぶだが同意した。

やっぱり彼女も大師匠が怖いようだった。


そんなこんなで、ミネルヴァ以外の人間がここに集結していた。

それが二日前の話だ。




「一先ずは、先日の件についてはお礼を申し上げます。」

「あ、そ。別にどうでもいいよ。」

大師匠はそう言ったエクレシアに、一瞥もしなかった。

終わったことなど、どうでもいいと言わんばかりに。


「それにしても、“二番目”の奴もなかなか面白いことを考えたね。でもちょっとしてやられた感があって悔しいなぁ。」

そして、そんな風に笑いながら大師匠は言った。



「あんたが・・・『黒の君』なんですか?」

フウセンは物怖じせずに、彼にそう言った。



「まあね、みんなはそう呼んでるけど。」

「いろいろありましたが、『盟主』にはお世話になりました。」

「ふーん、だから?」

こうして呼び出したのだから、大体の事情をもう知っているだろう大師匠はフウセンにすらあまり興味を寄せなかった。



「あの、大師匠。

一つの可能性として、フウセンの奴を人間に戻せるってことはできますかね。」

俺は大師匠に尋ねた。


まだ、フウセンの今後がどうなるかわからない。

だから、一つの方策としてそれについて尋ねておきたかった。



「それは可笑しな言い方だね。」

「・・・え?」

「人間として生まれなかった奴が、どうやって人間に戻れるっていうんだよ。」

そして帰ってきたのは、クラウンと同じ無情なものだった。



「現実的な話をすると、可能だとは思うよ。

だけど、二つの別個の魂じゃなくて、完全に一体化してしまっているなら、その分離作業は熾烈を極めるだろうねぇ。」

「どういうことでしょうか・・・?」

大師匠の言い方に不安を感じたのか、フウリンが恐る恐るといった具合に問うた。



「元の人格の保証できないってことだよ。

魂を引き裂かれる痛みって知ってるかい? 人間の言葉では言い表せないほどの痛みらしいよ。

混合液の蒸留を思い浮かべてみなよ。熱したりして気体にして、冷やして元に戻すってな具合を人間の魂で行うんだよ?

だから元の人格は保証できないって言ったんだ。」

大師匠の言葉を受けて、沈黙が下りた。


特にエクレシアが想像をしたのか、表情が真っ青になったのが見えた。

それはまさしく、体をバラバラにされる程度では済まないはずだ。



「仮にそれに成功して人格が保持できていても、君の体は一度今の魂に適格化しているはずだ。

今更人間に戻ったところで、規格が合わないから拒絶反応で死ぬだけだよ。」

大師匠の突きつける現実は、どこまでもフウセンにとって無情だった。



「やっぱり・・・。」

あの場限りの方便だったとはいえ、クロムも大師匠に指摘されて確信したようだった。



「今となってはもうええけど、ずいぶんと無責任な話やなぁ。」

「悪かったわよ、ちゃんと埋め合わせはするわ。」

「もうええよ、逆にすっきりしたし。」

そんなフウセンとのやり取りを横で見つつ、俺は再び大師匠に問う。



「あの、大師匠。俺は又聞きとか、クロムの奴の知識とか書物の内容でしか魔王の脅威を知りません。

あの『盟主』が刺客を放ってまで危惧する力って、具体的にどういうものなんですか?」

あれからクロムに聞いても、エクレシアに聞いても、ラミアの婆さまに尋ねても、クラウンの蔵書を調べても、魔王に対する具体的な力は記されていない。

漠然とした、損害や結果だけが記録に残っているのだ。



「実際に魔王と戦ったことのある貴方から、教えていただきたいんです。」

「ああ、そういうのは僕が制限させてるんだ。リュミスに命じて、ごく一部の資料にしか残させてないのさ。

魔王の特徴に関しては、全て僕も知る限りを記述してリュミスがまとめた大図書館に寄贈したからね。

いいよ、そういうことを君らみたいなのに伝えるのが、僕みたいな語り部の仕事だ。誰から教えてほしい?」

魔王の知識に関しては禁忌とされているのに、大師匠は意外にあっさりとそう言った。




「・・・じゃあ、“二番目”って呼ばれてるあの人について、教えてくれませんか?」

すると、フウセンが静かに、強くそう言った。


俺は思わず、彼女の方を見た。ほかのみんなも同じだ。

フウセンに宿った魔王の魂の断片について聞こうと思ったが、彼女がそう言ったことが意外だった。



「ん? どうして?」

そこで初めて、大師匠はフウセンを見た。



「一応、一回くらいはぶん殴っておきたいと思って。」

「あはッ、あはははははは!!!」

そして、彼は笑った。

手を叩いて、可笑しそうに笑った。




「オーケーオーケー、僕の知ってる限り、全部教えてあげるよ。」

どうやらフウセンの言葉は大師匠のお気に召したようだった。



「“美学”の魔王、アヴァンギャルド・・・奴はこの世界では、前衛的芸術という言葉が当て嵌められた。

おそらく現世に存在するありとあらゆるものの中で、一番古い歴史を持っている。

魔族や魔物を創造した原初の魔王が“魔界”へ退散してから現れた奴だけれど、奴の存在する以前の記録は存在していない。」

「それって、あいつをぶん殴るうえで必要な情報なんか?」

「うーん、それもそうだね。」

フウセンの失礼な物言いに気にした風もなく、大師匠は頷いた。



「魔王連中の特殊能力は、ある程度共通点がある。

どの魔王にも、強力な魔眼、肉体の特殊能力、バカみたいな再生能力に、強大な魔力に裏打ちされた超絶的な魔術の才能と凄まじい学習能力を持っている。

その中でも前者の二つ以外は大よそ共通しているんだ。」

「では、一先ず共通している能力について教えていただけませんか?」

「そうだね、その方が話しやすいし、理解もしやすいだろう。」

エクレシアの質問に、大師匠はそう応じた。



「連中のバカみたいな再生能力は、正直剣や槍とかの物理攻撃を殆ど無意味と化するほどさ。

斬った傍からくっつくようなものだね。だから、比較的に有効だとされているのが傷の治りが遅い魔術による攻撃なのさ。」

「愚策だとは思うんですが、矢継ぎ早の飽和攻撃とかダメなんですかね?」

大師匠の話の通りなら、それは机上の空論に過ぎないのだが。

それは『盟主』の語った少数精鋭での短期決戦には向かない方法だ。



「可能だとは思うけれど、少なくとも僕が最初に戦った“四番目”には通用しないね。

あいつは一度受けた属性の攻撃に対する耐性を備えるっていう特殊能力を持っていた。

例えば対物ライフルの銃撃を喰らったら、それ以下の威力の銃撃は二度と受け付けなくなるってな具合にね。

それが何種類も無制限に上書きされてどんどん攻撃が通りにくくなるんだ。」

「反則だ・・・。」

その上にすさまじい再生能力を備えているのだから、いったいどうやって大師匠がその魔王を倒したのか想像もできなかった。



「魔力に関しては言うまでもないね。そこの君のふざけた魔力量を見れば分かるよね。

そしてその魔術の才能に関しては、一つ尖がって秀でている系統が必ずあって、それ以外には見ただけで殆どの系統の魔術を万遍なく習得できるみたいだよ。イカレた学習能力さ。」

「だから、ウチも見ただけで魔術を・・・。」

「それは違うと思うな。」

だがそこで、フウセンの言葉を否定するかのように大師匠は言葉を重ねた。



「見ただけで魔術を習得できる、それはその魔術の仕組みを理解できることが前提なんだよ。君にそんな知識は無いでしょ?」

「じゃあ、どうして・・・。」

そう聞き返すくらいには、目の前で魔術をやり返されたクロムは、納得いかないだろう。



「多分それは君の尖がった部分の才能に関係しているんだろうけど、それに関しては後だ。今は“二番目”について教えているんだからね。」

大師匠はそう言って一旦、その話を脇に置いた。



「さて、いよいよ“二番目”の固有の能力についてだけれど、・・・何て言えばいいのかな。

ぶっちゃけ上から三番目までは他の連中とは別格だし。」

「そんなにヤバいんですか?」

「うん、まず魔術効かないし。あいつ、任意で自身に干渉する魔力を自由に奪えるんだよ。そういう体質なの。」

「反則すぎる・・・。」

物理攻撃が殆ど効かないのがデフォルトで、その上で魔術が効かないとかチートすぎるだろ。




「そんな相手を、どうやって・・・。」

エクレシアもどう対処すればいいか分からないようだった。


「簡単だよ、適当になんか浮かべて投げつけたりすればいい。

要は直接干渉しなければ良いんだからね。それに魔術によって引き起こされた物理現象までは防げないから。」

ただ、大師匠の出した答えは、ものすごく単純なものだった。



「それに最近生意気な小僧が物理魔術なんてのを体系化しただろ、昔に比べたらずっと戦いやすいよ。

どうしても倒したいなら、核兵器でも持ち出すしかないだろうけれど。まあ、無意味だけど。

僕も一度アイツにムカついたから五十回くらいぶっ殺してやったことあるけれど、殺し尽くせなかったし。」

「五十回・・・。」

「光速の十倍くらいで吹っ飛ばして燃やし尽くしてやったり、ブラックホールに放り込んだりしても平然としてたからね。」

「いったいどうやって・・・?」

次元の違う話に何だか訳が分からなくなってきた。



「アイツが特に秀でているのは、生殖魔術だからさ。

挿し木の要領で自分の肉体の一部を別のところに置いておいて、いざ肉体が滅んだらそっち緊急避難できるんだよ。」

「生殖魔術・・? 聞いたことがありませんね。」

フウリンが俺の訊きたいことを言ってくれた。



「マイナーな魔術だからね。

生物の正と死のサイクルを操る魔術だ。アイツは植物の成長は勿論、生物の進化や退化まで自由自在だからね。

アイツ、腹の中に人類とも魔族とも違う進化を辿った怪物の軍勢を飼っているから、もしぶん殴る機会があったら気を付けてね。

比較的に戦闘に向いてはいないタイプの魔王とは言え、アイツより強い化け物とか出てきたときはマジでびっくりしたから。」

大師匠は笑いながら言ったが、全然笑えない内容だった。


というか、単純な強さだけで魔王を凌ぐ怪物ってどんなんだか想像すらできないんだけど。

道理であの人が、強さに興味がないと言っていたわけである。


他人の強さ何て自分のさじ加減ひとつに過ぎないのなら、そんな無意味なものは無いのだろう。



「そんなことがあり得るんですか?」

「破壊活動に特化した奴ならほかに何人もいたしね。

火力だけが強さだというのならそれは浅はかだよ。」

今度はエクレシアが俺の思っていたことを言ってくれた。



「戦いにおいての強さも、一概じゃないのさ。

そして最後に魔眼。アイツは厭らしさだけならほかの魔王の追随の許さない固有能力を持っている。」

大師匠は自分の眼を指さしてそう言った。



「―――アイツの魔眼は、直視した相手の実力を下げるのさ。

ゲームに例えるのなら、レベルドレインかな。毎ターンごとに3レベル下がるとかそんな感じで。

アイツにとって、無意味なんだよ。強さとか努力とかそういうの。肉体じゃなくて、精神にしか興味がないんだ。」

僕もそうだけれど、と大師匠は意味深な笑みを浮かべてそう言った。



「そないな奴に、いったいどやって倒すんや・・・。」

「だから、滅ぼすのは無理だって言われてんだよ。言っただろ、三番目まではそれ以降と別格だって。

アイツをぶん殴れたら是非とも教えてくれよ。」

フウセンも相手にすると言ってしまった相手の強大さに、流石の彼女も意気消沈してしまったようだった。




「ところで大師匠、フウセンに宿っている魔王の魂はどういうものか分かりますか?」

話がひと段落したところで、俺が聞きたかったことを訊いてみた。



「何番目かってこと?」

「そ、その、師匠は“十一番目”と仰っていました。詳しくは教えてもらってないんですけど、何でも最悪だと・・・。」

恐る恐るといった具合にクロムがどれほど彼を恐れているか窺わせる。


というか、その話は初耳だったのだが。



「最悪・・・どういうことなん?」

そう聞いては、フウセンも顔を上げずにはいられなかったようだ。



「ああ、“十一番目”か。それが本当なら、ちょっとマズイかもねぇ。」

大師匠は当然のようにその“最悪”に心当たりがあるようだった。



「“十一番目”に関して詳しく説明するには、まず時代背景から教えなければならない。聞く?」

「うん、ウチのことやもん。逃げたりしたくないんや。」

フウセンの意思は、確認するまでもなかったようだ。




「時はまず十番目の“鋼鉄”、魔王が僕の故郷である世界に現れたところから話そうか。

その十番目・・・、その名はドレッドノート。この名が割り当てられたのは最近だ。超弩級とかの語源になった戦艦にちなまれている。

その名の通り、すさまじく巨大な戦艦とも竜とも取れる、史上最大の巨体を誇った魔王だ。

そして、破壊においては奴を凌ぐ魔王は現れなかったほど強大だった。

奴は獣人系の魔族を重用し、人類を蹂躙し始めた。

人類は、その強大な魔王を前に一溜りもなかったのさ。空に浮かぶ巨大戦艦は、大空を支配し、夕闇と共に悪夢が舞い降りる。

一日にいくつもの、町が消えることもあった・・・。

しかし人類も負けてない。当時、人類は最盛期。最も英雄が多い時代だったんだからね。

―――――と、まあ、この辺は関係ないから十番目がやられるまで飛ばすけど。」

俺は身構えていたからガクッと脱力した。


すごく気になる切り方をされた。すごく続きが気になるんだけど。



「“鋼鉄”の、と称されるだけあって、魔王ドレッドノートは魔術仕掛けの機械を扱うのに長けていた。

全面戦争で九割もの全人口を失った人類は、下した魔王の遺産を使い、百年もせずに持ち直した。

だけど、残念ながら人間がこれまで平等だったことは一度もない。

魔王の遺産を解析し、人々に齎らされたのは新たな文明と繁栄だったが、同時に凄まじい格差を生じさせた。

・・・・覚えているだろう? 当時の貴族社会にいた君は。」

「・・・・はい。」

クロムはか細い声で頷いた。


そう言えば、クロムは以前自分を貴族だって言っていたが、マジだったのかよ。



「ま、それからいろいろあって、数百年。

格差は解消されることなく、より顕著になったわけだ。

―――そんな中に、十一番目は生まれ落ちた。」

大師匠は語る。最悪の魔王が生まれ落ちた経緯を。



「魔王は誕生すると、同時に世界中のどこかへ転移して出現する。

そして覚醒までの半年の間に、体験したこと吸収し人格を形成するのさ。固有の能力も大体その時に確定するみたい。

そうやって、十一番目の記憶に残っていったのは、強烈な貧困と餓えだったらしい。

人間の社会の中で、誰の助けも得られずに、無情と空腹のまま何もわからずに彷徨いながら、彼は覚醒の時を迎えてしまった。」

「それで、どうなったんや・・・?」

フウセンが真剣な表情で先を促す。


俺は大師匠の話を聞いて、その結果を大体想像できてしまった。




「っくくく・・・彼は手始めに、その町の貧困や飢えを消した。」

それがどのような手段だったかは、可笑しそうに笑う大師匠を見れば瞭然だった。



「彼はそれから、世界中を回りながら、食物や価値のある物を略奪して回った。

手に入れたものをその日のうちに消費して、配下であるはずの魔族さえも信用せずに単独で行動した。

まあ、それだけだったのなら、そのうち奴を倒す英傑やらが現れて、十一番目が倒されて終わり、ちゃんちゃん、で済んだんだろうけれど。」

「問題はこれからだったのですか?」

エクレシアにしてみれば、それだけでも十分問題に思えたのだろう。


格差だらけの社会で略奪が起こった場合、その対象というのはいつだって限られている。

まあ、魔王ならその辺の人間の価値観なんて関係ないのだろうけれど。



「そう、奴の略奪する価値のある物の対象は、稀少本の類も多く存在した。

そこから知恵をつけた十一番目は、人間が最も価値を見出すものを奪い始めた。

今までは金品や食料ぐらいだったんだけれど、鉄などの鉱物や水源などの資源を奪い、独占した。」

「ちょっと待ってください、確か十一番目は、その日のうちに手に入れたものを消費していったと言いましたが・・・。」

そのフウリンの最悪の想像を、大師匠は首肯して肯定した。



「そうさ。他人に奪われるくらいなら、自分で全部使ってしまえってな具合にね。

消費できないものは、体内に吸収していたみたいだけど。まあ、その消費の仕方は僕らの考える通りじゃないからね。

森があれば刈り取り、山が有れば捲り上げ、湖があれば飲み干し、海に行けば海水を持ち上げ魚を食らいつくした。

ともかく、奴はそうやって人類に壊滅的な打撃を与え続けた。

だけどそれでも、人類は耐えさえすれば、いずれ誰かが魔王を倒してくれると、本気で思っていた。」

まるで、それまでが序の口であると言いたげに大師匠は勿体ぶった語り口でそう言った。



「そしてついに、奴は概念的な資源にまで手を付け始めた。

奴に直接的に不必要な機械のエネルギーや、地脈や空気中の魔力を食い荒らし、このままでは人類どころか惑星が死滅するって段階にまでなり始めた。」

「・・・文字通り、最悪の状況ですね。

特に地脈は星の血管のようなものですから。」

大師匠やエクレシアの言う通りなら、それは本当に最悪の事態だった。


もしこの現代で、同じことが起ころうものなら、直接殺戮が起こるよりずっとずっと効率よく、じわじわと人類は破滅に向かっていくというのに、事態はそれを超えていたのだ。



「だけど、そうはならなかった。

十一番目の魔王は、意外な結末を持って滅びた。なんだと思う?」

「・・・・さあ、・・腹壊したとかやないやろ?」

フウセンは大師匠に肩を竦めてそう言った。

本当にそうだったら笑い話で済んだのかもしれない。



「自殺さ。奴は結局、この世のありとあらゆる価値のあるものを手に入れたけど、決して満たされることはなかったし、決してこれからも満たされることはないと気付いてしまったんだ。

当然だよね、魔王の精神は絶対的に強固だけど、それは感性や価値観が一生変化しないってことでもあるんだから。

奴は最後まで空腹と貧しさに苦しみながら一人きりで生きて、魔王にしては前代未聞の死に方で己の生涯に幕を閉じた。」

「哀れですね・・・。」

エクレシアはそう言った。そう表現するしかなかった。



「そうして、奴にはいつしかこういう名が与えられた。

十一番目の魔王、“貪戻”のアヴァリティア、と。」

「アヴァリティア・・・、ラテン語で、強欲ね。」

クロムがそう呟いた。


まさに、そう表するしかない魔王だった。



「貪戻って、どういう意味だ?」

「さぁ、ウチ漢字弱いんや。」

俺は意味の分からない単語をフウセンに聞いてみたが、ダメだった。


「欲深く道理に背いたり、人の道に反することを言うんですよ。」

フウリンがこっそり教えてくれた。

ちっともこっそりになってはいなかったが。



「そんな単語知るかいな。いつ使うんや。」

フウセンはそう開き直るが、俺は国語はそれなりにできてたし、書きはともかく読みは自信があったのでちょっと悔しかった。




「まあ、ここまで教えて上げたんだし、固有能力とかまでネタバレするのもつまらないから魔王の話はここまでね。

ちなみに、全く関係ないけどオチというか、後日談があるんだけれど、聞きたい?」

それは暗に聞けと大師匠は言っていた。


「はい、気になります。」

一応礼儀として聞くことにした。いや、確かに気になったのもあるけど。



「それまで、それなり裕福な暮らしが出来ていた人類がその殆どを取り上げられて、そのままでいられたと思う?

十一番目に大部分を奪われたとは言え、中世とまでは言わずとも原始時代よりは大分マシな生活をする分には問題ないくらいの資源は残っていたんだよ。

だけど、人々はそれを瞬く間に食いつぶしてしまったのさ。人類の終焉は、秒読みにまで迫っていた。

それ故に、およそ五百年後に現れた十二番目の魔王は、“黄昏”と称された。

そして十三番目が現れる頃には・・・・。」

それ以降は、語るまでもない話だった。

愚かな人間の、愚かな結末でしかないのだ。



そして、それはいかなる魔術によるものなのか。

俺の、いや俺たちの脳裏には、無限に広がる荒廃した大地と、毒々しい色の広大な嘗ては海だったと思われる毒沼。

太陽の光は渇きと害を齎し、風は錆びつき、息をすれば肺が傷む、空の色は見るに絶えず、それが雲によって隠されたとしても人々に降り注ぐのは恵みの雨ではなく強酸性の毒液という仕打ち。

生き物は動物どころか、草の一つさえ生えていない。

微生物の一匹すらいるかどうかも怪しい。


そこは、死んだ星だった。

千年もの昔に、魔術師たちが逃れてきた、終わった世界だ。


それを、幻視した。




「リュミスは、君がすべての力を取り戻せば、十一番目として復活すると思っているみたいだけれど、それは違う。

君は別の魔王として、・・・新たに“十四番目”になるだけだ。もう誰も、十一番目には成れないのさ。

厳密に言えば、まだ有害か無害かすら決まっていない。だから、僕は楽しみにしているよ。君にいったいどんな名が与えられるか。」

何だか大師匠は、フウセンのことをただの歴史の資料ぐらいにしか思っていないように見えた。



「もうこれ位でいいよね。久々にいっぱい話せて楽しかったよ。

崇めるみたいに頼られるのは御免だけれど、こうやってたまになら君たちに知恵を授けてやってもいいね。」

「その、勉強になりました。」

ありがとうございます、とフウセンが頭を下げた。



「正直あと十年、いや五年は個人的な事情で魔王とかに現れてもらっちゃ困るんだけど、まあいいか。」

「私から、一つ聞きたいことがあります。」

すると、エクレシアが大師匠に向かってそう言った。



「“魔導師”パラノイアが言っていた、至大なる御方とは、もしや貴方のことではないのですか?」

「そうだと思うけど、それを聞いてどうするんだい?」

「いえッ、その・・・。」

下手なことを言って怒らせてしまわないだろうかと思っているのか、エクレシアは口ごもった。



「アイツは僕の領域に近づいた数少ない輩の一人だからね。

殺すのは惜しいと思って、リュミスに言って助けてやるように言ったんだよ。この地球に来てアイツほどの魔術師は初めてだったしね。

そのご褒美にいろいろと上げたりしたら、えらく心酔されたんだ。」

何だか、この人がすべての出来事の元凶で良い気がしてきた。



「そうそう君も今のところ、目標がリュミスみたいだし、あのバカ弟子を倒せたらご褒美あげるよ。

二番目の肉体を一回でも滅ぼせれば、それとは別に何かあげる。

他の魔王の断片を手に入れたり、他にもなんか人の身で余る偉業を成したら、それを称えて何かを進呈しよう。」

「え、それは、・・・でも、ウチ、・・・。」

大師匠にそう言われたフウセンは若干戸惑ったようだったが、意を決してこう言った。



「・・・殺しても、ええってことですか?」

俺は、フウセンのその言葉を複雑な心境で聞いていた。



「あはははははははは、別に殺してもいいよ。

とは言っても、アレは僕の弟子なんだよ。殺してあげるわけないじゃない。死なせてあげるわけがないじゃない。

だから遠慮しなくていいよ。お仕置き、いや、痛めつけごほん、説教の口実が増えるし。」

そう口にした大師匠は、子供のように楽しそうだった。



「とりあえず、まずは五分の一とは言え、魔王を倒した君たちの偉業を称えてこれを授けよう。」

大師匠は何か紙を一枚取り出すと、それをフウセンに投げ渡した。


「これは・・・術式・・?」

「十一番目の代名詞とも言える秘術、“星喰い”だ。

あと、二番目を殴るっていう君を称えて、もう一つサービスしといたけれど。」

「こっちは、“魔王の鉄槌”・・?」

渡された紙の裏を見て、フウセンはそう呟いた。



「読めるのか?」

俺には何て書いてあるのかさっぱりだ。奇妙な図形の羅列にしか見えない。


「いや、どちらかというと、理解したって感じや。

ウチ、この魔術を知っとる。もしかしたら、思い出しただけなんやのかもしれへん。」

それはフウセンが魔王であることを再認識させるような言葉だった。



「魔王を名乗るんだ、それらしい魔術は会得しておかないと格好がつかないだろう?

それに、後者はとても使い勝手のいい物理攻撃魔術だ。二番目だって殴れる。」

いや、術式の名前を聞く限り、どっちもヤバそうなんだけれど。



「・・・俺からも一つだけ、よろしいでしょうか。」

そこでフウリンが、口を開いた。


「嫌だね、僕はあのクソ女について語ることなんて一つもない。

あの『カーディナル』から聞いたみたいだけれど、世の中知らないことが良いってことがいっぱいあるんだから。

神様を信じられなくなっちゃうよ。・・・それも君みたいな敬虔な信徒ならばね。」

だが、大師匠は先回りしてそう答えた。


その言葉に、フウリンだけでなく、エクレシアも反応した。

しかし結局、その意味深な言葉の真意を質すことはできなかった。



大師匠は、やはりテレビの電源を消したかのようにパッと消え去ったのだから。




「よかった・・・わたし、生きてる・・。」

それと同時に、まるでクロムが腰を抜かしたかのように床にへたり込んだ。



「一体どういうこと何ですか?」

エクレシアがフウリンに問うた。

あんな意味深な言い方をされては、気になるのは当然だろう。


「止めろよ、エクレシア。」

それを止めたのは俺だった。

フウリンが青い顔をしていたのもあるが、当然それだけではない。



「大師匠が知らない方が良いって言ったんだ、もうやめようぜ・・・・これ以上は、怖いんだ。」

ゲーテの戯曲の「魔王」に出てくる子供のように、俺はその力を恐れていたのだ。

大師匠が語る強大な魔王の力は、なまじフウセンでその片鱗を見ているからよりリアルだった。


俺は今日、初めて自覚した。

知識は恐怖を生むものなのだと。


恐るべき魔王の力を、恐れてしまったのだ。




「・・・・・私も怖いですよ。」

すると、エクレシアも目を伏せてそう言った。


「私の立場は、かの『黒の君』は協力的だから見逃してやっている、と言うものなのです。

神への背信や冒涜は個人の段階なら、無理に戦う必要はない、と彼が相手ならば、実に滑稽な虚勢ですが。

彼は私があの『パラノイア』について聞こうとした時に、それを見抜かれていたのか、彼は何も言わずとも目でこう言ったのです。

――――自分と彼女に違いなんてない、と。

・・・不興を買って、殺されるかと思いました。」

エクレシアの声は震えていた。


やっぱり、彼女も怖かったのかと、俺は思った。



「ねぇ、それを見せてもらってもいいかしら?」

そして自分の安全が確定したとみると、クロムがフウセンにそう言った。



「ええよ。」

「どれどれ。・・・ああ、なるほど。」

フウセンはあっさりとメモをクロムに渡してしまった。


こいつに危険な魔術の使い方を教えるなと、思ったのだが、どうやらクロムの反応が鈍い。



「“星喰い”の術式じゃなくて彼女の頭に直接使い方を教えるための触媒ね。」

「読まれてんな、クロム。」

やっぱり大師匠がこのクロムに反応などお見通しだったようだ。


「いいや、多分単純に世に出れば禁術に指定されるからやと思う。

この“星喰い”って魔術は、それくらいヤバいもん。」

「・・・マジかよ。」

そんな魔術を魔王らしいから、って理由で教えるなよ大師匠。



「ちなみに、どんな魔術なんだ?」

「ウチが本気で十日も連続で発動し続けてたら、そんだけで地球が干からびるような魔術や。攻撃にも転用できるし。」

どうやら想像以上にヤバい術式のようだった。


「それに多分この魔術ウチ専用だと思う。

使うも使わないも拘らずに、ウチに預けとくべきモンやってあの人は判断したんかもしれへん。」

「他人には扱えないような限定仕様なのですか?」

そう聞いてエクレシアが硬い表情になって問うた。



「うん、それに単純に扱いが難しいってのもあるかも。

制御にすんごい知覚能力持ってることとかが前提みたいやし、魔王じゃなきゃ扱えないようになっとるみたい。

魔王が作ったんやからそれもそうやと思うけど。

あと、あの人の話じゃあんまり言われなかったけど、十一番目はすごい魔王やと思う。こんなの人間が思いつく魔術やない。」

「記憶や知識を受け継いでいるという『叡智』の断片の保有者も、その様子だと侮れる相手じゃなさそうだな。」

「私も『叡智』が一番割を食っていると思ったけど、大師匠の話を聞いたらそうでもないみたいね。」

俺の言葉をクロムも難しい表情で同意してくれた。




「でも、ウチは負けないよ。だって、死ぬのは嫌やもん。」

「フウセン・・・。」

そう呟いた彼女をフウリンはどこか悲しそうに見ていた。



多分この日の出来事が、フウセンが演説にあったように強くなることを決めた日でもあるのかもしれない。






・・・・

・・・・・

・・・・・・




城塞の完成までに、一週間もの時間を要した。


内装の工事だけではなく、諸々の施設の建造や常駐する親衛隊の編成と城塞周辺に居住する兵士の分布を決めるという仕事が有ったからだ。

フウセンの存在により、こっちに移住するという魔族も多く、それの対応にも追われたというのもある。

そんでもって。



「陛下、ご機嫌麗しゅう。陛下の親衛隊の隊長に抜擢されましたドレイクのクラウンです。」

なぜかうちの家主がいつの間にかそんな役職についていた。

そんで、王座に座ったフウセンに傅いてクラウンがそう言った。


俺が想像していたよりは狭い玉座の間は、最低限権力者の威厳を保つための応接間みたいなものだった。

そこまで大きな城塞じゃないのだから、ここに場所を割けられないのだろう。



「そうか、頑張ってな。」

「陛下の期待に必ず答えられますよう努力いたします。」

この一週間でそういうことは言い疲れたのか、フウセンの対応は素っ気なかったがクラウンも気にした様子はない。


こいつが旦那により親衛隊に大抜擢されたという事は、クラウンがこの城塞に住み込みで働くわけで、俺もエクレシアも、クラウンが面倒みているミネルヴァも自動的にこっちに引っ越しになった。

俺たちだけでなく、クロムも地下研究所と特殊部隊の創設を提案していて城塞の地下に居を構えるし、ラミアの婆さまも相談役みたいな役割で招致を受けて、サイリスと一緒に来ていた。


みんな仲良く同じ屋根の下だとミネルヴァは喜んでいたが、引っ越しをする俺たちは大変だった。



流石に旦那までは自分の屋敷から離れないが、この城塞との往復をすることが多くなるだろう。

この城塞が、今後の村の発展の中心になるのは確定的だった。


というか、もう村じゃなくて町になるかもしれない。

そういう規模になっていた。あとひと月もすれば、きっとそうなっているのだろう。





「ウチに、魔王が務まるんかな。」

ふと、城塞の改修が終わった夜にフウセンがそう漏らした。


自分の齎した周りの大きな変化に、彼女の不安や弱気と言った本心が零れたのだろう。

だが、新たな客人を迎えるためにフウセンの警護をしに玉座の間に集結していた俺たちは、それを弱音とは取らなかった。



「陛下の努力を私は知っています。

そうして貴女が強ければ強いほど、我々は貴女を頼って勝手に集い、勝手に従うことでしょう。

たとえ貴女が敵に敗北しても、我々は裏切ったり逃げたり、貴女を陥れたりはしません。そして、そうするものが現れたのなら、我々が殺します。」

クラウンは、そう答えた。

恐らくフウセンに付き従う魔族の総意であるだろう言葉だった。



『あんたは十一番目の魔王じゃない。

フウセン、あんたは自分のやり方で好きにすればいい。この物好きどもは、それで満足みたいだしな。』

俺はそういう言葉を念話で送った。



「そっか。皆、ありがとな。」

そういうことを念話とかで言ったのは、どうやら俺だけではなかったらしい。


若干、彼女のプレッシャーが和らいだようだった。



こうして、俺たちの新しい生活が始まったのである。





日常回とする予定でしたが、なんという説明回・・・orz

今度こそは、と思っていたのですが、次の話はもう決まっているんですよね・・・。


ところで、こんなあとがきまで見てくれる皆さんにご質問です。


※ちょっと重要なおしらせ。


最近モチベーションが上がらず、だらだらと書いておりますが、その原因は自然と長くなってしまうこの分の量であるとも思えるのです。

そういうわけで、


A.ゆっくりでいいからこのままの分の量で。

B.もっと分けて早く更新してー。


と、アンケートを取れるほど人気ある作品だとは思っていませんが、できればご意見くださるとうれしいです。

今後の参考と作者のモチベーション向上につながります。


それでは、以上。また次回をお楽しみに。



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