第二十二話 一方その頃・・・
「いやぁ、本当に困ってたところだよ。
最近の食糧不足は深刻らしくてね、上の階層のほうじゃひどい有様らしいよ。」
そう言って、クラウンはずずずっとカップ麺を啜った。
「何が悲しくてこんなところでカップ麺なんて食わんといけないんだよ・・・・。」
俺は二口目には自分で木を削って作った箸を置いた。
ここ最近濃い味の食べ物をあんまり食べなかったせいか、俺の胃はそれを受け付けなくなっているようだった。
・・・クラウンの奴はバカバカと何杯も食っているが。
「それでね、ヴィーヴルの瞳がほしいのよ。できればエンシェントドラゴンのツノもね。特に後者が無ければ目的の達成は不可能なのよねぇ。」
そして、そのカップ麺を持ってきた張本人はそう言って難しそうな表情をしていた。
「ヴィーヴルならその辺の山脈に生息してるはずだよ。リンドレイクの領域に入る可能性があるからお勧めできないけれどね。
でも、さすがにエンシェントドラゴンは無理だよ。」
やっぱり濃い味の大好きらしいクラウンは飲み物のようにカップ麺を食べながら首を振った。
「つーか、この世にエンシェントドラゴンなんているのかよ。」
代名詞にエンシェントなんて付くくらいなんだから、相当古いドラゴンなんだろう。
「いるさ、地上にも数多くドラゴンの伝承は残っているだろう?
その多くは数百年から千年って年月で起きたり寝たりを繰り返してる。そいつらは生物としてはもう一段階上のレベルに達しているから、生物的な営みなんてしない。だから地上の人間には彼らを忘れてしまったのさ。
そして、彼らが起きた時こそ、天変地異として現れるって言われている。
と、言っても暴れまわったりしない。せいぜい身じろぎするくらいだろうね。それでも、自然災害クラスの災厄が引き起こされるんだ。」
それくらい、古いドラゴンは強大だという。
「もうそのクラスになったら、精霊の一種ね。
幻想を忘れた地上の原住民には観測することすらできないわね。」
「ふーん、じゃあ、日本に地震が多いのはプレートの下辺りにエンシェントドラゴンが眠ってたりするからとかか?」
冗談交じりに俺がそう言ったら、ええ、とクロムは真顔で頷いた。
「え、マジかよ・・・。」
「マジよ。しかも調べたところによると、周期的にそろそろ起きるかもしれない。時々起こる小さな地震はそのドラゴンのいびきだって話よ。」
「え、えぇ・・・よりにもよって、いびきかよ。」
すごいのがすごくないのかよくわからない話である。
「実は太平洋に一匹住み着いているらしいのよ、現状一番簡単で、若いし楽にとっ捕まえられそうなんだけれど。
他のは大気圏とか地下深くとか、山に偽装しているとかで遭遇することすら不可能。
ホント、どうにかできないかしら。」
「その海に住み着いているのでいいんじゃないのかい?
さすがに僕らの聖地に居られる神の化身のツノを持ってくる訳にはいかないし。」
そんなことしたら殺されちゃうよ、とクラウンは可笑しそうに言った。
「海に、ねぇ・・・って、おい、まさか、その海に住んでるっていうドラゴンと戦わせるつもりじゃないだろうな?」
「え、何を今更。」
まるでそれが当たり前のように、クロムはきょとんとした表情でそういった。
「ちょっと待てよ、いびきで地震を起こせるような化け物なんだろ?
そんなの普通に無理に決まってんだろ!?」
「それは大丈夫よ、古代竜レベルに昇格したのはごく最近よ。居場所がわかったのも、かつてここの魔術師達が輸送に失敗して海に取り逃してしまったのが発端だもの。
その情報が無かったら、エンシェントドラゴンの所在なんて普通わからないわ。
伝承としてもドラゴンとしては微妙だから質はあれかもしれないけれど。」
自信満々にそう言ってのけるクロムだが、こいつはたぶん何もわかっていないに違いない。
「恐るべきそのエンシェントシーサーペントドラゴンは、バミューダの悪魔って呼ばれているのよね。あの辺で発生する嵐は大体あいつのせいらしいわ。」
「バミューダの悪魔って、なんじゃそりゃ。
バミューダトライアングルで船や航空機が行方不明になった事件は全部そいつのせいってか?」
「全部じゃないけど、あの周辺はそいつの影響で周囲の生物が凶暴化してるみたい。」
攻略は難しいわね、とクロムはため息を吐いた。
「それより、彼女が使い物になって戻ってきたなら、第五層の吸血鬼を手中に収めないかい? 吸血鬼相手なら彼女ほど心強い者はいないからね。」
「それは賛成ね。外にいる吸血鬼の真祖は話にならないくらい強いって聞いたわ。
吸血鬼の血ならもう再現不可能な秘薬の代用になるでしょうから。」
もうすでに二人の利害は一致しているようだ。
「“夜の眷属”の領域の案内役としてサイリスを徴集するつもりだよ。あそこは特殊な場所だからね、部外者が入るなんて論外だろうし。」
「魔族の領域こそ、そもそも特殊だと思うんだけれどね。」
「つーか、サイリスで大丈夫なのか?
個人的にはあいつが案内役とか不安なんだけれど。」
俺が口を挟むと、二人は呆れたようにため息を吐いた。
「あいつはへたれだけど、魔術の腕では僕より上だよ。
所詮僕のは見よう見まねで独学でやってるだけだし。あと単純に地力が違うだけ。」
「正直、私としては貴方のほうが不安よ。今のままじゃスタミナ切れで役立たずになりそうだし。戦いの場じゃ一回戦うごとにヒットポイントやマジックポイントが全快したりしないのよ。
せめて魔力の運用効率を倍にしてくれないと、戦力にも数えられない。」
「うぐ・・・。」
クラウンとクロムにそう言われ、ぐぅの音も出なかった。
「なぜ現代の魔術に呪文が簡略化されたかわかる?
銃社会に対抗すべく、自然と呪文が削られ、より図化されているわけ。
魔術は数式のように表されるようになり、すばやく幻想を現実に出現させるようになったのよ。術式の構成と出現までにタイムラグがあるなんて話にならないわ。
ねぇ、道具に扱われるってどんな気持ち? 人間としての尊厳ってないの?」
「・・・・うっせぇよ。」
人の気にしてることをぐちぐちぐちぐちと、嫌味ったらしいクロムの台詞がむかむかと俺の心臓を刺激する。
「まあ、油断してたとは言え、油断してたとは言え、油断してたとは言え、仮にも、仮にも、仮にも、私を倒せたんだから、もっと強くなってもらわなくちゃ。私の目的にも支障が出るしね。」
どうやら俺たちに負けたこと相当根に持っているようだ。
だからこんなにねちねちとしてんのかよ、こいつ。
「という訳で、今夜寝るときにこのカードを枕元に置いて置いてね。」
「は?」
クロムが差し出してきたのは銀色で一色のカード状の物体だった。
「なにそれ、僕も欲しい。」
「うーん、いいわよ。記録は多いほうがいいしね。」
何やら意味有りげにクロムはそう言って、同じ銀のカードをクラウンにも差し出した。
「なぁ・・・・これなんだ?」
「それは、使ってみてからのお楽しみね。」
言いたくて言いたくてうずうずしているのが傍目でもわかるが、クロムは楽しそうにニコニコしている。
それが非常に胡散臭い。
「イラネ。」
「え、なんでよー。」
俺がそれをつき返すと、不満そうにクロムはむくれた表情をした。
「とにかく、これを持って今日は寝ること。いいわね。
そうしなかったら、うーん・・・・どうしようかしら?」
すると、こいつは懐から見るからに怪しげな毒々しい液体の入った試験管を取り出した。
「わ、わかった、わかったから、それしまえ。」
「あら、それはよかった。」
にっこりと、満面の笑みを浮かべながら彼女は懐のブツを押し戻した。
この野郎、いつか絶対泣かすと心に再度誓いながら俺はテーブルの下の拳を握り締めた。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・
目を開けると、そこは知らない場所であった。
「え・・・?」
本当にそこは知らない場所だった。
上も下も真っ白で、距離感が掴めないほど広大で何も存在しない場所だった。
「これは・・・夢だよな。明晰夢って、やつか・・?」
ちゃんと言われたとおりクロムに渡された銀色のカードを枕元に置いて寝たら、こんな夢を見たのだ。おそらくこれは奴の仕業に違いない。
「ようこそ、私の世界へ。」
そして、その当人はどっかーん、と派手なステージと火薬を使って登場しやがった。
「それより、なんだよここ・・・・。」
「なによ、相変わらず淡白な男ね。」
ぱちん、とクロムが指を鳴らすと、馬鹿みたいなステージも火薬の匂いも嘘のように消えうせた。
「へぇ・・・・これは大掛かりだね、どうなってるんだい?」
振り返ると、クラウンの奴もそこに居た。
いつものボロ切れみたいな目立たない格好ではなく、黒を基調としたいかにも魔術師然とした風貌だった。
「ここは夢の中よ。ご両人。
あのカードには睡眠時の精神をトレースして転写する機能があるわけ。
意識が閉じた状態の二つの精神の中でトレースされた擬似的な精神を強制的に覚醒し、一種の幽体離脱状態を作るの。
魂と精神に肉体との物理的な距離は関係ないという法則に従い、あなた達は眠りながらにして別の場所に意識を確立することができるってわけよ。
つまるところ、あなた達はいま精神だけの状態なのよ。体は普通に寝てるわ。」
「は、はぁ・・・」
半分も理解できなかった。
「名付けて“ルシッド・シミュレーター”。
精神世界では時間がゆっくり流れるってやつは聞いたことがあるでしょう?
それにより、一晩にして人間の精神に負荷を掛けない限界の七日間を過ごすことができる。この中での経験は実体に反映されるわ。肉体は精神に引っ張られるものだもの。」
「えーと、三行で頼む。」
「コンピューターのシミュレーターを思い浮かべればいいわ。
短い時間でさまざまなことを想定し、実行することができる。
それを実際に体験し、経験を肉体に反映できる。精神体だから死んでも大丈夫。」
「おお、すげーな。」
最後の最後になにやら不穏な言葉を聞いたような気もするが、普通にすごいので素直に褒めておくことにした。
「夢といっても、かなり高度な物理演算エンジンを根底においているわ。
魔術も普通に使えるし、核爆発の実験だってできちゃうわ。こうやってコンソールを呼び出して空間の設定を変更することもできるわ。」
クロムが虚空をカタカタとキーボードを打つような音を立てて叩くと、周囲の世界が一変して新緑が溢れた草原へと変貌した。
「へぇ、空間制御は非常に高度な魔術だと聞いたけれど、範囲を限定すればこんなことも可能なのか。」
「全体より、難しい一箇所をランクダウンさせて連鎖的に運用すれば、こんな大魔術も案外簡単にできるわけよ。頭の固い魔術師には思いつかないでしょうけれど。」
「うん、思いつかない。魔族にもこんな発想は出来ないよ。さすが人間だね。」
クラウンはしきりに感心したように頷いている。
ちなみにちっとも俺は何を言っているのか理解できない。
「ま、なにより私が天才、ちょーーー大天才だから出来る御業なんだけれどね!!」
そして自画自賛を忘れないクロムである。
最近なんとなく感じてるが、こいつ絶対そういうキャラを作ってる気がしている。
普通、魔術師は自己主張が激しくなんてないらしい。
特に錬金術師は、昔から隠れ潜むように別の職業に身をやつしてひっそりと研究やら実験やらを行うらしい。エクレシアがそう言っていた。
「そう言う訳で、私はあなたを個人的に鍛えようと思います。」
「は? 何でだよ。」
「当然じゃない。」
にっこりと笑ってクロムは指を鳴らすと、いきなり目の前に現れて俺の両肩を掴んだのだ。
「おい、お、お前!!」
ぎりぎり、と俺の肩を掴む手が異様に強く、俺は思わず振り払った。
「あなたみたいな能天気な顔を見てるとね、いらいらするのよ。
いつ命を奪われるかもわからない状況にいるって言うのに、あなたはまだどこか自分が平和の中にいるなんて思ってる。
あなた、自分より劣っている相手に足蹴にされてなんとも思わないなんて人間じゃないでしょ? 少なくとも私は違うわ。仮にもね、私を一度殺したんだから。
ちょうど才能もあるみたいだし、あなたには私を倒したと誇れる人間になってもらうわ。ええ、私が納得するまで、絶対に、許さないわ。」
そこまで言って、クロムは妖艶とは程遠いどす黒い笑みを浮かべた。
「本当なら、殺し返して清算するんだけれど。あなたは、特別よ。
今すぐ全身に銃弾を浴びせかけて風穴だらけの蜂の巣にしてやってもいいんだけれど、私は理性的な人間だもの。」
そう、この女は、理性的に自分で人を殺せるのだ。
殺されそうになったから、とか受動的な理由ではなく、自分の利益の障害になったと当然のように銃口を向けて引き金を引くのだ。
俺なんかより、こいつのほうがよっぽど魔族にふさわしい。
「ははぁ、どうも人間にしては普通と雰囲気が違うと思ったら。
君、百人単位で殺してるでしょ? 血の臭いがしないからどうかと思ったけど。」
「さて、ね。」
「そうじゃなくても、君の家系は代々人を殺しているはずだ。おびただしい数をね。
君ほどの才能を得るほどには、いったいどれだけの年月と代を重ねればいいのか、僕にも想像すらつかない。僕には見えるよ、君が無数の屍と血溜まりの上に立っているのがね。」
クラウンは、それはとても愉快なことのように言った。
クロムも、否定はしなかった。
俺は、産まれて初めてたった一人の人間に寒気を覚えていた。
「・・・・ホント、あの甘ちゃん騎士が居なくてよかったわ。
私は世界でトップセブンの屑に認定されたこともあるわ。本当に昔の話だけどね。」
「やっぱり、お前も見た目と実年齢は違うみたいな感じなのか?」
「失礼ね。私は見た目どおり今年で23歳、肉体の稼動年齢はまだ二週間だけど。
でも、昔はやんちゃをしたわ。私が生まれたのは、この世界じゃないの。」
「え・・・・?」
それはどういうことなのだろうか。
「ほしいものがあったら平気で町を焼いたし、エルフに喧嘩を売って逆襲されもしたわ。でも、やんちゃが過ぎて、妹弟子には射殺されかけ、師匠には氷の牢獄に放り込まれ。かれこれ千年以上眠ってたみたいよ。
その間には故郷の世界は荒廃して別の世界に移り住んでいるとか、
私が起こされたのは、つい最近。この世界の文明もかなり進んでたし、浦島太郎ってこんな気分だったのかしらね。
でもだからこそ、師匠は私が必要になったのでしょうね。
私は研究さえできればそれでいい。他には何もいらないし、師匠の手伝いをするのもやぶさかではなかった。利害は一致し、契約は成立した。」
「もしかして、その師匠って言うのは・・・・。」
クラウンの疑念に、クロムは頷いた。
「師匠の名前は、リュミス・ジェノウィーグ。四代目魔王を討伐した英雄の末裔にして、同じ魔王を討伐に参加した『黒の君』の唯一にして一番の弟子。
――――――そして、『盟主』と呼ばれるこの巨大な建造物の支配者。」
俺は、違う意味で手に汗がにじみ出るのが感じた。
目の前にいるのは、奴の正体は予想をはるかに超える人物だということは、嫌でもわかる。
「そして、私の本名はメリス・フォン・エルリーバ・“パラケルスス”。
同じ四代目魔王を倒した偉大なるご先祖様の縁から、師匠の弟子になったわけよ。」
クロム、そう名乗っていた女はそう語った。
「じゃあ、お前はこの“箱庭の園”で二番目に偉いのか?」
「まさか。私みたいな屑に師匠が権力を与えるわけがないじゃない。そもそも、私が師匠の弟子だったって事実もなかったことになってるし。
師匠に・・・いいえ、『盟主』に許しをもらってそれなりに好き勝手させてもらっているから、まあ別に私はいいんだけれどね。」
しかし、そういった彼女はどこか不満そうな表情をしていた。
「因果なものだね。君は『黒の君』の直系の弟子ってことじゃないか。
彼は血族で代を重ねない珍しいタイプだけど、その弟子の弟子が彼の作った魔導書の持ち主が居合わせるなんて。運命って奴かな?」
「運命とか、大師匠一番嫌いな言葉ね。
何か一連の共通点がある場合、何かしら意図が働いてるものよ。或いは、それを運命というのかもしれないけれど。」
そして、おしゃべりはここまでにしましょう、と彼女はそう言った。
「あなたが魔族の領域に行き着いた経緯は聞いたわ。
そして、英雄の資質もある、と。大師匠が好きそうな話じゃない。そしてあや取りのようにあなたを中心に物事が絡まってきている。
なら、私も乗ろうと思うわ。あの方の思惑にね。だから、試させてもらう。」
クロムは、そう言って拳銃を虚空から取り出した。
それをあげようとした瞬間、それをさえぎる手があった。
「ちょっといいかな。」
クラウンだった。
「僕にやらせてよ、彼が僕相手にどれまで出来るか、興味があるんだ。」
わざわざ、クロムと俺との間に出てきて言ったのはそんなことだった。
「それに、殺しても大丈夫って素晴しいじゃないか。
飽きるまで強い奴と戦えるってのは、実に面白いじゃないか。」
こいつの頭の中を一度切って中身を見てみたいものである。
「前々から思ってたんだけどね、君には恐怖が足りない。
目の前にいるのは絶対的な強者であることをまるで分かっていない。
どれだけ雑多な人間や下級魔族どもと、このドレイクたる僕とは歴然とした種族としての優位というものがあるのさ。
僕も君と同じでね、これが自分は奴隷だという自覚が足りないとちょっと最近疑問を感じてね。――――ちょっと頭でも潰してやろうかと思ってたんだ。」
ごき、ごき、とクラウンは両手の五指を組んで揉みほぐした。
この野郎、つまり何がいいたいかと言うと、偉そうにしたい、ってことじゃねえか。
「・・・・・じゃあ、貴方に任せるわ。」
そして、サディズムに満ちた笑みを浮かべて、まったくしょうがないといった風にクロムは一歩下がった。
「僕に勝てたら、奴隷契約は免除してあげるよ。勝てたら、の話だけれど。」
チュニックみたいな上着をはだけさして上半身を晒すと、いかにもやる気満々であると主張するようにクラウンは笑みを浮かべた。
「じょ、上等だ・・・・俺も前からお前が気に入らなかったんだ。」
俺は魔剣を呼び出すと、いつも通りに魔剣の重みが手に圧し掛かった。
はっきり言って、クラウンの自信も当然ながら俺がこいつに勝てるなんてこれっぽっちも思っていない。
俺は自惚れ屋ではないから、自分の実力というか、分というものをちゃんと理解している。
正直、クロムの経歴はよく分からなかったから半分聞き流していたが、やっぱりこう言う荒事が一番俺には性に合っている。
「ああ、あんた馬鹿なのね。」
虚空にモニターみたいなのを出したクロムは呆れたようにそう言った。
「ああ、言い忘れてたけど思考やら内面も観察させてもらうから。
それにしても基礎がなっていないのによくもまあ・・・・。」
「おい、聞いてないぞ!!」
さすがに精神だけの世界である。内面を覗くなんて造作もないのかもしれないが、正直そんなのはとても納得できない。
「我慢しなさいよ。別に精神操作の類まで出来るほど“ここ”は万能じゃないわけだから。それより、私なんかより自分の心配したら?」
彼女がこちらを流し見てそう言うのと同時に、クラウンが殴りかかってきた。
「うぉうッ!?」
変な声が出た。しかし、それ以上の無様は晒さなかった。
半ば付け焼刃でも、ちゃんとエクレシアに鍛えられているのだ。むやみに踏ん張らずクラウンの馬鹿力を魔剣で受けて後ろに跳んだ。
「なるほど、直感に頼るタイプ、と。
・・・・ああ、思考ログ漁ってみて分かったけど、貴方ってあまり深く物事を考えないタイプなのね。扱いやすそうで助かるわ。」
「はぁ!?」
なにやら聞き捨てならないことを言っている気がするが、今はクラウンの奴に集中しないといけないからそんな声を出すくらいで精一杯だった。
「ああ、お邪魔みたいね。それじゃ、がんばってね。」
クロムはそう言うと、パッと煙のように消えうせた。
というか、あいつの場合、目の届く場所に居てもらった方がいいような気もしないでもない。
「ねぇ、メイ。僕は一度でいいから殺した相手に今どんな気分かって聞いたりしたりしたかったんだ。だからとりあえず、一回さっくり死んでおくれよ。」
目の前ではクラウンの奴が珍しく本性を表して楽しそうに笑っている。
最近こいつの表情がわかるようになってきた。ちっともうれしくないが。
『ああ、言い忘れていたけれど、殺されても死にはしないけれど、当然痛覚も普通にあるから死ぬほど痛いわよ。一応の注意で精神死させるような魔術は禁止ね。
多分は擬似精神が消滅するだけだろうけれど、まだ調整段階だから連動して本体の精神に影響が出るとも限らないから。』
クロムの声が空間に響く。
残念ながらそんな高等そうな魔術は知りもしない。
「じゃあ、遠慮なくいけるね。」
そんなまどろっこしいまねはしないとでも言うように、クラウンは腕を振りかぶる。
その手には瞬間的に真っ赤に炎で出来た剣が構築され、振り下ろされるのと同時に爆発した。
そうして、俺はクラウンとガチでやり合う羽目になったのである。
ここ最近あんまり更新できなかったんでちょっと本気出す。
今週中にもう一話くらい上げる、と宣言します。




