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魔族の掟  作者: ベイカーベイカー
一章 魔族と人間
12/122

第十一話 魔術師襲来!!





「なぁ、お前さんはどう思うよ?」

「妙、かなぁ?」

「妙だよなぁ、俺もだ。」

二人は、砦と呼ぶにはお粗末な石造建造物の中にあるある一室に居た。


オーガロードのゴルゴガンと、ドレイクのクラウンである。



ここは最近巷を騒がせている盗賊団のアジトである。

主に下級魔族で構成されており、その数は数百にも及んでいた。


下級魔族は数だけは居るので、毎年あぶれ者が結集して盗賊に身をやつすなんて毎年のようにある話である。今回もそれが例年より少しばかり多かった程度の認識だったのだが、二人は妙なことを感じていた。



「これ、さっき見たよな。これも、これも、これも。」

「うん、見たねぇ。これもこれもこれも。」

二人が居るのは、この盗賊団のボスだと嘯いていたトロールの部屋である。


しかし、その彼は馬鹿みたいな力で引き裂かれたように全身がぐちゃぐちゃになって潰れていた。彼の側近だった十数名も同様である。

二人が通ってきた道も同様になっている。


外は静寂で満ちており、逃げた残党の討伐へと残りの兵隊は向かっている。



二人が妙だと感じたのは、盗賊の連中が着ていた鎧などの防具、剣などの武器である。



「鏡合わせみたいに全く同じだね。

重さも同じだ。多分ミリグラム単位で同じだと思うよ。」

「そんなのありうるのか?」

クラウンは両手に二振りの剣を持って見比べる。

全く同じなのだ、その二振りだけでなく、外で戦っていた盗賊の奴らも、武器防具が全くの統一がなされていた。



剣なら剣、鎧なら鎧で、全く同じ規格で出来ているのだ。

それもどれかが作りが甘いとか全くない。完璧にまで同一の物体だった。


それだけでも妙なのに、盗賊如きが隅々まで武装を行き届けるなんて、妙を通り越して怪奇現象にも等しい。


なぜなら、武器はともかく防具を買う金が有ったら略奪なんてしないのだ。

これではまるで軍隊である。



「さあ、コボルトの職人なら出来るかもだけど、そういう奴らは気が難しいからこんな安売りみたいな真似はしないだろうからね。」

「さっき掴まえた部下のコボルトに聞いたが、こんなのは不可能だって言われたぞ。」

「ふーん、やっぱりそうなのかい。」

そこまでの情報を統合し、クラウンはある可能性へと思い至る。



「まるで、人間が手を貸したみたいだね。」

「なんだって?」

冗談みたいな口調でクラウンが言ったのは、確証も無いし可能性が低いからだ。



「メイの居た国では、全く同じ物を大量に作ってコストを下げたりするんだって。機械とかを使って製造工程での無駄を省いたりしたりしてね。」

「機械って、力の弱い下級魔族が重い物を運ぶために使うあれだろ?」

「いや、人間の機械は発達しているらしくてね、命令された行動を延々と繰り返すゴーレムみたいな感じなんだとか。

需要と供給を満たすためにそんなことを考えるなんて、人間って面白いよね。」

「だが、それはないだろ。ここの人間は魔術で物を作る。大量のものを作って常時供給なんてできやしないからな。

外との交流なんて無いに等しいとも聞いた。仮にそれが可能だとしても、人間が魔族の領域に踏み入れられるはずがない。魔族と人間との間に商売なんて成り立たないんだ。」

「亜人の連中を通すしかないからね、関税とか考えると、折角コストを下げてもそこで値上がりするから結局は同じことだし。意味が無い。」

二人はそんな会話をしながら、盗賊の首領だったトロールを見た。



「こいつから話を聞ければ良かったんだけどねー、いやー、弱すぎてぶっ殺しちゃったから全く聞けなかったよ。これだから下級魔族は嫌なんだ。」

「命乞いをしたこいつらを嬉々としていたぶったのはお前だろう。

まあ、助けるつもりなどもとより無いが。」

ちなみに、魔族に捕虜とかそういう概念は無い。掴まったら即処刑である。



「・・・・一応、このことは“代表”に伝えておくか。」

「そうしておいた方が良いかもね。これはちょっと妙だから。

それに、何者かが裏でこの連中に手を貸していたのは事実だろうから。」

ゴルゴガンの対応に、クラウンは頷いた。



「いや、僕が行こう。」

「なに?」

「いやだから、僕が直接“代表”に報告しようと思ってね。ついでに探りを入れようと思う。今回の一軒は、不思議だったね、で済ませるには少しきな臭い。」

「だが良いのか? あれなんだろう・・? その。」

「旦那には感謝してるよ。僕を匿ってるなんて知れたら、首が飛ばされてもおかしくないからね。僕ら一族のプライドは高い。追放された身で、どこかでのうのうと生きるなんて許されないのさ。」

「そういうことを言っているんじゃない。お前が色々と思うことがあるから俺はお前を匿うことを決めた。いや、お前は強い。強いから匿うのを決めた。強い奴を亡くすのは惜しい。理由なんてそれで十分だ。だが、お前はそれで良いのかと訊いているのだ。」

「武人だねぇ、旦那は。あんな美人の奥さんを貰えたのも納得だよ。

だけどね、旦那。僕にも理想が出来たのさ。いつまでも向き合わないのは失礼ってものさ。それに、逃げるのは僕の性にはあわない。」

「・・・・・・良いだろう。」

クラウンの表情に何かを感じたのか、ゴルゴガンは重々しく頷いた。



「戦いも終わった。一度余所の村の長に挨拶を終えたらすぐに我らの村に帰還し、そこですぐに報告の文章を書く。お前はそれを“不在宮”に届けろ。当然、俺の名を出してな。そこを忘れるな。」

「分かっているさ。一応、何か有っても旦那には迷惑が掛からないようにはするようにするつもりさ。ああ、それと・・・」

「ああ、わかっている。」

「旦那・・・ありがとう。」

「お前が礼を言うだと? 明日は嵐でも来るのかね。」

ゴルゴガンは、豪快に笑ってクラウンと共にその場を後にした。





・・・・

・・・・・・

・・・・・・・・





現在時刻、盗賊を撃退したその日の夜である。


「う、うえぇ・・・気持ち悪い。」

結局あの後帰ることも許されず、あのリザードマン達に戦勝の宴に付き合わされて飲んだことも無い酒を飲まされ(未成年という意味で)、そのまま真夜中まで時間は経過した。


あのリザードマンも結構気のいい奴であった。

どうやらリザードマンは強い奴には一定の敬意を示すらしい。

あいつは根っからの戦士のようだ。



当然ながらエクレシアも同席していた。ありがちな悪酔いをするような奴ではなかったが、結構飲まされて酔い潰された。

今は彼女を負ぶっている。正直、これを理由にして帰ると言い出さなければきっと朝まで付き合わされたことだろう。



「うーん・・・メイさん、ふしだらな行為はゆるしませんよー・・・ぐー。」

「こいつの中で俺はどういう認識なんだよ、おい。」

聞きたくも無い寝言を聞かされながら、俺たちは帰路に付く。

背中の感触であるが、正直ふしだらな感情を抱くほど無い。何がとはまで言わない。




「あら、メイじゃない。」

ふと、途中でサイリスと遭遇した。

なにやら周囲をキョロキョロと見渡している。


「どうかしたのか?」

「うん、なんか怪しい奴を見かけたから、探しているのよ。」

「・・・・魔族にも怪しいとか怪しくないとかあるのか。」

俺から見たらどいつもこいつも怪しい連中には違いない。



「むしろお前の方が怪しいぞ。こんなところでキョロキョロして・・。」

「え、ホント?」

何か琴線にでも触れたのか、サイリスは酷くショックを受けたような表情をした。



「わ、悪かった、そんなに怪しくないから、な?」

種族が夢魔だから夜に立っていると、そういう風に間違われたりするのだろう。


俺は彼女を慰めようと一歩前に出ると、ぴくん、とエクレシアが動いた。



「ん?」

「・・・悪魔の気配がします・・・。」

ゆらり、と幽鬼のように俺の背中からエクレシアは離れて、サイリスを見据えた。かなり目が据わっている。これはマズイかもしれない。



「お、おい、エクレシア、別に何もされてないからな? な?」

「そ、そうよ!! サキュバスだって男を選ぶ権利は有るのよ!!」

とりあえず俺が彼女の両肩を掴んでいきなりサイリスを斬りかからない様に位置取る。



「メイさん。」

「は、はいぃ!?」

しかし、エクレシアに逆に俺の両肩を掴まれ、変な声が出てしまった。

だってこいつ、目が怖いんだもん。戦闘時とか訓練の時みたいに!!



「今すぐ、結婚しましょう。」

「え、あ、は?」

何を言ってんだこいつ。マジで酔ってやがる。


「淫行を免がれんために、男はおのおの其の妻を持ち、女はおのおの其の夫を有つべし、と。聖書にも書いてあります。

これ以上、悪魔の好きにはさせませんとも。貴方はいかにも優柔不断そうな顔をしていますし、そこに付け込まれることもあるかもしれません。だから私が貴方を守りましょう!!!」

「悪かったな優柔不断そうな顔をしてて!!」

こいつ、バケツでも持ってきて水でもぶっかけてやろうか。



「つーか、俺はまだ結婚できる年じゃねーよ!!」

「私は今年で十九です、私は平気です。」

「お前年上だったのかよ、っていうか、愛を説いてるくせに愛の無い結婚を勧めてくるんじゃねーよ!!!」

「愛していますとも、貴方がどんなダメな人間でも私は愛しましょう。でないと誰が貴方みたいな捻くれた性格最悪の人を愛すと言うのですか!!!」

「酔ってるからって言って良いことと悪いことあんだぞこの野郎!!」

涙ぐみながら本気でそんなことを言いやがるこの女。

酔っ払いに正論なんて通用しないは良く分かっているのに、ちくしょー。



「さあ、誓いのキスを・・・」

「どこまで過程をすっ飛ばしてんだこいつ・・・」

じりじりと掴んだ肩を引き寄せて迫ってくるエクレシア。こいつ、何でこんなに力強いんだよ・・・そして女に負ける俺って・・・。


「ちょ、サイリス、助け・・・って、いねぇし!!」

振り返れば無情にも助けてやろうとしたサイリスは影も形も見受けられなかった。


こ、こうなったら・・・。



「(魔導書!! 何でも良いから助けろ!!)」


―――『拒否』 このまま彼女の愛を受け入れ、本書を継承する子を産んでもらうことを推奨。本書の存在目的は知識の継承と伝達であるのです。彼女との交配で次世代の子の才能は有望と推測されます。推奨。推奨。推奨。



「燃やすぞ、このクソブックぅぅぅ!!!」

全く助ける気も無い魔導書に俺はそんな叫びを上げた。



―――『回答』 その場合、本書は設定された防衛機能により敵性勢力を完全排除します。よろしいでしょうか?


ちなみにこの魔導書は使わせないだけで、こいつ自体が俺よりずっとヤバイ魔術を扱えるらしい。つまり、この魔導書と喧嘩したら絶対負ける。

女に力で負け、魔導書には屈し、これで泣きたくなければ男ではない。


もう、最後の手段である。



「あーーーー!! あんなところでサイリスの奴が男を誘ってるーー!!」

「なんですってーーーー!!!」

こいつが単純で助かった。


あっさりと俺が指差した明後日の方向に突っ走るエクレシア。

これでは助けた意味はないっぽいが、俺を見捨てたあいつに同情の余地はない。


もう俺はあいつを放っておいて帰る事にした。

今日は疲れたし、眠くて死にそうである。





・・・・

・・・・・・

・・・・・・・・






「おーい、エクレシアー。」

「・・・・・・。」

翌日、彼女に用意された部屋のドアを叩くが、返事は返ってこない。

どうやら酔っていた時のことを覚えているらしく、今朝からこんな調子である。



「今日は一日中祈りを捧げます。自主的に訓練をしておいてください。」

「あ、ああ・・・」

ギィンギは戦地だし、今日まで食事を作ってくれていたエクレシアがこれでは、家に居ても食事にはありつけないだろう。


一応クラウンの奴が生活費を置いておいてくれているので、そこから食事代を拝借して何か食いに行くことにした。




「おい、人間!!」

「ん、ああ、お前か。」

道中呼び止められたので振り返ると、軽装のリザードマンが近づいてきた。

昨日のあいつだ。どうやら警備で巡回しているらしい。向こうにペアの魔族が見える。



「なんか、怪しい奴が出歩いているって話が何人からも寄せられているから気を付けろ。クラウン様や旦那達が帰ってくるまでは油断できないからな。」

「ああ、分かった。巡回ご苦労さん。何か有ったら伝えるわ。」

言うことだけ言って彼は仕事に戻っていった。


どうやら本当に不審者が居るらしい。

昨日サイリスが見かけたと言っていた奴だろうか。




「ん?」

適当に人間でも食える食べ物を露天で買い、適当な場所に座って食っていると、目の端になにやら怪しい人影が見えた。


「なんだあれ・・・。」

本当に見るからに怪しい人影だった。


ぼろきれの様なローブを頭からすっぽりと被り、全身を隠している。

見るからに私は怪しいですよと主張しているような奴だった。


そして、なにやら建物の影から露天や店屋がある方をちらちらと見ては、手元にある紙に何かを書きとめている様子だった。

そんでもって、巡回の警備兵がやってくると、急いで身を隠した・・・これは、怪しすぎる。本気で隠れる気があるのか小一時間問い詰めたい。


俺はさっさと飯を口に押し込み飲み込むと、とりあえずそいつに近づく事にした。



と、思ったら、もう用は済んだのかさっさと身を翻してその場を去ろうとする。


ここは通報するべきところだろうが、思い切って俺はその不審者を追跡することにした。本当に思い切ったことである。



不審者は商店街から住宅地に向かったようだ。

こっそり後から付いていくと・・・・・。



「それで尾行したつもりならちゃんちゃら可笑しいわね。」

後ろから首筋に見せ付けるように折り畳みナイフが押し当てられていた。



「・・・・あれで隠れているつもりだったのか?」

「だって、隠れるつもりなんてなかったもの。」

ああそうかい。


そこで、ふと気づく。



「あんた・・・人間か!?」

「厳密にと言えば違うかもしれないけど、イエスと答えておきましょうか。」

折り畳みナイフの刃で俺の首筋の産毛を撫でながら、不審者は言う。

女の声だ。それもまだ若い。



「ここは魔族の村だ、何で人間が居るんだ。」

「その質問、そっくりそのまま自分に返ってくるって分かってる?」

ふふふふ、と不審者の女は俺の言葉に笑って返した。


「大方奴隷かそのあたりでしょう? 私が倍額で買い取ってあげましょうか?」

「余計なお世話だ。」

「私は市場調査をしているのよ。魔族が何を売り何を求めているのかをね、マーケティングってやつよ。一言でビジネスと言っても良い。」

「ハン、商売なんて成立するのかね。」

「するわよ、しないわけがない。この世に物を求めていない存在は居ない。そして、求める物が無ければ作り出してしまえば良い。それが、商売なの。」

「はぁ、ご立派なこって。うちの知り合いとどれくらい立派かね。」

「うふふふ、お金を儲けることは神にも許された行為よ。富む者は幸せに出来ないとかほざいているけど。全知全能が聞いて呆れるわ。」

「・・・・・・・・・・少なくとも、そんな神様もあんたよりは崇高だろうよ。」

「そうかもね、どうでもいいけど。あなたと同じように、どうでもいいの。このまま返してあげるから、さっさと消えなさい。」

そう言って俺を突き放す不審者。



だが、俺はそのまま振り返って、顕現した魔剣を逆にそいつの目の前に突きつけてやった。

しかしそいつの驚きは一瞬で口笛を吹いておどけて見せた。


「なるほど、同業ね。同じタイプという意味で同業かどうかは知らないけど。」

「とりあえず突き出すが良いか? 負い目が無いなら良いだろ?」

「あなた、人間のくせに魔族に与するのね。裏切り者と罵ればいいかしら、売国奴・・いえ、売種奴と言うべきかしら。」

「少なくともお前さんの仲間に成った覚えは無い。」

「私もあなたみたいな頭の悪そうな人間を仲間だとは思いたくは無いわね。」

ああ言えばこう言う、こいつも自分は頭が良いと思っている奴に違いない。



「とりあえず、名前は?」

「そうね、じゃあクロムとでも名乗っておきましょうか。鉄鉱石のあれよ。」

「本名言いやがれアホ。」

「アホはあなたじゃない? 魔術師に本名聞いて名乗る馬鹿は居ないわ。古代中国において武将とか名前以外に字を持ってた理由と同じよ。本名は知られると呪いを用意に掛けられるの。それを避けるため昔から魔術師は本名以外に名前を持っているものなのよ。

まさか知らないとは言わないわよね、まさかモグリじゃないんだから?」

「知ってるさ。」

当然、初耳である。


「ああ、モグリなのね。最近はあなたみたなのが増えて私みたいな正当な魔術師が困ってるのよ。だってあなた達の無知の所為で私まで同列に思われちゃうものね。無知が許されるのはただの人間だけよ。」

「じゃあ、あんたも覚えておくんだな。

ここは魔族の土地だ、人間が入っちゃいけないんだよ。」

「あなたも馬鹿な人間ね。目の前の人間の実力が分からないの? 大体の魔術師は私より弱いからこう言っておけば大抵は大丈夫なんだけど、あなたはどうかしら?」

「試してみるか?」

「じゃあ先人からの教訓を一つ、あなたに与えましょう。」

そう言って、その女はあろうことか抜き身の剣を掴んだのだ。


日本刀のように鋭くは無いとは言え、結構な切れ味を誇るこの魔剣をである。



「あなた、動ける?」

「は? ・・・あれ?」

動けなかった。首から下が小指一本動けなかった。



「ホント、馬鹿ねぇ。さっさと斬り殺せばいいものを。私の無駄話になんて乗るから私の術に掛かるよ。ここまで馬鹿だと可愛らしさすら感じるわね。」

「この、やろ・・・」

徐々に首や舌先まで動かなくなる。すぐに視線すらも固定されてしまった。


「じゃあねー。お馬鹿クン。私は調査で忙しいの。あなたのおままごとに付き合うほど暇じゃないのよ。悔しかったら掴まえてみなさい。多分数日は調査でここに居るとは思うから。あなた程度の人間に私を掴まえることができるのなら、ね。」

そう言ってクロムと名乗った女はひらひらと手を振って俺の前から去っていった。



―――『補助』 拘束術式解呪します。



「初めからそうしろよ。」

そして、今頃になって魔導書が俺に掛けられた魔術を打ち消した。



―――『回答』 相手の施術が巧妙で感知できませんでした。どんな魔術か、不明です。相手の実力が未知数である以上、本書の存在は秘匿すべきであると判断しました。


「くそ、本当に役に立たないな、お前。」


―――『回答』 特に敵意は無かったので、戦闘行為そのものが無意味と判断しました。しかし、これだけは言えるでしょう。



「なんだよ。」


―――『回答』 マスターより彼女の方が遥かに優れた魔術師だと言うことです。本書を使用する方法は二通り存在します。本書が使用者として選ぶか、本書を無理やり制御下に置き、支配するかです。彼女は後者が出来る魔術師だと判断できます。



「・・・・・それって、すごいことか?」


―――『回答』 言葉を尽くしてまで回答する必要性を感じられません。


そう、言うまでもないことである。



「なんだってんだ、畜生。」

何なんだよあの女は。ふざけやがって。


絶対にとっ掴まえてやる。




しかし、その日は一日中探したが、あの女は見つけられなかった。













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