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魔族の掟  作者: ベイカーベイカー
一章 魔族と人間
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第九話 囚われた心





「神の声を聞いた、だと?」

その日、騎士ジュリアスは大聖堂の廊下でばったりと出会った己の上司であり旧知である“騎士総長”の言葉に、目を見開いて驚愕した。



「まさか、それは本当なのですか?」

「飽くまで、当人の証言だがな。」

「・・・・・・・・」

“騎士総長”の難しい表情に、ジュリアスも表情を顰めた。



「今では彼女も覚えていないだろう。なにせ、声を聞いたのは胎児の頃だと言う。幼児は母親の胎内の記憶を六歳頃まで覚えていると言うが、それまでにそのことを彼女が口にしたのだと言う。教わってもいない難しい言葉でな。」

「・・・・長年私も神に仕えてきたが、本当にそんなことが起こりうるのですか?」

「不遜だぞ、ジュリアス。」

「失敬。ですが、神は偶像であるから意味があるのです。この世の終わりまで姿を現さず、己の死まで会うことすらできないから尊いと私は考えています。

勿論、主の教えは信じていますが、・・・まさか・・。」

まるで聖人のような、と彼は言ったがそれではまるで聖人そのものである。


「それを聞いた母親が教会へ駆け込み、そこの神父がたまたま身内でこちらに連絡が行き、まだ幼児である彼女は我々が引き取ることになった。

神の声を聞いたと言う事実はともかく、彼女の才能は本物だった。『カーディナル』は“本物”だと確証したようだが、真偽は定かとは誰も言えんよ。」

「世が世なら異端審問は免れませんね。」

「ああ、だが、今思えば悪いことをした。両親の家が貧しかったとは言え、彼女を引き取る際にこちらは生活の保障を条件にした。

しかしそれは殆ど己の子を売り渡したようなものだ。そして、我々のしていることはどう取り繕っても人殺し。親も子も、どちらにとっても辛いだろう。」

「騎士総長殿、貴方がそれを言っては士気に関わります。

我々は邪悪な儀式や魔術で人々を害し、悪へと導く輩を倒し、正義の為に戦っているのですから。」

「だが、事実だよ。我々に天国に行く権利があると思うか?

我々にできることは、この地上を悪意から守り、『カーディナル』の理想の為に尽くすことだ。それが神の為に成ると信じてな。」

「それを決めるのは、それこそ神のみです。」

「そうであってほしいな。」

“騎士総長”はそう言ってため息を吐いた。

戦闘になれば獅子奮迅の活躍で比類なき活躍をすると言う彼も、もはや戦い疲れ老いた獅子に過ぎないのだろう。


見た目はジュリアスと同じくらいの壮年の男だが、魔術により若さを保ち、実質何百年も戦い続けている老兵だ。

それは、聖書の聖人にも匹敵する苦行だろう。



「では、なぜエクレシアに魔族の地へ向かわせたのです?

ただの布教が目的なら、もっと適任の宣教師がいるでしょうに。」

あんな布教のイロハも知らないだろう小娘に何が出来るとまでは言わないが、もっと実績のある百戦錬磨の人材がこの大聖堂にはいるのだ。

ならなぜ、確実性の薄い彼女にそんな大役を任せたのか。


彼女は別に奇跡を発揮したわけでもなく、ただの信心深い騎士の一人でしかないのだから。



「それは『カーディナル』に聞くしかないだろう。あの御方のお考えは時々常識や常道を超越している。こういうことは考えたくはないが・・・」

「まさか、『カーディナル』が自分の地位を脅かすかもしれない存在である彼女を死に追いやろうと・・?」

「それこそまさかだろう。あの御方の代わりなど、それこそ神の代弁者でも成りえないのは我々も承知しているだろう?

それに、あの御方は人を心の底から愛している。それを私は何よりも知っている。神の意思でその声が聞こえないからと言って、嫉妬に狂うようならば、それは神の意思を否定し、己の信仰心の否定したことに他ならない。そんな愚かな御方ではない。」

「では、何を考えたくないのですか・・・?」

「・・・・・・忘れろ、所詮は杞憂だ。」

“騎士総長”はそう言って、先に早足で歩いていってしまった。



「いずれは、お前にこの席を譲ろうと思っている。

『カーディナル』もお前のような騎士を持てて誇りに思うだろう。」

「ははは、ご冗談を。我々の騎士団長は貴方だけですよ。

・・・・・それに、私は人間として生きて死にたいのです。」


そして二人は分かれ道に差し掛かり、その場で二人は各々用がある左右の道へと別れた。





・・・・

・・・・・・

・・・・・・・・





「さあ、どこからでも打ち込んでください。私を殺す気でどうぞ。」

エクレシアはどこからか調達してきた二メートル近い木の棒の先に大きめの石を縄で厳重に括り付けたお粗末な武器を振り回し、俺に向かってそう言った。



「なんだ、その変なのは。」

「ハルバードの代わりです。私、剣よりこちらの方が得意なので。」

どういう力をしているのか、或いは魔術によるものなのだろうか、片手で扱いにくそうなハルバードもどきを振り回す。



「白兵戦の主力が昔から長柄の武器だっては聞いたことはあるが、それ本当に扱えるのか?」

「ええ、我が騎士団の主兵装はハルバードやメイスが殆どで、剣は近接戦での防御や十字架と見立てた“杖”として扱います。

剣の扱いは熟練が必要ですからね。これはハルバードとは少々勝手は違いますが、貴方相手なら許容範囲でしょう。」

「おい、俺はその程度の相手ってことかよ。」

「事実ではないですか? 私は十年以上昔から神の御業を学び、三年近い実戦経験があります。ぬるま湯に浸かりきった国の人間の付け焼刃でどうにかなるとでも?」

それは事実だ。全くの事実だが、なんか普段と対応が全く違う気がするのは気のせいだろうか。


なんと言うか、目が違う。



「慢心は捨てなさい。実力が全てです。神に力を与えられて突然急に強くなるなんてことはまずないと思いなさい。強力な魔具を手に入れ、力に溺れた挙句、己の魔力が暴走し自滅した魔術師を何人も見ています。分不相応の力は破滅しか齎さないのです。」

「あ、ああ・・・」

色々な感情を我慢して稽古をつけてもらおうと思ったらこれである。



「魔術は己の才能とそれに伴う実力、それが無ければ己が覗く深淵へと墜ちてしまうのです。そこは肝に銘じておい下さい。」

「もう体験済みだよ・・・・。」

「では、生き残れたことに神に感謝を。なるべく実戦に即した形式で訓練を行います。絶えぬ集中力、適切な判断力、そして何より己の積み上げた実力が必要です。お互いに怪我を覚悟で打ち合いを行い、極限の状況を出来る限り再現します。故に、容赦はしません。」

こいつ、もしかしたらすごく厄介な奴なのかもしれない、そんな気がする俺であった。

あほみたいに純粋な奴なのだから、自分の言ったことは当然守っているに違いない。多分こいつはかなり格下の俺相手でも絶対に慢心とかしないだろう。



「(・・・・魔導書、ちなみに俺がこいつと戦って勝つ確率は?)」


―――『回答』 本書の惜しみないサポートを加味して、なんとマスターの勝率はポーカーの初期配置でストレートフラッシュを出すくらいもあります。



「(まるで高いような言い方じゃねぇか!!)」


―――『回答』 当初のサポートが無ければ、マスターの勝率はポーカーの初期配置でロイヤルストレートフラッシュを二回連続で出す程度です。


「(・・・・・俺が悪かったよ。)」

パーセントに直すのも嫌になるくらいの勝率だった。



―――『忠告』 本書は対魔術師戦闘を重視していませんので、適切な情報支援は最低限しかできません。マスターには彼女の教えは重要だと判断します。



「分かったよ、・・・・『ケラウノス』を。」


―――『了承』 魔剣『ケラウノス』の顕現を開始します。



すぐに俺の右手に魔剣の重みが現れる。

瞬く間に魔剣がこの世に完全に出現した。



「情報体からのマテリアライズ(物質化)は本来ならそれだけでも高等魔術です。せめてそれで意表を突くぐらいはやってのけなさい。」

「・・・・悪かったな、実力不足で。」

「この世には、そこまで至ることの出来ない魔術師が半数以上もいるのです。いじける前に研鑽を積み、その力に相応しい人間になるのです。」

なんか、ムカッとした。ムカッと。


まるで子ども扱いだ。

大人と子供以上に実力差はあるのは分かっている。だが、もっと言い方って物があるだろうが。



「行くぞ!!」

「行くぞと言って仕掛けてくる敵が居ますかッ!!」

俺が魔剣を構えて一歩踏み出す頃には、もうエクレシアは突撃体勢に入っていた。


相手は長柄の武器なので少しでも有利な位置に行こうと薙ぎ払いに注意しながら接近しようとするが、エクレシアの取った行動はサイドステップからのタックルだった。



「ん、がはッ!?」

「格上相手に正面から挑んでどうするのです!!」

そのまま突き放されて、すぐに弧を描いて飛んできたハルバードもどきの一撃を貰った。

俺はその衝撃で地面を二転三転と転がってしまった。



「いき、なり・・・フェイントかよ!!」

「武器にばかり目が行っているのがバレバレです。当然の反撃だと思いなさい。」

勿論、俺の抗議なんて聞き入れられるはずも無く、エクレシアはハルバードもどきを振り上げて迫ってくる。


何とか起き上がって防ごうと試みるも、上半身が起き上がる前に振り下ろしてきた。

ぶつかり合う魔剣とハルバードもどき。



「う、ぐぐ・・・」

不利な体勢で押し込まれ、徐々にと言うには早すぎる早さで押し負けていく。



「体内の魔力が乱れています。身体の強化が散漫になっている証拠ですよ。」

「初めての訓練で何を求めてんだよ、お前は!!」

「敵にそんな言い訳が通用しますかッ!!」

「ぐげッ!!」

鍔迫り合いを一方的に放棄し、腹を思いっきり蹴り上げられ、俺はボールのように地面をバウンドしながら再び転がる。



「私が戦った敵はもっと卑怯でした。

おぞましい行為により成る邪悪で冒涜的な魔術を繰り、時には善人のように振る舞い言葉巧みに隙を窺い、時には一般人を盾のように扱い、教団で習う礼節や礼儀が成立することなんて一度もありませんでした。

相手に事情があるにしても、戦ってねじ伏せるまで、まともに会話なんて出来ないのです。私が居たのはそういう場所です。」

「崇高な教えを説いておいて、やってることは結局は力かよ・・・・」

「私たちの行う異端審問は同じ聖職者にも疎まれる仕事でした。信用できるのは同じ命令を受けた仲間だけだったのです。己の身を守るためにそれは仕方の無いことだったのでしょう。

それでも昔に比べて事前に殺害の許可が下りることは滅多になくなったそうです。

我々の目的は飽くまで罪人の改心であり、殺すことではないのですから。」

こう本職の口から語られると、随分と自分のイメージとは違っていたんだなあ、とは思う。

だが実際、彼女の戦意を受けると、そこに甘さなんて介在していないのだろう。


彼女はこちらが立ち上がるのをそんなことを語りながら待っていてくれたようで、俺が魔剣を構える頃には雄弁だった口も閉ざされた。



「ひとつ、妥協を許しましょう。」

「え・・?」

「魔導書による体内の魔力制御を許可します。せめて戦闘にだけでも集中できなければ、上達も何もありません。魔術の扱いや魔力の制御はそこから徐々に体で覚えておけばいいのですから。」

「・・・・わかった。」

俺はすぐに魔導書に体内の魔力の制御を命じた。


ほぼ停滞していた俺の体を巡る魔力が血流に沿って循環を始める。

悔しいが、魔導書の行う魔力の制御は俺が自分でやるより数倍上手い。

これだけで動きが劇的に違ってくるのだから信じられないだろう。


魔力の正しい循環は俺の身体能力を生理的限界にまで引き上げる。

この間はそれ以上にまで強化したからあんな目に遭ったのだ。


これくらいなら・・・まあ、翌日に筋肉痛ぐらいで済む。



「では、もう少し容赦しなくしますので、御覚悟を。」

「・・・・・・お手柔らかに頼む。」

当然ながら、しこたま蹴られ殴られぶっ飛ばされたのは言うまでもない。





・・・・

・・・・・・

・・・・・・・・




「もう痛むところはありませんか?」

「ああ、これで悔しさも消えてくれれば完璧だ。」

魔力の強化がなければ骨が二桁は折れるくらいは散々打ちのめされた後、エクレシアは俺に治癒魔術を掛けてくれている。


クラウンなんかよりずっと効果的らしく、瞬く間に痛みが引いていく。

逆に屈辱感は二次関数的に上昇しているが。



「誰もが最初は素人なのです。貴方は才能が許されているのですから、絶え間ぬ努力で実を結ばなければなりません。この世には、それが許されない人たちがいるのですから。」

さっきの修羅のような気配はどこにやら。

いかにも私は慈愛が溢れていますよー、みたいな雰囲気が復活している。



「俺もお前みたいになれるのかい?」

「本当に強大な魔術師は、血筋から厳選されるそうです。何代も何代も、最果ての真理へ到達するために。

その点、私は市井の出なので。この才能も神に許されたものだと日々感謝を忘れてはいません。ですから、可能な限り、己を研鑽しているのです。

貴方もきっと同じですよ。」

「立派だな、俺には真似できないよ。」

「別に真似をする必要はありませんよ。他者を見て己を省みればいいのです。」

「それが出来れば、苦労はしないさ・・・。」

「・・・・・・・貴方には愛が足りないようですね。」

「は?」

いきなり何を言い出すんだこいつは。



「人を慈しむ心ですよ。」

なるほど、確かに足りないだろう。そもそもそんな物は無いのだから。



「まさかお前、俺に好かれたいとか思ってるの?」

「いけませんか? だって大嫌いな人間と共にいるのは苦痛でしょう?」

「よーくわかっているじゃないか。実際苦痛を与えてくれてるからな。

治癒が終わったら速やかに目の前から消えてくれると助かる。」

「道は長そうですね・・・。こういう言い方はあまりしたくはないのですが、貴方は性格がねじれている。」

「聖職者は素直に悪口も言えないのか?」

「ではハッキリと言いましょうか。私は貴方みたいな性格の人間を見ていると虫唾が走るのです。悪の道に堕ちた人たちは皆自分勝手でした。だから一刻も早く矯正しなければならないと思っています。」

「なんだよ、お互い様じゃないか。」

結局、人間なんてこんなものである。



「一緒になさらないでください。私は貴方みたいに半端ではないのです。」

「何だと?」

その言葉が、的確に俺のことを突いていたからか、俺は無性に腹が立ってエクレシアの胸倉を掴んだ。


「暴力に訴えますか? よろしいでしょう。好きなだけ殴ると良いでしょう。

ですが、貴方が、貴方如きが、私に傷つけられればの話となりますが。」

その時、初めて、エクレシアは俺に慈愛以外の表情を見せた。


明らかな、嘲りである。



「お前・・・そんな顔できるんだな。かわいいよ。ぐちゃぐちゃにしてやりたいくらいには。それがお前の本性か?」

「表裏の無い人間なんて、居ないでしょう?

私は自分が愚かな人間だと自覚しているのですよ。だから無心であるように努めている。そういう意味では、貴方は本当に私の心を乱してくれる。」

「良かったよ。俺は今までお前は人間じゃないと思ってた。

だから本当に良かった。安心したんだ。お前はやっぱり俺の大嫌いな人間だ。」

「貴方も本当に罪深い人です。

私もそうですが、貴方も自分のしたことを忘れたとは言いませんよね?

罪の報いは、死です。そして、そのまま罪に奴隷のように囚われる。ほら、今の貴方のように。」

俺は、この時、初めて女を殴った。


仰け反りすらしなかった。



「どうしましたか?」

嘲りながら、俺の大嫌いな人間は言うのだ。


もう一度殴った。

まるで殴ったと言う事実すら無いとでも言うように、手応えすらなかった。


お前の手なんて届きすらしないとでも言わんばかりに。



もう一度殴った。

当然、届かない。当たっているはずなのに、空振りしているようだ。


もう一度殴った。

本当に自分が何をしているのか分からなくなるように思えてきた。


もう一度殴った。

もう一度、もう一度、もう一度。結果は変わらない。



「ほら、貴方は奴隷だ。いつまでもそうやって、罪を重ねる奴隷だ。」

「うるさい、うるさい!! 殴らせろ、殴らせろよ!!」

「ええ、だから私は両頬を差し出しているでしょう?

好きなだけ殴ればよろしい。気が済むまで、己の愚かさと無力さを噛み締めればいい。」

「くそ、くそッ、くそッ!!!」

酷使で腕が痛くなるほど殴っても、まるで雲を殴るように手応えが無い。



いつの間にか、俺は力尽きて地面に大の字で倒れこんでいた。

あれから俺がどれくらい無益な行為を続けていたか分からない。それでも彼女は何も言わずにこちらを見てくるのだ。


慈愛も、嘲りも無く、ただじっとこちらの瞳を覗いてくるのだ。



ただそれだけなのに、俺の本性を見透かされているようで、涙が出てきた。


俺は、本当に弱い人間だった・・・・。

そんな俺が彼女の瞳に映り、無言のうちに見せ付ける。




「もう、許してくれ・・・そんな目で、俺を見るなよ。」

「悔い改めましたか?」

「悪かった、俺が悪かったから、もう許してくれよ・・・」

「私は何もしていませんよ。」

「違う、違うんだ・・・。」

俺は上手く言葉を伝えられなかった。まるで別の次元を隔てているように。


いいや、そうじゃない。

俺が彼女にどうやって言葉を伝えればいいか知らないのだ。


次第に俺は、何を言って良いのか分からず、ただ口が開閉するだけになってしまっていた。

とても滑稽な自分が、彼女の瞳に映って嫌になる。



だが、その時彼女は両目を閉じて、俺の首の後ろに両手を回した。

抱きしめられているのだと、何秒かして気づいた。




「貴方の心に鬼が住んでいるのなら、私が退治しましょう。人は人としてしか生きられないのです。貴方が鬼にだなんて、とても可笑しな話なのですよ。

神に誓って、私は貴方の罪を赦しましょう。代わりに貴方も私の贖罪を背負うのを手伝ってください。

私のは貴方と違い少々重たいですが、まぁ貴方にはそれくらいの試練は必要でしょう。」

「・・・俺は、変われるかなぁ・・。」

「努力なさい。神とて貴方の意思を捻じ曲げることは出来ないのですから。」

「・・・・・・・・・ああ。」

もしかしたら、俺はもう一度人を信じられるかもしれない。


少なくとも、彼女だけは信じれると思った。





「き、きゃー!! こんな昼間から、しかもお外でするなんて・・・人間って、す、進んでるのねー・・・・。」

ふと、黄色い声がした方を辿ると、サイリスが顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。


ちなみに傍から見れば地面に転がっている俺にエクレシアが折り重なっているから、見ようによってそう見えるかもしれない。

更に付け加えるなら、ここはクラウンの家の前なので、ご近所さんのサイリスが居ても全く不思議じゃない。



「いや、これは―――」

「人の心に巣食い邪悪な姦淫を唆す悪魔め、純粋な人の営みを汚すと言うのか、・・・許すまじ、成敗!!」

ジャキン、と飛び上がりながら腰に帯びていた剣を引き抜いたエクレシアが、サイリスに飛び掛った。



「え、ええぇ!! な、なんでぇ!! 私悪いことしてないのにぃ!!!」

「地獄へ帰れええぇぇぇ!!!」

逃げ回るサイリスと、それを追っかけるエクレシア。


そんな二人を見ていると、なんだか自然と笑いがこみ上げてきた。




人と魔族の共存・・・・そんな夢を見るのも、良いかもしれないなぁ。













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