「ごめんね」
「人とはなんなのか」、そんな哲学的で答えのないようなことを毎晩、僕は考えている。
そういうのはいつも、夜一人になったときにやってくる。
僕は今日も介護施設へと出勤する。
「おばあちゃん、今日はいい天気だね」
晴天の下、車いすを押しながら僕はそう話しかける。
「いつもいつもごめんなさい。私なんかに時間を使わせてしまい」
おばあちゃんはいつもごめんなさいと言う。
「他にも仕事があるだろうにごめんなさい、介護士は大変な仕事ですよね」
おばあちゃんはまた謝る。
「、、、そうだね。これも仕事だから。」
僕の身体からはその言葉しか出てこなかった。
窓から差し込む夕日に照らされて、今日の退勤時間を思い出す。
そして、帰り際におばあちゃんの部屋へと立ち寄る。
「今日はもう帰るんですか」
おばあちゃんは聞く。
「うん、おばあちゃん、僕は最後まで一緒にいるから」
そんな僕の言葉に対して、おばあちゃんはお礼の言葉をくれる。
「ありがとうございます。こんな赤の他人に」
僕は介護士である。
そして今目の前にいるおばあちゃんは僕の実のおばあちゃんでもある。
僕はおばあちゃんに背を向ける。
込み上げてくるものを抑え込み、今日はこのまま帰ろうと歩き出す。
人とは、記憶でできた存在である。
そんな答えを導き出す。
わかったところで意味のないことなのだが。
僕が部屋の扉に手をかけるとおばあちゃんは僕の背中へと声をかける。
「ごめんね、まだ全部忘れたわけじゃないんだけど、忘れたことを認めたくなくてね。本当にごめんね」
僕は背中越しに返事をする。
「大丈夫、言ったでしょ。何があっても僕は最後まで一緒にいるから」




