表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第3話 王都の医師たちが驚いた理由

 王都に着いたのは、日が傾き始めた頃だった。


 高い壁。途切れない人の流れ。見上げるほどの建物。村とは何もかもが違う景色に、思わず足が止まりそうになる。


「止まるな」


 短く言われ、我に返る。


「……すみません」


 案内されるまま、石造りの大きな建物へ入る。中は静まり返っていて、空気まで張り詰めているようだった。


「ここだ」


 通された部屋には、すでに数人の人がいた。白衣を着た男たち。年配の者が多く、どこか厳しい目をしている。


「彼女が例の薬師か」


「随分と若いな」


 小さく交わされる声。視線が一斉に集まる。


 居心地の悪さに、思わず指先に力が入った。


「まずは確認する」


 年配の男が前に出る。


「同じ薬を、ここで作ってもらう」


「ここで、ですか」


「そうだ。条件は揃えてある」


 視線の先には、用意された薬草と道具があった。見慣れたものばかりだ。


「……分かりました」


 私は袋を置き、袖を軽くまくる。やることはいつもと同じ。特別なことは何もない。


 水を張る。薬草を入れる。火にかける。


 その合間に、ほんの少しだけ別の草を混ぜる。


 それだけだ。


 やがて、やわらかな香りが立ち上る。


 静まり返っていた部屋に、わずかなざわめきが広がった。


「……この香りは」


「普通の調合ではないな」


 声が聞こえるが、気にせず手を動かす。


 やがて煮出し終え、器に移す。


「できました」


 差し出すと、年配の男が受け取った。


 慎重に匂いを確かめ、わずかに目を細める。


「患者を」


 短く指示が飛ぶ。


 運び込まれてきたのは、ぐったりとした青年だった。額には汗が滲み、呼吸も浅い。


「高熱が三日続いている。既存の薬は効果なし」


 説明を聞きながら、私はただ見守る。


 男は迷いなく薬を飲ませた。


 部屋の空気が、さらに張り詰める。


 誰も言葉を発しない。


 ただ、時間だけが過ぎていく。


 数秒。


 そして――


「……あれ」


 小さな声が漏れた。


 青年の呼吸が、ゆっくりと落ち着いていく。苦しそうだった表情が、わずかに和らいだ。


「熱が……下がっている」


 別の男が額に手を当て、信じられないものを見るような顔をする。


「ありえん……この速さは」


「解毒も進んでいるぞ」


 次々に上がる声。


 さっきまでの疑いの視線が、一瞬で変わる。


 私はその様子を見て、ただ首をかしげた。


「……やっぱり、効きやすいだけでは」


 思わずそう呟く。


 だが、その言葉に全員が固まった。


「効きやすい、だと」


 年配の男がゆっくりと振り返る。


「これは奇跡と呼ばれる領域だ」


 はっきりと言い切られた。


「同じものを、もう一度作れるか」


「はい。いつも通りなら」


「……いつも通り、か」


 男は深く息を吐いた。


 そして、周囲を見回す。


「記録を取れ。調合過程をすべて残す」


 慌ただしく動き出す医師たち。


 さっきまでの空気とは別物だった。


 私はその中心に立ちながら、まだ状況を飲み込めずにいる。


「君の力は、この国の医療を変える」


 静かに告げられる。


 重い言葉だった。


 けれど、実感は伴わない。


「……そんな大げさな」


「大げさではない」


 即座に否定される。


「むしろ、これでも足りないくらいだ」


 その視線は真剣だった。


 冗談や誇張ではないと分かる。


 それでも。


 私は、自分の手を見下ろす。


 薬草を摘み、煎じているだけの手だ。


 特別なことをしているつもりはない。


 ――それなのに。


 周囲の評価だけが、どんどん大きくなっていく。


「まずは王宮へ報告する」


 誰かが言った。


「この件は、もはや一医療機関で扱える範囲ではない」


 話が、さらに大きくなる。


 私は小さく息を吐いた。


 静かな村で、ただ薬を作っていただけなのに。


 気づけば、とても遠い場所に来てしまった気がする。


 ――でも。


 もし本当に、この薬で誰かを救えるなら。


 それは、悪いことじゃない。


 そう思った時。


 ほんの少しだけ、不安が薄れた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ