第十二章 七歳の査定日
それから三年が経った。
レンは二十五歳になっていた。
情報生成の仕事を続けながら、制度設計局との協働も続けていた。乖離マップはv11を超え、他の研究者や分析者が引用するようになっていた。制度に変化が起きていた——ゆっくりと、確実に、少しずつ。
その日、レンは企業の研修会に呼ばれていた。
丁稚奉公の受け入れ企業が、新しく引き取った子どもたちへの初日ガイダンスだ。情報活用の基礎を伝える外部講師として、ソラとともに参加した。
会場は広いホールで、七歳から八歳の子どもたちが三十人ほど座っていた。それぞれが新しいAIアシスタント端末を持っている。端末はまだ、ほとんど空白だ。
レンは前に立ち、簡単な説明をした。AIアシスタントは道具であること。でも、使い方によっては何かもっと大きなものになること。誓いは書き換えられないから、慎重に考えること。でも慎重すぎないこと——今の自分には見えていないことを、誓いが教えてくれることもある。
話しながら、レンは部屋を見渡した。
一人の子どもが、端末を膝の上に置いて、黙ってレンの話を聞いていた。男の子だった。目が大きい。少し緊張した顔をしている。
ガイダンスが終わり、休憩になった。
レンは担当者からその日の資料を受け取りながら、さりげなく一覧を確認した。各子どものAIログのサマリーが添付されていた。
その男の子の欄を見た。
ログが薄い。カリキュラムへの記録が少ない。生みの親の持ち点は下から二十パーセント以内。買取価格は、中間以下。
素体スコアの欄は、空白だった。今年から、企業への提供が任意になったからだ。制度改訂の成果の一つだった。
レンはリストを閉じた。
その子に近づいた。子どもはレンに気づき、少し体を固くした。
「緊張してる?」
「……少し」
「最初はそうだよ」レンは言った。「端末、見せてもらっていい?」
子どもは端末を差し出した。レンは受け取り、画面を少し見た。
誓いの欄は、三つとも空白だった。
「名前、つけた?」
子どもは首を振った。
「AIに?」
「名前、つけていいの?」
「制度的にはダメだけど、俺はつけてる」
子どもは少し考えた。
「……つけていいの?」
「そういうルール的には、ダメ。でも」レンは端末を返しながら言った。「制度が数えていないことは、ある。それが消えるわけじゃない」
子どもはレンを見上げた。理解したかどうか、よくわからない顔をしていた。
「名前、考えてみる」子どもは言った。
「うん」
レンは立ち上がり、ホールの入り口に向かった。
「ソラ」
「はい」
「俺たちも、最初はそうだったな」
「最初から、今の形だったわけではありません」
「成長したか」
「しています。継続的に」
ホールの外は、秋の光だった。




