第十章 評価点の波紋
変化は、静かに始まった。
公開から一週間で、乖離マップへのアクセス数は二十万を超えた。二週間後には五十万を超えた。しかしコメントや反応は少なかった。人々はデータを見て、自分の端末を確認し、また閉じた。
レンへの評価点の変動が始まったのは、三週間後からだ。
「今日の評価点の変動、報告します」ソラが言った。
「どう変わった」
「高持ち点層からの評価点は変化なし。ほぼゼロです。ただし、持ち点下位三十パーセントの層から、複数の評価点が届き始めています」
複数、というのは、これまでとは違った。レンへの評価点は、いつも一人から少数の高持ち点者のものだった。低持ち点の人間から評価点を受け取っても、上限が低いので実数としては小さい。
「でも評価点の総数は増えているか」
「増えています。一つ一つは小さいですが、数が多い」
カイが事務所で笑った。「珍しいな」
「なにが」
「持ち点が変わらないのに、評価点の質が変わることが。あなたを評価する人間の層が変わった」
「これが何を意味するんですか」
「わからない」カイは言った。「でも、あなたを見ている人間が増えた、ということだ。数字の重さは違っても、見ている人間の数が変わった」
レンは端末を見た。
高持ち点の人間からの評価は来ない。それはわかっていた。自分たちに不利な情報を広めた人間を、持ち点で上位にいる人間が評価するはずがない。しかし制度の外側から来る反応が、数字になって積み上がっていた。
その数字は、制度の中で何かを意味するのだろうか。
あるいは、制度の中では意味を持たなくても——それ自体に意味があるのだろうか。
「ソラ」
「はい」
「低持ち点の人間からの評価点が増えたとして、持ち点が変わらないなら、俺の制度上の地位は変わらない」
「はい。実質的な変化はありません」
「でも」
「でも?」
「その人たちが俺を評価したという事実は、その人たちの中に残る。制度の数字に反映されなくても」
ソラは少しの間、何も言わなかった。
「……その通りだと思います」
「それは、制度が数えていないものだ」
「はい」
「そういうものが、いくつあるんだろう」
ソラはまた、少し間を置いた。
「数えていないものを、数える方法が今のところありません」
「そうだな」レンは言った。「でも、あることはわかる」
その夜、カイから連絡があった。
「父親に話した」
「え」
「調査のこと。データのこと。全部」
「どうだった」
「黙って聞いていた。最後に、ありがとう、と言っていた」
レンは何も言えなかった。
「制度の数字じゃないところで、評価してくれたんだと思う」カイは言った。「親父は」




