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田舎の因習で一生座敷牢だった忌子、人外魔境日本に転生する ~倒した妖魔を次々に仮面にして最強になる~  作者: 手羽先すずめ


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2/3

出会い

 残ってた毛皮を全部剥いで、臭ぇ内臓も全部描き出して、肉に火を付けてもらう。

 盛大に燃えて焦げ付かねぇかと気を揉んだもんだが、いい焦げ目がついたところで自動的に火が消えた。どういう理屈なのかさっぱりわからんが、肉は美味そうだ。


「お、焼いただけでも全然違う! ほら、お前も食えよ」

「うん。いただきます」


 とか言ったものの、名前も知らねぇ女は中々手を付けねぇでいた。

 恐る恐るってな感じに手を伸ばしちゃいるが、何故かひっこめるを繰り返してる。


「なにしてんだ?」

「手掴みで食べるのに抵抗がある」

「そいつはまたお上品なことで。がっと掴んで引き千切っちまえよ。食い方が汚ぇからって殺されるわけじゃねぇんだ。食わないと死ぬぜ、人間は」

「……たしかに」


 今度こそ女は肉に手を付けた。焼けた肉に指を食い込ませて、握り締めて、体全体を使って引き千切った。


「やりゃ出来んじゃん」

「うん。大したことなかった」


 自分で引き千切ったそれにかぶり付いた女は、次に微妙な顔をした。


「あんまり美味しくない」

「はっはー! 言えてる。特に体の奥のほうは最悪だよな。なんかザラザラする」

「たぶん、血の燃えカス。血抜きが不十分なまま焼くと舌触りが最悪になる」

「へぇ、物知り。じゃ、今度こいつを仕留めた時は心臓に蹴りを入れないとな」


 良いことを聞いた。

 今度はなるべくデカい傷を作って、体中の血を吐き出させよう。


「あ、そういや名前は? 俺は稟護りんご

紫暖しのん

「紫暖か。なぁ、手から火ぃ出すのってどうやんの?」

「どう? これは私の術式だけど」

「術式?」

「……知らない?」

「知んない」


 ちょっとだけ沈黙が流れた。


「うん、わかった。魔法はわかる?」

「わかる!」

「それ」

「そっか、魔法か。じゃあ紫暖は魔法使いなのか……魔法使いなのか!?」

「平たく言えばそう」

「はえー、魔法使いって本当にいるのかぁ」

「珍しいものでもないはずだけど……」


 俺も魔法が使えたらなぁ。

 そしたらあの座敷牢も、偶然の火事を待たずにぶっ壊せたのに。

 なにもかもこの手で滅茶苦茶に出来れば、きっと爽快だったろうにな。


「――ふー、食った食った」


 二人で食い切るにはちょいとデカすぎたけど、お互いに腹も減ってたし食い切れた。残ったのは食えない骨と皮と内臓だけ。


 ちなみに一番美味かったのは目玉だ。二つあったからわけっこした。

 紫暖は微妙な顔をしてたけど。


「紫暖。これからどうする? 行く当てがないなら一緒にいようぜ。また焼いた肉が食いてぇ。俺が肉を調達すっからよ」

「いいの? 私が一緒にいても」

「もちろん。話し相手にもなるしな」

「じゃあ、そうする」

「そうしろそうしろ。一人ぼっちには飽き飽きしてんだ、俺」


 折角、日の当たる場所に出られたんだ、一人じゃつまんねぇよ。


「これからどうするの? なにかしたいことはある?」

「そうだなぁ。やっぱ花だな」

「花?」

「そ。昔一度見たっきりなんだ。だから、花が見てぇ。まずはそれだな。俺のしたいこと」

「花……昔は道ばたにたんぽぽが咲いていたみたいだけど、ここが人外魔境になってからは見なくなったって聞いたことがあるよ」

「人外魔境?」

「……もしかして、それも知らない? ここがどこなのか、とかも」

「知んない」

「記憶喪失?」

「いや、記憶はしっかりしてるぜ。ただ長いこと座敷牢の閉じ込められてたんだ。だから俺は物を知らねぇんだよ」

「……嫌なこと言わせた?」

「別に」


 両手を後ろのほうで地面について、見上げた空はやっぱり青い。


「今はもう自由の身だし、過去のことはどうしようもねぇことだし、もうどうだっていいよ。いいってことにする。大事なのはこれからどうするかだ。そうだろ?」

「そう、だね――ここがどこなのか、だけど」

「おう」

「ここは東京都第24区の一つ、大田区という場所。七十万人くらいの人が住んでいたところだよ」

「七十万。そりゃ凄い。今じゃそんなの信じられないくらい廃れてるのにな」


 見渡した周囲は廃墟だらけ。

 道路は割れてるし、建物は崩れてるし、電柱は折れてる。

 人もいねぇし、いるのはでっけぇ鼠だし。


「で、人外魔境ってのは?」

「三十年くらい前に突然、東京24区に妖魔が現れた結果、人の住めるような土地ではなくなったからそう呼ばれるようになったんだよ。妖魔って言うのは怪物のことで、いま私たちが食べた鼠もそう」

「そうだったの!? 俺、怪物を食っちまったのかぁ!? まぁ、いいか。肉は肉だし」

「切り替えが早い」


 俺が座敷牢に閉じ込められている間に、世間はそんなことになっていたんだなぁ。

 いや、妖魔ってのが現れてから三十年も経ってたんだっけ。

 なら俺が知らないだけか。


「ってことはだ。花を見るにゃあこの人外魔境から出ればいいってことだな」

「そうだけど、それは無理」

「なんで?」

「封鎖されてるから。見て、遠く」


 紫暖が指差したほう、街並みの遠くには壁があった。建物よりもずっと高い壁。それがずらっと並んでやがる。


「出入りは基本できない。無理矢理出ようとしたら」

「したら?」

「バン」


 指鉄砲で撃たれた。


「はぁ……流石に銃口を向けられちゃどうしようもないなぁ。花は諦めっか」

「……花屋さん」

「ん?」

「花屋さんに行けば、花は枯れているだろうけど、種くらいは見付かるかも」

「なるほど! 花がないなら種から育てればいいのか! あったまいい!」

「それほどでも」

「よし。早速、花屋に行こうぜ。場所は知ってんのか?」

「そこまでは。でも、探せば見付かると思う。一緒に探そ」

「ああ! んじゃ」


 ちょうど風が吹いて前髪が揺れた。


「あっちに行ってみようぜ!」


 風の吹くほうへ。


「――っと」


 いま、なにか蹴った。

 食い残した骨かなにかかと思ったけど、地面を滑ったのは違うやつだった。


「仮面?」


 なんでそんなもんが?


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