転生 七回目
捕食有
うん、まあ、苦痛の少ない生を送りたいとは思ったけどさ。眠って目が覚めたら生まれ変わってないかなとも思ったけどさ。まさか本当にあのまま死ぬとは。俺史上最も苦痛のない一生だったわ。
で、また卵の中だよ。今度は何の鳥だ?そう思いつつも、嘴でつついて殻を破る。幸い、今回は簡単に破ることができた。
外に出ると、頭にオレンジ色のツンツンした羽根を生やした鳥が見えた。嘴、細長っ!これ何ていう鳥なんだろう?他にも兄弟が三羽ほどいるのが見える。
どうやら、俺は他の兄弟より少し遅れて生まれたらしく、他の兄弟は既に結構育っている。俺だけ妙に小さくて、何だか場違い感すらある。
雛鳥は雛鳥らしく、大きく口を開けてピーピー鳴いてみる。すると、親は巣を飛び立ち、やがて小さな虫を咥えて戻ってきた。それをもらい、俺は一口で飲み込む。
なんか、毎回鳥に生まれると生後一日以内に死んでたから、こうして世話してもらえるだけで嬉しくなる。今回はきちんと巣立ちできればいいんだけどな。
生まれたばっかりで栄養が必要だからか、結構腹が減る。口を開けて餌をねだると、他の兄弟を若干優先しつつもしっかりと餌がもらえる。それだけで泣きそうな気分になりつつ、沢山餌をもらう。
うん、守られてるって素晴らしい。あとは敵に襲われて放棄しないでくれれば、より嬉しい。今回で転生は最後のはずだけど、最後だからこそ普通に一生を終えてみたい。
餌をもらって、危険の無い巣の中で、安心して過ごす。そうこうするうちに日が沈み、穏やかな気分で一日が終わる。今回は鳥として、初めて一日以上生きた記念すべき日だな。
親兄弟の温もりを心地よく感じながら、ゆっくりと眠る。
翌日、目を覚ますと早速腹が減っており、俺はまたピーピーと声をあげて餌をねだる。他の兄弟も腹が減っていたらしく、同じようにピーピーと鳴いている。
すると、母親はなぜか俺をひょいっと咥え上げた。何だろう、どっか引っ越しでもするのか?
一瞬そんなことを考えたが、母親は何を血迷ったのか、俺を兄の口の中に突っ込んだ。
おい、ちょっと待て!俺、兄弟!餌じゃねえ!おい、ほんと洒落になんねえ!マジで食われる!おい兄貴、食おうとすんな!そこの鬼母、押し込むな!
羽と足を必死でばたつかせ抵抗するも、小さすぎる俺の抵抗なぞ何の意味も為さなかった。
兄の口の中に入り、喉の奥に押し込まれ、そして胃袋まで落ちる。
痛い!マジであちこち痛い!胃に触ったところが滅茶苦茶痛え!赤ちゃんの敏感肌には胃液は辛すぎる!
逃げようにも、胃はびっくりするほど狭く、ほとんど体を動かせない。俺はこのまま、何も抵抗できずに溶かされていくしかないのだと、絶望と共に悟った。
ただ、幸か不幸か。圧迫され過ぎて、息ができない。おまけに暴れたせいで、思った以上に息が持たない。正直、もう目の前が白くなりつつある。
ほとんど条件反射的に、強酸に晒された身体がビクンビクンと動くが、もう意識もほとんどなくなってきた。それに伴って痛みも遠くなってくれたのが、心の底から嬉しく感じる。
ああ、しかしまさか、最後が兄弟の食料にされるとは……蜘蛛の時もそうだったけど、まさか鳥がこんな行動するなんて知らなかった。
畜生。来世人間に転生したら、焼き鳥食いまくってやる。
そう思ったのを最後に、俺の意識はそこで途絶えた。
ヤツガシラ 頭に特徴的な冠羽があり、それが頭のように見えるので『八頭』。栄養状態の良い雌は、産卵期の最後に追加の卵を産み、その雛を兄弟の食料にする。