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転生 五回目

捕食有

 ひっどい目に遭った。生きたままあれは無いわ。まあ、一瞬でズタボロだったおかげで、痛みはそこまで長く感じなかったけど。

 一頻り前世に思いを馳せ、目の前に意識を移す。どうやら巣の中にいるようで、とても快適な空間だ。少し暑いなと思うと風が吹き、快適な温度を保っている。

 巣の入り口は、黄色と黒の昆虫が沢山出入りしてる。今回はミツバチになったらしい。ただ、俺は白い芋虫のような蛆虫のような、とても蜂とは思えない姿だ。

 比較的若い雌……いや、大半が雌だわ。とにかく、その中の比較的若い個体が世話係らしく、ゼリーみたいなものを与えてくれる。妹もゼリーをもらっているが、姉には蜂蜜が与えられてるので、どうやら生まれたての俺達は特別食となっているらしい。

 他の世話係も、巣の掃除をしていたり、羽を使って俺達に風を送ってくれたり、甲斐甲斐しく世話をしてくれている。うーん、ここまでしっかりした子育てをされるのは人間の時以来かな。蜘蛛の時もまあ、捨て身の子育てはされたけど。

 非常に落ち着く空間の中で、静かにこれまでのことを思い返す。

 最初は、早く人間に戻りたいと思っていた。だが、それには死ぬ必要があるわけで、死の苦痛はかなりでかい。正直、短期間に何度も続くと精神がやられそうなほどだ。

 そのせいか、現在は少し考えが変わっており、どうせ短い一生なら一度くらいは寿命まで生きていたいと思っている。体感では相当長いのだが、蚊の時だって生きていた期間はたぶん合計二週間程度だ。

 こんだけしっかりお世話されてるなら、今世くらいは……と思っていると、少し周囲と違う姿の個体が目に入った。体が一回り大きくて、目がやたらでかい。どうやらあれが雄蜂のようだ。

 雄は何も仕事をせず、周りの働き蜂に餌をねだっている。おい、その蜂は俺達に食事くれる奴だぞ。別の奴に……あ、羽齧られた。慌てて逃げていく。ちょっと扱い雑じゃない?

 うーん、まさか、ミツバチって雄は邪魔者扱い……?たぶん、俺は雄だ。となると、あれは未来の俺の姿……俺、今世で幸せになれるのか?

 そんなことを考えていると、また違う個体が入口に現われた。大きい三角形の顔に、びっくりするほど大きな顎。オレンジと黒のツートンカラーに、そもそも他の蜂より遥かに巨大……スズメバチだこれ!

 侵入者のことはすぐに知れ渡ったらしく、俺達の世話係も含め、沢山の蜂達がスズメバチを包囲する。一方のスズメバチも、顎をガチガチ鳴らして威嚇し、一触即発の空気が流れている。

 その時、外から帰ってきた一匹がスズメバチに取り付き、それを合図に包囲していた全員がスズメバチに取り付いていく。

 すっかり蜂団子状態になったところ、その全員が激しく羽を震わせている。さっきまでは涼しい風を送ってくれていたそれが、今では熱風を送ってくる。内部は相当な高温になっているんだろう。

 やがて、一匹二匹と離れ出し、全員がスズメバチから離れると、そこには蒸し焼きにされたスズメバチが転がっていた。強制サウナとか、結構えぐい戦い方するんだなあ。

 ともかくも、巣の危機は去った。そのことにホッとしていると、外からブゥンブゥンと大きな音がいくつも聞こえてきた。

 まさかと思った瞬間、巣の入り口に何匹ものスズメバチが現れた。どうやら、偵察の一匹が帰るのを待たずして、本隊が到着してしまったようだ。何か切羽詰まった事情でもあったのか?

 見えるだけで五匹はいる。これにはどう対応するんだとハラハラしていると、元の仕事に戻ろうとしていた蜂達の動きが変わった。

 全員、巣にあった蜜をせっせと食べている。とにかく詰め込めるだけ詰め込めと言わんばかりに、猛烈な勢いだ。

 何が始まるんだ?と考える間もなく、今まで世話をしてくれていた蜂、女王蜂、雄蜂まで含め、動ける蜂達全員が巣を飛び去った。

 え?何?助けてくれないの?いや、まあ、そりゃ俺等足手まといってのはわかるんだけど、もっとこう、同情とか……ねえ?

 そう愚痴りたくもなるが、愚痴る相手はスズメバチしかいない。敵に愚痴ったところで……あ、もう妹達食べ始めたんですか。あ、食べるんじゃなくてお団子に?お土産ですか?あーそうですかー、みんなでおいしく食べるんですねー。

 本当に、本っ当に、人間の記憶と思考力があるのが恨めしくなる。これあと今回抜いても二回はあるんだもんなぁ……もう今から憂鬱だよ……。

 スズメバチの一匹が、俺に目を付けたようだ。こっちに近づいてくる。うわぁ、人間の記憶がなくても十分怖い。

 一応、無駄だろうなぁと思いつつ、つぶらな瞳で見上げ、『食べないで?』とお願いしてみた。

 スズメバチは俺の体を少し触った後、その大顎で問題なく俺の首を噛み千切った。

 ああ、やっぱ無理だった。痛みはないけど不快感すごい。虫だからか割とまだ意識は保ってるけど、もうすぐ消えそう。

 妹達の肉団子を運んでいくスズメバチが目に入った。どことなく嬉しそうな雰囲気を感じる。そりゃそうか、俺からすれば侵略者でしかないけど、あっちはただ狩りをしただけだ。獲物を持って帰れば、子供達を育てられる。

 昔、テレビで動物番組見てた時、草食動物がフォーカスされてると襲ってくる肉食動物が憎たらしく思えて、逆に肉食動物がフォーカスされてると、逃げ回る草食動物が憎たらしく感じたけど、当事者だと憎たらしいとかそんなレベルじゃないなあ。殺される方はたまったもんじゃない。

 やっぱり自然って厳しいなあ、と思ったのを最後に、俺の意識は闇に沈んだ。次はせめて、苦痛の少ない生を送りたい。

ニホンミツバチ 蟻と並び、真社会性昆虫の代表格。スズメバチに対して熱殺蜂球という必殺技を持つが、最近セイヨウミツバチも使えることが分かった。逃亡の判断が某育手も納得の早さ。ちなみに雄蜂は交尾に成功するとアレがもげて死亡し、交尾できなかった者は追い出されて野垂れ死ぬ運命

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