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転生 二回目

蜘蛛・捕食有

 気が付くと、蜘蛛だらけだった。虫嫌いの人だったら即死するレベルで蜘蛛だらけだった。

 そして俺も蜘蛛だった。そのせいか、周囲の蜘蛛に対する嫌悪感はなく、ただ『ああ兄弟か』と思った程度だ。

 どうやらここは草を巻いて作られた巣の中らしく、近くには巨大な蜘蛛の姿もある。まあ、実際のところはそんなに大きな蜘蛛じゃないんだろうし、あれは母親なんだとすぐにわかった。頭がオレンジ色っぽく、胴体は緑っぽい、見たことのない蜘蛛だ。

 何だかうまく体が動かず、もどかしい。何とか体を動かせないかともぞもぞしていると、ピシッと体にヒビが入った。一瞬慌てたものの、すぐにただの脱皮だと理解し、八本の足を動かして古い皮を脱ぎ捨てる。

 周りの兄弟達も、それぞれに脱皮を済ませる。その間、母蜘蛛はじっと外を見張っていた。そんな母蜘蛛を見ていると、凄まじい飢餓感が湧き上がってきた。

 その衝動に抗えず、また抗う気もなく、兄弟と一緒に母蜘蛛の体に登る。そして、その体に牙を突き立て、体液を啜る。

 おかしいとか、残酷だとか、気持ち悪いとか、そういった感情は何も起こらなかった。ただ、ちょうどいい食料である母蜘蛛を食べるのは当然だと、そう理解していた。

 小さな赤ちゃん蜘蛛とはいえ、多勢に無勢。ほどなく、母蜘蛛は体内を食いつくされ、脱皮後の皮のようになった身体だけがあった。食い物が無くなった俺達は、一匹、また一匹と外に出ていく。

 当然、俺も外に出る。前々世の記憶から考えるに、弱い生き物なら群れていた方が生存率が高い。となると、ここから一匹で行動するのではなく、誰かについていくのがいいだろう。まあ、前世のようにまとめてお召し上がりになられる可能性もあるが。

 そう考えると、俺は適当な姉だか妹だかについていくことにした。別に女好きだからではなく、雌の方が体がやや大きく、その分有利なのではないかと考えたからだ。

 草の家を出て、そろそろと這い回る。背中側にも目があるおかげで、ピントは合わないものの視界は広い。おかげで大した脅威と遭遇することもなく、適当な草むらに移動することができた。

 姉ないし妹は、俺のことは特に気にしていないようで、好き勝手に歩いている。俺も何がしたいということはないので、そのままついて行く。

 しばらく動いて、適当な草に登りだす。どうやらそこで夜を待つつもりらしく、動きが全く無くなったため、俺も糸を少し出して葉っぱの裏に身を潜めた。

 かなりの時間が経って、辺りが暗くなり始める。だいぶ腹も減ってきており、姉か妹が動き出したのを確認して、俺も隠れ場所から動く。

 地面に降り立ち、当てもなくふらふら彷徨う。どうやら、俺達は巣を作って獲物を待つのではなく、地面を歩いて襲い掛かるタイプの蜘蛛らしい。

 うろうろ彷徨っていると、運のいいことに小さな羽虫が草陰で休んでいるのを見つけた。当然、姉or妹も気づいており、そろそろと気配を消して近づいていく。

 射程距離に入った瞬間、文字通りに飛びかかる。二匹掛かりで襲ったおかげで、羽虫はあっという間に糸に絡め取られ、俺達の食料と化した。

 体液を吸いつつ、今後のことを考える。この調子で生きていけば、今度は一生を終えられるかもしれない。月単位の時間はかかるだろうが、食われるのはもうまっぴらごめんだ。人間のような痛覚はないが、身体を溶かされる不快感というか苦痛というか、それは人間の時の痛みに匹敵するほどのものだった。

 食事が終わり、さて次の獲物は……と思った瞬間、背中に何かが突き立てられ、身体が動かなくなった。驚いてそちらの視界に集中すると、俺の背中に今まで一緒にいた姉もしくは妹がのしかかっていた。

 体が全く動かない。どうやら毒を流し込まれたようだ。そういえば、自然に何かやってたような気はする……じゃなくて、なんで兄弟の俺を!?

 そう考えた時、はたと気づいた。

 蜘蛛に、家族の情なんてあるわけがない。母蜘蛛は俺達を生かすため、その身を犠牲にしてくれたが、俺達は同じタイミングで生まれたと言うだけで、ただの生存競争のライバルだ。

 じゃあ、なぜ俺が一緒にいるのを黙認してたのかとも思ったが、たぶんただの非常食だったんだろう。仕留めた獲物を、我が物顔で食い始めた俺が邪魔になったから狩ることにした、といったところだろうか。

 何とか生き残る道はないかと頭をぶん回すも、身体が動かない以上何もできないという結論にたどり着く。直後全身に凄まじい不快感が巡りだす。なんだこれ!?また全身が溶けてるのか!?

 身体を見ても、どこも溶けてはいない。だけど、体内だけが溶かされる感触がはっきりとわかる。そうか、俺は今まで、体液を啜ってるんだと思ってたけど、消化液をぶち込んで溶けた肉を啜ってたのか……死ぬ前に、一つ勉強になった。

 現実逃避ゆえか、そんな呑気なことを考えているうちに、また意識が闇に溶けていく。母蜘蛛もこんな心境だったのかとぼんやり思い、この蜘蛛の雌にだけは絶対生まれ変わりたくないなと思ったのを最後に、俺の意識は完全に途絶えた。

カバキコマチグモ イネ科の植物を折り曲げて巣を作り産卵する。母蜘蛛はそのまま飲まず食わずで卵を守り、やがて孵った子供たちに捕食されてその命を終える。ちなみに日本最強の毒蜘蛛であり、毒の強さは全有毒生物中でも上位に入る。

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