表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

転生 一回目

捕食シーン有

 気が付くと水の中にいた。正直、状況が全く理解できない。

 しばらくして、腕を振ると体が動くことに気付く。そして周囲を見ると、毛の付いた両腕で万歳している仲間がたくさんいることに気付いた。

 どうやら、俺はミジンコになったらしい。確かに、ミジンコなら一ヶ月も生きなかったはず。ミジンコ生を満喫しても、俺の四十九日が始まる前に次の生が始まるというわけだ。

 そう考えると、俺は腕を振り振り、水中を泳ぎまわる。そんなに大きな動きはできないが、まあミジンコなら全力で泳ぎ回ることもないだろう。

 ちょっと腹が減った。人間の記憶を持つ身としては牛丼とか食べたいなと思うのだが、現在の体ではそんな物食えるわけがないし、そもそも身体に思考が引きずられるのか、直感的に食べたくなったのは植物だ。

 ふらふら泳ぎ、正体不明の植物を食べる。たぶん植物プランクトンだろう。直感的に食べられるとわかるし、食べたいとも思う。味に関しては……何も感じない。でも感覚的においしい気がする。

 実に平和だった。ここはどこかの田んぼの中なのか、気温……ではなく水温もちょうどいいし、食べ物も豊富にある。

 腹が減ったら適当に何か食べ、気が向くままに泳ぎ、仲間と適当に群れる。

 非常にのんびりした時間が、長く長く続いた。

 と言っても、それは俺の体感であって、実際は全然経っていないだろう。少なくとも、一回暗くなった覚えがあるので、実際は転生して一日しか経っていないんだろうけど、俺の感覚だとそろそろ小学校入学できそうなぐらいミジンコでいる気がする。

 そんな、のんびりミジンコライフが続くと思っていたのだが、その日に事件は起こった。

 いつもの如く、俺は植物プランクトンを食べ、ふらふら泳ぎ回っていた。一度仲間達と合流し、新しく生まれた妹達を眺めてから、その場を泳ぎ去る。その瞬間、背後に大きな水流を感じた。

 慌ててそっちに視線を向けると、今までたくさんいた仲間達が一匹もいなくなっていた。そして、既に遥か向こう側に泳ぎ去っていく一匹の魚。

 あれに食われたんだと、一瞬で理解する。そして、ここはミジンコの楽園などではなく、魚の良い餌場であることを理解してしまう。

 人間の記憶なんて消してもらうんだったと、その時真剣に後悔した。知らなければ、あれはただの事故、あるいはその時たまたま起きた災害程度にしか認識しなかっただろう。だが、俺には人間の知識と記憶がある。ミジンコは魚のいい餌だって、人間は皆知っている。

 恐怖で体が震えたり、冷や汗が出たり、そういったことは何にもなかったが、それは単に体に機能が無いからならなかっただけで、実際色々漏らしそうなほどに俺は怯えていた。

 あんなのに食われて死ぬなんて嫌だ。だけど、いちミジンコに対抗手段なんかあるはずもない。しかしそれでも、何かしらの抵抗はしたい。

 そう考えた時、ふと自身の体について理解した。と言うより、危機に瀕して生存本能が働いたのかもしれない。

 さっきまでは、対抗手段なんかないと思っていたが、今の俺は一つの対抗手段を知っている。だが、それはすぐにできるようなものではない。いや、実時間ではすぐだろうけど、体内時計では相当な時間が必要だ。

 それでも、あれに食われたくなければやるしかない。

 俺は覚悟を決め、一心に一つの願いを念じ続ける。食事をしながら、泳ぎながら、常にそれを念じ続ける。

 体感一年が過ぎ、体感二年が過ぎ、実時間では数時間が経ち、空が暗くなり、やがて明るくなる。

 そして俺は、ついに願いが叶ったことを感じていた。

 俺の頭には、今や立派な角が生えている。これで相手を突き刺す、などといった芸当は不可能だが、少なくともちょっとした対抗手段にはなるだろう。

 ふらふら泳ぎながら仲間を見ると、仲間達の中でも数匹が角を生やしていた。一匹では大した抵抗ができなくとも、数匹で集まればそれなりの抵抗になるかもしれない。

 そんなことを考えていると、大きな水の流れを感じた。俺は覚悟を決め、角の生えた仲間達の元へ向かい、敵の出現を待った。

 そこに、大口を開けた魚が現れた。たぶんメダカだった。

 で、食われた。角なんてまったく関係なかった。つうか俺等数匹をまとめて食える時点で、角なんてほぼ役に立たなかった。

 メダカの口の中から、胃がなくてそのまま腸に送り込まれる。体が腸に触れる度、俺の体が溶けていく。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!死にたくない!

 そう思っても、既に腕は溶け、もう泳ぐこともできない。腹が溶かされ、重要な器官が零れていくのも感じる。痛みは感じなかったが、体が溶ける恐怖だけは人間と変わらなかった。

 もう、身体のほとんどが溶けてしまった。仲間達も、もう皆死んでいる。ああ、せめてもうちょっとだけでも、抵抗してやりたかった。

 そう思ったのを最後に、意識も闇に溶けていく。ああ、また死ぬんだなと、最後にぼんやりと思った。

 次の生に移る喜びは、全く無かった。

ミジンコ 基本的に雌のみ単為生殖を行うが、環境が悪化すると雄が生まれ、耐久卵を作る。また、危険を感じると頭に角を生やす。角は非常に小さいが、あった方が生存確率は高いらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ