死亡、転生開始
短編で投稿しようかと思ったのですが、場面転換を完全にやりたかったのと、続き物の投稿どうやるか試したかったので連載にします。短編と言うか1500文字程度の掌編詰め合わせみたいになります。
テッテテレレレー テッテテッテテレレレー
テレッテテッテレッテテ テレッテテッテレッテン
何のBGMかと言えば、俺が死んだときのものだ。いや、実際鳴っていたわけではなくて、絶対この音楽似合ってただろうなってことだけど。
そりゃあもう、コントか何かみたいな死に様だった。最終結果だけで言えば、電車に首だけ轢かれるというそこそこのスプラッターだったけど、そこに至るまでがひどかった。
まず、俺は高校に電車通学をしている。で、その日は寝坊して、駅の構内を全力ダッシュしていた。昨夜、この辺では珍しく雪が降ったおかげで、構内の一部に靴底で固められた雪の塊が落ちていたのも悪かった。
何となく想像がついたと思うが、誰かの靴底から剥がれた雪、というか氷の塊を踏んづけ、足が思いっきり前後開脚。悲鳴を上げながら倒れたところ、勢いが付きすぎてて半回転し、背中で床を滑り出す。
濡れた地面は割とよく滑り、俺はそのまま階段まで運ばれ、何の問題もなく落ちた。アクション映画ばりの階段落ちを披露し、一番下まで落ちたところで、回転の勢いと足の振りを使ってかっこよく立ち上がった。そして、電車待ちをしていた女子生徒のスカートに頭から突っ込んだ。
悲鳴を上げて俺を突き飛ばしたその子は、まったく悪くないと思う。突き飛ばした方向は線路側じゃなくて、線路と平行の方向だったし。ところが、俺はよろけて柱にぶつかり、また転んで滑って線路へと転落した。
で、ちょうどホームに進入してきた電車は、スピードが遅かったので何とか立ち上がって回避したら、線路に足引っかけて三度目の転倒。首だけ線路に乗っかったところ、通勤快速が突っ込んできて……という経緯だ。
本当にもう、どこぞの数学者スイッチ的な負の連鎖で、俺の運以外は誰も悪くなかったと思う。強いて言うなら寝坊した俺が悪いか。
そして今、俺は確実に死んだはずなんだが、この通り意識がある。何も見えないし感じないし、その見えなさも暗いとかじゃなくて、頭の後ろが見えない的な、そもそも視覚がないような見えなさで何とも奇妙な感じだ。
しばらく戸惑っていると、突然一人の人間が視界に映った。正直びっくりして漏らすかと思った。
「おはようございます。気分はどうですか?」
声は聞こえているはずなんだけど、それがまったく音として認識できない。男の声か女の声かもわからない。
「えっと……おはようございます?気分は、別に……特に何とも」
「そうですか。死んだ感想がそれとは、なかなかの大物ですね」
そう言って、目の前の人はくすくす笑う。
「あ、えっと、やっぱり俺死んだんですか?」
「ええ、死にました。とても……くくっ、ふふふ……面白い死に方でしたので、ついつい話しかけてしまいました」
面白い死に方て……いや、そもそも死んだ人に話しかけてる時点で、ただの人間じゃないのか。
「あの、あなたは……死神?か何かですか?」
「『死』はいらないですよ。貴方がたが神と呼ぶ存在で間違いありません。もっとも、全知全能というわけではないですが」
うーん、日本的神様の一人なのかな。もしかして、何かチートをもらって異世界転生とかできるやつ!?
「えっと、何かすごい力もらって転生とかできるんですか!?」
「無理です」
即答だった。凹んだ。割とガチで凹んだ。ついでにちょっと恥ずかしかった。
「ですが……くくくっ……面白いものを見せていただいたので、何に生まれ変わりたいかの希望は聞きますよ。異世界ではありませんが、この世界のものであれば何でもどうぞ」
「俺の死に様、そんなに価値ありました?」
「貴方がた人間だって、面白いものには対価を払うでしょう?映画然り、漫画然り、小説、アニメ、落語、スポーツ武道競走賭け事……であれば、貴方の死に様も十分に価値のあるものでしたので、その分の対価を払おうというわけです」
まあ、特にデメリットがないなら願いを聞いてもらってもいいかな。正直、死に様が面白かったと言う神様だけに、邪神か何かかとちょっとだけ思っていた。
「じゃあ……ある程度記憶を持ったままで人間で!」
「また人間ですか……あー、ちょっと今人間枠が無いですねえ」
「人間枠!?」
初めて聞く単語だった。ていうか生まれ変わりに枠とかあんの!?
「えー、何とかならないんですか?なるべく早く戻りたいんですけど……」
「何かやり残したことでも?」
「いや、やり残したことだらけですから。あと毎週見てたドラマもありますし、明後日発売予定の漫画も読みたいですし、連載再開待ってるのも……いや、これはむしろ時間経った方がいいのか?とにかく、何十年も経ってからじゃあ、今の記憶持っててもあんまりありがたくないというか……」
「むしろ、何百年も前の記憶を鮮明に持った人間なら、考古学的に相当な価値が出ますが」
「やめて!俺はなるべく早く生まれ変わりたいんです!何か手はないんですか!?」
俺が必死に尋ねると、神は少し考えてから答えた。
「そうですね、今の貴方なら、七回ほど転生を繰り返せば人間枠に入れます」
「それ、何十年も経ちません?」
「寿命の短い生き物になればいいのです」
「ああ、セミとか?」
「土の中で年単位生きますが、それでもいいんですか?」
「ダメだ!まあ、その、チョイスは任せますので、とにかく早く人間に生まれ変わらせてもらえません?」
俺の言葉に、神は少し考えてから頷いた。
「いいでしょう。では、極力早く転生が済む様、私も力添えしましょう」
「やった、ありがとうございます!」
こうして、俺は再び人間に生まれ変われることになり、その前に七つの人生……いや、人じゃないのか。とにかく七つの命を持つことになった。
ただ、この時俺は、七回の転生とはどういうことなのか、全く考えていなかった。そして、そのことに対する覚悟など一つもないままに、人間への転生タイムアタックが始まるのだった。
一日一話投稿していきます。全9話、一部極端に短い話があるので、その時は2話投稿します。