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 石でできた六段の階段をゆっくりと下りてくる竹田と厚樹。身の丈あるほどの木製の棒を片手に持った番人に軽く頭を下げて警察署を後にした。夕暮れがかった空には月がさきっちょだけ姿を見せている。

「どうして、中居が仕事で悩んで自殺未遂をおかしたと解ったんですか?」

 厚樹の質問に竹田は表情を変えずに答えた。

「人は、積み上げてきた年齢だけ経験を持つ。人のやることなんてたかが知れている」

 厚樹はもう一つ訊ねた。

「どうして、助けようと思ったのですか?」

「男だからだ。男は子供のころからヒーローに憧れるだろう。誰かを助けて感謝されたい生き物なんだよ」

 竹田は少し照れた笑いを浮かべながら、厚樹よりも三歩先を歩いた。厚樹はこの距離感が気持ちよく感じた。誰かの後をついて歩くこの距離感が。


 マンション近くのコンビニエンスストア前を通りかかったとき、入口近くにおかれたブックスタンドにささった求人誌が厚樹の目に入った。

「竹田さん、仕事は電車の運転士だったのですか?」

 厚樹の問いかけに竹田は足を止めた。竹田の肩越しからうっすらと笑った竹田の目元と口元が見えた。

「あれは、嘘だ」

「えっ!」

 厚樹は竹田の横へ自分の体を移動させて、表情をのぞきこんだ。竹田はうつむいてにやけている。

「わたしは、銀行に勤めていた。定年で辞めた後も委託として、銀行の警備の仕事に二年間ついていた。あのマンション」

 竹田は言葉を止めて上を見上げた。右側には国道の上を走る高速道路の高架が見えて、左側には夜空に突き刺すように、三十の階層を重ねた茶色のマンションが見える。

「オーナーは私が勤めていた銀行だ」

 厚樹は何かを思いだしている。《家賃の振込先は、銀行の関連会社になっていたな》竹田は、止めていた足を再び動き出させた。

「いまは、最上階の三十階、城に例えると天守閣でマンション内の安全を守るセキュリティー業務を極秘で行っている」

 厚樹の表情が固まった。

 《マンション内の廊下や、エレベーターの中。至る所に監視カメラがつけられていて、その映像は一階の管理センターで監視することを目的につけられている。もしかして、その映像を三十階の竹田の部屋でも監視しているということなのか?》

「あっ、そういえば一階の管理センターに勤務する人達も、竹田さんと年齢の近い人が多い。あの人達も銀行を退職した人達なのか?」

 厚樹は少し大きめの声で独り言をつぶやいた。厚樹の声は国道と高架の高速道路を走る車の騒音にかき消されて、竹田には届かなかった。


つづく

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