⑦
中居の自殺未遂の原因は社内での人間関係のようだ。先輩アナウンサーとの確執から、被害妄想におちいり、ノイローゼぎみに。お天気キャスターも自ら申し出て休養していたようだ。
ガスは中居が故意に発生させたのではなく、誤って発生させたことにした。もちろん竹田からの発案だ。
浴槽の掃除をしていて、浴槽の中にドラッグストアで購入した二つの製品のうち一つを入れて、部屋の換気を行うためバルコニーの窓を開けたら、別の製品が風にあおられて浴槽へ落下。二つの成分が融合されて、有毒ガスを発生させてしまった。
中居美香は警察での取り調べに対してそう答えた。警察も中居が有名人であることと、死傷者がでなかったことを理由に、中居美香を起訴することはなかった。
管理センターの人間は納得がいかないのか、「防火センサー」を取り外した理由を執拗に問いただしてきたが、中居は「掃除をしようと思った」と答えるだけだった。
この防火センサーを天井から取り外すと、一階の管理センターへ異常を知らせる警告音が鳴る。警告音に気づいた管理センターの男が、十六階へ確認に上がると卵の腐ったような異臭がした。「これは、有毒ガスだ」とっさに判断した男は排煙口を開いて、防火扉を閉めて一階へ降りてきた。
一階のセンターで上司に「卵の腐った異臭がした」と告げると、上司は「それは、硫化水素の可能性がある。硫化水素は空気より重いので十六階から下は至急避難させよう。十六階以上は安全が確保されるまで、部屋から出ないように非常放送を各部屋宛に発放させろ」と、指示が飛んだ。それが、厚樹を起こしたインターホンの案内だったのだ。
警察での事情聴取に竹田と厚樹も協力した。中居とは事前に口裏を合わせていたので、有毒ガスは事故だったと処理し、警察も大げさにすることはなかった。
つづく