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雪國の焉  作者: こくわ
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幽鳥

中華風ではありますが、中国史などを基にした作品ではありません。

 雪がパラパラと降り始めた。いや降らせたと言った方が妥当だろうか。


先程まで晴れていた空に段々と雲が掛かり始める。


なんとなく雪のこと考えると、どこからともなく雪が降る。雨でも雲でも同じだ。

嫌なことがあって、機嫌が悪い時は雷まで降る。


雪は土に着地した瞬間に何処かへ消えていく。


(私もこんなふうに消えていってしまいたい。)

 

 どうやら私はこの世の生物ではないらしい。どちらかと言うと妖のような。


「貴方様の気分はこの国の気候であり、災いなのです。」


とお付きの初老の侍女がそう言ってくるが、私だってをよく分かっていない。


背中からは体の大きさと同等の翼が生え、目つきは鋭く、少年のような見た目ながら髪は白い。


そして気分で天候を変えてしまう。


(こんなのただの化け物だ。)


 だからこの身体がずっと嫌いだった。

このせいで周りは私を神のように扱う。おしゃべりなんてしようともしてくれない。遠出もできない。


私のことを崇めるくせに、私のしたいことはさせてもらえない。


 もっと嫌なことに私はこの国の王らしい。私はこの国のことを何も知らないのに。


 侍女たちは私を「幽鳥(ゆうちょう)様」と呼ぶ。


私にとってその名前は皮肉にしか聞こえなかった。

引きこもりの愚王なのだと、言っているように思えて。


 しかし王だからと言ってこれという仕事はない。

時々来る書類に印鑑を押すぐらいなものだ。大体が政治的なものらしいが、難しくて読めない。


住んでいる館の敷地から出ることはほとんどないので、国の政治は何も知らない。

風の噂では、宰相が政治を執り行っているらしいが、見たこともない。


(きっと、この国では王はただのお飾りなんだ。)

 

私は生まれた時から館の主人であり、異能者であり、王であった。

いくら駄々を捏ねようと、それらの責からは逃れられなかった。


 唯一安らぎを覚えるのは館の敷地内にある竹林を散歩すること。人口池のほとりの石に腰をかけぼーっとするとどうでも良くなってくる。


今日も池に流れる水の流れをじっと見つめて、翼を大きく広げていた。あまりに動かさないと痛くなってくるから。


水面に写る自分を見つめる。


翼は薄い灰色と濃い灰色の部分があり、見た目は悪くないと思う。何より暖かいのが唯一の利点かもしれない。


自分のことが嫌いな象徴ではあったが、同時に好きな部分になりつつあった。


(いや、でもやっぱ気持ち悪いよな...)


しばらく翼と睨めっこしていた。

 

 何かが水面に飛んでくる。


細く鋭い矢が翼に刺さった。

 

激痛が走る。その場に勢いよく倒れ込み、右頬を打ちつける。


翼から背中にかけて突き刺さるような激痛と痺れが走る。(やじり)に毒が仕込んであったらしい。


「っ..!いたい...」


少しずつ意識が遠のいていくが、不快感は募っていく。

雪も一層強さを増し、あっという間に積もって、池には薄く氷が張る。


視界も奪うような激しい吹雪になり、側仕えの侍女たちが悲鳴をあげる。護衛は刺客を探そうにも探せない状況だ。


 もう意識が無くなるその時だった。


誰かに体を持ち上げられ、森の方へ連れて行かれる。


(..どうしよ...殺される?)


記憶が残っていたのはそこまでだった。





 「よぉ、幽鳥さま。」


 低く少し掠れた声に名を呼ばれる。

暗闇の中、男の顔が炎に照らされていた。


野蛮そうな顔立ちではなく、どちらかというと真面目そうな顔だった。

細いが筋肉質な体で、嬉しそうな顔をしている。


だが当然不安が勝ち、その笑顔さえ恐ろしい。


 男以外に人はいない。

どうやら小屋ほどの大きさの中、二人きりらしい。


真ん中に小さく火があって、私は寝台の上に寝ていた。


 体は痺れていて動かそうとも動かせない。

なんとか声を出そうと口を開く。


「ぁあ、無理すんなって。仮にも毒が回ってんだ。状況なら俺が教えっから。」


信じられそうになかった。なんとか声を出そうにも、嗚咽しか出てこない。


「大丈夫だから。ここ超安全な場所だし、俺もなんも手ぇ出さねぇって。」


真偽がどうとかではなく、ここに居たら何か恐ろしいことが起こる予感がして、信じたくなかった。


歯を思いっきり食いしばって、体を起こそうとする。


「っおい、やめとけって!今は安静第一!ほんと!ほんとになんもしない!ってか俺なんなら味方なんだって!」


地べたに座ってた男が慌てた様子で駆けてくる。


 味方という言葉を聞いて、何故か気を緩めてしまった。体が動かすのを諦めてしまったのだろうか。


どっちにしろ身体が動かせないことはわかった。

男が喋るのを仕方なく聴いておく。


「俺、あんたの護衛としてここにいんの。一応、(ロウ)って名前。」


初めて聞く口調や態度に違和感を感じる。


 露は好きな食べ物や家族構成など、長い自己紹介を楽しそうに話す。

二十歳、うねった髪は父譲り、妹はおらず弟が三人いる長男などいろいろ...。


早く状況を聞きたかったが、話せないので10分程も待った。


そして今やっと、思い出したかのように今の状況を話し出した。


「あ、そういえば俺らのこと話すんだっけね。えーっと、」


(やっとか...本当に大丈夫かなこの人。)


「いろいろあってね、俺ら今の政治気に入らなくってさ、みんなのために頑張って革命を起こそうとしてんだ。まぁもう起きたけどね。」


(革命...?)


「それで、あの馬鹿宰相を懲らしめるためにちょっと攫われてもらったってわけでー。」


簡単に言うと道具として使われたというところだろうか。

人質として攫って、その宰相に要求を迫る、と言うのならば生きるか死ぬかは分からないのではないか。


どちらにせよ、私の知らないうちにこの国は混乱に陥ってしまったらしい。


「てか、幽鳥さまって思ったより幼いんだね。俺の弟とおんなじぐらい。」


最も重要な、現状についての話は終わりらしい。まだもっと聞きたいことがあるのだが。


「男にしちゃあ可愛い顔してんね。俺、なんか仲良くなれそうで楽しみだなぁ〜。」


(いやっ、別に仲良くしなくても...!)


「あとさぁ、“さま”って付けるのめんどくさいからやめていい?」


(話がコロコロと変わる男だな。)

本当に護衛が務まるのか、怪しくなってきた。


「あ!なんなら新しく名前つけちゃう?だって幽鳥なんて見た目にあやかっただけのもんだろ?」


確かにこの名前はずっと気に入らなかった。

外ではいとも簡単に名前をつけられるものなのか。


「そうだなぁ〜。ユウ?レイ?うぅーん。」


(私の発言もなく、私の名前を決めるつもりか...?)


本当に突拍子もないことを言い出したが、なんやかんや楽しさを感じる。


見たこともない接し方は面白かった。”友人”とはこういう会話をする存在に近いのだろうか。


五分ぐらいずっと露はぶつぶつと独りごちる。


ちょっと眠くなってきたところだった。


「っよし、決まった!」


急に大きな声を出すので少しびっくりした。


 「エンだ、(エン)!どう?」


最初は真面目そうだと思ったが、真逆かもしれない。


こっちはこんなに困っているのに、露はこんなに楽しそう。

こっちまでおかしくなってしまったみたいで。


「あれっ。今もしかして笑った?」


名前の良し悪しは分からないが嫌な感じはしなかった。


「なぁ、焉。」


寝ている私の顔を見下ろしてくる露の顔は優しかった。

もしかしたら私はこの人に殺されるかもしれないのに。


答えて笑おうとするが難しい。


「ゆっくり休んで元気になったら、焉の話沢山聞かせてくれよ。」


(この怪我させたのはどっちだよ。)


ちょっと不満だが、ここで暫く過ごすのも悪くないと思った。




 焉は焚き火の炎の様に静かに怒りながら、何処か穏やかだった。


生と死の狭間に揺れながら、静かに佇んでいる。


(ただ、実感が湧いていないだけなんだ...きっと。)


焚き火のそばで居眠りをする露を横目に焉も目を閉じた。


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