↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青空  作者: 転生新語
PR
4/5

寝室、五分経過

 娘が部屋(へや)に入(はい)ってから、何分(なんふん)が経過(けいか)しただろうか。私には酷(ひど)く、長(なが)く感(かん)じられた。きっと娘も同(おな)じような気持(きも)ちなのだろう。やはり娘は優(やさ)しい子だと私は思った。私を撃(う)つべきかどうか、真剣(しんけん)に悩(なや)んでくれているのだから。その選択(せんたく)を受(う)け入(い)れるべく、じっと私は待(ま)った。


 まだ十五才の娘が、これから海外(かいがい)で逃亡(とうぼう)生活(せいかつ)をするとしたら、きっと苦労(くろう)は絶(た)えないだろう。今(いま)の学校には友達(ともだち)も居(い)るはずだ。娘には寂(さび)しい思(おも)いをして欲(ほ)しくなかった。あの子(こ)の周(まわ)りに、支(ささ)えてくれる人(ひと)が居続(いつづ)けてくれますように。


 夜(よる)が永遠(えいえん)に続(つづ)くかのようだ。もし私が朝(あさ)を迎(むか)えられたら、その時(とき)は、私たちの関係が変(か)わるかも知れない。私と娘、そしてミモザが三人(さんにん)で暮(く)らす未来(みらい)。憎(にく)しみが消(き)え、愛に寄(よ)って新(あら)たな関係が築(きず)かれる世界(せかい)。神(かみ)の教(おし)えに寄(よ)れば、私たちは皆(みな)が罪人(つみびと)だ。その罪(つみ)を許(ゆる)し合(あ)い、愛(あい)し合(あ)う事(こと)でしか、きっと戦争の傷跡(きずあと)は癒(いや)せないのだろう。


 ミモザに会(あ)いたい、という気持(きも)ちが湧(わ)き上(あ)がってきて、自分で驚(おどろ)く。何(なに)を今更(いまさら)とも思(おも)うが、しかし娘の成長(せいちょう)をこれからも見続(みつづ)けたいという気持(きも)ちと同様(どうよう)に、ミモザを想(おも)う気持(きも)ちは胸(むね)の中(なか)から消(き)えなかった。そういう強(つよ)い、想(おも)いや愛情(あいじょう)というものはあるのだ。私が射殺(しゃさつ)した女性の愛情が、彼女の死後(しご)も娘に影響(えいきょう)を与(あた)え続(つづ)けたように。


 死(し)をも越(こ)える愛情(あいじょう)。まるで呪(のろ)いのようだ。しかし、それほど強(つよ)い愛(あい)があれば、人は憎(にく)しみの連鎖(れんさ)を断(た)ち切(き)る事(こと)も可能(かのう)なのではないか。根拠(こんきょ)など無(な)い。だが憎(にく)しみが永遠(えいえん)に続(つづ)くと、誰(だれ)が言(い)い切(き)れるのだろう。


 無限(むげん)とも思(おも)われる夜(よる)の闇(やみ)の中(なか)で、私は自分が何(なに)を考(かんが)えているかも分(わ)からず、ただ娘とミモザの事(こと)を思考(しこう)していた。会(あ)えるはずが無(な)くて、だから鍵(かぎ)を掛(か)けていない玄関(げんかん)から、建付(たてつ)けの悪(わる)いドアを乱暴(らんぼう)に開(あ)けて彼(・)女(・)が走ってきた時(とき)は夢(ゆめ)かと思った。


「銃(じゅう)を下(お)ろしなさい、お嬢(じょう)ちゃん」


 そう言(い)って開(あ)いたままだった寝室(しんしつ)のドアから、ミモザが入(はい)ってくる。思(おも)わず私はベッドから身(み)を起(お)こして、娘に両手(りょうて)で銃(じゅう)を突(つ)きつける彼女の方(ほう)へ向(む)いた。屋内(おくない)の電気(でんき)は消(き)えたままだが、窓(まど)からの月(つき)明(あ)かりで状況(じょうきょう)は良(よ)く見(み)える。きっとミモザは夜(よ)闇(やみ)の中(なか)、数時間前(すうじかんまえ)から自転車(じてんしゃ)で家(いえ)の前(まえ)に来(き)て、様子(ようす)を伺(うかが)っていたのだ。


 そして私は、娘に目(め)をやった。燃(も)えるような瞳(ひとみ)があって、娘は背後(はいご)のミモザを気(き)にも掛(か)けない様子(ようす)で、私に銃(じゅう)を向(む)ける。やはり両手で構(かま)えていて、それは娘の五才当時(とうじ)、私が育(そだ)ての母親を射殺(しゃさつ)した時(とき)の構(かま)えと同(おな)じだった。


 娘はベッドの傍(そば)に立(た)っていて、私との距離(きょり)はかなり近(ちか)い。ミモザは娘から、やや離(はな)れた距離(きょり)で、私への誤(ご)射(しゃ)を恐(おそ)れて躊躇(ためら)っている。私は娘にも、ミモザにも傷(きず)ついて欲(ほ)しくなかった。


「ミモザ、止(や)めて!」


 娘が撃(う)たれるかも知(し)れない。私は叫(さけ)びながら、娘をかばうよう抱(だ)き着(つ)きに行(い)く。強張(こわば)ったミモザと娘の肩(かた)に、力(ちから)が入(はい)る姿(すがた)が見(み)えた気(き)がした。




 街(まち)外(はず)れの何処(どこ)かで、パン!という、自動車(じどうしゃ)のタイヤがパンクしたような音(おと)が響(ひび)いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。