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青空  作者: 転生新語
2/5

家の前、昨日の昼

食料(しょくりょう)()ってきたわ。代金(だいきん)は、また今度(こんど)でいいわよ」


「ありがとう、ミモザ。いつも(たす)かるわ」


 戦友(せんゆう)のミモザが、ワゴン(しゃ)後部(こうぶ)()()んだ(もの)()んで、()()()てくれたのが昨日(きのう)の昼だった。土曜日で、娘は中学校に()っている。ミモザの(ほう)(まち)の中心部に、少しだけ近い場所に()んでいて、いつも私の世話(せわ)()いてくれた。普段(ふだん)は自転車で、気軽(きがる)に私の家まで()てくれる。私は彼女の好意(こうい)(あま)えてばかりだ。


「いいのよ、お(れい)なんて。私の(ほう)こそ、ありがとう。あの(とき)から私を拒絶(きょぜつ)しないでくれて」


 そっとミモザが、両手(りょうて)で私の手を(にぎ)る。東洋(とうよう)()()いたミモザは同世代(どうせだい)で、なのに私より(わか)()える。あの戦争が()わった、十年前の当時(とうじ)、ミモザは私に(おも)いを(つた)えてきた。(おっと)()くした私に()って、彼女の「(あい)してる」という言葉が、どれほど(うれ)しかったか。娘の(こと)()ければ、きっと私は、ミモザと(とも)()らしていたのだろう。


「拒絶なんて……ただ私は、娘との()らしを優先(ゆうせん)させたかったの。その選択(せんたく)(ただ)しかったとは、今は思えないけどね。娘に()っても、貴女(あなた)()っても」


 彼女は(こた)えず、そっと私から(はな)れた。私もミモザも、車から食料を(かか)えて玄関先(げんかんさき)へと()かう。(むかし)ながらの(ちい)さな木造(もくぞう)建築(けんちく)で、ドアは()()めが、かろうじて可能(かのう)という状態(じょうたい)だ。


(ひど)いわね、(かぎ)()からないんでしょう。泥棒(どろぼう)(こわ)くないの?」


「ここは(まち)(はず)れだもの。生活してる(ひと)は、貴女以外(いがい)には娘と私しか()ないし、私が泥棒(どろぼう)なら(ぎゃく)敬遠(けいえん)するわよ」


 そうだ。こんな場所に女性が(とど)まっているのなら、自衛用(じえいよう)(じゅう)間違(まちが)いなく()っている。その事実(じじつ)をかつて私は、()(もっ)()っていた。


「今日は、あの()誕生(たんじょう)()よね……ねぇ、(かんが)(なお)さない?」


「ありがとう、ミモザ。私を心配(しんぱい)してくれて。でも、もう()めたから」


 屋内(おくない)荷物(にもつ)()きながら、私たちは言葉(ことば)()わす。今日は娘の誕生日で、ミモザには私の(かんが)えを(すで)(つた)えていた。いつも私は、自分が(しん)じる『最善(さいぜん)』を()()けてばかりだ。それで娘もミモザも私は不幸(ふこう)にしてしまったのではないか。


 彼女が(おとず)れて、いつもなら昼時(ひるどき)、この家で私たちはお(ちゃ)()んだりするのだが。今日の私は、くつろいでばかりも()られない。この(あと)、ちょっとした作業(さぎょう)があるのだ。


「これが最後(さいご)の、お(わか)れになるの? ねぇ、本当(ほんとう)に?」


「そんな(かお)をしないで、ミモザ。どうなるかは、神様(かみさま)()めてくださるわ」


 言葉を()()んで、(なみだ)(こら)えながらミモザは、何度(なんど)()(かえ)りながら(かえ)っていった。(くるま)()っていく(おと)屋内(おくない)()いて、(いき)(ひと)()く。集中(しゅうちゅう)しなければならない。私はペンを()って、娘への手紙を書き始めた。

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