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リリアがやってきた

黄金の長い髪が大理石の上にまで流れ、白磁の肌が天窓から射し込む月光によって照らされ淡く浮かび上がっていた。


北の最高位の魔術師…リリア・ノルド・マギは両手を魔導宮と呼ばれる特殊な透明の石の上に翳し形の整った唇で歌うような呪文を唱えていた。


「聞き届けよ」

我が聖霊…時のノルン


「次なるフィマールの王の名を」


石からユラリと淡く青い光が立ち昇り女性の姿を形作った。

瞬間に背後から声が響いた。


「北の魔術師…リリア・ノルド・マギ」

わが師よ

「もう、貴女の時代は終わった」


リリアは声に振り返り大きく目を見開いた。

「…ランスロット…何故ここに…」


ランスロット・フォン・ウインダリアは腰の鞘から剣を抜くと

「貴女を殺すためです」

これからは俺がノルド・マギの称号を戴きます

と振り上げた。


リリアはその剣先の輝きを見つめ息を飲み込んだ。

「…ノルンの末娘スクルド」

我に与えよ

「未来を…」


死か。

生か。


ランスロットは酷薄に笑みを浮かべ

「貴女に未来はない」

ここで終わるのだ

と振り下ろした。


その刹那、ノルドの精霊はリリアを抱き締めランスロットを見つめた。


この日この時、フィマールの最高位の魔術師は変わり、ノルド・マギの冠を戴く者もそしてその役割も変わったのである。


国を守護する者から破滅へと導く者へと。


魔導の塔の中に静寂は広がり、天窓からの月の光も何も語ることなる射し込むだけであった。



異世界魔女と名刑事



「あー、兄!」

リリアが殺されちゃった!


テレビに向かって叫ぶ弟の優を肩越しに見て竜原口秀美は

「優、飯出来たからゲームけして箸を出す!」

と呼びかけた。


竜原口優はゲームの電源を落としてコントローラーを置くと

「はーい」

と答えて、棚から箸を二組出して膳の上に置いた。


秀美は自分と弟の前に豚の生姜焼き乗せた皿を置き

「今日は夜勤だから戸締りをちゃんとして寝るんだぞ」

明日の朝のパンは冷蔵庫にあるから食べてから学校な

「遅れるなよ」

と告げた。


優は頷いて

「わかった」

と笑顔で答え

「いただきます」

と両手を合わせた。


秀美が13歳の時に父親が結婚した。

秀美の実の両親は秀美を産んですぐに事故で他界した。


つまり父親は正確には実の父親の弟で叔父になる。

優しい人でずっと秀美を育ててくれた。


そして、結婚して3年後に優が生まれた。

優は弟だが血縁的には従弟になるのだ。


ただ、叔父と優の母が旅行先で亡くなったために今は秀美が優の面倒を見ている。

10歳の優が成人するまでは頑張って育てて行こうと思っていた。

それが自分を育ててくれた叔父への恩返しになると考えていたからである。


秀美はご飯を食べ終えると服を着て

「じゃあ、行ってくる」

と家を後にした。


優は戸口で

「いってらっしゃい、兄」

と手を振り、戸を閉めると鍵をして

「兄がお仕事行ったから今日のゲームタイムは終わり」

と言い、お膳を畳んで押し入れから布団を出して敷いた。


ゲームは好きだが両親が死んでから一生懸命働きながら自分を育ててくれている兄に迷惑をかけるわけにはいかなかったのだ。


優は布団で横になりながら

「…リリアが殺されてどうなるんだろ」

先が気になるけど我慢―!

とガバッと身体を起こすと電気を消した。


その瞬間であった。

淡い光が空間に集まり青い姿の女性が優を見つめた。


優は不思議そうに女性を見つめ

「…お母さん?」

と呟いた瞬間に女性は両手を広げた。


そこに金色の長い髪の女性が現れたのである。


優は目を見開き身体を起こした自分の足の上にふわりと落ちた姿を見て

「リリア…だ」

リリアだ!

とあわわと慌てた。


女性は微笑み霧散するように消え去った。

残された金色の髪の女性は透明の球体を抱き締めたままクゥクゥと眠り込んでいたのである。


空に浮かぶ月は時期でもないのに食が起こり、多くの人々がそれを見上げ驚いていた。


秀美も張り込みをしながら空を見上げ

「ん?月食か?」

と呟いて、隣で同じように張り込んでいた的井修吾が

「すげぇな、見れてラッキー」

と告げたのである。


まさか、この月食によって思わぬ運命が回り出すとはこの時、秀美は想像すらしていなかったのである。


結局、張り込みは失敗し情報として得ていた密輸取引は行われなかったのである。

秀美は欠伸をしながら自宅マンションへと早々に帰宅し、家の戸を開いた。


「ただいまー」

寝るー


そう言って玄関で靴を脱いで部屋の中を見て

「…ん?」

と目を細めた。


朝食のパンを食べている弟の優…は何時も通りだ。

が、弟の前に座っている金色の長い髪の女性は…どちら様?


優は靴を脱いで一歩踏み出した状態で固まっている秀美に

「兄、リリアがね」

昨日来たんだ

「すげーだろ!」

と笑顔で告げた。


…。

…。


「誰が昨日来たんだ?」と秀美は顔を引き攣らせながら笑みを浮かべた。

それに女性は振り返り綺麗に微笑むと

「私の名前はリリア・ノルド・マギと申します」

貴方がこの城の王

「秀美さまでございますか?」

と告げた。


秀美はぎこちなく動きながら

「あ、いや…確かに俺が秀美だが」

と答え、優に

「誰だ?」

と指をさした。


優は笑って

「だから、リリアだよ」

と答えた。


秀美は震えながら

「優!見知らぬ人を勝手に家に入れるな!」

そう何時も注意してるだろ!

と怒ると、女性の前に座って

「何処から来たんだ?」

何が目的だ?

と手帳を出して聞いた。


刑事の悲しい性分である。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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