3話 カゲヨシの回想
自分でも展開が早すぎることに、困惑しています。
「はっはっは、これさえ実現できれば、あいつの天下もこれまでよ‼」
一人の男が何十人もの女を侍らせ、高笑いを上げていた。女の人たちは顔は嬉しそうだが、内心は嫌がっていそうな含んだ笑みを浮かべていた。
しかし、次の瞬間。高笑いを上げていた男が急に黙りこんだ。女たちは最初、寝てしまったのかと思った。なにしろ時刻は深夜を回っており、その男は五十を超えている。だが、それはあまりに不自然だ。さっきまで笑っていた人間がまるで死んだかのように黙るものか、女たちは恐る恐るその男に声をかけた。
しかし、返ってくるのは外で鳴いているコオロギの音だけ。男はなにも声をださない。
それは当たり前のことであろう。なぜ死んだ人間が声を出せるとこの女たちは思っているのだろう。
ようやく状況を理解したのか、女たちは夜の世界を切り裂きそうな音で騒いだ。
暗殺である。
だが、謎は残る。なぜ、男は急に死んだのか――。
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一本の松の木が生えている大きな屋敷の庭で、一人の男とその母親らしき人物がいた。
「母上、天下に害をなす虫を一人排除しました。」
「ご苦労様です。上様にはわたしが報告します。」
男は「はいっ」と返事をして、顔を上げればそこに母はいなかった。しかし、男は嬉しそうだ。それは、母がいなくなったからか、いや違う。男は――カゲヨシは母の役に立ったことが嬉しかったのだ。
それも当然であろう、母はカゲヨシの一番の理解者なのだから。
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カゲヨシは能力『結果だけを得る能力』をもって生まれた。最初、家の者は喜んだ。最強の能力と言っても差し支えのない能力、喜ばないはずがない。しかし、それも長くは続かなかった。
最初は喜んでいた者も次第にその能力を危険視しだした。
『結果だけを得る能力』とは言葉のまま、結果だけを得る。
結果とは、過程の先にあるもの。例えば、1+1は2だがこの場合、1+1が過程であり、2が結果である。しかし、2とはまた別の過程でも求めることができる。
-1+3、4-2そして、100-98これでも結果は2である。このことから何が言えるのか。それは、一つの結果に対し、過程は簡単なものから複雑なものまでたくさんあるこということだ。
そこで、カゲヨシの能力だ。この能力は過程を無視し結果を得るだけでなく、その過程を辿らなくていい点にある。普通、結果を得るにはその過程を歩まなければならない、現に『結果を得る能力』はその結果を得るために、過程を歩まなければならない。
しかし、カゲヨシの能力は結果だけを得る、もうこの能力のすごさが分かっただろう、この能力は多岐にわたる過程を踏まずに、結果を即座に手に入れることができる。
もう一つ、例を挙げよう。それは殺しだ。殺すが結果なのであれば、過程とはなにか。毒殺、刺殺、撲殺、さらに笑い殺しもあるだろう。
はたしてカゲヨシはなにができる?力がないのであれば毒殺したらいいし、力があるならば撲殺もいいだろう。ではそれすらできないなら?準備を十年かけて笑い殺ししたらいいのだ。
ようは結果が殺すなら、たとえ何年かかろうが達成できるわけであって、その苦労するであろう過程を飛ばし、結果を得る。
説明は十分だろう。こんな能力を持った人間、恐れないはずがない。周囲の人間はカゲヨシから距離をとった。しかし、母だけは違った。カゲヨシを殺すべきという意見を却下し、カゲヨシを生かしたのだ。
母は自分の時間をも犠牲にし、カゲヨシの心の支えとなった。そんな母を一体だれが嫌いになろうか。
カゲヨシはいつからか、母を喜ばせるために殺しの仕事の量を増やしていった。
すべては母を喜ばせるために……
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