位置型エネルギー保存装置
男の夢は発明家だった。何かを作るのが好きで、色々と工夫するのが楽しくて、想像力が形になっていく事に喜びを感じる。贅沢な暮らしなど求めていなかった。ただただ男は発明が好きだったのだ。
周囲の人間は、そんな彼を馬鹿にした。時代錯誤も甚だしい。エジソンの時代ならばまだ分かる。しかし、現代は科学が高度に発達をしている。知の未知なる領域は、それほど多くは残されていない。そして、何かを開発するのには、金も人手も多くかかる。個人の力で何ができる? 個人で発明できるものなど、もうとっくに何処かの会社に発明されてしまっているはずだ。趣味の領域ならば分かるが、それを仕事にするだと?
だけど、男はそれを気にしなかった。澄ました顔でこう言ってみせる。
「想像力は無限大だよ。皆が無駄だと思っているものの中にこそ、工夫すべき何かがあるのじゃないか。
単純だけど、皆が気が付いてない事なんて山ほどあるのさ」
ある時、男は妙な機械をこしらえた。それは太陽電池で発電された余分な電気で動くらしい。なんだか大きなバケツのようなものが、エレベーターのように昇っていく。そのバケツにはフタがついていて、上の方にまで登っていくと自動的に開くよう。
もちろん、それが何なのか、皆にはサッパリと分からなかった。
皆の怪訝な視線に対して、男はこう言った。
「これはエネルギー保存装置だよ。太陽電池でいくら発電しても、保存ができなければ無駄になっちゃうんだ。そのロスを少なくする為に、僕はこれを考えたんだ」
そう言われても、誰もそれがエネルギー保存装置だとは思わなかった。ただのオモチャに見えていたのだ。しかし。
十年後。
太陽の光を受ける街。午前の遅い時刻になると、太陽電池の発電量の方が多くなり始める。すると、街の一角にあるビルが少しずつ昇り始めた。
そのビル… 正確には、ビルのように見える蓄電器は大きなバケツのような形をしている。そして、夕刻前まで余分な電力を吸って上昇をし続ける。やがて上昇が止まると、バケツのフタが開いた。そして、そこに雨が降る。雨はバケツの中に溜まる。重量が、それで更に上がった訳だ。
やがて、夜になるとそのビルはゆっくりと下降し始めた。傍らでは、大きな音を発ててタービンが回っている。もちろん、そこでは発電が行われているのだ。ビルの重量、下降によって生じる運動エネルギーを、電力に変えている訳である。雨水を溜める事で、そのエネルギーは更に増加している。もちろん、雨水を流す時にもエネルギーを得られる。
つまり、このビルは全体で、電力を位置エネルギーに変えて蓄える装置だったのだ。一部は雨水発電機でもある。とっても単純な仕組み。高度な知識なんて必要ない。だけど誰もこれに気が付かなかった。発想を遊ぶ事を知っている人間だけが、その装置を生み出せたのだ。
「想像力は無限大だよ」
男はニッコリと笑ってそう言った。