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仲良し3人娘の怪談

叶ってしまった願い事

作者: ウォーカー
掲載日:2022/07/11

 「七夕といえば、短冊に願い事を書くわよね。

 もしも、お願い事が本当に叶うとしたら、どうするかしら?」

「願い事をいっぱい書く!」

「わたしは緊張してお願い事を書けなくなっちゃうかも。」

「じゃあ、願い事を書いた後から、

 願い事が叶う短冊を選べって言われたら?」

「それは・・・どうしよう。選べないかも。」

「あたしだったら、インチキする!」


同じ高校に通う、仲良し3人組の女子生徒。

黒くて長い髪の女子生徒は、落ち着いていて大人びた子。

髪を頭の左右に分けて結っているツインテールの女子生徒は、天真爛漫な子。

おかっぱ頭の女子生徒は、大人しくてやさしい子。

これが、その3人。


その3人は同じクラスの仲良しで、遊びに行く時はいつも一緒。

これは、七月七日に、その3人が七夕祭りに行った時の話。



 七月七日、七夕の日。

日が暮れても冷めない熱気に、

少し早い夏の到来を感じさせるその日、

その3人は、近所の公園で行われている七夕祭りにやって来ていた。

都会にあるその公園は、学校の校庭を半分にしたような大きさで、

そこに近所の人たちが集まって、七夕飾りやら出店やらが用意されていた。

お祭りに来ている多くの人たちと同じく、その3人も浴衣姿だった。

長い髪の女子は、濃紺に白い花が咲く浴衣姿。

ツインテールの女子は、淡黄色の柑橘類を据えた浴衣姿。

おかっぱ頭の女子は、白地にピンクの金魚が踊る浴衣姿。

涼し気な浴衣姿は、しかし姿だけで、

混雑する公園は熱気がこもってまるで蒸し風呂のよう。

その3人は出店で買ったりんご飴を手に、暑さでぐったりとしていた。

長い髪の女子が、額の汗をハンカチで押さえて口を開く。

「それにしても暑いわね。

 この七夕祭りには、涼みに来たはずだったのだけれど。」

ツインテールの女子が、りんご飴を一舐めして応える。

「本当。これじゃ、まるでサウナだよ。

 涼むどころじゃない。」

すると、おかっぱ頭の女子が苦笑いして言った。

「この公園、去年まではこんなに暑くなかったのにね。

 風上におっきなビルが建ったんだって。」

「つまり、この公園が暑くなったのは、そのビルを建てた連中のせいか。

 あたしの涼風を返せ!」

「あなたの家も大きさから考えると、

 いくらかの風をせき止めていると思うのだけれど。」

その3人がそんなやり取りをしていると、

ふと、長い髪の女子の背後から呼び声が聞こえた気がした。

振り返るとそこには、小柄な老爺の姿。

この七夕祭りを主催する町内会の役員だった。

老爺はにこにこと笑顔で、長い髪の女子を見上げていた。

「こんばんは。3人とも浴衣が涼しそうだねぇ。」

「あっ、こんばんは。

 お祭りにお邪魔してます。」

「こんばんは。」

「涼しいのは見た目だけだけどね。

 この公園の暑さたるや・・・ぐえっ!」

愚痴るツインテールの女子を、長い髪の女子がひじで小突いた。

そんなその3人の様子に老爺は笑い声をあげて、何やら差し出してみせた。

「ほっほっほ。

 お若い人たちには、この暑さは堪えるでしょう。

 そこで、ちょっとお願いがあるんですが、頼まれてはもらえませんかな。」

老爺の申し出に、その3人は何事かと顔を見合わせた。


 近所の公園の七夕祭りに来ていた、その3人。

暑さにぐったりとしていると、町内会の老爺が声をかけてきた。

老爺はその3人にお願いがあるのだという。

お願いとは、こんな内容だった。

「3人とも、向こうの外れにある空き家はご存知かな。

 あの家に住んでいたお婆さんは身寄りが無くて、

 しばらく前に亡くなってからはずっと空き家なんです。

 申し訳ないが、様子を見てきてもらえませんかな。

 このお祭りの前までに行くつもりだったんだが、

 ちょっと忙しくて手が離せませんで。

 あの家は風通しもいいし、休憩には丁度良いでしょう。

 飲み物をいくつか持って行っていいから、涼んでくるといい。」

涼が取れるという老爺の言葉に、その3人は、

老爺が差し出す家の鍵に飛びついたのだった。


 そうしてその3人は、七夕祭りの会場である公園から離れた。

背後から聞こえるお祭りの喧騒が遠ざかって、人気ひとけが少なくなっていく。

夜の住宅地にはお祭りの微かな喧騒と、その3人が履く下駄の足音が響いている。

ツインテールの女子が、飲み物が入った袋の中を覗き込む。

それは老爺から渡されたものだった。

「おっ、あのお爺ちゃん、いいものくれるじゃない。

 しかも一升瓶で。

 早く行って3人で飲もっ!」

「何が入ってるのか大体想像がつくけれど、私は飲まないわよ。

 冷たいお茶で良いわ。」

「お硬いなぁ。

 じゃあ、あんたの分はあたしがいただくよ。

 でも、一升瓶はさすがに重い・・・。

 これから行く空き家まで、あとどれくらい?」

「お爺さんのお話だと、もうすぐのはずだよ。

 あっ、あのお家じゃないかな。」

おかっぱ頭の女子が指差す先に、竹林に囲まれた民家が姿を現した。


 目的の空き家は、竹林に埋もれるようにして建っていた。

あまり手入れはされていないらしく、敷地内は雑草が生え放題。

二階建ての古い一軒家はボロボロで、まるでお化け屋敷のようだった。

「ここよね。

 見たところ、ずいぶんと古い家のようだけれど。

 中に入って大丈夫かしら。」

「たまに人が入ってるって、

 あのお爺ちゃんが言ってたから多分大丈夫だよ。

 荷物が重たいから早く玄関開けて。」

「う、うん。」

ツインテールの女子に急かされて、おかっぱ頭の女子が玄関の鍵を開けた。

軋む玄関の引き戸を開けると、玄関が口を開ける。

玄関を含めて空き家の中は、小さな明かりさえ点けられてはいない。

長い髪の女子が月明かりを頼りに、壁のスイッチをまさぐる。

見つけたスイッチを入れると、玄関と廊下に明かりが灯った。

小物が置かれた棚、使い込まれた廊下、色あせた障子。

家の中は、外よりは幾分ましな光景が広がっていた。

「電気は来てるのね。助かるわ。」

「でも、他所の家に黙って上がるのって、なんだか緊張するね。」

「空き家なんだから、遠慮すること無いよ。

 おじゃましまーす。」

気後れするおかっぱ頭の女子を後目に、ツインテールの女子がズカズカと上がり込む。

遅れて、長い髪の女子とおかっぱ頭の女子も続いた。

廊下を歩きながら部屋の中を覗くが、空き家らしく人の気配は感じられなかった。

ともかくも台所を見つけて、重たい飲み物などを置く。

冷蔵庫は使えるようなので、空っぽの中身を飲み物で埋めて冷やしておく。

家中を巡って明かりを点け、

窓や障子を開けて、家の中の澱んだ空気を入れ替えていく。

埃が目立つ場所をポケットティッシュで軽く拭いて、

そうしてその3人はようやく腰を落ち着けることができるようになった。

竹林の庭を望む縁側に、仲良く並んで腰を下ろす。

「ふぅ、ようやく落ち着けたわね。」

「思ったよりも傷んだところは無かったね。

 きっと、住んでたお婆さんも、その後でお手入れしてる人たちも、

 丁寧にお手入れしてたんだね。」

「あたしはとにかく疲れたよ。

 さっ、飲も飲も!」

老爺から持たされたお茶やら何やらの飲み物を手に、その3人は乾杯した。

喉を鳴らして飲み物を嚥下する。

「かーっ!旨い!

 こんなに旨いのに、どうしてあんたたちは飲まないのかなぁ。

 ここにはあたしたちしかいないんだから、遠慮することないのに。」

「私はお茶でも十分美味しいわ。このお団子ともよく合ってる。」

「わたしも、このみかんジュース美味しいよ。果汁100%だって。」

すると、ツインテールの女子が思い出したとばかりに、膝を打って言った。

「そうそう、向こうの部屋で短冊を見つけたんだよ。

 庭に笹もあるし、あたしらで七夕飾りしない?」

ツインテールの女子の手には数枚の短冊の紙。

いつの間に用意したのか、脇には筆とすずりまで用意されていた。

それを見た長い髪の女子が、鼻で軽く溜息をつく。

「あんた、いつの間にそんなものを見つけてきたの。」

「これ、硯だよね?水で磨って墨汁の代わりにするの。

 あれ?墨汁が硯の代わりだったかも。」

「向こうの部屋に置いてあったんだよ。

 古い短冊と、筆と硯と、盃が一つだけ置いてあった。

 筆記用具はこれしか無いし、借りても良いよね。

 あたしら3人で願い事を書いて、適当に取ってきた笹に飾ろうよ。」

そうしてその3人は、古風な硯で墨を磨り、

空き家で見つけたという短冊に願い事を書いていった。

庭から取ってきた笹に短冊を差し挟むようにして飾ると、

即席の七夕飾りとは思えない十分な見栄えになった。

「思ったよりも素敵な七夕飾りになったわね。」

「そうだね。

 短冊や筆を見つけてきたあたしのおかげでしょ。」

「うんうん。

 この短冊、模様が入ってて綺麗だよね。」

その3人は縁側に立てた自作の七夕飾りを眺めて満足そう。

調子に乗ったツインテールの女子が、

古い盃に一升瓶の飲み物を注いで手に持っている。

ところが、その古い盃の中身が人知れず減っていることに、

その3人は気が付かない。

三人みんなで、ずっといっしょにいられますように。

飾られた短冊の一つには、そんな言葉が綴られていた。


 その3人が七夕飾りに目を奪われている間に、

人知れず古い盃の飲み物が減っていった。

一口、もう一口と、古い盃の中身が減っていく。

そうして、誰も口をつけていないはずの古い盃の中身が空になると、

その途端、雷が落ちたような光と雷音が響き渡った。

「な、何っ!?どうしたの。」

「なんだなんだ、雷?」

「みんな、大丈夫?」

その3人は慌てて立ち上がると、お互いの姿を確認する。

幸いにも、誰も怪我をした様子はない。

するとどこからか、重々しい壮年の男の声が響き渡った。

「我を目覚めさせたのはお主らか。

 供物は受け取った。

 その礼として、短冊の願い事を叶えてやろう。

 全部、と言いたいが、我の衰えし力では二つが精一杯。

 一つは我が選んで叶えておいたから、

 もう一つの願い事はお主らが選ぶと良いだろう。」

滔々と語る壮年の男の声に、

その3人はポカンと顎を落として顔を見合わせた。

唾をゴクリと飲み込んで、ツインテールの女子が声を出した。

「今の、聞こえた?」

「ええ。

 短冊の願い事を叶えてくれるって。」

「もしかして、神様?」

「それとも化け物かもね。」

「どこかに誰かが隠れていたずらしてるのかしら。」

「きっとそうだよ。

 あたし、ちょっと家の周りを探してくる。」

ツインテールの女子が庭へ向かって駆け出して、

ごつん!と何かに顔をぶつけて涙目でうずくまった。

「いったーい!何これ?

 縁側のところに、見えない壁みたいなのがある。

 これじゃ外に出られないよ。」

ツインテールの女子が言う通り、

空き家と庭の境界、縁側に沿って、

ペタペタと手がつく見えない壁のようなものがあるようだ。

外の景色は見えるのに、そこから先にはどうしても体が通らなかった。

急いで玄関や他の窓などを確認したが、

やはりどこからも家の外に体を出すことはできなかった。

その3人は再び元の縁側に戻ってきて、深刻そうに顔を見合わせた。

「私たち、閉じ込められてしまったみたいね。」

「透明な壁なんて、どうやって用意したんだろ。」

「人のいたずらじゃ無理だよね。

 じゃあもしかして、本当に神様?」

呆然とするその3人がふと傍らに目を落とすと、

そこには自作の七夕飾りがあって、短冊の一枚が淡く光を放っていた。

三人みんなで、ずっといっしょにいられますように。

その短冊にはそんな願い事が書かれていた。


 古い空き家で自作の七夕飾りを作ると、

壮年の男の声が聞こえてきて、家から出られなくなってしまった。

家の内と外とを透明の壁で区切るなどということは、

とても人にできることとは思えない。

では、これは神の力なのか。

ともかくもその3人は、声の主と話をすることにした。

長い髪の女子が、どこに話しかけて良いのかわからず、

天井に向かって声をあげた。

「声の主のあなた、聞こえてるかしら。」

「・・・ああ、聞こえているぞ。」

どこからか壮年の男の声が返ってきたのを確認して、

長い髪の女子は話を続けることにした。

「あなた、名前は何と呼んだら良いのかしら。」

「何とでも。人からは牽牛けんぎゅう牛郎ぎゅうろうと呼ばれることもある。」

「じゃあ、牽牛さん。

 あなたは神?それとも化け物?」

「その区別は人がつけるもの。

 我には無関係なこと。我は我だ。」

「あなたの目的は何?

 どうして私たちをここに閉じ込めたの。」

「我は天帝から人の願い事を叶える役目を仰せつかっている。

 その役目に従って、我がお主らの願い事を叶えた。」

おかっぱ頭の女子が小さく挙手して発言した。

「お願い事って、もしかして七夕飾りの短冊の?」

「そうだ。

 我は、年に一日、人の願い事を叶えるために目を覚ます。

 近頃は願い事をする人すら、とんと姿を現さなくなったがな。

 お主らは我に供物を捧げたであろう。

 その礼に、特別に多めに願い事を叶えてやろうというのだ。

 先ほど叶えた願い事は、その一つ。

 とはいえ、我の力は衰えていて、せいぜい二つが限度だがな。」

ツインテールの女子が、七夕飾りの淡く光る短冊を指さした。

「もしかして、あんたが叶えた願い事ってあの短冊の願い事なの。

 三人みんなで、ずっといっしょにいられますように、って。」

「あ、それ、わたしの短冊・・・」

おかっぱ頭の女子の小さな声は、しかし誰の耳にも届かなかった。

質問に牽牛けんぎゅうが応える。

「そうだ。

 その短冊の願い通り、この家にはもう誰も出入りはできない。

 お主ら3人だけでずっと一緒にいられるぞ。

 さあ、残り一つの願い事を選ぶが良い。」

牽牛の声を聞いて、ツインテールの女子は頭を抱えて掻きむしると、

癇癪を爆発させた。

「そんな願い事の叶え方があるかー!」

長い髪の女子も眉間に指を添えて渋い顔。

「本当よ。

 お願い事を叶えるにしても、他に叶え方があるでしょうに。

 取り消して頂戴。今すぐに。」

しかし牽牛は悠然と応えるのみ。

「すまぬが、一度叶えた願い事の取り消しはできない。

 叶えられた願い事の影響の全てを、

 我が正確に感知することはできないからだ。

 新たな願い事で上書きするのがせいぜいだ。」

歯ぎしりしている長い髪の女子とツインテールの女子に、

おかっぱ頭の女子が慌てて取りなす。

「えっと。じゃあ、牽牛さんは、

 もう一つお願い事を叶えてくれるんだよね?

 もう一つのお願い事で上書きして、元に戻してもらおうよ。」

頭を抱えていた長い髪の女子が、少し頭を冷やしてから、

それでも渋い表情のままで牽牛に向かって尋ねる。

「もう一つの願い事って、

 あの七夕飾りの中から選ばないといけないのかしら。

 それとも、新たに短冊を書いても良いのかしら。」

「短冊が残っているのであれば、新たに願い事を書いても良い。」

新たに短冊に願い事を書いても良いのなら、

願い事に制限は無いと言える。

しかし、ツインテールの女子を見ると、肩をすくめて顔を横に振っている。

短冊はもう使い切ってしまっているのだった。

長い髪の女子が溜息をつく。

「もう短冊は残っていないのよ。

 ということは、叶えてもらう願い事は、

 あの七夕飾りの短冊の中から選ばないといけないわけね。

 ちなみに、既にある短冊に願い事を継ぎ足すのは?」

「許容しよう。

 我は天帝から、短冊の大きさや形、

 短冊に書かれた願い事の文字数の制限をされていない。

 好きなようにするがいい。

 ただし、先に書かれている願い事は取り消せない。

 塗りつぶすことは不可能だ。」

牽牛が話し終えると、

その3人は頭を突き合わせて小声で相談を始めた。

「牽牛の話を総合すると、願い事を書くのは、

 七夕飾りの短冊であればどれでも良いみたいね。

 ただし、書き損じを消すことはできない。」

「それなら、適当な短冊の空欄に、

 元に戻してもらうように願い事を書いちゃおうよ。

 あそこの短冊には、同時に叶って困る願い事なんて無いものね。」

「それはどうかな。

 現に一つ目の願い事は、思わぬ形で叶えられたわけだし。

 それよりも問題なのは、どうやって短冊に願い事を書き込む?」

「・・・どういうことかしら。」

ツインテールの女子の言葉に、長い髪の女子が怪訝な表情になる。

事態が飲み込めていない、長い髪の女子とおかっぱ頭の女子に、

ツインテールの女子が縁側の先を顎で指し示す。

するとそこには、

先ほどまで縁側に置いてあったはずの筆と硯が、

透明な壁の向こう側の地面に転がっていたのだった。


 短冊に書かれた願い事を叶える牽牛という存在が現れた。

牽牛はまず手始めに、短冊の一つに書いてあった願い事を叶えてくれた。

三人みんなで、ずっといっしょにいられますように。

書かれていた願い事の通りに、

その3人は見えない壁で外部と隔離されてしまったのだった。

解決するためには、空き家の中に残されている物だけを使って、

全てを解決する願い事を書いた一つの短冊を用意しなければならない。

牽牛に聞かれないよう、その3人は小声で相談していた。

長い髪の女子が鬼のような形相で言う。

「ちょっと!

 どうして筆と硯が家の外にあるのよ?」

「ごめん。

 さっき落雷みたいな音がした時に、

 あたしが慌てて蹴飛ばしちゃったみたい。

 家の中を全部見たけど、筆記用具どころか他には何も無かった。

 念のために聞くけど、誰か筆記用具か何かを持ってない?」

ツインテールの女子の質問に、

長い髪の女子とおかっぱ頭の女子は首を振って否定した。

七夕のお祭りに出てきただけのその3人は手ぶらで、

せいぜいポケットの小銭入れくらいしか手元に無かった。

その事実にツインテールの女子が神妙な面持ちになる。

「ということは、今あたしたちが使えるのは、

 七夕飾りの笹と短冊、それと持ち込んだ飲み物と食べ物、

 あとは自分の体だけか。

 とても筆記用具になるとは思えない。」

「みかんジュースを使って、あぶり出しで字を書くのはどう?」

「この家、電気は来てるけどガスは止まってるんだよ。

 だから火の気がない。」

「電気は来てるんだから、ショートさせて火をつけるとか。」

「それは最後の手段にしましょう。

 もしも火事になってしまったら、私たちは外に出られないから危険よ。

 それよりも、私に思いついたことがあるの。

 牽牛は言っていたわよね。

 願い事を書く短冊の大きさや形は自由だって。

 だったら、既にある短冊を使って、新たに短冊を作れないかしら。」

「それって、どういうこと?」

長い髪の女子の提案に、

ツインテールの女子は意味を測りかねて首を傾げている。

すると、おかっぱ頭の女子が先に理解して小さく声をあげた。

「あっ、わかった。

 短冊をバラバラにして、文字を集めて言葉にするんだね。

 昔のテレビドラマとかにある、新聞を切り取って作った脅迫状みたいに。

 あんまり七夕らしくない例えだけどね。」

「なるほど!

 短冊に後から文字を書き加えて良いのなら、

 短冊ごと切り取って文字を継ぎ足しても良いはず。

 だって、短冊の形も自由って話だったし。

 あの短冊程度なら鋏が無くても手で千切れる。

 よし、やってみよう。」

そうしてその3人は、

叶えられた願い事を上書きする、新たな願い事が書かれた短冊を作るために、

七夕飾りにある短冊を素材として新たに短冊を作ることにした。


 縁側に転がっていた七夕飾りの笹を手に取って、

飾り付けられていた短冊を取り外していく。

既に願い事が叶えられた短冊は念のためにそのままにしておく。

すると、手元にある短冊は以下のようになった。


お金持ちになりますように。

化学と物理の赤点がなくなりますように。

夫婦円満、家内安全、みんなが元気でいられますように。

おこづかいが、さらに、もっと、たくさん、あがりますように。

全ての人が笑顔でいられますよう、どうかよろしくお願いします。


手元に並べられた短冊を見て、長い髪の女子が白けた顔で言った。

「誰がどの短冊に願い事を書いたのか、おおよそ見当がつくわね。

 あんた、お金に困るような生活してないでしょうに。」

長い髪の女子に白い目で見られて、

ツインテールの女子が口を尖らせて応えた。

「親がどれだけお金を持ってても、

 あたしのお小遣いが少なかったら意味無いよ。

 そういうあんただって、夫婦円満って何?結婚でもしてるの。」

「それは両親のことよ。

 娘として、お世話になっている両親に感謝するのは当然でしょう?」

また口論が始まりそうな二人の横で、

おかっぱ頭の女子が真剣な表情で短冊を見ながら言った。

「わたしたちの目的は、

 もう叶えられちゃったお願い事を上書きして取り消すことだよね。

 じゃあ、短冊に書く内容は、

 全てが元にもどりますように。とかで良いかな。

 取り消しって言葉を使わないで、だいたい同じ意味になると思うの。」

長い髪の女子とツインテールの女子が、

お互いに鼻をくっつけんばかりに顔を近付け合ったままで応える。

「そうね、それで良いと思うわ。

 その文章なら、手持ちの短冊の文字を使って作れると思う。」

「待って。

 短冊にいくつ願い事が書いてあっても良いんだから、

 あの神様だか化け物だかを封印する願い事も入れた方が良いと思う。」

「それもそうね。

 この空き家に人が来た時に、また同じことが起こらないとも限らない。」

知恵を出し合う間に、長い髪の女子とツインテールの女子が冷静になっていく。

顔を突き合わせるのを止めて、おかっぱ頭の女子の方に向き直った。

そんな様子には気が付かず、

おかっぱ頭の女子は短冊を並べ替えたりしながら応えた。

「牽牛さんには気の毒だけど、そうした方が良いよね。

 だったら追加するお願い事は、

 化物が封印されますように。とか。

 今ある短冊の文字で作れるかな。」

「この短冊の中に、封印なんて言葉は無いね。

 夫婦から一文字取って、夫いん、なら作れるけど。」

「それだと字が違うわね。

 願い事の字を間違えた場合はどうなるのか確認しても良いけれど、

 余計なことを聞いて藪蛇になる可能性もあるかも。

 封印ではなく、なくなりますように、とかどうかしら。」

「それで良いと思う。

 じゃあ、この二つのお願い事でどうかな。

 一つは、全てが元にもどりますように。

 もう一つは、化物がなくなりますように。」

「良いわね。

 ところで、短冊を貼り合わせるのはどうしたら良いのかしら。

 どこかに、粘着テープでもあると良いのだけれど。」

「道具は一切無いよ。唾でもつけとく?」

「この暑さじゃ、すぐに乾いて剥がれちゃうよ。

 それよりも、食べ残しのお団子を使うのはどう?

 あのお団子は米団子だから、澱粉糊でんぷんのりの代わりになると思うの。」

「なるほど、それなら接着剤の代わりになるね。

 長時間は無理かもしれないけど、願い事を叶えてもらうまでもてばいい。」

そうしてその3人は、手持ちの短冊をビリビリと手で破いて、

それから米団子を糊のようにして張り合わせて、

一つの大きな短冊を作り上げていった。


 その3人は、手持ちの短冊を組み合わせて新たな短冊を作り上げた。

その大きな短冊に書かれている願い事は二つ。


全てが元にもどりますように。

化物がなくなりますように。


これで、既に叶えられた願い事を上書きして無効化し、

さらには、七夕の願い事を無分別に叶えてしまう、

牽牛をも消し去ることができるだろう。

その3人はお互いに頷き合うと、

代表して長い髪の女子が天井に向かって声をあげた。

「牽牛。

 叶えてもらう願い事を書いた短冊が準備できたわ。」

すると、たっぷり3回は呼吸するほどの間があって、

牽牛の声が聞こえてきた。

「・・・おお、準備ができたか。

 すまんすまん。

 貢物のせいか、少しまどろんでいた。

 どれ、短冊を見せてみよ。」

おかっぱ頭の女子が、

継ぎ接ぎだらけの大きな短冊を団子のお盆の上に乗せて、

そーっと差し出してみせた。

米団子を潰して作った糊に弱く繋ぎ合わされた短冊は、

風でも吹こうものなら分解しそうなほどに脆くて、

おかっぱ頭の女子は息を止めて返事を待った。

しばらくして、牽牛の応えが返ってきた。

「ふむ、よかろう。

 その短冊は、願い事の短冊として有効だ。」

「やったあ!」

牽牛の許可が得られて、

ツインテールの女子が長い髪の女子に抱きついて喜んでいる。

すると、そんな様子を見て、牽牛が穏やかに話しかけてきた。

「ほっほっほ、そんなに嬉しいか。

 それにしてもお主らは仲が良いのだな。羨ましいぞ。」

「牽牛は、仲の良い友達とかいないの?」

「・・・かつては、いた。

 しかし今はもう誰もいない。」

「化・・神様にも寿命があるの?」

「いいや、そうではない。

 離れ離れにされてしまったのだ。」

「それは何で?」

質問を口にしてから、ツインテールの女子がしまったと口を噤む。

親しくもない相手に、気安く聞く話では無かったかもしれない。

しかし、牽牛は気にしていないようで、淡々と話した。

「我には妻がいた。

 それはそれは良い女房だった。

 しかし、我らは愛し合っていたが故に、お互いに没頭しすぎてしまった。

 与えられた役目を投げ出し、二人で怠惰な時間を過ごしていた。

 それを天帝に咎められ、遠く離れ離れの身にされてしまったのだ。

 それ以来、こうして年に一回、人の願い事を叶える役目を果たした時、

 その見返りとして妻と再会することを許される。

 しかし、もうずいぶんと長い間、

 我に願い事をする人もいなかったのでな。

 果たしてこの約束はまだ有効なのか、確かめる術は無い。」

牽牛の話を聞いて、その3人には思い当たることがあった。

「仲が良すぎて離れ離れにされた二人?」

「それも、七月七日にだけ再会できる夫婦って、

 それってまさか。」

「もしかして、牽牛さんって化け物じゃなくて・・・」

「うん。

 きっとあれだよ、七夕の織姫と彦星。

 あれも確か、神様の話だったはず。」

「神様ということは、どうやら消してしまうのはまずいみたいね。

 せっかく考えた願い事だけど・・・、仕方がない。

 牽牛!その短冊の願い事、変更しても良いかしら。」

長い髪の女子の声に、牽牛は願い事を叶える手を止めたのだった。


 願い事を書いた短冊は用意できた。

いざ、願い事を叶えてもらう段になって、

その3人は牽牛の素性について聞くことになった。

牽牛には、離れ離れにされた妻がいる。

その妻とは年に一度、七月七日にだけ再会できるという。

七夕の織姫と彦星を連想させる話ではあるが、

牽牛が本当に彦星なのかは分からない。確かめようもない。

しかし、その可能性がある限り、

その3人には牽牛を邪険にすることはできなかった。

急ぎ願い事の短冊を取り下げたその3人は、もう一度手元の短冊をかき集めた。

長い髪の女子が、額に汗をしながら考える。

「牽牛が彦星だった場合を考えて、

 叶えてもらう願い事をもう一度考え直しましょう。」

「うん、そうだね。

 化物がなくなりますように、って願い事はキャンセルしよう。

 代わりに何て願い事をしたら良いんだろ?」

「織姫さんと彦星さんを自由にしてあげてください、とか。

 でもそんなの、今ある短冊だけじゃ叶えられないよね。

 文字が全然足りないもの。どうしよう。」

「織姫と彦星は結婚しているのよね?

 じゃあ、夫婦って言い換えたらどうかしら。」

「いいね。

 夫婦がずっと一緒にいられますように・・・は無理か。

 他にどんな言葉で言い換えられるかな。」

既に叶えられてしまった願い事があるので、あまり時間をかけてはいられない。

叶えられた願い事が及ぼす影響は、牽牛ですら把握できないのだから。

その3人は大急ぎで妥協案となる新しい願い事を考えた。

そうしてその3人が作った願い事、それは。


夫婦があえますように。

全てが元にもどりますように。


この二つだった。

三人寄れば文殊の知恵とは言うものの、

ただの生徒に過ぎないその3人が知恵を寄せ合っても限度がある。

願い事を書き表す元の言葉に制限があるのだから、なおさらのこと。

それでもどうにか形にできて、長い髪の女子は満足そうに声をあげた。

「牽牛、できたわ。

 叶えてもらう願い事はこれでお願い。」

長い髪の女子の呼びかけに、今度はすぐに返事があった。

用意した短冊の願い事が有効か否か、牽牛に願い事を調べられている間、

その3人は目を瞑って天に祈るような気持ちでいた。

そして。

「よし、よかろう。

 この短冊は願い事として有効だ。

 では早速、願い事を叶えてもよいな?」

改めて確認されて、その3人は喜ぶ間も無く顔を見合わせた。

もしも願い事が予期せぬ形で叶えられてしまったら。

もしも牽牛が彦星でも神でもない化け物だったら。

不安はいくつもあるが、もうこれ以上の願い事は用意できないだろう。

そして、3人揃って返事をした。

「・・・ええ、お願い。」

「ちゃんと二つとも叶えてよね。」

「牽牛さん、よろしくお願いします。」

すると、差し出していた大きな短冊が、まばゆい光を放ち始めた。

眼の前が白くなるほどの輝き、そして暗転。

その3人が再び目を開けると、そこには元の空き家が戻っていたのだった。


 そうしてその3人は、戸締まりをして空き家を後にした。

ツインテールの女子が、頭の後ろで腕を組みながら、誰ともなしに言う。

「あの空き家でのこと、本当にあったことなのかな?」

おかっぱ頭の女子が、頬に指を当てて苦笑いする。

「わたしたち3人とも、暑くて夢でも見てたのかもね。」

長い髪の女子が、腕組みして首をひねる。

「それを調べる方法は無いわね。

 今さらあの空き家に戻っても、もう牽牛はいないでしょう。

 だって、今年の七夕はもう終わったのだから。」

果たして、あの空き家で体験したことは現実か。

牽牛と名乗る声の主は、本当に彦星だったのか。

それを確かめる術はない。

頭上の夜空を見上げても、明るすぎる都会の夜空には、

織姫と彦星の姿は確認できない。

しかし、その3人が去り際に、空き家の様子をそっと確認してみると、

縁側には古い盃が二つ、寄り添うようにして置かれていたのだった。



終わり。


 今週は七夕だったので、七夕がテーマです。


七夕では短冊に書いた願い事を叶えてもらえるそうですが、

短冊の形や長さに制限があるとは聞かないので、

すごく長い短冊を用意したらどうなるだろうと着想して、

出来上がったのがこの話です。


作中で3人の女子生徒たちは、

短冊に書く願い事の妥協案しか示せませんでした。

もしかしたら、同じ材料の文字を使って、

もっと良い解法が用意できたのかもしれないと思います。


お読み頂きありがとうございました。


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