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自分でお金は稼ぎなさい!  作者: Yukyou.N
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路地裏の出会い

ぼくが、ながねんあたためていたさいきょうの、ものがたり!


ではない、ノリではじめて書いた


2022.07.24.追記:

斜めに構えるのはかっこ悪いと思いました. どうせ書くなら全力全開が楽しいですよね.

 今日もしょうもない1日だった。


 日も沈みかけ、やれ「一杯いきますか!」なんて言ってるスーツに身を包んだおっさん達や、「ウイウイオツカレ!」ばかり鳴いてるフェンスに腰掛け待ち合わせをしていた大学生グループが合流する様子を見下ろしながら心のなかでひとりごちる。


平日ど真ん中といえども、人の群れでごった返している。

なんてったってここは大都会の繁華街。兄ちゃん姉ちゃんおっさんおばさん、そりゃもう幅広い年齢の色んな人達でいつだってワイワイガヤガヤしている。


そんな人々の喧騒が少しだけ小さくなって、代わりにエアコンの室外機の音がごうごうと唸るこの位置は、ビル脇っちょのちょっと上、この非常階段の踊り場から見下ろす景色が俺のお気に入りスポット。

好立地にも関わらず隙間にひょろっと生えたような細長い外観から『もやしビル』なんて呼ばれている。


 錆びた手すりに肘をかけ、タバコをふかそうとポケットの中のライターを探る。

もう金はあんまし無いけれど、こればっかりは辞められない止まらない。

最近はシケモクばかりの日々が続いたが、臨時収入があったばかりの俺の懐はこの寒空とは反比例して温かくなったばかりだった。


なので、今日は久しぶりに新品のショート○ープちゃんとご対面と言う訳だ。

色んな煙草を試したが、コイツがコンビニで買える煙草の中で一番美味くて機能的。

小さな箱でポケットがパンパンにならないのも高ポイントな最高の相棒だ。


寒さで手の感覚がマヒしてフィルムが上手く取れない。

カリカリカリカリやっても取れない。こりゃどうしようもねーべ。

缶コーヒーで手をあっためようと、煙草を手すりに置いてコンビニの袋をガサゴソする。

こんな袋に3円もかかる世の中、ホントに嫌になっちまうぜ。こんくらいタタでよこせってんだ。



「あっ」



ガサゴソしてたらショッポちゃんにひじが当たってしまい、真っ逆さまに落ちていった。

まだ新品なのに!久しぶりに吸えるのに!



「ショッポちゃん!」


「ふぇ?って痛っ!」



思ったよりも大きな声が出てしまった。ってそんな事よりも!

と、手すりに身を乗り出し下を見ると通行人にそこには真っ赤なコートを着た女の子がうずくまっていた。

愛するショッポちゃんが直撃してしまったようだ



「すいませーん!今行きます!」



こりゃイカン!とショッポちゃん(ついでに女の子)の身を案じつつ階段をダッシュで駆け下りていく。

カンカンカンとそりゃもう大慌てで。



「ちょっとー何今の!誰!最悪なんですけど!痛いんですけど!!!」



ぷりぷりと叫ぶ女の子の声が聞こえてくる。

やっべー、アレ結構怒ってるな。やっちまったぜ。

こういう時って、平謝りするしかないよね?と自問自答しながらとにかく急ぐ。



「ハァハァ、あのっ、ハァ、すんませっハア…したっ!」


「ちょっと!顔!わ・た・し・の・顔!見て!」



久しぶりの全力疾走と、日々のヤニカス生活のおかげかすぐに呼吸が整わない。

脚もガックガクだ。



「え!ハァゼェ、ハァ、かわいい、ゼェ、……っすね!ハハッ」



急に自分の顔を見ろだなんて、ずいぶんと思い上がってそうな女だ。つい愛想笑いが出てしまった。


だが、確かにかわいい顔をしていた。

目もくりっとしていて小顔だし、肩にかかるくらいの軽く内巻きにしている黒髪も清楚感が出ていて男ウケしそうな女だった。

背丈もちっさめで、小動物系?小悪魔系?の騒がしい女だった。



「当たり前でしょ!そうじゃなくて、お・で・こ!」



……即答するほど、自信過剰な女だった。

と感想を抱くと同時に、全力疾走のあとで肺に酸素を送ることに必死で、この状況が分からないほど脳みそまで酸素が行き渡っていない自分にも気が付いた。

愛するショッポちゃんがおでこに当たって真っ赤になっていたのだ。



「あっ……」


「アザになったらどう責任取ってくれるっていうの!」



そんな当たり屋みたいなセリフを、煙草が当たったくらいでよくも堂々と言えるな、この女は。

と思ったが、どう転んでも100%俺に非があるし、冷静に考えてもこの子はただの被害者なので謝るしかなかった。



「すいませんでした!手が滑ってしまって……うっかり」



深々と頭を下げる俺、90度のしっかりとしたお辞儀で許してくれること請け合いなしだ。



「うっかりじゃないわよ!どうしてくれるのよ……って時間!」



俺の心からの謝罪を受け取ってはくれなかったが、お相手はなにやら急いでるご様子。

このまま有耶無耶になりそうな予感、勝った!



「お急ぎですか?では自分もこれで……どうもすいませんでした」



そそくさと逃げるように退散しようとする。



「あっ、ちょっと!でも時間!ああっ、もう!」



ちょっと強引だがまあ大した怪我でもなさそうだし通りへ出るように歩き出す。

すまんな、ガハハと心のなかで手を合わせておいた。



と、しばらく歩いたところでふと気づく。

しまった、肝心の煙草を回収し忘れているじゃないか!


後ろを振り返るとブツブツ言いながら反対方向に小走りで駆けていくあの女の子の姿が見えた。

人が2、3人並んで歩けるくらいの何もない細い路地に、ショッポの白いパッケージは見当たらない。


もしかしてあの子のカバンの中に、スポッと入ってしまったかも…?



「あの、お姉さん!やっぱり待って!」



クソ迷惑な行為をしている自覚はあるが、言うしか無い。久しぶりに買ったのだから。

すると女の子はくるっと振り返る。



「なんなのもう!」


「カバンの中に煙草入ってない!?白い箱!」



女の子の視線が持っていたハンドバッグに向く。



「えぇ……あった!」



するとまたこちらに向かって駆け寄ってきてくれた。



「はいどうぞっ!」



笑顔で渡してくれた。この子はいい女かもしれない。

……チョロそうだし。



「ありがとう、ごめんね引き止めて」



チョロそうなので、口調もつい馴れ馴れしくなってしまう。

この子の親しみやすさ故なのかもしれない。



「いえいえ、って時間!ああっ~!!!」



腕時計に目を落とすと時計の針は7時を回っていた。



「今月3回目だよ!ちょっと!」


「え、なにが?」


「遅刻に決まってるでしょ!」


「んな、ちょっとくらいなら今から行っても大丈夫でしょ?」


「ダメなの!!!」



人によっては少しの遅刻も許さないかもしれない。

しかも遅刻の原因を作ったのは俺だし、とんだサイテー野郎だった。

どうせこのあと口うるさい彼氏と飲みにでも行くのだろう。



「まあまあ、彼氏も許してくれるでしょ」


「ハァ?仕事なんですけど!」



といいながら、女の子はフラフラと階段へ行きペタンと座り込む。

いや、仕事なら座ってないで走れよ。



「もーいいよ、あーてか喉乾いた!お水!」



と、コンビニの方を顎で指しつつスマホをポチポチし始める。



「いや、金無いけど」


「はぁ~?こっちはアンタのために走ってあげたんですけど!遅刻も!」



これみよがしにおでこを擦り始めた。

この女、面倒くさくなってきた。さっさと切り上げよう。



「てか、仕事いかなくて良いの?サボり?職場遠いん?」


「サボりじゃない、近い、お水」



ぶっきらぼうに財布から1000円を出して顔の前に突きつけられる。

人懐っこかった様子とは打って変わって、女王様みたいなオーラを急に出し始めた。

いや、路地裏の階段に座る女王様なんて何処探してもいないからヤンキーに格下げじゃ。


ただまあ、1000円もくれたので俺の分も買ってくれるってことだろう。

民を想えるなんて優しい女王様なんだ。ありがとう女王様。



「ヤンキーがよお」


「なに!?」



ギャーギャー騒ぎ出したヤンキーを背に自動ドアが開いた。





「ほい水」


「あざー……お釣りは?」


「ん?ああ」



しっかりしてるなあと思い、おつりを渡す。



「…212円?なんか買ったでしょ!」


「え、あかんかった?」



ショッポ2つと缶コーヒーも買っていた。体も冷えてきたからあったかいのを買い直した。



「初対面でする行動じゃないでしょ、やばー…」



煙草をふかし始め、コーヒーも飲む。これが至高の嗜好品なのだ。なんちて。



「しかも、微糖と短小かよ…センスな」


「短小じゃないんですけど!!!」



食い気味で反論する。

ショート○ープとはその名の通り、通常サイズの煙草に比べ少し短くできている。

我々ショッポ愛煙家を”短小”と品のない言葉で揶揄する謎の団体が時々現れるが、コイツもその一味だな。

断じてチソチソが短小なわけでは無い。あしからず。

あと微糖は別にいいだろ、微糖は。



「はいはい、もういいよ」



というと女の子は立ち始め、コートに付いた塵をぱんぱんと払い除けた。



「お、仕事行くの。コーヒーごちでした。」


「煙草もね。てかアンタも行くのよ。」


「すぐそこだから、あたしの店」


「え、何バーとかやってんの?」


「夜よ夜、安いボトルでいいから来なさいよ」


「キャバってこと?行った事無いし金ないって……」



ネットとかを見ても、いい印象を抱かなかったので正直言って乗り気にはなれなかった。

手持ちも少ないので、ちょっぴり怖い怖いなのであった。



「じゃーいい経験になるわ、……一皮むけるわよホーケーくん♡」


「包茎でもないんですけど!!!」


「よしっ、じゃあれっつごー!」



俺は断じて包茎でもなかった。



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