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Sea Pranet  作者: 一般的なマイノリティー
第一部:トマ村にて
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第八話

猟から戻ってきた一行を出迎えたのはケレトマやオラトマを始めとした村の戦士団達だった。息子の帰りを待っていたアナトマが心配になって村人に頼み、猟の様子を見に行って貰っていたのだ。その村人がちょうど凄まじい勢いで村に向かっている猟師達の姿を遠目で確認し、これは只事ではないぞと急いで村長へと連絡しに向かったのである。


村長からしても自分の孫であるオルトマが可愛くない筈がなく、訓練中だった戦士団達に出迎えるよう命じたのだった。


「大丈夫か!ノバトマが酷く消耗しているようだが何があった?」


大物・・だ!大物が出た!!ノバトマはそれで急いで逃避遊泳の先頭を務めたんだ!それで……」


尋常ではない様子のネレトマの肩に担がれたノバトマの様子を見たケレトマがそう尋ねると、ネレトマは無理な遊泳による苦痛に耐えながらも答え、そしてこう言った。


「ケレトマ、姿はちゃんと見れてないが、もし亜竜なら村が《・・》危ない!出迎えに来てくれたのに悪いが出来ればそのまま狩場まで行って………」


「そうだな、その方が良さそうだ。悪い、オルトはどこにいる?」


ネレトマの言葉に了承を示したケレトマだったが、ケレトマもケレトマで息子の事が気になって気が気でなかったようだ。どこか鬼気迫った声でネレトマにそう尋ねる。


「オルトマ様ならナラトマの背中に居るはずだ、……ッ大丈夫だ、怪我はしていない。…俺たちはもう行くぜ、逃避遊泳のせいでヘトヘトなんだ。ケレトマ、自慢の息子なんだろ?その息子の為にも頼むぜ!」


オルトマがナラトマの背中にいるということを聞いて、怪我をしたのかと一瞬殺気立った様子のケレトマに対してそう返したネレトマは、いい加減村に帰りたかったのかそう言い残すと一行を引き連れて村の方へとゆっくり帰って行った。


「…言われなくともそうするさ。オラトマ、戦士達に骨槍を取りに行かせてくれ。」


「おうよ、それよりも良いのか?息子に顔を見せなくてよ。もし亜竜なら厳しい戦いになるぞ、今度は帰って来れねぇかもしれねぇ。」


思い詰めた表情でそう独りごちたケレトマは、気を紛らわすように頭を振り、そして近くにいたオラトマに戦いの準備をするように頼む。オラトマは気安くそれに応じるが、次の瞬間には深刻な顔になってケレトマに気になったことを尋ねていた。その表情の裏には亜竜と戦うことに対する無意識の不安が現れていた。


「いや、いい。あの子は強い子だ、それに亜竜ならまだ戦える《・・・》。戦えるならば勝てる、いや勝つ。それが我々マーマンだろう?」


オラトマの不安を感じ取ったのか、ケレトマは鼓舞するようにいい、自信ありげに、むしろやや傲慢な程に笑ってそうオラトマに問いかける。


「違いねぇ、そうだな。あぁ、俺としたことが情けねぇなぁ。せいぜい胸を借りさせて貰うぜ、竜狩りの英雄様よぉ!」


「竜狩り、では無いがな。まぁ良い、さて、皆も準備が出来たみたいだ。ただの村長代理よりかは戦士長であるお前からの方が士気も上がるだろうさ、出発の号令を頼む。」


意図を汲み取ったオラトマが自分を恥じながらも茶化すようにそういうと、ケレトマは笑いながら答え、そして合図を出すように頼んだ。オラトマは頷くと、上の方まで泳いで行って斜め上に十メートル程上がった所で骨槍を掲げ、その眼下に広がる五十余名に言った。


「お前らァ!戦いの準備はできてるかぁ?俺はもう充分だ!!今回の敵は大物、それも亜竜の可能性が高ぇ!だが、案ずることは無ぇ!俺達にはキツイ日頃の訓練を乗り越え得たこの筋肉と!そして家を守ってくれる家族の加護がある!!」


「オラトマお前は独身だろうに……」


「やかましい!!おぉそうだ、竜狩りの英雄サマの加護もあるぞぉ!!」


せっかく鼓舞をしているのにいちいち茶々を入れたケレトマの一言に反応した後、オラトマは思いついた様にそう言葉を発する。すると、今までで一番大きな雄叫びが集団から発せられた。苦虫を噛み潰したような顔のケレトマを見て溜飲が下がったオラトマは、一呼吸置いて、言った。


「家族と筋肉!!!!!!そして我らが英雄ケルトマに栄光あれ!!!」


「「「「「「栄光あれ!!!」」」」」」」


号令を聞いたマーマンたちは各々の隊長の指示に従って五つの部隊に分かれ、それぞれの部隊が一列になりながらオラトマとケレトマを中心とした四角錐を作り上げる。

そして、オラトマが骨槍を下ろした事を合図に一斉に泳ぎ出して行った。


●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


オラトマ達が戦いへと向かった一方で、ネレトマ達猟師は特に重篤なノバトマを医者に見せに行った後に、アナトマを含めた村長一家へと報告に向かった。

しかし、ようやく村長邸がある窪みの前方百メートル程まで来た時に、あまり多人数で行っても入り切らないことに気づいたネレトマがオルトマを連れたナラトマと自分で報告をすると提案をし、各々はそれぞれの家へと療養のために戻って行った。


「それじゃ、二人ともあとは頼んだよ!」


そう言って手を振り家へともどっていった最後の仲間を見た二人は、村へ辿り着いたと同時に疲れからか寝てしまったオルトマを背負いながら村長邸の入口の前に佇む二人の門番の方へとゆっくり泳いで行った。


「あの二人…いや三人か?あれは確か猟師の……」


「おい!あれはオルトマ様ではないか?眠っているようだが…確か今日は初猟日だったはずだ。そういえば戦士団が出迎えに行くとか言っていたような…」


「確かにそんな話があったな。戦士団ではなく、猟師がオルトマ様を連れてきているということは何かあったのか?コルトマ、アナトマ様達を呼びに行ってくれ。邸宅の中に部外者を入れる訳にはいかないからな。」


「あぁ、宝玉・・のこともあるしな。確かにあの2人が何か報告があるならこの場で報告させた方が良いか」


何やら様子のおかしい3人に対して困惑している様子の2人だったが、すぐに事態に対してある程度予測を立ててその片割れであるコルトマがアナトマ達を呼びに行った。


「猟師の…ネレトマだったか?そちらの猟師の名はなんと言ったか?すまない、職業柄この一帯に引きこもりがちでな、名前がわからないんだ。」


「そうか、そうだな。俺はネレトマで合ってるぞ、それでこいつはナラトマって言うんだ。オルトマ様をここまで運んできたのはナラトマだ、若い割にガッツがある。それで、ここに来たわけなんだが…」


声が届く範囲まで二人が来たのを確認し、そう誰何する門番。それに対して特に気を悪くした風でもなくネレトマはナラトマの事を紹介し、ことの次第について説明をする。


「…そうか、それは災難だったな。今弟のコルトマがアナトマ様を呼びに行っている。オルトマ様は私が預かっておく。ここまでご苦労だったな少しの間だがここで休んでいるといい。」


「ありがたい、ナラトマも良くやったなぁ。悪いな、オルトマ様のこと任せちまってよ。」


説明を受けた門番が二人のことを労い、それからオルトマを受け取る旨を伝える。安心してオルトマを引き渡したナラトマの姿を見たネレトマがナラトマのことを褒める言葉を口にすると。


「いえいえ!ネレトマさんだってノバトマさんの代わりに村までは先頭を勤めていたじゃないですか!お互い様ですよ!!」


「はは、それなら良いんだがな。」


慌てたようなナラトマの姿にもっと若い時の自分の姿を重ねたネレトマはそう笑うと、緊張が解けた二人はひとときの安息を楽しんだ。


しばらくの間そうしていると、入口の引き戸がガタッと開かれて中から金の髪を持つ女性のマーマンが飛び出してきた。


「オルトマ!オルトマはどこなの!?」


焦った様子で飛び出してきたそのマーマンはオルトマを門番から受け取ると、少し遅れてから来たもう一人の門番の言うことも耳に入らないといった様子で、しばらくの間、寝ている我が子を起こさないように慎重に怪我がないかを確認し、そうして何事も無いことを確認したことで安心したのかようやく落ち着いた様子になって二人の猟師の方へとその美しい顔を向けた。


「それで、何があったというのですか?戦士団はどこへ?それに教育係のノバトマの姿も見えませんが…。」


「はい、アナトマ様、実はですね………」


どこか困惑した様子でそう尋ねるアナトマに対して普段とは違うかしこまった様子で話す二人。全てを聴き終わったアナトマは深刻な顔つきになって、何やら考え込んだあと。労いの言葉を掛ける。


「そう…なのね、大物が出て来たのね………。二人とも、ご苦労様でした。ここまでよく無事にオルトマを送ってくれましたね。今回のことについては後々猟師団に必ず褒美を与えます。それでは、良く休んでくださいね。」


「ありがとうございます。それでは、私達はこれで…」


そう言ってその場から離れた二人を見送ったアナトマは、水の振動から、我が子を抱きしめる自分の手が震えていることに気がつく。


「亜…竜………。いえ、あの人ならば大丈夫。そうよ、きっと、そう。」


そう言って家の中へと戻っていくアナトマの背中を、門番の2人は痛ましそうな目をして見送るのであった。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


ケレトマとアナトマの結婚には、アナトマの命の危機を当時ただの戦士であったケレトマが救うということがあったのだが、その記憶は決して美化されうる事だけではなかった。


当時のケレトマは二十才というまだまだ若いながらも既に戦士としての才能は飛び抜けており、村の近郊まで来た大型の蛇のような形をした大物である海蛇かいだを単独で撃滅したという出来事があってからは、村の中には幾人もの彼のファンが出来た。


アナトマも同年代であるケレトマのファンの内の一人であった。しかし、身分の差や例の予言の影響を受けて思うままに交流をすることが出来ていなかった。


「どうすればケレトマ様とお話出来るのかしら……ねぇ、お姉様……。」


「あら、アナトマ、あなたもあの若人が好きなのね。」


「ち、違いますわ!ただ、なんでも海蛇を一人で倒したとのだとか…それにあの凛々しいお姿…はぁ…。って何をそんなにニヤついていますの!?」


アナトマには、年の離れた姉がいた。マーマンの成長には個人差があれどある程度法則性があり、二十歳までは急速に成長し、そこからの成長は緩やかなものになる。アナトマは成長具合としてはやや遅く、この三十歳離れた姉とは歳の近い親子ほどに見える、


「はいはい、まぁ、確かにあの若人は格好いいものねぇ。せめて後四十年早く生まれていれば…」


「お姉様!?それはどうゆうことなのですか!?」


「実際、彼がもっと大きな功績を挙げれば身分差なんて関係なくなるわ。そうすれば、きっと、あなたにも。」


「もう!違うって言っているでは無いですか!お姉様ったら、もう…でも、そうですか、身分差も関係ない……。」


二人の仲はとても良く、姉は妹を、妹は姉のことを一番大事に思っており、村長である彼女らの父はそんな彼女らに予言のことについて話すのを躊躇う程であった。

そう、蝶よ花よと過保護に育てられた二人の娘は予言のことについては誰からも聞かされておらず、身分差こそが最も大きな壁であると思っていたのである。


「そうね、そうだわ。彼に最果てのオル村までの定期交流の警護を任せましょう。そうすればあなたは彼と話せて、彼は大きな功績をあげられる。」


「それ、良いわね!私、お父様にお願いしてくるっ!」


だからこそ、このようなことを思いつき、そして娘にゴリ押しされた村長はそれを断りきれずに承諾してしまう。この選択自体は間違えてはいなかった。実際に、ケレトマはよく働き、そしてアナトマとの仲も深まっていく。


最果てのオル村は最も遠く、そして大きなマーマンの村だ。かつて裏切られ逃げ延びたマーマン達が最初に築きあげた村。その交流はほぼ全ての村と行われており、主に交易や戦士の練武、そして長同士の現状把握の場として長らく三年置きに行われてきた。四ヶ月程かかるオル村までの道では様々な村に寄ることになり、そこでの経験を積むこともまた村長一族の務めとされてきた。


最悪だったのは、アナトマがそのオル村の村長の息子、エリオルに見初められたことだった。エリオルは初め、アナトマに対してアプローチをすることを控えていた。アナトマとその警護であるケレトマは明らかに恋仲といった様子であり、その恋路を邪魔するのは趣味ではなかった。だからこそ、本当に運が悪かったとしか思えないのは、その事を当時のオル村の村長が知っており、勝手に婚約の話をアナトマ達トマ村の村長へと持ちかけた事だった。

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