第六話
ケレトマとその息子である幼子が食事をするべく丁度家の真ん中にある石造りの小さなドームへと向かうと、そこには既に二人を除く家族が全員円卓を囲うように座っていた。
皺だらけの顔に髭が生え、その小柄な体躯に対して不相応に巨大な尾を持つ老人。幼子の祖父にあたるその人物はこの村の村長であり入口から見て真正面に座っており、その横にいる老婆と楽しそうに談笑している。
その彼の右隣に居る老婆は、上半身裸の彼女の夫と違い海藻の繊維を編んで作られた簡素な緑色の服を来ており、どこか威厳のある顔を綻ばせながら夫である村長と言葉を交わしている。
そして、そのまた右隣に座って居るのは同じく海藻で編まれた簡素な服に貝殻で装飾をした服を着た美しい女性、幼子の母であるアナトマであり、自らが作った料理を彼女の息子がどのように喜ぶかを二ヘラっと微笑みながら幼子が席に着くのを待っていた。
村長として忙しい日々を過ごしている幼子の祖父や、滅多に姿を見ない祖母がここにいるのは、今日が幼子にとって特別な日だからだ。
幼子とケレトマが席に着くと、料理を載せた石皿が、どこからともなく運ばれてきた。
水中を泳ぐ様にしてゆらゆらとやってきたそれは、アナトマに受け取られると、即座に各々へと配られる。
中身は、海藻のサラダに*1テュークの切り身それに加えて何かの肉に恐らく火を通したであろうものだ。
幼子はそれ等を見ると目を真ん丸にしてあっと漏らした。その表情には言うまでもないほどに歓喜の表情が浮かんでいる。それ等は全て彼の大好物であった。
その幼子の様子に満足したアナトマは、幼子が着席した段階で話をやめた義両親へと目配せした。
それを受け取った幼子の祖父母は頷き、足元から棒状の何かを取り出した。
もう既に喜んでいた幼子はその正体を見て最早飛び跳ねそうになった。
それは、亜竜と呼ばれる生物の骨で作られた水による抵抗を極限まで減らした得物____骨槍であった。
*2 「「「「「お誕生日おめでとう!」」」」」
全員がそう語りかけ、幼子を全力で祝った。
今日は、幼子が産まれて四年経った日。これから狩りが出来るように準備を始める記念すべきマーマーンの*初猟日なのだ。
幼子は、その事を思い出し、はやる気持ちを抑えながら両親にある事を尋ねた。
「じゃあ、僕の名前は………?」
「勿論、決めてあるとも。」
「お前の名前は今日から…………」
______オルトマ。 だ。
*1 家畜化した大型のカイギュウのような生物。大飯喰らいな食性かつその繁殖難度の高さから個体数が余りおらず、庶民には手がつけにくい高級肉のような位置づけである。美味しい。
*2 成人式と誕生日の中間的存在。この日から戦士としての教育を受けられるようになる。