第四話
眠りに落ちていた幼子は、不思議な夢を見ていた。深い深い海の闇の中、血の色をした謎の流体が、幼子の周りをぐるぐると回りながら様々な形を象って行く夢だ。
幼子にしてみれば、今までそういった外的物体に目を向けた事もなかったものだから、やはり興味を惹かれたのだろう。その流体に対してニギニギと握ろうとしてみたり、口の中に入れようとしたりした。
しかし、手の中に収まりかけては抜け出し、口の中に入っては出ていき、上手くいかない。
やがて、幼子はそういった方向性での接触を諦めて、尾で弄ぼうとしだした。幼子が期待に満ちた目でその方を見ると、螺旋状になった流体の一部が尾に絡み付き染み込んで行った。
「えぇー?」
少し高い声でそう言った幼子の声には落胆の念が多分に込められていた。しかし、幼子の切替は早い。今度は出来る限り長い間流体を楽しめるように見るだけに留めた。
そうすると、徐々に流体は形を一つの物へと変えた。眼だ。血のみの白目にやはり血のみの色をした黒目であるそれは、幼子の右目辺りに近付くと、すーっと溶けるように消えた。
幼子は、眼に違和感を感じたのか目を擦った。然し、それだけで特にそれからは何もしなかった。
そうして暇を持て余した幼子は、今度は上下左右に泳ぎ始めた。どうやら、じっとしていられなかった様だ。
暫く泳いだ後、幼子は突然停止して手の印を舐めた。舐めると、幼子の背丈の五倍はある槍が生み出され、幼子の前へと現れた。
幼子の脳内へと声が語りかけてくる。
『使え。』『戦え。』『使え。』『戦え』 『使え。』『戦え。』『使え。』『戦え 『使え。』『戦え。』『使え。』『戦え』』 『使え。』『戦え。』『使え。』『戦え』
「つかえ………たたかえ?」
響いてきた脳内への言葉に幼子がそう恐怖交じりに尋ねると、
『そうだ』『使え』『使え』『使え』『使え』『使え』『使え』『使え』『使え』『使え』
と、再び声が返ってきた。
「いや、なんか、こわい。おかーさん!おとーさん!」
このことに幼子はパニックになって、ただひたすら足掻き続けた。
やがて、頭痛が伴う程に声がしてきて幼子の精神が壊れそうにたった瞬間。
『……………が…………最後………。』
最後の音と共に幼子は現実世界へと引き戻された。