第三話
金 土 と時間が取れなかったので今日更新しました。
急いで書き上げたので短めです。
幼子は弄っている球体を不思議そうに見ていた。この様子から察するに、幼子もこの球体が何たるかを知らないのだろう。そう考えたアナトマは直ぐに彼女の息子からその玉を手放させようとした。
「その玉はなんなの?分からない物は危ないかも知れないから触らないでってあれ程言ったじゃない。その玉を床に置いて、ご飯でも食べに行きましょう?」
幼子を萎縮させないようにと言葉を選んだのか、猫撫で声でそう言った彼女の提案に、幼子は不服のようだった。少し頬を膨らませるだけで手放そうとしない幼子に対して今度は語気を強めて言うと、
「イヤ、これはぼくのだもん!」
と、幼少期によく見られる定型文を持って拒絶された。
とても激しく怒る程でもないが、かといって放置して将来危険なモノに触れる様になってもいけない。どうしたものかと決めあぐねていると、ゴクン、と音がした。
「「え?」」
一瞬訪れる静寂。そして、
「きゃあああああああ!吐き出して!吐き出すのよ!毒があったらどうするの!?」
と、アナトマがまず取り乱した。それも無理はない、五年もの間切望しようやく産まれた息子である。
村長候補でもある以上、安全に育って欲しいというのが気持ちであった。一方で、ケレトマはと言うと、
「お、落ち着くんだ!アナトマ!薬藻を持って来るから尾の方を抑えておいてくれ!」
こちらもまた大慌てであった、毒があるかどうかは分からないにせよ万一のことがあっては個人的にも立場的にも最悪だ、一族に伝わる薬藻を取りに急いで泳ぎに行った。
「????」
幼子はと言うと。こてん、っと首を傾げた状態で慌てた両親の光景を見ていた。
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「特に問題は無いですね。毒でも内刺でもなさそうです。」
薬師の放ったその言葉に、二人は揃って肩の力を抜いた。この薬師は、古くから受け継がれる診断の晶石と呼ばれる晶石を持っておりその晶石の情報を元に患者の健康状態を確認できる医者として活動しており、村長一族の専属としても雇われている程の腕前だ。
そんな者から告げられた無事であるという宣言に、二人は安堵の表情を隠せずにいた。
「「良かった……良かったです。」」
石壁に覆われた幼子の部屋に、二人の言葉がよく響いた。
「とはいえ、今後は無闇矢鱈にモノを口に入れないように注意して下さいね。今回は小指程の直径の玉だったから良かったものの、もう少し大きければ危なかったですよ。」
安堵する二人に対して、彼はそう言って釘を刺すと、続けて、
「もう少しでお子さんも猟に出かける様な年齢なんですから、毒であるものとそうでないもの、それと迂闊にモノを口に入れないことはしっかりと教えこんで下さいね。」
と言い、石版に注意事項として書き記した後にその場を後にした。
幼子は、その話がつまらなかったのかいつの間にか寝てしまっていた。