第二話
岩造りの簡素な家の中で、幼子は一人目を覚ました。特別寒いとか、水流が落ち着かないという訳で目が覚めたのでは無いのがここが村長宅であるが故とも言えるだろう。
一般に、マーマンの子供が夜中に起きる理由とはこの二つであり、そしてそれ等は家の造りが原因なものなのである。
幼子ながらに用意された自分専用の寝穴から尾を出してその棘を見つめる。好奇心が盛んなのだろうか、尾を目の前まで持っていくと、一舐め。うっ、と声を上げて尾を寝穴へと仕舞った。味が気に入らなかったか、尾に何かしらの成分があるのか、とにかく不快そうに顔を歪めながら、寝穴へと上半身まで沈めて行った。
寝穴は床岩の中をくり抜いて縦穴状になっている所に海藻類を敷き詰めたもの故に、必然的にが穴から頭が出ている様な形になる。
やはりまだ眠る気が起きないのだろうか、沈めたばかりの上半身を寝穴から出し、ぐーっと背伸びをして、手の甲にある印を一無でした。
撫でられた方の印はというと、何も反応はしなかった。その事に腹を立てたのか、幼子はぷい、と顔を印から背けて今度こそ眠りについた。
それから数刻程して、印が青白く発光をして眠っている幼子へと絡みついた。見る人が見れば、それは深海の更に奥に棲むと呼ばれる龍の様に思われたのかもしれない。
絡みついた光は、それから数回明滅を繰り返した後に僅かばかりの余韻を残して消えた。
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その異変に最初に気付いたのは、眠っている幼子を起こしに来た幼子の母親、村長の娘でもあるアナトマだった。
「♪♪~~」
鼻歌交じりに彼女が幼子を起こしに来ると、何故だか部屋のドアが開かない。
「?、床が削れちゃったのかしら。ここ三年は変えてないものねぇ……ケレトに頼んで壊してもらわないと……」
単純に岩製のドアが下の床が削れた事で沈みこんでしまったのだと思った彼女は、ドアを壊してもらうべく、彼女の夫を呼びに行った。
「ケレトー!ドアが開かないのー!このままだとあの子を起こせないから壊してー!」
「それは大変だな。少し待ってくれ、このテュークを捌き終えたら向かおう。」
そうして数分待った後、出てきた彼女の夫___ケレトマは、筋骨隆々の超巨漢だ、耳についた水掻きには傷が見受けられ、それ以外の全身にも同様の傷跡があった。
「悪い、待たせてしまったな。行こう。」
「大丈夫よ!そんな事より早く行きましょう!」
遅れたことに対する謝意を述べたケレトマに対してそう返答したアナトマは、相当焦っているらしかった。
「まぁ、落ち着こう、何も外に出た訳でも無いんだ。心配なのは分かるが、焦っても精神を摩耗するだけだぞ。」
「………まぁ、それもそうね、ごめん、取り乱してたみたい。」
頭を撫でながらそう言ったケレトマに対してアナトマがそう言うと、二人は横並びでゆっくり緩泳をして部屋へと向かう。
アナトマは小柄で傷一つ無い為に、二人が並んで居るとその差が顕著に見えてくる。そして、この差こそがマーマンにとっての誇りであり、愛すべきものを守っているという男にとっての勲章であった。
「うぉお!」
二人が部屋へと辿り着くと、中から驚愕の声が聞こえてきた。
その声に違和感を感じたケレトマが即座にドアに手を当ててぐっと押し込むとドアは崩れ去り、中が見れるようになった。
二人が中を覗き込むと、そこには謎の白い球体を手の中で弄ぶ愛しい息子の姿があった。
更新金曜忘れてた…orz