涙
悲しみは乗り越えていける。
涙
涙は出すものではなく流れるものなんだろう。
この日もとても暖かく晴天だった。
心が空っぽのまま、おかあさんの葬式がいつの間にか終わっていた。
とても暖かく、澄み渡った青空を黙ってみていた。
今日の空はまるでおかあさんのよう。
そんなぼくの所におじさんがやってきた。
おじさんは、ぼくのことが心配だったのだろう。
「おかあさんはな、つらくても笑顔だったのはお前がいたからや。いつも言っとった、『あの子はあの人との大切な宝や』って。お前のかあさんはすげーな」
ぼくの顔をのぞきながら、おじさんは優しい顔で言った。
いつもいかつい顔で、子どもから怖がられるおじさんは、この時ばかりは子供っぽく無邪気に笑っていた。
目の周りを赤く染めた顔で。
その笑顔とおかあさんの笑顔が重なった気がした。
自分も泣いたのに笑顔を見せるところが、姉弟だからこそ似ているんだろうな。
その時初めて涙が出た。
別に我慢していたわけではないし、悲しいくないわけでもない。
大声で泣きわめくわけでもなく、悲しくて顔がゆがむわけでもなく、ただただおじさんの顔をみながら涙が頬を伝っていった。
やっと実感したのだろう、おかあさんがいなくなったことに、もう二度と会うことができなくなったことに。
そんなぼくを見たおじさんは、少し驚きながらも優しい顔で抱きしめてくれた。
その腕の中は、おかあさんみたいに柔らかくはないけれど、とても温かかった。
おかあさん、ぼくは大丈夫です。
おとうさんのもとに行ってあげてください、もうさみしくないように。
あなたと過ごした日々は、幸せでした。
ここまで育ててくれてありがとう。