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ヒーロー

【観覧注意】ネタバレですが、い○めについてかかれてあります。苦手な方は観覧しないことをお勧めします。一応〇はいれております。

 ヒーロー


ぼくのおかあさんはかっこいいヒーローだった。


これは、あまり思い出したくないけど、小学校低学年の時。

ぼくはい〇めを受けていた。

理由は、ぼくにはおとうさんがいないから。

子どものそれの理由なんて、簡単なんだってこの時思った。


別におとうさんがいなくて、寂しいわけではない。

おとうさんと一緒に遊びたいって気持ちもあったけど、ぼくにはいつでもおかあさんがいたからあまり気にしないでいられた。


でもやっぱり子どもは、周りとは違う子どもは気になるのだろう。

暴〇はなかったが、言葉のナイフがとても辛かった。

内容は、はっきり覚えている。い〇めは受けてきた子どもはより鮮明に覚えているのだろう、忘れたくても忘れられない。


ぼくはおかあさんにい〇めのことを黙っていた。

教えたくなかった、おかあさんの重みに、迷惑になりたくなかった。

小さいながらそう思っていたからこそ、言葉に出せなかった。


そんなある日のこと。


いつも通り笑顔で、ぼくは玄関をくぐろうとした。

後ろで見送るおかあさんが、ぼくを止めた。


「今日は学校をお休みにしたから。・・・ちょっとついておいで」


はじめは理解できなかった。なんで休みなんだろうと思いながらも、お母さんについていった。

ついた場所は、誰もいない山の頂上だった。いつもなら眺めのいいこの場所で、ハイキングや観光客がいるはずなのに、今日はぼくとおかあさん以外いなかった。


「大きな声で『あー!!』って叫んでごらん」


意味が分からなかったが、とりあえず大きな声で叫んでみることにした。

何だろう、少し体が軽くなった気がしたんだ。ただ叫んだだけなのに。

少し不思議に思っていると、おかあさんがぼくの目線に合わせてしゃがみ込み、頭をなでながらこう言ったんだ。


「自分の声が聞こえたか?なんでも自分の中にため込むと、出せるもんもだせんよ。あんたの声はちゃんと届くんやから、『あ』でも『い』でも、なんでも出してみ。おかあさんはいつでもどこでも聞いてるよ」


その言葉を聞いて驚いた。おかあさんは、ぼくのことに気づいたんだと。

でもなんでだろう。いつも通り過ごしていたのにどうやって気づいたんだろう。

ぼくは考えこんでしまった。そんなぼくを見たおかあさんはぼくを抱きしめながら。


「もしかして、迷惑かけたくないって思うた?迷惑かけられて、嫌な親なんてどこにもおらんよ。むしろどんなことでも、頼ってほしいのが親の思いやで」


何かが落ちたような気がした。あぁ、やっぱりおかあさんにはかなわないな。

ぼくは小さい声だけど、おかあさんに話した。い〇めのこと、言葉のナイフが痛かったこと、そしておかあさんの重みに、迷惑になりたくなかったことを。

おかあさんはその間も、抱きしめたままぼくの話を聞いてくれた。


その後が大変だった。学校にい〇めをしていた子とぼく、双方の両親、先生と校長先生が集まり話し合いが行われた。

い〇めをしていた子どもは、親にものすごく怒られていた。怒られているより、怒鳴られていると言うべきか。先生や校長先生が止めようとするぐらいひどかった。

そんな時、おかあさんはい〇めをしていた子どもの前に立ち言った。


「それぐらいにしてください。確かにこの子はいけないことをした。でもまずはなにがいけないのか、この子に教えるべきではないですか。それが親や大人のするべきことではありませんか。子どもは親の背中を見て育つのですから」


おかあさんの言葉に、みんな何も言えなかった、言い返せなかったんだ。

だっておかあさんのいうことは正しいのだから。

確かにおかあさんは、みんなが集まる前に、い〇めをしていた子どもに対して、話をしていた。

その子を責めるのではなく、怒るでもなく、ただただ静かに何がいけないのかを話していた。

その時のおかあさんは、すごくかっこよかった。前を見つめ、荒立てるのだはなく、静かに言葉を言う、まさしくヒーローみたいだ。


後日、その子はあやまりに来た。その時にその子は言ったんだ。


「おまえのかあさん、かっこいいな。まるでヒーローみたいだった」


その言葉を聞いて、ぼくはなんだか嬉しくなった、誇らしくなった、どうだぼくのおかあさんは

すごいだろうって。

その子とは、今でも連絡を取り合う友になった。


声を出すのは簡単ではない。中には声を出せない子もいるとおもう。

でもどうか、一人にならないで、おびえないで、顔を上げて。


ぼくのそばにおかあさんがいたように、みんなのそばにはみんなを大切に思う人たちがいることを忘れないで。


ヒーローみたいなおかあさんにはなれないけど、誰かのそばで支える人になりたいと思える出来事だった。



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