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3.見ていないのに見たって言いがかりが過ぎるだろう

 男が視界から消えるまで見送ると、きびすを返し女の元へ向かう。表通りには出ず、両腕で胸を隠しうずくまっていた。


「……見たでしょ?」

 俺が傍まで近づくと、涙を浮かべた瞳で睨んできた。


「いえ、見てないです」

 そう、実際に見ていない。いや、正確に言うと見えなかったと言った方が正しいだろうか。服は正面の襟から縦に破かれたため、多少のふくらみしか確認出来なかった。


「ウソつき、絶対見たでしょ?」

「見てないですって」

「ほんとに?」

「本当」

「ほんとのほんとに?」

 俺はこくりと頷く。


「全部が見えるほど破けて無いですし、そこまで大きく無かったから――」

 俺はそこまで言って、しまったと思う。


「やっぱ見たんじゃん! 最悪~~。もうお嫁に行けないよ~~」

 地面に伏せ女は泣き出したが、あまり本気で泣いていない様な気がする。


「ほら、これを来てください」

 俺は着ていた上着を女の背中に掛けてやる。流石に破れた服で夜の街を歩かせるわけにはいかない。


 女は上着を受け取ると、グスグスと泣きながら「こっち見ないでよね」と壁際を向き、上着を羽織った。やはりぶかぶかでサイズが合わない様だが、破れたままの服よりかはましだろう。それに、先日洗ったばかりだし、今日は仕事をしていないから汚れておらず臭いも無いはずだ。

「とりあえず、それは返さなくて良いので今日はもう大人しく宿に帰ってくださいね」

 俺はそう言い残し、その場から立ち去ろうとした。


「ねぇ、待って」

 ズボンの裾を引っ張られる感覚。どうやら女が掴んでいるらしい。


「なんです?」

 その問いに返事は無い。じっとこちらを涙ぐんだ瞳で見つめてくるだけだ。


 俺はその様子にもしやと思う。今夜泊る宿が無いのでは、と。勿論、宿をおさえていないという事もあるだろうが、パーティーを追放されたため宿に泊まる金が無いのかも知れない。


「もしかして、泊る宿が無いんですか?」

 女はゆっくりと首を縦に振った。


◆◆◆


「いや~~、助かるわ~~。パーティーを追放されちゃったからお金全然なくてさ~。あっ、あたしジュディ。よろしくね」

 俺が泊っている宿屋の部屋に入るなり、ベッドに飛びこみ、胡坐をかきながらそう自己紹介してきた。


 茶色のショートカットから想像できる通り、なかなか活発な性格のようだ。裏表も無さそうな感じで、自分とは正反対だなと感じる。


 それは酒場で男に声をかけていた事からも想像できるし、人の部屋のベッドにいきなり飛び込む豪胆さ。正直俺には理解が出来ない行動だ。


 一応この部屋は一人用なので、ベッドは一つしかない。そのため、俺は今日ソファで寝る事になろうだろう。まぁ、その事に関しては全然問題が無く、初めからそうするつもりだったが、なんの遠慮も無くベッドに飛びこむとは。奥ゆかしさの欠片も無さそうだ。


「とりあえず泊めるのは今日だけですからね。明日以降は自分で何とかしてください。所持品を売るなりクエストをこなすなり、金策は色々あるでしょうから」

 女の付けているブレスレット。そこまで高価な物では無さそうだが、いくらかにはなるだろう。それを売れば安い宿屋で一泊は出来るだろうし、薬草摘みなどのクエストをこなせばもう二泊ほど出来るだろう。


「は~~い。それで、あなたの名前は?」

「……キース、キース・ハンセンです」

「ふ~ん。それじゃキース、よろしくね」

「はい」

「ってかさぁ、その堅苦しい話し方どうにかなんないの?」

「いや、初対面で馴れ馴れしいのもどうかと思いまして……」

「ええ~? そう? あたしは全然気にしないけどなぁ」

 やはり、何もかも正反対な性格をしている。


「まぁ、じゃああれね、あたしのおっぱいを見たんだからその罰として敬語禁止。それでどう?」

 どう、と言われても正直困る。しかも、なぜいわれのない罪で罰を受けなければならないのだろうか。


「いや、だから見てないって。それに助けたのはこっちだろう? しかもタダで泊めてやるんだから、俺が罰を受けるなんてそもそもおかしいでしょうよ。むしろ感謝して欲しいぐらいだね」

 これ以上敬語を使いと面倒臭くなりそうなので止める。


「何!? もしかしてあなたもあたしの身体目当てなの!?」

「いや、一言もそんな事言っていなんだが……」

「な~~んちゃって。あなたがそんな事しないって何となくわかってるわ」

 やはりこの女の神経を疑う。先ほど男の襲われかけたというのに、それを冗談めかして言う精神をだ。


「まぁ、あまり人を信用しすぎない方が良いぞ。内側で実際何を考えているのか分からないんだからな」

「う~ん、そうかなぁ? 少なくともキース、あなたの事は信用していいと思ってるけど」

「まぁ、勝手にするがいいさ」

 俺はソファーに横になり目を瞑る。


「でも、襲わないでね?」

 そんな言葉が聞こえてきたが俺は無視をすることに決めた。そもそも初めから襲うつもりなど無いし、明日にはもう関係なくなるからだ。


 しばらくベッドの上でソワソワしたような落ち着きがないような気配がしていたが、しばらくすると寝息が聞こえてきた。


 もしかしたら、緊張や襲われた恐怖などで無理に明るく振舞っていたのかも知れない。その緊張がプツリと切れて、眠りに落ちたのだろう。


 ジュディの様子を確認すると、きちんと布団が掛かっていなかった。

「やれやれ、世話のかかる奴だ」


 もしかしたら、こういった所が追放された原因の一つなのかも知れない。

 俺は立ち上がると、そっと起こさないように布団をかけなおしたあと、再びソファーに寝そべり、夢の中へ落ちて行った。

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