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10.カイルが魔王で勇者が俺で

あれは、お前たちが生まれた日の話だ。


俺たちは魔王を倒した後、お前の本当の母親、キルシェの故郷であるこの村にやってきた。


人里離れた森の中に有るこの村は、余生を送るのに最適だった。


勇者であるアルガスはある国からは疎まれ、またある国からは利用されようとした。


そんな俺たちを、この村は受け入れてくれた。一部争いのタネになると反発した者もいた様だが、最終的には認めてくれたんだ。前村長夫婦のおかげでな。


そのお返しという訳ではないが、キルシェは村に結界を張り、魔物が襲ってこれないようにし、アルガスは聖剣を洞窟に封印した。


その後は村でゆっくりと過ごしていた。


そして、アルガスとキルシェが結ばれ、俺とカーラも結婚した。


その頃は充実した日々を過ごしていたよ。だが、キルシェとカーラが身籠った辺りから村に不穏な気配が漂いだしたんだ。


俺とカーラは考えすぎだとアルガス達に言っていた。身籠って神経が過敏になっているだけだってな。


しかし、アルガス達は嫌な予感がすると言って聞かなかった。


結界を厚くしたり、毎日村の見回りを行ったが、特に異常は無かったんだ。


そして、事件はお前たちが生まれた日に起こった。


アルガス達の嫌な予感が的中したんだ。


その日、産気づいたカーラを連れ俺は村長の家に行った。


そこには既に、同じく産気づいたキルシェとアルガスが来ていた。


その時居たのは俺とカーラ、アルガスにキルシェと前村長夫婦だけだった。


そして、示し合わせたように二人とも同じタイミングで陣痛が来て、お前とカイルが生まれた。しかもほぼ同時にな。


すると、村長がある提案をしたんだ。


しばらくの間、キースとカイルを交換してはどうか、と。


村長も不穏な空気を感じていたらしい。そして、真っ先に命が狙われるのは、勇者の息子であるキースだろうと。


もちろん、それにはカーラが猛反対したよ。それじゃ我が子を人質にするようなものだってな。


キルシェも反対の立場だった。母親として、近くとは言えやはり我が子を放したくなかったのだろう。


だが、アルガスは賛成の立場だった。仮に何者かが襲ってきても、命がけでカイルを守る、そう言っていた。


俺は正直迷っていたんだ。今思うと、きっぱりと反対しておけばこんな事にはなっていなかったのかも知れない。


そして、話し合いが難航していた時、外から魔物の群れが襲撃して来たとの一報が入った。


俺とアルガスは慌てて外に飛び出した。すると、結界を破って大量の魔物が村に侵入していた。


アルガスは、「子供たちを頼んだ」そう俺に言うと魔物の群れに向かっていった。


その言葉を受け、俺は家の中に魔物が侵入しないよう、防衛することにした。


そしてよく見ると、魔物達は何かを探すようにしていた。そこでピンと来たんだ。探しているのはアルガスの息子だってな。


このままではまずい、そう思った俺はカーラとキルシェを避難させることにした。


村長宅の裏口を出た先の滝のそばに、成人の儀を行う洞窟に繋がっている抜け道がある。


そこを使って村の外へ出ようと思っていた。


子供を抱いたカーラとキルシェを連れ、警戒しながら滝へと向かった。


しかし、そこにも魔物が待ち伏せをしていた。


普段の俺たちであれば、決して遅れを取るような数では無かった。


しかし、カーラもキルシェも子供を生んだばかりだし、俺も子供を抱いた二人を守りながら戦うのは、荷が重すぎた。


あらかた魔物を片づけた、そう思った時、キルシェの背後に黒い影の魔物が忍び寄っていたんだ。


しまった。そう悟った時にはもう遅かった。


黒い影は魔王の残滓で、キルシェとその子供を包み込むとこう言ったんだ。


「勇者の体は貰った。この体が十六を迎えた時、我のものとなるだろう。それまでは眠って力を蓄える」と。


そして、子供の左手の甲に黒いシミが出来、キルシェは息絶えた。


俺は、自分の力の無さを恨んだよ。アルガスに頼むと言われたのに、キルシェと子供を救えなかった事に。


そして、魔王に呪われた子供をカーラに預け、キルシェを抱き上げると村に戻った。


そうなってしまった以上、逃げる必要もないからな。


大量にいた魔物は、アルガス一人で全部倒してしまったようだった。


しかし、アルガスも致命傷を負っていた。


だがそのおかげで、村には対して被害は出なかった。流石勇者だと思ったよ。


瀕死のアルガスを介抱するため村長宅のベッドに運び込むと、カーラがぽつりと呟いたんだ。


魔王に呪われたのは自分たちの息子である、と。


村長宅を出る際、カーラ自らがキルシェの子供を抱きかかえて逃げ出したんだ。


子供たちを別の部屋に寝かせ、村長夫婦を交えて緊急会議を行った。


そこで、お前を俺たちの息子として育てる事、カイルを勇者として育てる事が決まった。


その他にも、成人の儀までに呪いを解く方法が見つからなければ、カイルごと魔王を倒す事、


そしてそれらの話は、俺とカーラ、アルガスと村長夫婦以外他言無用ということが決まった。


その話し合いのすぐ後、アルガスは静かに息を引き取ったよ。


それが、お前たちの生まれた時にこの村に起こった事さ。

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