感覚の慣らし④ ― 賞金首クエストと、“運営の初介入”
チュートリアルボス討伐から十数分後。
草原の広場はまだざわついていた。
「マジやべえ……」「伝説級の新規じゃん」「配信者か?」
「バランスぶっ壊してる四人」「いや支援が一番怖い」
「あれが深淵シンエン……?」
知らないところで名前が広がっているらしい。
俺は人混みから離れるように歩いた。
三人も自然に後ろに付いてきた。
カイがニヤニヤしながら言う。
「おいリアチー、人気者じゃん? 現実と変わんねぇな?」
「やめろ。注目は嫌だ」
レンが軽く頷く。
「だろうな。お前は“上に立つように見られる”のが嫌いだ」
レイナはほわっと笑いながら。
「でもさ、孤独の神様じゃなくて……今は“仲間の神様”って感じだよねぇ?」
一瞬胸がざらついて――
だが次の瞬間、三人の顔を見て、それがすっと消えた。
(……こいつらと一緒なら、悪くない)
そんな思いがほんの少し胸を温めた。
◇◇◇
草原の出口近く、最初の街――
《ルーンタウン》に続く道。
その途中に、腕を組んで立つ衛兵のNPCがいた。
半透明のクエストマークが頭上に浮かんでいる。
【賞金首クエスト受注NPC:バルドン】
話しかけると、低い声がこだました。
「お前たち、新参か」
カイが勢いよく答える。
「おう! 俺たち4人、今日始めたばっか――!」
衛兵NPCはカイの言葉を遮り、
こちらを――俺を、じっと見つめた。
……いや、“見つめる”というより“解析している”。
NPCの内部演算が、俺に集中して揺れているのが音でわかる。
(ん?)
次の瞬間、衛兵NPCの台詞が強制で変化した。
「貴様……その『演算音』、ただの新参ではないな」
カイ「は?」
レイナ「NPCがプレイヤーの演算音を読むの……聞いたことないよ?」
レンは眉をひそめた。
「イベント分岐……いや、判定式の暴走だ」
NPCの瞳に光が走る。
「この先の街に潜伏している賞金首……
通常の冒険者では到底太刀打ちできぬ。
だが、貴様の演算は――“破格”だ」
視界右上にクエストウィンドウが開く。
【緊急クエスト:賞金首討伐】
《推奨人数:8~10人/最低Lv18/危険度:高》
※初心者には絶対におすすめされないクエストです。
レイナ「あーもう絶対こういうの引っ張ってくると思った〜!」
カイ「面白れぇ!!!!行こうぜ!!」
レンは冷静に分析している。
「レベル制限の推奨が18以上。それをレベル1の4人に出すのは明らかに異常。
――このクエスト、ハクアに“反応して生成された”可能性が高い」
(俺に反応……?)
衛兵NPCはさらに言葉を続けた。
「貴様の支援・解析の“旋律”……
それは戦場の流れを制御する調律だ。
――『深淵の譜面』を聴く者以外、到達できぬ領域」
その言葉で、背筋が震えた。
現実の俺が嫌う言い回しに、どこかよく似ていたからだ。
“神格視”の匂い。
胸の奥で音が濁る。
冷たい嫌悪感に近いもの。
だが、同時に隣から肩を叩かれた。
「気にすんなよ、リアチー」
カイが笑う。
「NPCにどんな言われ方されようが、
俺たちが知ってんのは一個だけだ。
――お前は仲間だ」
レイナも両手を広げながら。
「そうだよ〜! 変な呼び方とかいらないよ〜!
“ハクアくん”でいいじゃんね!」
レンも静かに付け足す。
「俺たちが呼ぶ名前が、本当の名前だ」
胸の中の濁りが、すっと消えた。
(……この三人が、俺を普通に扱ってくれる)
それが、何より救いだった。
「クエストは……受注してもいいのか?」
そう言うと、カイが破顔する。
「バカかお前!!!!受けねぇ理由がねぇだろ!!!!」
「報酬レアだと思う〜!運でドロップ増やしてあげる〜!」
「難度が高いほど燃える。問題ない」
全会一致。
俺はクエストボタンの【受注】を押した。
その瞬間――
【警告】
《低レベルプレイヤーが高難度クエストを受注したことを検知。
プレイバランス維持のため運営AIが監視を開始します》
(……来たな)
運営の“直接監視”が入った。
カイが笑う。
「おい運営!
監視するなら目ひんむいとけよ!!
俺たちが最強だって証明してやるからなぁぁぁぁ!!!」
レンは淡々。
「監視が入るなら、いずれ運営が調整に乗り出す。
だが介入される前に勝てばいい」
レイナも無邪気に。
「宝物たくさん落ちるといいなぁ♪」
三人の言葉を聞いて、俺は初めて――
胸の奥に、強烈な感情が湧いた。
嬉しいとか、誇らしいとか、恐れとかじゃない。
ただひとつ。
この仲間のために勝ちたい。
全員が楽しめるように、戦況を支配したい。
それだけ。
「行こう」
四歩、四つの足音が草原に響く。
俺たちの影が並び、街の方へ向かう。
そして最後に、システムログが小さく追加された。
【注意:
プレイヤー《深淵シンエン》のクエスト受注により
チュートリアルサーバーの難易度変動が検知されました】
(またバランスが壊れたか……)
俺は、わずかに口角を上げた。
「運営……調律してやる」




