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リアルチートと、極振りな友人達 〜運営を困らなせる噂のアイツら〜  作者: 暁 龍弥


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感覚の慣らし② ― 読み取る力、捻じ伏せる旋律

草原の奥へと進むほど、音が濃くなっていく。

風の響き、獣の足音、地面の震動――

それらがすべて、“演算の旋律”として耳の奥に流れ込んでくる。


(……敵が三体、いや四体)


現代的なレーダーがあるわけではない。

だが、波紋のような音の広がり方で、敵の位置と距離がわかる。


茂みを抜けた瞬間、視界に四匹の狼型モンスターが現れた。

体毛は白灰色、鋭い牙。レベルは2。

初心者が複数同時に相手をするには、少し危険な相手。


「来た」


視線がこちらに向いた瞬間、演算の音が跳ねた。

狼たちの内部パラメータが一斉に“攻撃方向”へ偏る。


高い金属音のような音色。

それは――“突撃の合図”。


通常、こういう状況でのエンチャンターは逃げるか味方を呼ぶ。

ソロでは成立しない。

……はずなのに。


俺は一歩も引かず、そのまま構えた。


(まずは、計測)


襲いかかってくる1匹目。

牙が光る瞬間――旋律の波形を視覚的な譜面として捉える。


AGI:高。

攻撃の初速は早いが、硬直の音が深い。

つまり、攻撃後の隙が大きい。


(崩しやすい)


「深奏」


青い波紋が広がる。

対象の演算が露出し――“係数の揺らぎ”が音で聴こえる。


攻撃係数、上昇。

なら――


「下降」


旋律を一段押し下げる。

その瞬間、狼の爪が空を切った。

内部演算が乱れ、攻撃精度が下がったのだ。


続けざまに――


「データショック」


雷撃のような演算停止が走り、狼が崩れ落ちる。


【ルーンウルフを討伐しました】


これで一体目。

問題はここからだ。


残る三体の演算音が重なり、

三方向から同時に距離を詰めてくる。


(同時攻撃、か)


強くないが、連携している。

初心者殺しの群れ特有の動き。


普通なら危険。

だが俺には――もう一つ手段がある。


「シーケンス展開」


胸の奥に刻まれた譜面が、うっすらと光を帯びた。


【スキルシーケンス《循環制御》一部起動】


高密度な演算ループの全容はまだ使えないが、

“部分発動”が最初から許可されているらしい。


次の瞬間――

狼たちの“能力変動”がリアルタイムで追跡され始めた。


一体は攻撃係数上昇。

一体は敏捷係数上昇。

一体は位置情報の揺れが大きい=フェイント思考。


それらが視界の端に瞬時に表示される。


(じゃあ、順番はこうだ)


最初に、攻撃の狼。

上昇曲線がもっとも急。

潰す優先度が高い。


「下降」


演算係数を落とし――


「データショック」


討伐。


二体目は速度型。

敏捷係数の乱れがそのまま身体の軌道に現れる。


(フェイクが大きいほど、制御ポイントは単純)


旋律の音をつかみ――

加速の直前に“下降”を差し込み、運動量を潰す。


狼が転倒。

そこへ、二撃目の《データショック》。


討伐。


残る一体。


だがそいつだけは、他の個体と反応が違っていた。


攻撃でも速度でもない――

視線と演算が“観察方向”に偏っている。


これは……


(状況判断型……?)


周囲の倒れた二体を見て、距離を取ろうとしている。

AIの行動パターンだとしても、初心者エリアにしては賢い。


――強者とみるや撤退。


ただの森の狼ではなく、群れの指揮個体だ。


「逃がすか」


音の正体を把握すれば、行動は読める。


ギャン、と高音の信号。

逃走シーケンスが始まった瞬間――


俺のシーケンスが勝手に起動した。


【“対象の係数変動:負方向 → 上昇旋律へ移行”】


「……そう来るか」


逃走は“防御係数の下降”。

ならシステムは味方を強化する方向へ旋律を変える。


青黒の波紋が俺自身へ収束し――

身体がふっと軽くなるような感覚。


【強化:敏捷係数+38%】【反応係数+26%】


「強化シーケンスが、俺に乗ったか」


解析型のシーケンスは、

“味方の係数が落ちている場合 → 上げる”

というルール。


今回は味方=俺一人。

自動的に俺へ強化が乗ったわけだ。


狼が走り出す。

だが視界の中ではスローモーションのように見える。


(届く)


一歩踏み込めば追いつける確信があった。


走り、指先を振り下ろすイメージ。


「データショック」


狼の演算が停止し、倒れ込む。


【ルーンウルフ(群れの統制)を討伐しました】


草原に、静寂が戻った。


◇◇◇


(……悪くない)


自分の息が落ち着くのを待ちながら、

戦闘ログと、内部演算の残響を整理する。


シーケンスはまだ不完全稼働。

だが、部分起動だけでも強烈に効果が出ている。


攻撃手段は《データショック》一つだが――

忘れてはいけない。

“俺の武器は攻撃じゃない。解析と旋律だ。”


そこへ――


【感覚慣らしステップ2達成】

【報酬:初期装備ランダム】


視界横に宝箱アイコンが出現。

タップして開く。


【《古代のレガートローブ(青)》を獲得しました】


補助職専用のローブ。

本来はレベル20あたりで着るような装備だ。


(運、か)


ステータス振りでLUKに4ポイント入れたのを思い出す。


あれがもう作用した……?


【※説明】

《古代のレガートローブ》

・バフ/デバフの持続時間がごく小さく伸びる

・演算視認精度が微上昇

・レアドロップ枠の超低確率アイテム


「……完全に俺用だな」


装備すると、青黒いラインが刻まれたローブが身体を包んだ。

視界の演算構造が明瞭に見えるようになる。


そのとき背後で声がした。


「あの、さっき草原の入口で戦ってた支援職の人だよね!?

ちょっと話聞きたい!」


振り返ると、さっきのプリースト・ミリアが仲間を連れて走ってきていた。


「すごかったよあれ! ソロで4体とか無理でしょ普通!?

ビルドどうしてるの!? スキル何取ってるの!? ええと、パーティ組めたり――」


質問の嵐。

その後ろで、ミリアの仲間たちは遠巻きにこちらを観察している。


“驚き”

“興味”

“恐れ”

“期待”


視線の重さで、胸の奥にわずかなざらつきが浮かぶ。


――現実と同じだ。


群衆が寄ってくる。

噂が立つ。

距離感がおかしくなる。


だから、静かに言った。


「すまない。今日は慣らしが目的だ」


それだけ言って歩き出す。


ミリアがまた声をかけようとしたが、

仲間が肩を掴んで止めているのが見えた。


「やめなよミリア……あれは“うちらのレベルじゃ触っちゃダメなやつ”だ……」


遠ざかる足音。

そして遠くから漏れた小さな声。


「でも……なんか、凄く綺麗だった」


胸の奥が少しだけ熱くなる。

返事はできないまま、俺はひとり草原を歩き続けた。


◇◇◇


視界右上に新たなクエスト通知。


【次のチュートリアル:

 “他プレイヤーとの連携訓練”】


(カイ達との合流が近いな)


これで慣らし編は本格フェーズに入る。

極振りの三人が揃い、

俺が支援に回ったとき――


運営が泣く未来の第一歩が、本当に始まる。


「面白くなってきた」


ローブの袖を揺らしながら、俺は次のエリアへ歩いた。


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