戦闘思想の構築と、“はじめての警告”
ログインと同時に、視界いっぱいに藍色の渦が広がった。
空気の揺れ、光の密度、音のない静寂――この“深淵ロビー”にも慣れてきた気がする。
【キャラクターメイキング最終段階 ― 開始します】
前回の続きだ。
外見、ジョブ、ステータス、固有スキルを決め――いよいよ“戦闘設計”へ。
黒い空間に、巨大な円形パネルがゆっくりと回転し始めた。
それぞれに、戦闘スタイルの“派生ルート”が刻まれている。
《支援・調律型》
┗《旋律》 … 効果の持続・重ねがけを極限まで伸ばす
┗《干渉》 … 敵への弱体を極め、相殺・逆流・妨害
┗《指揮》 … 味方の行動を最適化するオート支援・戦術補助
┗《解析》 … ステータスの内部構造と演算を読み取る
┗《禁書》 … 使用者の精神と引き換えに一時的な演算崩壊を誘発
「……最後の一個、絶対ヤバいやつだろ」
禁書ルートなんて選んだら、脳が焼ける未来しか見えない。
だが最初から候補に入っている時点で、凶悪な可能性を秘めているのは確定だ。
普通のプレイヤーなら《旋律》《指揮》あたりが定番。
《干渉》は玄人向け、《解析》はマニア向け。
《禁書》は……ただの狂人向けだ。
だが俺の固有スキル《深奏》の説明文を思い返す。
――“演算値そのもの”に干渉する。
それはつまり、効果時間や威力だけの問題じゃない。
“内部の傾向をねじ曲げる”という特性を最大限引き出すには――
「旋律(効果時間)、指揮(自動化)、干渉(弱体)のどれでもない……」
残ったのはひとつ。
――《解析》。
《解析》は“情報を読むルート”。
敵や味方のバフ・デバフ・能力値の流れ、スキルの演算構造を“視える”ようになる。
それ自体が強いわけじゃない。
だが《深奏》は、演算値を“視たうえで触れるほど”強くなる。
つまり、最も相性がいいのは――
「解析(崩しのための理解)+ 深奏(崩すための旋律)」
瞬間的に確信した。
俺は、派生ルート《解析》を選択。
【戦闘派生タイプ:解析が確定しました】
同時に、光が胸元を貫き、また“音の波紋”が広がる。
心臓の奥を軽く叩かれたような、奇妙な浮遊感。
◇◇◇
【続いて、“スキルシーケンス”を構築してください】
シーケンス。
AFOでは、戦闘操作を“定型化”させることで、複雑な挙動を高速処理できる。
例えるなら――
「特定条件で自動的に発動するスキルの組み合わせ(コンボAI)」。
だが自分で考えた戦術を登録できるため、
うまく組めれば“人間離れした操作”を生身で行う必要はない。
簡単に言うと――
脳の負担を減らす代わりに、頭脳を使えというAFO独自のシステム。
画面に、テンプレのシーケンス例がいくつも並ぶ。
《味方攻撃時 → 攻撃強化バフ》
《味方ダメージ時 → 防御バフ+継続回復》
《敵詠唱時 → 詠唱妨害 or 沈黙》
《敵強化時 → デバフ or 上書き解除》
どれも悪くない。
だが、ありふれている。
「俺がやりたいのは――“試合を支配する支援”だ」
考えろ。
相手の能力値、タイミング、戦況の流れ――
すべての変化を“音”として捉えるなら。
耳(解析)で世界を読み、
指先(深奏)で世界を狂わせる。
なら、組むべきシーケンスは――
俺は、複数の条件式を同時にリンクさせ、膨大なルートを一本の“曲”のように繋ぎはじめた。
《対象のステータス変動量(+ / -)を常時監視》
↓
《変動傾向が正方向に偏った場合 → デバフ旋律へ移行(効果阻害・係数減衰)》
↓
《変動傾向が負方向に偏った場合 → 強化旋律へ移行(係数反転・伸長)》
↓
《どちらにも偏らず停滞した場合 → 再計算待機(保留)》
つまり――
上がりすぎる敵は落とす。
落ちかけている味方は持ち上げる。
変化が無い状況は触らない。
極めて合理的な“演算のフィードバック制御”。
文字にすると単純だが、
これをリアルタイムに処理するためのシーケンスは、
高密度な分岐と循環ループを必要とする。
普通のプレイヤーは、入力の時点で強制停止するはずだ。
――だが。
入力は止まらない。
どんどんルートが繋がっていく。
まるで“自分の脳の回転が追いついている”という実感。
気づけば、見上げるほど巨大な“譜面の樹”のような構造が空間に浮かんでいた。
【スキルシーケンス構築中……】
――そして。
【データ過負荷の疑い ─ 暫定処理に移行します】
「……ん?」
次の瞬間、強制中断。
構築していた譜面が白く発光し――
システムウィンドウが怒涛の勢いで展開された。
【警告】
【プレイヤー:深淵シンエンのスキルシーケンス構築内容が
許容演算量の上限を超えています】
【安全対策のため、一時的にシーケンスの自動保存と
上書きロックを実施します】
「……あぁ、やっぱり止めに来たか」
俺は確信していた。
これは、たぶん運営の“自動セーフティ”。
普通のプレイヤーが暴走しないようにするためのブレーキ。
だが――
【※注意】
【演算量および処理速度の“手動処理(プレイヤー補助)”が可能な場合、
強制停止を解除できる許可申請が表示されます】
空間中央に、黒いウィンドウが出現した。
【許可申請:
スキルシーケンスの“プレイヤー手動補助処理”を希望しますか?】
要は――
「脳が処理できるなら、制限を外す」
というルール。
「……YES」
押した瞬間、システム音が震えた。
【評価テスト開始】
大量の光の粒、数字、記号が高速で降り注ぎ――
それらが視界を通して脳に叩きこまれる。
常人なら、ここで強制ログアウトする負荷だ。
だが俺の頭は、ぶつかる計算を“音”として捉えて整理していく。
重低音のうねり。
高音の連打。
ノイズの逆位相。
それらを掴み、調律し、静かに消す。
気づいたときには、全ての演算テストが終わっていた。
【判定:クリア】
【手動補助処理の適性を確認】
【スキルシーケンスの強制停止措置を解除します】
同時に――
【AFO運営管理AIより通知】
《注意:あなたのシーケンス記述は、ゲームバランスを著しく変動させる可能性があります。
今後のアップデートにより制限される場合があります。ご了承ください。》
「……運営から、初めての警告もらっちゃったな」
別に嬉しくないはずなのに、
どこかくすぐったい感覚が胸の奥に残った。
◇◇◇
【キャラメイク全工程 完了】
【次回ログイン時より“感覚の慣らしエリア”へ移行します】
深淵の空間が薄れ、
視界の端にログアウトボタンが表示された。
「じゃあ――本番は次だ」
軽く息を吐く。
エンチャンター(解析系)
固有スキル《深奏》
支援“制御”に極振りしたスキルシーケンス
――尖りすぎたビルドが完成した。
そして次は、いよいよ“動ける世界”に入る。
仲間は極振り脳筋バーサーカー
極振りLUK宝探し
極振りDEXスナイパー
極振りリアルチート支援役(俺)
……運営が泣く未来が見える。
「楽しみだな。
こっちの世界の俺は――自由でいい」
ログアウト。
視界が光に消えた。




