プロローグ・キャラ作り(VR)3
AFO初ログアウトから数時間。
夕食のオムライスを食べ、風呂に入り、宿題を済ませ、
寝る前にベッドへ潜り込んだ俺の視界の上には、さっきと同じ紺色のVRデバイスがあった。
「……続き、やるか」
ほんの少しだけ胸が高鳴る。
現実では孤高だの崇拝だのとうるさく扱われる俺も、ここではただの一プレイヤーになれる。
それだけで、十分すぎるほど価値がある。
電源を入れ、フルダイブ接続。
視界が暗転し、再び例の“深淵の空間”へ。
◇◇◇
【キャラクターメイキング第2段階 ― 戦闘スタイル選択】
黒い空間に光のパネルが浮かび、複数の戦闘タイプが表示される。
《近接格闘型》
《武器特化型》
《遠距離射撃型》
《魔術詠唱型》
《支援・調律型》
《戦術設計・召喚型》
《隠密・瞬撃型》
……などなど。
ジョブの“エンチャンター”と明らかに相性が良いのは、《支援・調律型》だろう。
仲間の強化・敵の弱体化・バフとデバフの管理が中心になるはずだ。
「まぁ、普通ならこれだよな」
そう自分に言いつつ、他の選択肢も見ていく。
《魔術詠唱型》は火力寄り。
《召喚型》は生産力とシナジーが高い。
《隠密型》はソロ特化。
――だが、その中で一つ、説明文の一文が俺の視線を捉えた。
《支援・調律型》
・仲間の能力を強化し、敵の能力を低下させることに特化した戦闘型。
・演算処理速度が高いほど、重ねがけ・持続延長・効果上書きが成功しやすい。
・複雑なバフ管理を“リアルタイムで捌き切れる”プレイヤーは珍しく、極めると戦局が根本から変わる可能性がある。
「リアルタイム処理、ね」
俺の得意分野だ。
視覚処理・反応速度・空間認識――現実ではそれを持て余し、周囲とのズレの原因になってきた能力が、ここでは武器になる。
「なら、これで行こう」
支援・調律型を選択。
【戦闘スタイルが確定しました】
◇◇◇
【次に、“固有スキル”を一つ取得してください】
目の前に、円盤状の光が複数展開される。
それぞれにスキル名が刻まれている。
《律動》
《加護》
《束縛》
《支配》
《解呪》
《連鎖》
《無効化》
《深奏》
……など。
どれも補助系スキルとして強力そうだが、まだレベル1段階なので効果は弱いはず。
最初から最強を選ぶ必要はない。
だが、説明文を読み比べた瞬間――
一つだけ、明らかに“異質”なものがあった。
《深奏》
・味方の能力値・敵能力値・スキルの効果量・制御フィルターを含む “演算値全体”に干渉する旋律を生成する。
・使用中は対象の内部パラメータにアクセスし続け、数値の上昇または下降の“傾向”そのものを変化させる。
・一部の種族・ジョブ・適性との併用時、予期せぬ挙動を引き起こす可能性があります。
「……演算そのものを変化?」
バフやデバフではなく、能力値の“傾向”をねじ曲げる――
基礎数値にまで干渉するレア系統だ。
はっきり言おう。
普通は絶対に選ばない。
クセが強すぎる。
効果が安定しないし、理解しにくいし、扱いを間違えると味方も自分も崩れる。
――だけど。
俺は直感で理解した。
これは間違いなく、俺用だ。
「深奏」
迷わず指を伸ばした。
……が、その瞬間。
【警告】
【プレイヤーデータに“オーバーフロー適性”が確認されています】
【固有スキル《深奏》との併用は、想定外の挙動を引き起こす可能性があります】
【運営は一切の責任を負いません】
「来たな、運営からの警告」
つまり――
「これだけはやめておけ」という運営側のメッセージだ。
つまり逆に言えば――
「当たりを引いている」証拠でもある。
父親がいつも言っていた。
《一番ヤバいのは、“絶対に使うな”と言われる技術だ》
だから俺は、迷わず。
「確定」
【本当に選択しますか? YES / NO】
「YES」
――光が弾けた。
アバターの胸部に、漆黒の紋章のようなものが刻まれ、淡い青い音波が周囲に拡散した。
【固有スキル《 深奏》を取得しました】
◇◇◇
【キャラクターメイキング第2段階 ― 完了】
【次回ログイン時 ― キャラメイク最終段階:
戦闘スタイル派生ツリー + スキルシーケンス設定(=実戦操作の最適化)】
「まだ続くのかよ……」
という呆れと同時に、胸の奥がまた高ぶった。
このゲームのキャラクリは、ただの外見作りじゃない。
“戦闘思想”そのものを、根本から作る工程だ。
「こういうの、嫌いじゃない」
【セーブしますか?】
「セーブ、ログアウト」
◇◇◇
――視界が戻る。
「…………ヤバいな、これ」
ベッドの上で天井を見つめながら、ひとりごちた。
ただキャラを作っているだけなのに、
久しぶりに“自分の心がよく動いている”のを感じる。
スマホが震えた。
【黒峰カイ】
『明後日な! 初回ログインは絶対一緒にやるからな!』
【別のグループチャット】
〈メンバー:黒峰カイ、鏡夜レン、三神レイナ、白亜ハクア〉
カイ『おい聞け! STR極振りバーサーカー爆誕!』
レイナ『私はLUK全振りトレジャーガールだからw』
鏡夜『DEX99スナイパー。開始10秒で運営に怒られた』
カイ『最高だろ? 次はハクアの番だ!』
「……極振りな友人達、健在だな」
そう思うと、不思議なくらい心が軽くなった。
現実では、孤高で、完璧で、神格化されて、近づきにくいと言われる俺でも――
こいつらの前ではただの仲間だ。
「じゃあ次は、キャラクリ最終段階か」
戦闘スタイル派生、スキルシーケンス構築。
本格的に“戦闘設計”を決めるフェーズ。
その後――
いよいよ実戦、感覚の慣らし編10話へ。
そして本格スタートしたら――
運営を泣かすほどの騒動を巻き起こす噂のプレイヤーたちが誕生する。
深淵シンエン(俺)、
STR極振りバーサーカー黒峰カイ、
DEX極振りスナイパー鏡夜レン、
LUK極振り宝ドロ専門三神レイナ。
こんな尖ったメンツが揃って、
何も起きないわけが、ない。
「……早くゲームしたいな」
少しだけ口元が緩む。
現実世界では見せない表情。
そして部屋の中には、自分の声だけが小さくこだました。
「――次のログインが、楽しみだ」




