連鎖救済作戦 ― 消される都市、繋がる命
警報は、同時に三つの都市名を告げた。
【虚無反応 同時発生】
《沿岸都市ミレア》
《山岳学都ノルディア》
《砂漠交易都市ラハム》
三地点、ほぼ同時。
狙いは明確――世界の“意味”を分断すること。
レンが即座に状況を整理する。
「虚無は、孤立した都市から消していく。
互いに関係性の薄い場所を選んでいる」
カイが舌打ちする。
「三つ同時とか無茶だろ……!」
アリアは胸に手を当て、目を閉じた。
「……感じます。
それぞれの都市が……“忘れられそう”になってる……」
レイナが息を吸い、強く言った。
「じゃあ……繋げばいい。
忘れられないように」
俺は頷く。
「連鎖救済だ。
《エグジスタンス・リンク》を“拡張”する」
レンが驚く。
「他者に……?
それは、調律者の負荷が――」
「承知の上だ」
俺は地図を指す。
「俺とアリアはミレア。
カイはノルディア。
レイナとレンはラハム」
三方向に分かれる。
だが――孤立しない。
「“繋がり”は切らない。
遠隔でリンクを保つ」
◆ 沿岸都市ミレア ― 失われる記憶
港町ミレアは、異様な静けさに包まれていた。
波は立っている。
船もある。
だが、人々の表情が――空白だった。
「……ここ、何の町だっけ?」
その一言が、胸を抉る。
アリアが震えながら言う。
「虚無は……“思い出”から消していく……」
空に、あの“輪郭のない影”が滲む。
――意味のない港。
――役目を終えた町。
俺は即座に調律を展開する。
「《存在肯定調律・起動》」
だが、町全体は重すぎる。
(足りない……!)
その時、港の倉庫から声が上がった。
「ここは……俺の生まれた町だ!!」
叫んだのは、年老いた船大工だった。
「この港で、息子と船を作った!
嵐で失った!
でも……それでも、俺はここで生きてきた!!」
その言葉が、音になる。
アリアが涙を浮かべて手を伸ばす。
「……繋がりました……」
《エグジスタンス・リンク》が、俺と船大工、アリアを結ぶ。
町に、色が戻り始める。
「忘れない」
「ここで育った」
「帰る場所だ」
住民たちが、互いに声をかけ始める。
虚無の影が、わずかに後退した。
◆ 山岳学都ノルディア ― 数式の街
一方、ノルディア。
学問の都は、沈黙していた。
書物はある。
塔も立っている。
だが――学ぶ理由が消えていた。
「……なぜ、研究しているんだ?」
その疑問が、虚無を呼ぶ。
カイは剣を背負ったまま、広場に立つ。
「難しいことは分かんねぇ」
彼は拳を胸に当て、叫んだ。
「でもよ!!
誰かが考えてくれたから、俺は今ここに立ってる!!」
研究者たちが顔を上げる。
「剣を振るしか能のねぇ俺でも、
あんたらの知識に守られてる!!」
その言葉は、理屈じゃない。
「だから消えんな!!
あんたらは、世界に必要だ!!」
学徒の一人が、涙をこぼした。
「……誰かの役に立つなら……
僕の研究にも意味が……」
リンクが繋がる。
ノルディアの塔に、光が灯った。
虚無が、確かに“押し戻される”。
◆ 砂漠交易都市ラハム ― 利益の街
ラハムは、虚無に最も近かった。
「意味?
金にならないなら、無いだろ?」
交易の街。
損得で成り立つ都市。
レンは歯を食いしばる。
「……虚無に、理屈は通じない……」
レイナが、一人の子供に膝をついた。
「ねえ。
ここ、好き?」
子供は戸惑いながら答える。
「……うん。
父ちゃんが帰ってくる場所だから」
その一言で、風が変わった。
レイナは微笑み、手を差し出す。
「じゃあね。
その“好き”を、みんなに教えて」
子供は走り出す。
「ここは!!
父ちゃんが帰ってくる町だ!!」
商人たちが、言葉を失う。
「……帰る、場所……」
レンが静かに補足する。
「利益だけじゃない。
“戻ってくる理由”がある」
リンクが、街を包む。
砂漠の空気が、温度を取り戻す。
◆ 世界を跨ぐ“連鎖”
三都市同時に、リンクが安定した瞬間――
世界全体に、音が走った。
【世界反応】
《存在肯定連鎖 発生》
《虚無干渉 大幅低下》
《消失都市:0》
アリアが息を吐き、微笑む。
「……一人が思い出して、
次の誰かが思い出して……
それが、世界を支えてる……」
俺は遠隔リンクを維持したまま言う。
「これが答えだ。
虚無は“一人”を消せる。
でも――“繋がり”は消せない」
だが、影は完全には消えなかった。
遠くで、静かな“観測”の気配。
レンが低く言う。
「……虚無は学んでいる。
次は、もっと残酷な手を打つ」
カイが剣を握る。
「なら、次も守るだけだ!!」
レイナが頷く。
「救われた人が、また誰かを救う。
それを止められないよ」
アリアは胸に手を当て、強く言った。
「……私も、もう消えません。
だって……
“誰かの理由”になれたから」
世界は、まだ脆い。
だが――確かに繋がった。




