評価会議までの三日間 ― “誰も救いを信じない都市”を救う方法
アルケイン・シェルタに来て二十四時間。
都市は相変わらず冷たかった。
誰も怒鳴らない。誰も攻撃しない。
ただ、「疑う」という形で四人を拒絶する。
救ったはずなのに――
世界は、救いを信じていなかった。
そんな状況で、評価会議まであと三日。
四人は都市を“救うための証拠”を集めるため動き出した。
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◆【レイナ編 ― 心の声を聞く少女】
レイナが訪れたのは〈心音医療院〉。
精神魔法や心の治癒を専門に扱う施設。
医師の女性がレイナを警戒して言う。
「あなたたちが“滅びの予兆を呼んだ”と聞いています」
レイナは深呼吸し、にこりと笑った。
「……そんなつもりはないです。
だから、少しだけ“心の声”を聴かせてほしいんです」
女性は渋ったが、結局患者のひとりと話をすることを許してくれた。
レイナは傷ついた心の患者に寄り添い、手を握った。
患者はつぶやくように言った。
「救われないって……思ってた。
でも、あなたの声を聞いたら……なんだか……あったかい……」
その言葉が、レイナ自身の力を証明した。
“救いは結果ではなく、関わりの中に生まれる”
医師はやがて態度を変えた。
「……三日後の会議、私もあなた方に味方しましょう」
レイナは微笑んで頭を下げた。
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◆【カイ編 ― 争いを止める拳】
カイは〈訓練区画〉へ向かった。
都市の警備兵士たちが集まる場所だ。
彼らはカイを見るなり武器を構える。
「お前が“滅び派を刺激した”調律者か!」
だがカイは剣を抜かない。
身ひとつだけで、敵意へ進む。
「俺は救いたくて戦っただけだ。
文句があるなら、拳で語ろうぜ」
挑発ではなく、本気の勝負。
警備兵は怒りで突撃してくる。
しかしカイは一撃も反撃せず、ただ受け止め、いなす。
「反撃しないってのは……バカだな!!」
「違う。
俺は“傷つけずに守る”って決めてるからだ」
何十回殴られても倒れない。
反撃しないから敵意が続く。
それでもカイは笑って受け止める。
兵士の拳が折れそうになった瞬間、
カイはそっと手を添えた。
「無茶すんなよ。痛ぇだろ」
兵士は息を飲んだ。
「……なんでそこまで……敵の俺に……」
「敵じゃねぇよ。
お前たちも、この都市も救いてぇんだ」
その言葉が、兵士たちの心を揺らした。
「……会議では擁護しよう。
“あの拳に嘘はなかった”とな」
カイは少し照れながら笑った。
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◆【レン編 ― 理論と論破】
レンが向かったのは〈学術塔〉。
都市の頭脳であり、彼らが最も四人に厳しい場所。
研究者たちはレンの存在を嫌った。
「君たちが“滅びを否定した”せいで予測が乱れたのだ」
「世界の運命は計算されていた。余計なことを」
「救世は“証明できない理想論”だ」
レンは眼鏡を軽く押し上げる。
「理論に穴がある。
運命の計算式は“感情の変化”を扱えていない」
ざわつく研究者たち。
レンは黒板へ歩き、計算式を書き換える。
「あなたたちが見落としているのは――
《滅びたい者が、救われる可能性を知った時の心理変動》だ」
式が成立した瞬間、研究者たちが息を呑む。
「……この式は……!?」
「“救済が新しい未来を作る”と……数学的に証明されている……」
レンは静かに言う。
「救いは不確実だ。
でも――不確実だからこそ未来を変えるんだ」
その論理は彼らの理論を完全に上回っていた。
「三日後の会議では、我々もあなた方の味方をしよう」
レンは小さく微笑んだ。
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◆【深淵シンエン編 ― アリアの秘密】
残る一人、俺は――アリアと共に都市外れへ向かった。
アリアは歩きながら、ずっと言葉を飲み込んでいた。
風が吹き抜ける丘。
その上でアリアは立ち止まり、震える声で言った。
「……言わなきゃいけないことがあります」
俺は静かにうなずいた。
アリアは胸元に手を当て、魔力を解いた。
次の瞬間――
彼女の身体から淡い光が溢れた。
銀髪が舞い、瞳の色が変わり、
額に古代文字の紋章が浮かび上がる。
【識別】が視界に出た。
《アリア=ヴェルダ》
《大陸エーテルの“核”》
《救世と滅びを左右する鍵そのもの》
アリアは涙をこぼしながら告白する。
「……私が“滅びの鍵”なんです。
私が死ねば、この大陸は滅びます。
私が救われれば、この大陸は生きます。」
その事実はあまりに残酷だった。
「だから……カーミラは私を狙わなかった。
滅びの意思は、私が壊れたら終わると知ってるから……」
アリアは泣きながら笑った。
「私は……“人間”じゃないんです。
大陸が造った、ただの“生きた鍵”。
救われたいなんて、望んじゃいけない存在なんです……!」
(違う)
俺は強い声で言った。
「望んでいい。
お前も救われていい。
鍵とか役割とか関係ない。
お前は“アリア”だ。」
アリアは震えながら胸に手を当てる。
「……救われたい。
本当は……壊れたくない……!!」
その瞬間――
【緊急ログ】
《滅び派が都市外で暴動を開始》
《アリアの“核反応”が感知され、暴走の危険性 上昇》
都市全体が震え始めた。
アリアは身体を抱きしめる。
「……私の心が揺れると、大陸が“滅び側”に傾いちゃうんです……!」
“救われたい”と願えば救済へ。
“壊れたい”と思えば滅びへ。
その揺れが世界そのものを揺らす。
(だからアリアは感情を押し殺していたのか……)
俺は彼女の肩に手を置き、はっきり言った。
「大丈夫だ。
俺たちが、お前の心を支える。」
アリアの涙が頬を伝った。
「……ありがとうございます……深淵……」
次の瞬間――大地が揺れた。
滅び派の暴動、そして“災禍序列”の影。
三日後の会議どころか――
都市が崩壊しかねない状況。
俺は空を見上げ、仲間に呼びかけた。
「合流だ。
都市を救うために動く!」
カイ「任せろ!!」
レイナ「みんなで守る!」
レン「三日待たずに証明してやる」
アリアは涙を拭き、頷いた。
「……私も、戦います。
“滅びの鍵”じゃなく――救いのために。」




