決戦 ― 調律者 vs 奈落ノ調者(前編)/破滅の旋律
エル=シェルタ中心広場。
浮遊都市の中心、巨大な光柱の前。
四人と、カーミラが向き合う。
風すら息を潜め、世界が静止した。
先に動いたのは――カーミラだった。
黒いドレスが裂けるように揺れ、
周囲一帯に“破滅の旋律”が解き放たれる。
「《奈落調律》」
空気が濁り、景色が歪む。
精神干渉、敵意の増幅、快楽化された破壊衝動。
そのすべてが戦闘力へ変換される狂気のフィールド。
カイが顔を歪めて叫ぶ。
「うっ……!身体が勝手に突っ込みたがって……!」
レイナが涙を浮かべながら必死に耐える。
「怖い……怖いのに……!
攻撃しなくちゃ“気持ち悪い”って感覚にされてる……!」
レンが冷静を保とうとしながら分析する。
「破滅の旋律は“快楽で暴走させる”のではなく、
“理性を保ったまま破壊に依存させる”…!」
だが――その中心にいるカーミラは泣きそうな笑顔だった。
「お願い……もっと私を壊して……
壊されて、全部終わるのが一番楽なの……!」
絶望の言い方とは裏腹に、
魔力は凶悪すぎるほど美しく解き放たれている。
カーミラが一歩踏み出す。
その瞬間、世界から音が消えた。
静寂の中、空間が切り裂かれる。
視界からカーミラの姿が消え――
次の瞬間、俺の胸元に冷たい指先が触れた。
(速い――!!)
気づいた時には、すでに殺意の距離にいた。
黒いナイフの切っ先が心臓に触れる。
「一瞬で終わらせてあげる」
――その一撃を止めたのは、剣だった。
火花が散り、風が逆巻く。
カイが間に割り込んでいた。
「ふざけんな!!!
アイツは殺させねぇ!!!」
刃と刃がぶつかり、地面が砕けるほどの衝突音。
カーミラの目が揺れる。
「どうして邪魔するの……!?
終わらせることが“救い”でしょ!!!」
カイは怒鳴る。
「違ぇよ!!
泣きながら人殺すのが救いなわけあるか!!!」
次の瞬間、闇の衝撃波。
四人まとめて吹き飛ばされる。
レイナは地面に転がりながら叫んだ。
「回復――《光環の抱擁》!」
光の輪が四人を包み、出血が止まる。
だが破滅の旋律が上書きしてくる。
(回復が足りない……!)
レンが矢を放つが――
カーミラは指先ひとつで弾く。
「そんなんじゃ届かないよ。
“救われる未来”なんて、存在しないんだよ」
涙を流しながら、それでも破壊を選ぶ少女。
レンは矢を取り落としそうになりながら叫ぶ。
「違う!救われる未来は――
“自分が救われていいと思った瞬間”から生まれる!!」
カーミラの動きが一瞬止まる。
だが次の瞬間、感情を切り離した視線へ戻る。
「私は救われない。
だから死ぬの。
それが答えでしょ?」
(違う)
だけど、言葉は届かない。
なら――戦いながら届かせるんだ。
俺は踏み込み、声を放つ。
「《調律・四重奏》!!」
四人それぞれの“戦い方”が音へ変換され、
破滅の旋律に“対旋律”としてぶつかる。
・カイ → 攻勢の低音
・レイナ → 支援のハーモニー
・レン →最適化のリズム
・俺 → 調和の主旋律
音の衝突――空気が震え、光が弾ける。
カーミラの破滅の旋律が揺らぐ。
涙が零れる。
「……そんなの、ずるいよ……
戦ってるのに、温かくなるなんて……!!」
黒い魔力が暴発する。
自分の涙を壊すための暴走。
四人は吹き飛ばされ、各自バラバラに倒れ込んだ。
HPが赤。
レイナの肩は裂け、
レンの腕は痺れ、
カイは剣を支えに立っている。
カーミラも息が乱れ、魔力が荒れ狂う。
「お願いだから私を止めてよ!!
止めてくれないと、全部壊しちゃう!!!」
(止めて欲しいのに、止めないで欲しい――)
矛盾だらけで、苦しさしかなくて、
それでも戦っている。
だから、俺は宣言する。
「止める。けど殺さない。
お前の願いは守るけど、終わらせない」
カーミラの瞳が揺れる。
「そんなの……できるわけ……!」
できないと思わせるのが破滅。
できると思わせるのが調律。
俺は一歩前へ。
「次で決める」
仲間全員の意思が一つになる。
カイ「殺さず勝つ。絶対だ」
レイナ「泣いてる子を、放っておけない!」
レン「矛盾を抱えたまま救う。それが俺たちの正義」
そして――カーミラが叫ぶ。
「来なさい!!
私を壊さなきゃ未来は無い!!!」
破滅の旋律が最大に解放される。
世界が震え、視界が歪み、心臓の鼓動すら音楽の一部になる。
俺たちは走る。
ただ一つの目的――
“カーミラを救って勝つ”




