決戦前夜 ― 四人と一人、それぞれの覚悟
決戦まで、あと24時間。
新大陸エーテルの都市《エル=シェルタ》は、嵐の前の静けさに包まれていた。
カーミラ率いる《災禍序列》の襲撃は確実。
ヴェルダの住民は避難し、街は無人同然となった。
光る街並みだけが静かに脈打ち、
逃げる音も泣く音もなく、ただ風が吹き抜けていく。
◆【夜のテラス・深淵シンエン】
俺は高層バルコニーで夜景を見下ろしていた。
都市の魔力灯が明滅し、まるで巨大な心臓の鼓動のよう。
(戦えば誰かが傷つく。
守れる未来もあれば、守れない未来もある)
それでも――選ぶしかない。
なぜ、俺は救おうとするのか?
それは、
“救えなかった痛み”を知っているからだ。
過去を思い出す必要はない。
ただ――間違えたくない。
足音が近づき、アリアが隣に立つ。
「震えているのは、大陸じゃありません。
……深淵、あなたの心です」
嘘はつかなかった。
「怖いよ。
間違った未来を選ぶのが」
アリアは静かに笑う。
「間違える可能性があるから、選ぶ価値があるんです」
◆【鍛錬場・カイ】
カイは一人、闘技場で大剣を振っていた。
誰もいないのに、ぶつける相手を想定して。
「戦いが好きだ。
それは嘘じゃねぇ」
振り下ろす度、火花の幻が走る。
「でも――壊すための戦いは嫌いなんだよ。
アイツが壊しながら泣いてんの、見てらんねぇ」
剣を肩に担ぎ、笑う。
「救うための戦いってのがあるなら、
俺はそれで生きてぇだけだ」
◆【聖堂・レイナ】
レイナは教会のような場所で祈っていた。
宗教ではない、ただ心を落ち着かせる行為。
祈りながら、何度も小さく呟く。
「みんなが笑っていられる世界がいい」
涙がこぼれる。
「でも……カーミラちゃんだって笑ってほしい」
両手を胸に当てて震える。
「誰かを救うために、誰かを傷つけなきゃいけない世界なんて嫌。
そんなの……絶対に変えたい」
涙を拭き、立ち上がる。
「私は――優しさで戦う」
◆【屋上・レン】
レンは風の吹く塔の頂で一人目を閉じていた。
「俺は昔から合理性を最優先してきた」
だが、今は違う。
「合理でいえば、救えない者は切り捨てたほうがいい」
矛盾の中にこそ、答えがあった。
「だけど――俺は切り捨てたくない。
“間違った選択肢があるのが人間”だろう」
矢を一本だけ手に取る。
「今日の矢は、誰も殺さないための矢だ」
◆【地下室・カーミラ(視点転換)】
闇の祭壇で、カーミラはフードの男たちに囲まれていた。
《災禍序列》の中枢。
男の声が響く。
「選択者を潰せ。
深淵シンエンは“可能性の象徴”だ。
存在を許せば滅びは覆る」
カーミラはうつむいたまま、笑うように震える。
「殺せばいいんでしょ……?」
黒い短剣。
破滅の旋律が刻まれた刃。
だが、手が震えている。
(本当は殺したくない)
(でも殺さなきゃ世界が滅びる)
矛盾が胸を裂く。
ふと、小さく呟く。
「ねぇ深淵……
私のことも救ってって言ったら、笑う?」
返事なんかない。
でも――期待してしまう。
「……期待して裏切られるほうが、痛いのに」
涙で笑う。
「全部めちゃくちゃにしよう。
救われる可能性ごと壊して、楽にしてあげる」
それが、最後の“鎧”。
◆【再び深淵シンエン視点】
決戦の刻――夜が明ける。
鐘が鳴り響き、システムログが流れる。
【重大イベント開始】
《第二章・決戦「調律者 vs 奈落ノ調者」》
《戦場:エル=シェルタ中心部(無人区域)》
《勝利条件:相手の降伏/力の停止/死亡/強制転移》
レイナが息をのむ。
「死亡……」
レンが静かに言う。
「負けたら消える。
運営のイベントではなく――“災禍側のイベント”」
カイは剣を担ぎ笑う。
「生きて帰ろうぜ。4人で」
アリアは祈るように手を握りしめる。
「……お願い。
どうか、終わらせないで。
カーミラも――あなたたちも」
俺は宣言する。
「終わらせない。
救って勝つ」
三人が頷いた。
カイ「戦う意味はひとつ。守るためだ」
レイナ「泣きながら人を傷つける子を、一人にしたくない」
レン「矛盾ごと受け止めろ。救うとはそういうことだ」
アリアは涙を浮かべる。
「“救われたいと願っている敵”を救うなんて……
そんな戦い、見たことがありません……!」
俺は静かに返す。
「見せてやる。
“壊して終わり”じゃない戦いを」
――決戦のフィールドへ。
中心広場。
光の塔を背に、黒いドレスの少女が立っていた。
風に揺れる涙の笑顔。
カーミラ。
彼女は震える声で言う。
「来てくれて……嬉しい」
だが次の瞬間――表情が完全に変わる。
涙の笑顔のまま、破滅の声で。
「――全部壊れる前に、殺してあげる」
四人は武器を構える。
誰も笑っていない。
誰も怯えていない。
これはただのボス戦じゃない。
“救うための戦い”。
俺は最後に宣言する。
「行くぞ――絶対に殺さずに勝つ」
そして、世界が炸裂した。




