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リアルチートと、極振りな友人達 〜運営を困らなせる噂のアイツら〜  作者: 暁 龍弥


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プロローグ・キャラ作り(VR)2

闇が、ゆっくりと色づいていく。


黒に近い藍色。そこからにじむように、淡い光が縁を描き、足元には円形の魔法陣めいた紋様が浮かび上がった。

まるで「今からあなたを世界に送り出します」とでも言いたげな、オープニング演出。


【ベースボディが仮選択されました】


目の前に、一体の“俺”が立っていた。

身長は現実より少しだけ低く、細身だが無駄な肉はない、しなやかな体つき。

髪は肩より上のショートウルフ。色は――


「漆黒……ってほどじゃないな。濃い紺色か」


光の加減で、青とも黒ともつかない色に揺れる。

目の色は、深い瑠璃色。オッドアイではない。これだけでも大きな変化だ。


「これなら、そこまで目立たない……か?」


同じ顔の造形でも、髪と瞳、それに表情の設定だけで印象はだいぶ変わる。

現実の俺より少し幼く、柔らかく見えるように調整したおかげで、いかにも“孤高の神”な威圧感は薄れていた。


【外見パラメータの詳細設定に移行しますか?】


「もちろん」


キャラクリを舐めてはいけない。

ここで妥協すると、後で絶対に後悔する。

――少なくとも、俺とあの腐れ縁はそういうタイプだ。


指先を動かすたびに、アバターの輪郭が微妙に変化する。

肩幅、首の長さ、指の細さ、眼の形、睫毛の長さ。

一つ一つを、現実の自分とは“似すぎず、離れすぎず”のラインに整えていく。


「髪型は……」


ショートでもいいが、もう少し動きが欲しい。

ゲームの中では、走ったときや戦ったときに髪の揺れ方が視界や距離感に影響する。

長髪をやめたのも、視覚情報をシンプルにするためだ。


「……サイドは短め、後ろは少し長くして……」


前髪は目にかからない程度に。

横顔が一番綺麗に見えるように、顎のラインと合わせて調整する。


――こういうところで、結局は実験体として鍛えられた空間認識とバランス感覚が役に立っている気がして、少し複雑だ。


【エモーションプリセットを設定しますか?】


「……?」


次に現れたのは、表情のプリセット項目だった。

喜・怒・哀・楽・驚・照・無表情――など、各感情のときにどんな顔になるかを、あらかじめ登録しておくらしい。


「これは……便利そうだな」


現実の俺は、表情筋が固い。

“無口で無表情な孤高の神”なんてあだ名が付いた原因の一つでもある。


ゲーム内くらい、表情豊かでもいいかもしれない。

むしろ、感情はあっても表情に出すのが苦手な俺からすれば、このプリセットはかなりの救済機能だ。


「喜び……」


スライダーを少しだけ上げると、アバターの口元が自然に緩んだ。

笑いすぎるとチャラく見えるので、控えめに。

怒りは目つきだけを鋭くして、口元はあまり崩さない。


「哀しい、は……」


お手本のような泣き顔にする必要はない。

ほんの少しだけ、目に影が差すくらい――


「これくらいでいいか」


【エモーションプリセット登録完了】


視界に並ぶチェックマークが、次々と点灯していく。

外見や表情の設定だけで、時間の感覚が曖昧になる。

それでも、今のところ一切退屈していないのは、たぶんこのゲームの演出が上手いせいだ。


◇◇◇


【次に、アバターの“種族”を選択します】


きた。

キャラクリの本丸その1、種族選び。


目の前の空間に、複数のシルエットが浮かび上がる。


《ヒューマン》《エルフ》《ドワーフ》《ビースト》《ドラグーン》《ハイレイス》《アンノウン(?)》……などなど。

初期種族は全部で十種類以上あるようだ。


「……基本はヒューマンか」


最もバランスが良く、クセも少ない。

スキルの派生や装備の制限も少なく、初心者にも上級者にも人気のタイプ。

だが、それだけに個性は薄くなりがちだ。


「エルフは……敏捷と魔力寄りか。ビーストは肉体偏重。ドラグーンはドラゴンとの適性……」


ざっと説明文を流し読みしつつ、能力値の初期ボーナスを確認していく。


AFOのステータスは、

STR(筋力)、VIT(耐久)、AGI(敏捷)、DEX(器用)、INT(知力)、MND(精神)、LUK(運)

――という、割とオーソドックスな7つ。


「リアルの俺は……この辺、全部高めなんだよな」


というか、医療検査で見た数値は、もはや“人間の枠では表現しづらい”レベルだった。

ゲーム内までそれを再現する必要はない。

ここでくらい、普通でいたい。


……と、思っていたのだが。


【あなたの“身体適性”をスキャン中です】


突然、視界の上部にそんな文字が浮かんだ。


「は?」


次の瞬間、全身を撫でるような微細な振動が走る。

脳波データ、運動野の反応速度、視覚処理と連動した疑似信号――

おそらく、俺の実スペックが丸裸にされている。


「おいおい、ちょっと待て。何勝手に――」


【スキャン完了。特殊適性:オーバーフロー】


「は?」


オーバーフロー?

嫌な単語が聞こえた気がした。


【一部のステータスが、標準規格を逸脱しています。

 ゲームバランス維持のため、“補正フィルター”を自動適用します】


「ああ、そういうことか……」


つまり、放っておくと俺のリアルスペックがゲーム内に反映されすぎて、真面目にバランスが崩壊するので、

運営のほうで勝手に“弱体化フィルター”を噛ませる、ということだ。


「まぁ、当然か」


逆に言えば、フィルターがある時点で、運営はこういう“規格外”のプレイヤーが来ることを想定していたわけだ。

父親あたりが、事前にどこかで話を通していた可能性が高い。


【あなたには、種族“ヒューマン(制御型)”を推奨します】


「制御型……?」


一覧の中に、さっきまで見当たらなかった項目が追加されている。

説明を開く。


《ヒューマン(制御型)》

・通常のヒューマンをベースに、各種ステータスに“安全上限”を設定した制御種。

・上限を超える力を扱おうとした場合、自動的にシステム制御が発動し、負荷を緩和。

・一方で、一定条件を満たした際、システム制御の“隙間”からオーバーフローが発生する可能性がある。


「いや最後。何をさらっと不穏なこと書いてるんだ」


制御するって言いながら、たまに漏れるとか、一番たちが悪い。


だが――


「……まぁ、悪くないな」


常時ぶっ壊れではなく、普段は“少し強い程度”。

それでいて、本気を出したくなったら、条件次第で“別モード”に移行できる余地がある。


俺にとっては、むしろ扱いやすい。


「これでいこう。ヒューマン(制御型)」


【種族“ヒューマン(制御型)”が選択されました】


静かに確定の音が鳴る。


◇◇◇


【続いて、初期ジョブを選択してください】


種族の次は、ジョブ(職業)だ。


《ソードマン》《ランサー》《アーチャー》《シーフ》《モンク》《メイジ》《プリースト》《エンチャンター》《サモナー》《ガンスリンガー》……

こっちもかなり種類が多い。


「近接か、遠距離か……」


リアルの身体能力を考えれば、近接戦闘は得意なはずだ。

剣でも槍でも、ある程度のセンスはすぐ出るだろう。


だがそれをやると、“孤高の神(物理)”として暴れ回る未来が簡単に想像できる。


「それはそれで、楽しそうではあるが……」


ゲームは“遊び”だ。

最適解だけを追うだけが正解ではない。


一方、魔法職は――

射程と柔軟性に優れるが、防御面に不安がある職が多い。


「……エンチャンター」


一つ、説明を開く。


《エンチャンター》

・支援魔法とデバフを得意とする後衛職。

・直接的な火力は低いが、仲間や自分の能力を底上げしたり、敵の能力を下げたりすることに特化している。

・補助効果の重ねがけ、コンボの知識が重要。


「ふむ」


火力職ではない。

だが、“強くする”“弱くする”という制御は、俺の性格にそこそこ合っている気がする。


「……いや、待て」


もう一つ、説明の続きに気になる一文があった。


・一部プレイヤーの間では、極端なビルドにより“壊れジョブ”と噂されている。


「極振り推奨、ってことか?」


タイトルにもあった“極振りな友人達”というワードが、ふと脳裏をよぎる。

――あいつら、どうせこういうジョブやステを見つけたら、喜々として全振りするに決まっている。


黒峰カイなら、STR極振りソードマンとか。

別の奴なら、LUK極振りギャンブラーとか。


「それに合わせるのも一興だな」


彼らが極振りで尖るなら、俺はそれを“支援側から極振り”で支える。

そういう構図も悪くない。


「よし、エンチャンターでいこう」


【初期ジョブ“エンチャンター”が選択されました】


◇◇◇


【最後に、初期ステータスの割り振りを行います】


来た。ステ振り。


画面には、種族とジョブ補正を踏まえたベースステータスが表示されている。


STR:10

VIT:10

AGI:12

DEX:12

INT:14

MND:15

LUK:10


――これが、制御型ヒューマン+エンチャンターの初期値らしい。

そこに、自由に割り振れるポイントが「+20」。


「普通なら、INTとMNDに振るところか」


魔力と精神力。

エンチャンターなら、補助魔法の成功率や持続時間に関わるであろう、重要なステだ。


だが、そこで画面の隅に小さな注意文が表示されているのを見逃さなかった。


【※一部ステータスは、一定値を超えると“挙動が不安定”になる可能性があります】


「また不穏だな、運営」


だが、これを見て引き下がるタイプなら、“リアチー”なんてあだ名は付かなかっただろう。


「じゃあ、こうしよう」


俺は、まずAGIに5ポイント振った。

反応速度と移動速度。

現実で慣れている“速さ”に近い感覚を得るために、ここは少しだけ強化しておきたい。


次にDEXに3ポイント。

細かい操作性、命中率、詠唱中の姿勢制御にも関係するはずだ。


残り12ポイント。


「INTに4、MNDに4……」


そこまで振ったところで、一度手を止める。


INT:18

MND:19


残り4ポイント。


「……LUKに、4」


LUKが、10から14へ。


運のステータスは、侮れない。

ドロップ率、クリティカル、回避、イベント発生率――

あらゆる“確率”に影響を及ぼす、裏側の支配者だ。


普通なら、ここは後回しにされがちだが、

リアルで何度も“ありえない偶然”に巻き込まれてきた俺には、この数値が何となく重要に思えた。


【オススメではありません】


画面の端で、ささやかな警告が出る。


「知ってる」


【本当に確定しますか?】


「する」


【ステータス割り振り完了】


――このときはまだ気づいていなかった。


制御型ヒューマンという種族補正と、エンチャンターのジョブ特性、

そして“オーバーフロー”と呼ばれたリアル由来の適性。

そこに、この中途半端に見えて、実は妙に噛み合ったステ振りが重なることで――


後々、“深淵シンエンビルド”がテンプレ攻略にまで載るくらいの悪名を轟かせることに。


そして、運営のカンファレンス資料に、


『LUKを軽視してはいけないという、最悪の実例』


としてスライド化されることになるなんて。


◇◇◇


【キャラクターメイキング第1段階が完了しました】


視界の上部に、進捗バーのような表示が現れる。


「まだあるのか」


どうやら、外見・種族・ジョブ・ステータスは“第1段階”に過ぎないらしい。


【次回ログイン時より、“戦闘スタイル”および“固有スキル”の選択フェーズに移行します】


「戦闘スタイルと、固有スキル……」


どうやらキャラクリは、数回に分けて進む仕様のようだ。

一気に全部決めさせない辺り、プレイヤーに“考える時間”を与える意図もありそうだ。


――そういえば、カイはどうしているだろうか。


一緒にやろうと言っていたが、あいつのことだ。

絶対、初日から勢いでステを極振りして、変なビルドを作っているに違いない。


「後で連絡してみるか」


【初期設定を保存し、ログアウトしますか?】


「……ああ」


まだ見ぬ世界への期待と、少しの不安と。

何より、久しぶりに“ただの遊び”に全力を注げるという高揚感を胸に、俺は小さく息を吐いた。


「セーブ、ログアウト」


光が、すっと遠ざかっていく。

足元の魔法陣がゆっくりと薄れ、意識は再び暗闇へと沈み――


◇◇◇


「……ん」


まぶたを開けると、見慣れた天井が視界に映った。

フルダイブデバイスは、自動で電源を落とし、ロック解除されている。


「……ふぅ」


ベッドの縁に腰掛け、軽く伸びをしたところで、テーブルの上のスマホが震えた。


【From:黒峰カイ】

『おい!!! お前もう入っただろ!! どうだった!! 種族なににした!! 俺はな!! STRとVIT極振りのバーサーカーだ!! 最高だろ!!!』


「あー……」


やっぱりな。


極振りな友人達の一人は、今日も元気に脳筋を邁進しているようだ。


『今度のログインで一緒にやるから、ちゃんと俺のこと支援しろよ!! リアチー!!』


画面に並ぶ“!”の多さに、思わず小さく笑みがこぼれた。


「……しょうがないな」


現実では“孤高の神”だの何だのと言われている俺も、

ゲームの中では――


極振りな友人達を支える、ちょっとだけチートな支援役。


そういうのも、悪くない。


「じゃあ、次は……戦闘スタイルと、固有スキルか」


そう呟いたところで、部屋の扉がノックされた。


「ハクア、ご飯できたぞー。今日はお前の好きなオムライスだ」


「……今行く」


現実とゲーム。

二つの世界の境目が、少しずつ、心地よく曖昧になっていく。


こうして――

リアルチートと極振りな友人達による、“運営を困らせる噂のアイツら”の物語は、

まだキャラクリの途中だというのに、確実に動き始めていた。

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