ヴェルダの試練 ― 大陸の“意思”を測る最初の決断
暗く、深い森へ続く階段の前で立ち止まった。
大陸エーテルの都市《エル=シェルタ》の奥――
それは“神殿”というより
大地そのものが作り出したような儀式場。
巨大な樹の根が絡まり、
光の粒が空中を舞っている。
リエルが厳粛な声で言う。
「この場所――《大陸の心臓》は
大陸そのものの意思を投影します。
あなた方には“大陸の未来を問う試練”が与えられます」
カイは剣を肩に担ぎ、笑う。
「試練ってことは、“戦う”ってことでいいんだよな?」
リエルは首を振る。
「いいえ――戦うとは限りません。
“あなた方が何を選ぶか”を見る場所です」
レイナの表情が不安の色に変わる。
「選ぶ……?」
レンは小さく息を吸い、理解したように言う。
「戦闘ではなく、“選択”を試される試練だ」
リエルは頷いた。
「エーテルには二つの陣営があります。
《救世派》――生きたい民
《滅び派》――終わりを望む民
どちらが“正しい”というわけではありません」
「……ただ、どちらも“本気”です」
その言葉が重く沈む。
争いの理由は単純じゃない。
生きたい者もいる。
終わりを望む者もいる。
どちらも本物なら、どちらも正しい。
カイが苦い顔で言う。
「どっちか選べってのは、最悪の試練だろ」
レイナは唇を噛んだ。
「誰かを救うって、誰かを救えないってこと……?」
レンが静かにまとめる。
「二つの未来のうち一つしか残せない。
倫理・論理・感情――どれも救えない選択」
そして俺は、試練の核心を理解した。
(大陸の意思は“どちらが正しいか”ではなく、
“俺たちがどう選ぶか”を知りたがっている)
リエルは静かに告げた。
「あなた方の選択が――大陸の未来を定めます」
◆
神殿の扉が開いた。
中は白く、視界が霞むほど光に満ちている。
一歩踏み入れると――
風景が変わった。
そこは広い草原。
だが“現実ではない”。
幻のように周囲が歪む。
それでも、そこで泣く声だけは鮮明だった。
少女が俺たちの前に駆け寄ってくる。
白い髪、蒼い瞳、幼いヴェルダ族。
「お願い……助けて……
お父さんとお母さんが……滅び派に殺されちゃう……!」
その直後――
別の少女が駆け寄ってくる。
白い髪、蒼い瞳――同じ顔。
「来ないで……!
お父さんとお母さんが“救い派”に殺される……!」
同じ少女。
だが“二つの未来に生きる少女”。
救えば片方が泣く。
滅べば片方が泣く。
選ばなければ――両方が死ぬ。
レイナが胸を押さえて涙声で言う。
「どっちも助けたい……
どっちも助けたいのに……選ばなきゃいけないの……?」
カイは拳を握りしめ、叫ぶ。
「ふざけんな!!
助けられねぇなんて言わせねぇ!!
全部救う方法あるだろ!!」
レンは苦しげに首を振る。
「ない。
“選ばなければ大陸が滅ぶ”という条件は揺るがない。
選択を回避することこそ破滅の条件」
俺は少女たちの両手を取る。
二人は震えていた。
・生きたい少女
・滅びを望む少女
どちらも“自分の痛み”を抱えている。
どちらが正しいかではなく、
どちらも“本当”だ。
だから俺は――
迷わず選んだ。
「助ける。
――“二人とも、生きたまま”」
光景が凍りついた。
レイナが顔を上げる。
「え……?」
レンが驚きに目を細める。
「破綻した選択……理論上、不可能だ」
カイが叫ぶ。
「リアチー!! 選択しねぇと試練失敗なんだぞ!?
どっちか救って終わりじゃねぇのかよ!?」
俺は首を振る。
「違う。
“選択だけ”が試練じゃない」
試練の意味は最初から一つだけだった。
“選ぶこと”じゃない。
“何を望むか”だ。
だから俺は少女たちを両腕に抱き寄せる。
「滅びたい理由があるなら、抱えたまま生きていい。
救われたいなら、生きるためにもがけばいい。
二人を“対立した片方”としてじゃなく――
“同じ人間”として生かす。」
草原に響くのは、祈りではなく断言。
「俺たちは、誰も犠牲にしない道を選ぶ。
シナリオに従わない。
物語を自分たちで作る。」
その瞬間。
世界が強烈な光で包まれた。
【試練判定】
《条件:救世 or 滅び → 不選択》
《判定:破綻 → 再試行なら失敗》
《例外判定:独自解決フラグ発生》
《大陸の意思が“想定外の回答”として受理します》
響く声は“システム”ではなかった。
――ようやく現れた。
――運命に従う者ではなく、運命を壊す者。
少女二人が光に変わり、
一つの姿へ融合していく。
新しい視界情報が浮かぶ。
【アリア=ヴェルダ】
《大陸の“意思の代弁者”/融合体》
《救世派でも滅び派でもない“第三の在り方”》
アリアは涙を浮かべながら、笑った。
「ありがとう……
生きたいのに、生きる資格がないと思っていた私を……
“生きていい”って言ってくれて……!」
レイナは泣きながら笑う。
「よかった……本当によかった……!」
カイは満足げに肩を回す。
「だろ?やっぱ俺らは全部救えるんだよ!」
レンは目を閉じて、静かに言う。
「可能性の否定からは未来は生まれない。
俺たちが選んだのは“可能性そのもの”だ」
アリアは両手を胸に当てて告げた。
「あなたたち四人こそ――
エーテルの《選択者》。
世界を“決める側”の存在。」
ログが更新される。
【新称号獲得】
《選択者》
《大陸・都市・勢力の未来を“上書き”できる権限を保有》
だが――続けざまにもう一つの通知が落ちた。
【災禍序列:反応】
《予定されていた滅びルートが破綻しました》
《災禍序列はあなたたちを“最大妨害対象”と認定します》
レイナが息を呑む。
「つまり……?」
レンが冷静に答える。
「“大陸を滅ぼす未来”が否定された。
災禍は――怒る」
そして、闇のような音が神殿全体に響いた。
カーミラの声。
「ねぇ……やっぱり大好き。
破壊を否定して、全部救おうとするその音……
壊したくてたまらなくなる……!」
笑い声は消え、静寂。
カイが剣を肩に担ぎながら言う。
「よし。完全に敵対したな」
レイナは涙を拭き、笑顔で言う。
「でも負けない。
だって4人でしょ?」
レンは矢筒を閉じ、戦う覚悟を固める。
「ここからが本番」
俺は短く宣言する。
「この大陸は滅ぼさせない。
救われる未来を、選び切る」
アリアは涙を光に変え、
俺たちに手を差し伸べる。
「次は《大陸の核心》へ――
あなたたちが選ぶ未来のために」
冒険は、新たな深みへ突入する。




